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5*混乱続きの学園祭
(5)
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あたしの言葉に相原くんは、ぐっと眉をしかめた。
「それは……っ! お前がいつまでも初恋の相手を忘れらんねぇとか言ってたから……」
え……?
記憶の糸を、必死に手繰り寄せる。
そこであたしはあっ、と思い出した。
中学のとき、確かにあたしはこうちゃんのことをそう話したことがある。
当時仲良くなったばかりの実里に話したときに、もう一人……、相原くんがいたということを……。
「こんなに話してて楽な女って、俺、初めてだったんだ。だけど水嶋のことが好きなんだって思い始めた頃、そんな話を聞かされて、水嶋のことはあきらめようって……。だから他の女子と付き合って気持ちを紛らわせようとしたのに、無理だった」
ぽつりぽつりと紡がれる相原くんの言葉に、呼吸をするのも忘れてしまいそうになる。
「……あいつなんだろ?」
「え、」
「水嶋の言ってた初恋の相手は、早瀬なんだろ?」
「……っ」
何て答えればいいのだろう。
確かにそうなんだけど、相原くんの気持ちを知った今、それを告げるのはあまりに残酷な気がして、声が出ない。
かわりに恐る恐る顔をあげると、眉を下げて困ったような表情を浮かべる相原くんと目が合う。
「だから遠慮すんなって。マジで罰金取るぞ? さっきの見て、今のお前の気持ちもあいつにあるのもわかったから、……気にすんな」
「あ……」
相原くんの言葉に、思わずさっきの光景が脳内にフラッシュバックする。
こうちゃんと、他校のポニーテールの女子生徒。
あまりに鮮明に思い出せるその光景に、再び目に涙が滲みそうになる。
「……ごめんなさい、あたし」
そこで、あたしの身体はぎゅうっと目の前の温もりに包み込まれた。
あたしの背に回る、相原くんのたくましい腕。
「謝んなよ、お前は悪くねぇから」
あたしの力じゃビクともしないくらいに強く抱きしめられて、動けない……。
「それに、そんな顔するくらいなら、俺にしろよ」
「え、……」
その瞬間、ふわりと相原くんの腕の力が緩んで。
顔を上げると、切なげに揺れる相原くんの瞳と目が合った。
「すぐにとは言わねぇ。だけど、お前があいつのものにならない限り、俺はあきらめるつもりないから」
だけどその瞳は怖いくらいに真剣で、相原くんは本気なんだって、直感でわかった。
「お前がずっと想ってた相手があいつだってわかったら、黙って見てられなくなった。ごめんな」
あたしが言葉に詰まっていると、相原くんの大きな手があたしの頭を優しく撫でる。
「ほら、困らせて悪かった。もう時間だから、行けよ。これからもいつも通りのお前でいてくれたら、俺はそれで良いから」
「う、うん……」
受け入れることなんてできないのに、相原くんに言われるがまま突き放すこともできなくて。
あたしは相原くんに背中を押されるがままに、特別活動室をあとにした。
ぼんやりとした足取りで自分たちのクラス主催のお化け屋敷に戻り、お化けの格好をして持ち場につく。
あたしの持ち場は、バンパイアの棺の裏に当たる通路。
左右ともに暗幕に挟まれた狭い空間の中、西側の通路をバンパイアが脅かしに出て、あたしが東側の通路を脅かしに出るといった感じだ。
あたしのシフトの時間帯のバンパイア役は、こうちゃんだ。
だから必然的に隠れる空間は、こうちゃんと一緒になっている。
……今はこうちゃんの顔は見たくないのに、よりによってなんでこんなときに。
とはいえ、基本的にバンパイア役は棺の形を模したロッカーに身を隠すことになっているから、空間が一緒ってだけなんだけどね。
だけど空間的には近くても、さっきの光景のせいでこうちゃんがとても遠く感じた。
だからといって、いつまでもウジウジなんてしてられない。
あたしは、精一杯お化けの役になりきった。
こうちゃん側の通路からは、誰かが通る度にロッカーの扉がギイィと開く音とこうちゃんの派手な脅かす声が響いていた。
実里の目論み通り、やっぱりこうちゃん効果でお客さんも多く来ていたようで、心配していた程こうちゃんと顔を合わせることもなく忙しくしている間に時間は過ぎていった。
「それは……っ! お前がいつまでも初恋の相手を忘れらんねぇとか言ってたから……」
え……?
記憶の糸を、必死に手繰り寄せる。
そこであたしはあっ、と思い出した。
中学のとき、確かにあたしはこうちゃんのことをそう話したことがある。
当時仲良くなったばかりの実里に話したときに、もう一人……、相原くんがいたということを……。
「こんなに話してて楽な女って、俺、初めてだったんだ。だけど水嶋のことが好きなんだって思い始めた頃、そんな話を聞かされて、水嶋のことはあきらめようって……。だから他の女子と付き合って気持ちを紛らわせようとしたのに、無理だった」
ぽつりぽつりと紡がれる相原くんの言葉に、呼吸をするのも忘れてしまいそうになる。
「……あいつなんだろ?」
「え、」
「水嶋の言ってた初恋の相手は、早瀬なんだろ?」
「……っ」
何て答えればいいのだろう。
確かにそうなんだけど、相原くんの気持ちを知った今、それを告げるのはあまりに残酷な気がして、声が出ない。
かわりに恐る恐る顔をあげると、眉を下げて困ったような表情を浮かべる相原くんと目が合う。
「だから遠慮すんなって。マジで罰金取るぞ? さっきの見て、今のお前の気持ちもあいつにあるのもわかったから、……気にすんな」
「あ……」
相原くんの言葉に、思わずさっきの光景が脳内にフラッシュバックする。
こうちゃんと、他校のポニーテールの女子生徒。
あまりに鮮明に思い出せるその光景に、再び目に涙が滲みそうになる。
「……ごめんなさい、あたし」
そこで、あたしの身体はぎゅうっと目の前の温もりに包み込まれた。
あたしの背に回る、相原くんのたくましい腕。
「謝んなよ、お前は悪くねぇから」
あたしの力じゃビクともしないくらいに強く抱きしめられて、動けない……。
「それに、そんな顔するくらいなら、俺にしろよ」
「え、……」
その瞬間、ふわりと相原くんの腕の力が緩んで。
顔を上げると、切なげに揺れる相原くんの瞳と目が合った。
「すぐにとは言わねぇ。だけど、お前があいつのものにならない限り、俺はあきらめるつもりないから」
だけどその瞳は怖いくらいに真剣で、相原くんは本気なんだって、直感でわかった。
「お前がずっと想ってた相手があいつだってわかったら、黙って見てられなくなった。ごめんな」
あたしが言葉に詰まっていると、相原くんの大きな手があたしの頭を優しく撫でる。
「ほら、困らせて悪かった。もう時間だから、行けよ。これからもいつも通りのお前でいてくれたら、俺はそれで良いから」
「う、うん……」
受け入れることなんてできないのに、相原くんに言われるがまま突き放すこともできなくて。
あたしは相原くんに背中を押されるがままに、特別活動室をあとにした。
ぼんやりとした足取りで自分たちのクラス主催のお化け屋敷に戻り、お化けの格好をして持ち場につく。
あたしの持ち場は、バンパイアの棺の裏に当たる通路。
左右ともに暗幕に挟まれた狭い空間の中、西側の通路をバンパイアが脅かしに出て、あたしが東側の通路を脅かしに出るといった感じだ。
あたしのシフトの時間帯のバンパイア役は、こうちゃんだ。
だから必然的に隠れる空間は、こうちゃんと一緒になっている。
……今はこうちゃんの顔は見たくないのに、よりによってなんでこんなときに。
とはいえ、基本的にバンパイア役は棺の形を模したロッカーに身を隠すことになっているから、空間が一緒ってだけなんだけどね。
だけど空間的には近くても、さっきの光景のせいでこうちゃんがとても遠く感じた。
だからといって、いつまでもウジウジなんてしてられない。
あたしは、精一杯お化けの役になりきった。
こうちゃん側の通路からは、誰かが通る度にロッカーの扉がギイィと開く音とこうちゃんの派手な脅かす声が響いていた。
実里の目論み通り、やっぱりこうちゃん効果でお客さんも多く来ていたようで、心配していた程こうちゃんと顔を合わせることもなく忙しくしている間に時間は過ぎていった。
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