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7*キケンな勉強会
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「水嶋!? すげぇ疲れきってるけど大丈夫か!?」
あたしの席の傍を通りかかるなり、ぎょっとしたような目でこちらを見て立ち止まったのは相原くん。
「ん、うん……」
夜中にこうちゃんの部屋へ忍び込んだあの日から、5日ほどが過ぎる。
あたしはこうちゃんの宣告通り、毎日のように放課後みっちりテスト範囲の勉強を叩き込まれている。
「まさかあれか? 期末テストの勉強?」
「他に何があるっていうのよ」
学園祭で告白されてから気まずくなるのかなと思っていた相原くんとの関係は、意外と以前と変わっていない。
きっと、この相原くんの持つ雰囲気のおかげなんだと思う。
「なんだよ。お前、そんなに今回のテストヤバイのか?」
「ま、まぁ……。相原くんは?」
「ぼちぼちかな。俺も学園祭実行委員の仕事で追われてたし、最低限のことしかしてねぇよ」
「そう、だよね……」
最低限、か。
何もやってなくてマイナスからのスタートのあたしより、断然マシだよ。
あたしが思わず肩を落としたとき、まるでそんなあたしを慰めるかのように、相原くんはあたしの肩にぽんっと手を置いた。
「そんな顔すんなって! こういうときこそ俺がいるんだろ!?」
「え?」
思いがけない相原くんの発言に、相原くんの意図することすらつかめず、思わず首をかしげる。
「今日の放課後お前ん家に行くから、一緒に勉強しようぜ? 一人より二人っていうだろ!? じゃあ、決まりな!」
「へ?」
続けざまにとんでもないことを言い出した相原くんに、思わず声が裏返った。
「そ、それは無理だよ! 学校じゃダメなの!?」
だって、今のあたしの家にはこうちゃんが居るのに……!
「だって学校じゃ、みんな残ってて集中できねぇじゃん。お前ん家がダメなら、俺ん家でもいいけど」
「え、」
いくらなんでも、さすがにヌケヌケと男子の家に上がるほどあたしは無防備ではない。
何かされるって思ってるわけじゃないけど、学園祭で告白されたのもあって余計に身が強ばった。
そんなあたしの心境を知ってか知らずか、あたしの家で勉強するか相原くんの家で勉強するかの2択を迫られる。
あたしに断るという選択肢はないのかと返答に困っていると、後ろから相原くんとは違う大きな手がふわりとあたしの頭を包み込んだ。
その光景を見たのであろう、背後から聞こえる女子の騒ぐ声に、何となくその手の正体はわかった。
「残念やったな。ちぃは俺と勉強するねん」
さっきまであたしの後ろの席で、他の生徒に勉強を聞かれていたこうちゃんだ。
「またお前かよ」
「またの登場で悪かったな。悪いけど、俺の方が先にちぃと勉強する約束しとったんや」
「……そうなのか?」
こうちゃんに言われたことを確認するようにあたしを見る相原くん。
「え、っと、あ、うん……。最近、勉強見てもらってて……」
あう……。なんだか相原くんの雰囲気からすごく言いづらいよ。
相原くんは「そうか」と短く返事をしたあと、一瞬考えるような素振りを見せて口を開く。
「……なら、俺もその勉強会、参加させてもらう」
「へ?」
またもや間抜けな声が出た。
だって、まさかそんな風な返事が返ってくるなんて思わなかったんだもん!
「ちょお待て! なんで俺がお前の勉強まで見なあかんねん!」
「はぁ!? 誰もお前に教えてくれなんて頼んでねぇだろ!? あたかもお前の方が頭がいいかのような発言しやがって!!」
「ちょっと、二人とも……」
言い合いを始めてしまった二人に、あたしの声は聞こえる様子もない。
どうしようと目の前の二人を見比べていたとき、あたしに救いの手が差しのべられた。
「何騒がしくしてるのよ。千紗、勉強会するならあたしも混ぜてよ」
聞き慣れた声に振り向けば、そこには実里の姿があった。
あたしと目が合うなり、軽くウインクする実里。
きっとあたしとこうちゃんと相原くんとのやり取りを少し離れたところで見てた実里が、気を利かせてくれたんだ。
「メンバーは、千紗と相原と早瀬くん、でいいのかな? 場所はあたしの家を提供するわ」
わー! 実里、ありがとう!
「おう、俺は別に構わへんけど」
あっという間に話をまとめてしまった実里に、戸惑いながらもうなずくこうちゃん。
「ったく、何でここで中澤が割り込んで来るかなぁ~」
あたしと同じく、相原くんとは中学の頃からの付き合いの実里。
いかにも不満げにそう言った相原くんの耳を、実里が思いっきりつまみ上げた。
「それはあんたが千紗を困らせてるからでしょ!?」
「いででででっ! ったく、何で俺だけ。こいつだって同罪だろ!? 俺が何したって言うんだよ!」
悲痛な声を上げて、こうちゃんを指さす相原くん。
「日頃の行いじゃないの?」
実里は、元々相原くんの女付き合いにはいい目を向けてなかったからなぁ。
学園祭で相原くんに告白されたことを話したときも、実里は「やっぱり」と言いながらも苦い顔してたし……。
そういうわけで、あたしたちの勉強会は変な形で結成された。
あたしの席の傍を通りかかるなり、ぎょっとしたような目でこちらを見て立ち止まったのは相原くん。
「ん、うん……」
夜中にこうちゃんの部屋へ忍び込んだあの日から、5日ほどが過ぎる。
あたしはこうちゃんの宣告通り、毎日のように放課後みっちりテスト範囲の勉強を叩き込まれている。
「まさかあれか? 期末テストの勉強?」
「他に何があるっていうのよ」
学園祭で告白されてから気まずくなるのかなと思っていた相原くんとの関係は、意外と以前と変わっていない。
きっと、この相原くんの持つ雰囲気のおかげなんだと思う。
「なんだよ。お前、そんなに今回のテストヤバイのか?」
「ま、まぁ……。相原くんは?」
「ぼちぼちかな。俺も学園祭実行委員の仕事で追われてたし、最低限のことしかしてねぇよ」
「そう、だよね……」
最低限、か。
何もやってなくてマイナスからのスタートのあたしより、断然マシだよ。
あたしが思わず肩を落としたとき、まるでそんなあたしを慰めるかのように、相原くんはあたしの肩にぽんっと手を置いた。
「そんな顔すんなって! こういうときこそ俺がいるんだろ!?」
「え?」
思いがけない相原くんの発言に、相原くんの意図することすらつかめず、思わず首をかしげる。
「今日の放課後お前ん家に行くから、一緒に勉強しようぜ? 一人より二人っていうだろ!? じゃあ、決まりな!」
「へ?」
続けざまにとんでもないことを言い出した相原くんに、思わず声が裏返った。
「そ、それは無理だよ! 学校じゃダメなの!?」
だって、今のあたしの家にはこうちゃんが居るのに……!
「だって学校じゃ、みんな残ってて集中できねぇじゃん。お前ん家がダメなら、俺ん家でもいいけど」
「え、」
いくらなんでも、さすがにヌケヌケと男子の家に上がるほどあたしは無防備ではない。
何かされるって思ってるわけじゃないけど、学園祭で告白されたのもあって余計に身が強ばった。
そんなあたしの心境を知ってか知らずか、あたしの家で勉強するか相原くんの家で勉強するかの2択を迫られる。
あたしに断るという選択肢はないのかと返答に困っていると、後ろから相原くんとは違う大きな手がふわりとあたしの頭を包み込んだ。
その光景を見たのであろう、背後から聞こえる女子の騒ぐ声に、何となくその手の正体はわかった。
「残念やったな。ちぃは俺と勉強するねん」
さっきまであたしの後ろの席で、他の生徒に勉強を聞かれていたこうちゃんだ。
「またお前かよ」
「またの登場で悪かったな。悪いけど、俺の方が先にちぃと勉強する約束しとったんや」
「……そうなのか?」
こうちゃんに言われたことを確認するようにあたしを見る相原くん。
「え、っと、あ、うん……。最近、勉強見てもらってて……」
あう……。なんだか相原くんの雰囲気からすごく言いづらいよ。
相原くんは「そうか」と短く返事をしたあと、一瞬考えるような素振りを見せて口を開く。
「……なら、俺もその勉強会、参加させてもらう」
「へ?」
またもや間抜けな声が出た。
だって、まさかそんな風な返事が返ってくるなんて思わなかったんだもん!
「ちょお待て! なんで俺がお前の勉強まで見なあかんねん!」
「はぁ!? 誰もお前に教えてくれなんて頼んでねぇだろ!? あたかもお前の方が頭がいいかのような発言しやがって!!」
「ちょっと、二人とも……」
言い合いを始めてしまった二人に、あたしの声は聞こえる様子もない。
どうしようと目の前の二人を見比べていたとき、あたしに救いの手が差しのべられた。
「何騒がしくしてるのよ。千紗、勉強会するならあたしも混ぜてよ」
聞き慣れた声に振り向けば、そこには実里の姿があった。
あたしと目が合うなり、軽くウインクする実里。
きっとあたしとこうちゃんと相原くんとのやり取りを少し離れたところで見てた実里が、気を利かせてくれたんだ。
「メンバーは、千紗と相原と早瀬くん、でいいのかな? 場所はあたしの家を提供するわ」
わー! 実里、ありがとう!
「おう、俺は別に構わへんけど」
あっという間に話をまとめてしまった実里に、戸惑いながらもうなずくこうちゃん。
「ったく、何でここで中澤が割り込んで来るかなぁ~」
あたしと同じく、相原くんとは中学の頃からの付き合いの実里。
いかにも不満げにそう言った相原くんの耳を、実里が思いっきりつまみ上げた。
「それはあんたが千紗を困らせてるからでしょ!?」
「いででででっ! ったく、何で俺だけ。こいつだって同罪だろ!? 俺が何したって言うんだよ!」
悲痛な声を上げて、こうちゃんを指さす相原くん。
「日頃の行いじゃないの?」
実里は、元々相原くんの女付き合いにはいい目を向けてなかったからなぁ。
学園祭で相原くんに告白されたことを話したときも、実里は「やっぱり」と言いながらも苦い顔してたし……。
そういうわけで、あたしたちの勉強会は変な形で結成された。
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