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10*甘いケーキと告白
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「なんや、ちぃ。最近、えらい他人行儀やないか?」
あたしを見て不満げにそう言うのは、こうちゃんだ。
あたしが関西から帰ってきて1週間が過ぎた頃、こうちゃんはあたしの家の隣にある自宅に帰ってきた。
葉純さんとは、あれから会ったのだろうか?
考えれば考えるほど、よくない方向に考えてしまう……。
何も以前と様子が変わらないこうちゃんを見る限り、きっと何事もなかったんだろうけど。
こうちゃんのいない1週間の間、あたしの気が気でなかったのは言うまでもない。
「そんなにたこ焼き柄の5本指ソックス気に入らへんかったんか?」
こうちゃんが、自分の部屋の窓枠に頬杖をついたまま首をかしげる。
お隣同士のあたしの家とこうちゃんの家。
どういう偶然なのか、あたしの部屋の窓とこうちゃんの部屋の窓は向かい合わせになっていて、家と家の間隔もそれほど離れていないのもあって、お互いに窓を開ければ会話ができる。
あたしの部屋の窓とこうちゃんの部屋の窓の距離感だけで見れば、屋根を伝えば本当にお互いの部屋を行き来できるんじゃないかっていうくらい近い。
それもあって、特に約束してるわけじゃないけど、こうちゃんとの同居が解消してからは、こうやって夜話すことが増えた。
「ううん。嬉しかったよ。ありがとう」
実際に今、あたしは5本指ソックス集めにはまっていて、そのご当地物を探して買ってきてくれたんだから、嬉しくないはずがない。
「ほんま?」
少しホッとしたような、どこか煮え切らないような表情のこうちゃん。
まぁ、それも無理ないか。
明らかにあたしは、葉純さんとのことがあってから、無意識にこうちゃんと距離をおいてしまってるんだから。
でも本当のことなんて、こうちゃんに言えるわけがない。
いつからあたしは、こんなにこうちゃんのことが好きになってたんだろう?
最初は、初恋の相手っていうか、昔からの想いみたいなものの方が強かったのにな。
「まぁ、ならええんやけど」
どこか歯切れ悪くこうちゃんはそう言うと、あたしについて模索するのをあきらめたようで明るい表情に切り替えた。
「今回の旅行は大阪しか回られへんかったからな、次行くときは神戸の方も行ってみよな! おすすめのそば飯のお店があるねん! それに、神戸の夜景も最高やで!」
「また連れていってくれるんだ、関西」
「当たり前やん! ちぃさえ良ければ、二人きりでもええで! そのときは、せやな……、神戸の海辺のホテル取ったるわ!」
どこまで本気なのかわからないけれど、なんだか調子よくそう言うところはこうちゃんらしくて、思わず吹き出すように笑ってしまった。
「ちょ、なんやねん! 人がちぃを少しでも元気づけたろ思って言うたのに!」
「だ、だってー!」
なんだかまるで、あたしたちが恋人同士になったらね、と言いたくなるようなことを言うんだもん!
……本当だったら、嬉しいけど。
「まぁ、もうええわ! そういや、ちぃ、夏休みの宿題はどない?」
「え、っと……。こうちゃんは?」
「俺はあと読書感想文のみや。本は読むだけ読んだから、あとは書くだけやな!」
「そうなんだ……」
うっわ! こうちゃん、そんなに夏休みの宿題進んでるの!?
さすがとしか言い様がない。
あたしなんて、まだ終わってない宿題は読書感想文どころじゃ済まない。
数学の冊子も英語の冊子も、大敵の国語の冊子でさえ残ってるっていうのに……。
でも同居が解消した今となっては、以前のテストのときみたいにこっそりこうちゃんの部屋に浸入して……、ってわけにはいかないもんなぁ。
「ちぃ、まさか課題、全然終わってないんとちゃう?」
あたしがそのまま黙りこくっていたからだろう。
こうちゃんはニタリと意地悪な笑みを浮かべる。
ギクリと肩が震えるあたしは、ある意味素直なのかもしれない。
それを見てこうちゃんは「やっぱりな」と言うと、
「そういうことやと思ったわ。明日以降、空いとる日は付き合うたるから、頑張ろな?」
呆れたような、哀れむような、どちらとも言えない表情で笑った。
「……助かります」
でも、何だかんだて夏休みも残り少しとなってきている。
そう言ってもらって、断る理由なんて見つからなかった。
確かにちょっと気まずい部分はあるけれど、この前の葉純さんとのことは、こうちゃんには関係ないんだし、ね……?
あたしを見て不満げにそう言うのは、こうちゃんだ。
あたしが関西から帰ってきて1週間が過ぎた頃、こうちゃんはあたしの家の隣にある自宅に帰ってきた。
葉純さんとは、あれから会ったのだろうか?
考えれば考えるほど、よくない方向に考えてしまう……。
何も以前と様子が変わらないこうちゃんを見る限り、きっと何事もなかったんだろうけど。
こうちゃんのいない1週間の間、あたしの気が気でなかったのは言うまでもない。
「そんなにたこ焼き柄の5本指ソックス気に入らへんかったんか?」
こうちゃんが、自分の部屋の窓枠に頬杖をついたまま首をかしげる。
お隣同士のあたしの家とこうちゃんの家。
どういう偶然なのか、あたしの部屋の窓とこうちゃんの部屋の窓は向かい合わせになっていて、家と家の間隔もそれほど離れていないのもあって、お互いに窓を開ければ会話ができる。
あたしの部屋の窓とこうちゃんの部屋の窓の距離感だけで見れば、屋根を伝えば本当にお互いの部屋を行き来できるんじゃないかっていうくらい近い。
それもあって、特に約束してるわけじゃないけど、こうちゃんとの同居が解消してからは、こうやって夜話すことが増えた。
「ううん。嬉しかったよ。ありがとう」
実際に今、あたしは5本指ソックス集めにはまっていて、そのご当地物を探して買ってきてくれたんだから、嬉しくないはずがない。
「ほんま?」
少しホッとしたような、どこか煮え切らないような表情のこうちゃん。
まぁ、それも無理ないか。
明らかにあたしは、葉純さんとのことがあってから、無意識にこうちゃんと距離をおいてしまってるんだから。
でも本当のことなんて、こうちゃんに言えるわけがない。
いつからあたしは、こんなにこうちゃんのことが好きになってたんだろう?
最初は、初恋の相手っていうか、昔からの想いみたいなものの方が強かったのにな。
「まぁ、ならええんやけど」
どこか歯切れ悪くこうちゃんはそう言うと、あたしについて模索するのをあきらめたようで明るい表情に切り替えた。
「今回の旅行は大阪しか回られへんかったからな、次行くときは神戸の方も行ってみよな! おすすめのそば飯のお店があるねん! それに、神戸の夜景も最高やで!」
「また連れていってくれるんだ、関西」
「当たり前やん! ちぃさえ良ければ、二人きりでもええで! そのときは、せやな……、神戸の海辺のホテル取ったるわ!」
どこまで本気なのかわからないけれど、なんだか調子よくそう言うところはこうちゃんらしくて、思わず吹き出すように笑ってしまった。
「ちょ、なんやねん! 人がちぃを少しでも元気づけたろ思って言うたのに!」
「だ、だってー!」
なんだかまるで、あたしたちが恋人同士になったらね、と言いたくなるようなことを言うんだもん!
……本当だったら、嬉しいけど。
「まぁ、もうええわ! そういや、ちぃ、夏休みの宿題はどない?」
「え、っと……。こうちゃんは?」
「俺はあと読書感想文のみや。本は読むだけ読んだから、あとは書くだけやな!」
「そうなんだ……」
うっわ! こうちゃん、そんなに夏休みの宿題進んでるの!?
さすがとしか言い様がない。
あたしなんて、まだ終わってない宿題は読書感想文どころじゃ済まない。
数学の冊子も英語の冊子も、大敵の国語の冊子でさえ残ってるっていうのに……。
でも同居が解消した今となっては、以前のテストのときみたいにこっそりこうちゃんの部屋に浸入して……、ってわけにはいかないもんなぁ。
「ちぃ、まさか課題、全然終わってないんとちゃう?」
あたしがそのまま黙りこくっていたからだろう。
こうちゃんはニタリと意地悪な笑みを浮かべる。
ギクリと肩が震えるあたしは、ある意味素直なのかもしれない。
それを見てこうちゃんは「やっぱりな」と言うと、
「そういうことやと思ったわ。明日以降、空いとる日は付き合うたるから、頑張ろな?」
呆れたような、哀れむような、どちらとも言えない表情で笑った。
「……助かります」
でも、何だかんだて夏休みも残り少しとなってきている。
そう言ってもらって、断る理由なんて見つからなかった。
確かにちょっと気まずい部分はあるけれど、この前の葉純さんとのことは、こうちゃんには関係ないんだし、ね……?
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