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8*関西旅行!?
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「あ……」
カードをめくれば、見事にハズレ。
みんながめくる場面を見ずに、要らない妄想にふけっていた自分を恨む。
今のところ、こうちゃんと実里が争うようにカードを取りまくっている。
きっと一位と二位はこの二人が占領するだろうから、あたしはせめて最下位にならないように……。
ちらりと実里の隣に座る相原くんを見やれば、先程のあたしと同じように、違う数字のカードをめくってしまいうなだれる彼の姿が映った。
緊張感溢れる神経衰弱が終わるなり、この部屋には二つの大きな悲鳴が響いていた。
「うっわ! 嘘だろ!? こんなのアリかよ!」
「それはこっちのセリフや! なんでババ抜きだけでなく神経衰弱まで最下位になるねん!」
お互いにお互いを指さして、そんな言い合いをするのは相原くんとこうちゃんだ。
神経衰弱は、実里とこうちゃんが僅差で実里が一位を勝ち取り、さらにあたしと相原くんも、僅差であたしが勝って相原くんが最下位という結果になった。
「だから言ったでしょ? 万が一のことを考えろって! ポッキーゲームに変えてたのがせめてもの救いだと思いなさい」
そう言って、ポッキーの箱から1本のポッキーを取り出して相原くんに渡す実里。
確かにここで最初の通り、二位と最下位がキス、だったらもっと大変なことになってたもんね……。
「ちくしょう、こんなはずじゃなかったのに……」
「それはこっちのセリフやって言うとるやろうが! なにが楽しくてこいつと顔近づけなあかんねん」
悔しげにこうちゃんを睨む相原くんに、こうちゃんも黙ってはいない。
「あー、もう、うるさい! 男なら腹くくってさっさとやる!」
誰よりも男らしく取り仕切る実里に促されるまま、こうちゃんと相原くんは1本のポッキーの端をそれぞれ口に含む。
うわぁ……! ち、近い……っ!
ポッキーの長さがこんなに短く感じたのは、生まれて初めてだよ……。
異様に二人の顔が近くにあるからなのか、この空間をまとう雰囲気のせいなのか、見てるだけのこっちがドキドキしてしまう……。
「……お前、絶対に先に口離せよ」
「アホか! それやったら、俺が負けてしまうやろうが!」
「はぁ!? じゃあ俺に負けろって言うのかよ!」
「俺とチューしたくなければ、素直に腹くくれや」
「バカ言うな! 負けるのはお前だろ!? 言っとくけど、俺の唇に少しでも触れるなら、お前のこと張り倒してやるからな!」
ポッキーをくわえたまま、器用に言い合いを続ける二人。
そこで実里がコホンと咳払いして、罰ゲームのポッキーゲームはスタートした。
神経衰弱のとき以上に張り詰めた空気。
サクサクと慎重にポッキーをかじる音だけが室内に響く。
それに重ねて、あたしの心臓もドキドキと音を立てていた。
もう、今にも二人の顔が重なりそうになったとき──。
「ぎゃあああっ!!」
相原くんの叫ぶ声とともに、ドンとこうちゃんが弾き飛んだ。
「ってぇなぁ」
……え? 一体、何が起こったの!?
反動で後ろに転げたこうちゃんは、腰の辺りをさすりながら上体を起こす。
その口には、もうわずか数センチになったポッキーがくわえられていた。
「はい! この罰ゲーム、早瀬くんの勝ち~!」
楽しそうにパチパチと手を叩くのは実里だ。
「ちょ、待てよ! 明らかに今のは反則だろ!」
相原くんの話によると、相原くんが叫ぶ直前、こうちゃんにあの体勢で息を吹きかけられたんだとかなんとか……。
「何や、負け惜しみか? だいたい息吐いたらあかんなんてルールないし、ポッキーから先に口を離したんは相原やん」
だけど相原くんの弁解も虚しく、こうちゃんは意地悪く笑うだけだった。
「相原、いさぎよくあきらめな」
とどめのように飛んだ実里の言葉に、相原くんは「そんなぁ」と肩を落とした。
そうしているうちにあっという間に夜はふけていき、深夜を回った頃にはあたしたちはそれぞれの部屋で床につくことにした。
「なんだか、修学旅行に来たみたいだね!」
実里と並べて敷いた布団を見て、なんだかテンションが上がる。
「ほんと、中学のときを思い出すね」
中学の修学旅行でも同じ班になった実里とは、こうやって布団を並べて眠った。
「明日は楽しみだね、大阪の街!」
明日は、こうちゃんの案内で大阪散策をすることになっている。
あたしと実里と布団に潜り込んだとき、隣から騒がしい声が聞こえてきた。
『うわっ! お前、もうちょっと離れて寝ろよ!』
『そう言うお前こそ、もっと壁にくっつくようにして寝ろや!』
恐らく、寝る位置で揉めているのであろうこうちゃんと相原くんの声。
こうちゃんと相原くんとの別れ際、こうちゃんとの同室が嫌だと懲りなくぼやいてた相原くんに、実里が『何を間違えてもこっちの部屋は開けないこと!』って釘を刺してたっけ……?
壁越しに聞こえてくる会話を聞いて実里と目を見合わせて笑い合うと、電気を切ってあたしたちは眠りについた。
カードをめくれば、見事にハズレ。
みんながめくる場面を見ずに、要らない妄想にふけっていた自分を恨む。
今のところ、こうちゃんと実里が争うようにカードを取りまくっている。
きっと一位と二位はこの二人が占領するだろうから、あたしはせめて最下位にならないように……。
ちらりと実里の隣に座る相原くんを見やれば、先程のあたしと同じように、違う数字のカードをめくってしまいうなだれる彼の姿が映った。
緊張感溢れる神経衰弱が終わるなり、この部屋には二つの大きな悲鳴が響いていた。
「うっわ! 嘘だろ!? こんなのアリかよ!」
「それはこっちのセリフや! なんでババ抜きだけでなく神経衰弱まで最下位になるねん!」
お互いにお互いを指さして、そんな言い合いをするのは相原くんとこうちゃんだ。
神経衰弱は、実里とこうちゃんが僅差で実里が一位を勝ち取り、さらにあたしと相原くんも、僅差であたしが勝って相原くんが最下位という結果になった。
「だから言ったでしょ? 万が一のことを考えろって! ポッキーゲームに変えてたのがせめてもの救いだと思いなさい」
そう言って、ポッキーの箱から1本のポッキーを取り出して相原くんに渡す実里。
確かにここで最初の通り、二位と最下位がキス、だったらもっと大変なことになってたもんね……。
「ちくしょう、こんなはずじゃなかったのに……」
「それはこっちのセリフやって言うとるやろうが! なにが楽しくてこいつと顔近づけなあかんねん」
悔しげにこうちゃんを睨む相原くんに、こうちゃんも黙ってはいない。
「あー、もう、うるさい! 男なら腹くくってさっさとやる!」
誰よりも男らしく取り仕切る実里に促されるまま、こうちゃんと相原くんは1本のポッキーの端をそれぞれ口に含む。
うわぁ……! ち、近い……っ!
ポッキーの長さがこんなに短く感じたのは、生まれて初めてだよ……。
異様に二人の顔が近くにあるからなのか、この空間をまとう雰囲気のせいなのか、見てるだけのこっちがドキドキしてしまう……。
「……お前、絶対に先に口離せよ」
「アホか! それやったら、俺が負けてしまうやろうが!」
「はぁ!? じゃあ俺に負けろって言うのかよ!」
「俺とチューしたくなければ、素直に腹くくれや」
「バカ言うな! 負けるのはお前だろ!? 言っとくけど、俺の唇に少しでも触れるなら、お前のこと張り倒してやるからな!」
ポッキーをくわえたまま、器用に言い合いを続ける二人。
そこで実里がコホンと咳払いして、罰ゲームのポッキーゲームはスタートした。
神経衰弱のとき以上に張り詰めた空気。
サクサクと慎重にポッキーをかじる音だけが室内に響く。
それに重ねて、あたしの心臓もドキドキと音を立てていた。
もう、今にも二人の顔が重なりそうになったとき──。
「ぎゃあああっ!!」
相原くんの叫ぶ声とともに、ドンとこうちゃんが弾き飛んだ。
「ってぇなぁ」
……え? 一体、何が起こったの!?
反動で後ろに転げたこうちゃんは、腰の辺りをさすりながら上体を起こす。
その口には、もうわずか数センチになったポッキーがくわえられていた。
「はい! この罰ゲーム、早瀬くんの勝ち~!」
楽しそうにパチパチと手を叩くのは実里だ。
「ちょ、待てよ! 明らかに今のは反則だろ!」
相原くんの話によると、相原くんが叫ぶ直前、こうちゃんにあの体勢で息を吹きかけられたんだとかなんとか……。
「何や、負け惜しみか? だいたい息吐いたらあかんなんてルールないし、ポッキーから先に口を離したんは相原やん」
だけど相原くんの弁解も虚しく、こうちゃんは意地悪く笑うだけだった。
「相原、いさぎよくあきらめな」
とどめのように飛んだ実里の言葉に、相原くんは「そんなぁ」と肩を落とした。
そうしているうちにあっという間に夜はふけていき、深夜を回った頃にはあたしたちはそれぞれの部屋で床につくことにした。
「なんだか、修学旅行に来たみたいだね!」
実里と並べて敷いた布団を見て、なんだかテンションが上がる。
「ほんと、中学のときを思い出すね」
中学の修学旅行でも同じ班になった実里とは、こうやって布団を並べて眠った。
「明日は楽しみだね、大阪の街!」
明日は、こうちゃんの案内で大阪散策をすることになっている。
あたしと実里と布団に潜り込んだとき、隣から騒がしい声が聞こえてきた。
『うわっ! お前、もうちょっと離れて寝ろよ!』
『そう言うお前こそ、もっと壁にくっつくようにして寝ろや!』
恐らく、寝る位置で揉めているのであろうこうちゃんと相原くんの声。
こうちゃんと相原くんとの別れ際、こうちゃんとの同室が嫌だと懲りなくぼやいてた相原くんに、実里が『何を間違えてもこっちの部屋は開けないこと!』って釘を刺してたっけ……?
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