19 / 64
4*コイツ、俺のやから
(4)
しおりを挟む
「まさかぁその光樹のほっぺた、女に殴られたとかぁ~?」
「え~、やだぁ。誰よ、そいつぅ~」
やたらと語尾を伸ばしたネチネチした会話が耳に障る。
内容があたしに関するものだけに余計に……。
だからといって、この状況下で「はい、あたしです」なんて言って出られるほどあたしは強者ではない。
「ちゃうちゃう。この頬は俺が悪いんや」
こうちゃんはあっさりとそれを否定するようなことを言うけれど。
「でもまぁ、意外と出るとこはちゃんと出てたし、そんな隠したり怒ったり拗ねたりする必要はないと俺は思うねんけどなぁ~」
明らかにあたしの背中に向かって言われてるであろう言葉に、あたしの背筋は思わず硬直した。
出るとこはちゃんと出てた、って……っ!
そういう問題じゃないから!
しかも怒ったり拗ねたりって何よ!
そりゃあたしも悪かったけど、そんな言い方……っ!
何も文句を言われなかったことに対して少しでも安心してたあたしがバカだった。
絶対意地悪なこうちゃんは、今のあたしの反応を見て楽しんでいるのだろう。
こうちゃんの取り巻きの女子たちは「何の話~?」と何もわかってない様子だけど、あたしは穴があったら入り込みたい気持ちだよ……。
あたしが両拳を握りしめて、明らかにあたしに対する悪意と思える発言をしたこうちゃんへの怒りに耐えていると、ふと頭上に影ができる。
思わず顔を上げると、少し怪訝な様子で首をかしげる相原くんと目が合った。
「おはよ。具合悪そうだけど、大丈夫か?」
「え、あ、おはよう。大丈夫、大丈夫。あはははは……」
あたしは慌てて笑顔を取り繕って、相原くんを見上げる。
「今日のホームルームで俺らのクラスの出し物をだいたい決める予定だし、一応前もって打ち合わせしとこうぜ?」
「え!? あ、うん」
あたしったら、大事なことなのにすっかり頭から抜け落ちてたよ……。
人のせいにするなと言われそうだけど、こうちゃんのせいにもしたくなるよ~!
相原くんはこうちゃんの前の席だと集中できなさそうなあたしに気づいたのか、少し離れた相原くんの席にあたしを誘導して、ひとつひとつ今日のホームルームの進行について話し始めた。
*
「えっと、クラスの人数が40人。で、ソンビ役が12人、バンパイア役が3人、お化けの役兼裏方が19人、受け付けが6人。大まかに3グループで交代制で行うっと」
放課後、相原くんの隣の席に座るあたしは、ぶつぶつ呟きながら今日のホームルームで決まったことを実行委員会に提出するプリントに書き込んでいく。
同時にその内容を、相原くんが横からチェックしてくれている状況だ。
あたしたちのクラスは、多数決でお化け屋敷をすることに決まった。
学園祭の出店といえばカフェだったり屋台のフランクフルトだったりそういったイメージがあったあたしとしては、ちょっと意外だった。
「せやな。合ってるで?」
そのとき、不意に頭上から降ってきた声に思わずびくりとする。
「こ、こうちゃん……!?」
な、なんで!?
っていうか、帰ったんじゃなかったの!?
「何で早瀬がいんだよ?」
あたしが疑問に思ったことを口に出して、じろりとこうちゃんを見る相原くん。
「ええやん。発案者の俺がおった方が上手くまとまるやろ?」
そう。このお化け屋敷という意見を出して、大体の方向性のアイディアを出してくれたのは、今目の前にいるこうちゃんなのだ。
こうちゃんは何の躊躇いもなくあたしたちの座る目の前の席の椅子を引いて、こちらを向いて座ってくる。
「別に早瀬がいなくても今日のホームルームで大まかなことは決まったんだから、あとは俺らでまとめられるし」
冷たいとまではいかなくても、やっぱりどこか刺を感じるような相原くんの声。
それもそうだよね。実際、今人手が足りてないわけではないし。
でも、きっと厚意で言ってくれてるのであろうこうちゃんに、はっきりそう言うのは気が引けた。
「え~、やだぁ。誰よ、そいつぅ~」
やたらと語尾を伸ばしたネチネチした会話が耳に障る。
内容があたしに関するものだけに余計に……。
だからといって、この状況下で「はい、あたしです」なんて言って出られるほどあたしは強者ではない。
「ちゃうちゃう。この頬は俺が悪いんや」
こうちゃんはあっさりとそれを否定するようなことを言うけれど。
「でもまぁ、意外と出るとこはちゃんと出てたし、そんな隠したり怒ったり拗ねたりする必要はないと俺は思うねんけどなぁ~」
明らかにあたしの背中に向かって言われてるであろう言葉に、あたしの背筋は思わず硬直した。
出るとこはちゃんと出てた、って……っ!
そういう問題じゃないから!
しかも怒ったり拗ねたりって何よ!
そりゃあたしも悪かったけど、そんな言い方……っ!
何も文句を言われなかったことに対して少しでも安心してたあたしがバカだった。
絶対意地悪なこうちゃんは、今のあたしの反応を見て楽しんでいるのだろう。
こうちゃんの取り巻きの女子たちは「何の話~?」と何もわかってない様子だけど、あたしは穴があったら入り込みたい気持ちだよ……。
あたしが両拳を握りしめて、明らかにあたしに対する悪意と思える発言をしたこうちゃんへの怒りに耐えていると、ふと頭上に影ができる。
思わず顔を上げると、少し怪訝な様子で首をかしげる相原くんと目が合った。
「おはよ。具合悪そうだけど、大丈夫か?」
「え、あ、おはよう。大丈夫、大丈夫。あはははは……」
あたしは慌てて笑顔を取り繕って、相原くんを見上げる。
「今日のホームルームで俺らのクラスの出し物をだいたい決める予定だし、一応前もって打ち合わせしとこうぜ?」
「え!? あ、うん」
あたしったら、大事なことなのにすっかり頭から抜け落ちてたよ……。
人のせいにするなと言われそうだけど、こうちゃんのせいにもしたくなるよ~!
相原くんはこうちゃんの前の席だと集中できなさそうなあたしに気づいたのか、少し離れた相原くんの席にあたしを誘導して、ひとつひとつ今日のホームルームの進行について話し始めた。
*
「えっと、クラスの人数が40人。で、ソンビ役が12人、バンパイア役が3人、お化けの役兼裏方が19人、受け付けが6人。大まかに3グループで交代制で行うっと」
放課後、相原くんの隣の席に座るあたしは、ぶつぶつ呟きながら今日のホームルームで決まったことを実行委員会に提出するプリントに書き込んでいく。
同時にその内容を、相原くんが横からチェックしてくれている状況だ。
あたしたちのクラスは、多数決でお化け屋敷をすることに決まった。
学園祭の出店といえばカフェだったり屋台のフランクフルトだったりそういったイメージがあったあたしとしては、ちょっと意外だった。
「せやな。合ってるで?」
そのとき、不意に頭上から降ってきた声に思わずびくりとする。
「こ、こうちゃん……!?」
な、なんで!?
っていうか、帰ったんじゃなかったの!?
「何で早瀬がいんだよ?」
あたしが疑問に思ったことを口に出して、じろりとこうちゃんを見る相原くん。
「ええやん。発案者の俺がおった方が上手くまとまるやろ?」
そう。このお化け屋敷という意見を出して、大体の方向性のアイディアを出してくれたのは、今目の前にいるこうちゃんなのだ。
こうちゃんは何の躊躇いもなくあたしたちの座る目の前の席の椅子を引いて、こちらを向いて座ってくる。
「別に早瀬がいなくても今日のホームルームで大まかなことは決まったんだから、あとは俺らでまとめられるし」
冷たいとまではいかなくても、やっぱりどこか刺を感じるような相原くんの声。
それもそうだよね。実際、今人手が足りてないわけではないし。
でも、きっと厚意で言ってくれてるのであろうこうちゃんに、はっきりそう言うのは気が引けた。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
イケメン副社長のターゲットは私!?~彼と秘密のルームシェア~
美和優希
恋愛
木下紗和は、務めていた会社を解雇されてから、再就職先が見つからずにいる。
貯蓄も底をつく中、兄の社宅に転がり込んでいたものの、頼りにしていた兄が突然転勤になり住む場所も失ってしまう。
そんな時、大手お菓子メーカーの副社長に救いの手を差しのべられた。
紗和は、副社長の秘書として働けることになったのだ。
そして不安一杯の中、提供された新しい住まいはなんと、副社長の自宅で……!?
突然始まった秘密のルームシェア。
日頃は優しくて紳士的なのに、時々意地悪にからかってくる副社長に気づいたときには惹かれていて──。
初回公開・完結*2017.12.21(他サイト)
アルファポリスでの公開日*2020.02.16
*表紙画像は写真AC(かずなり777様)のフリー素材を使わせていただいてます。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

初恋は溺愛で。〈一夜だけのはずが、遊び人を卒業して平凡な私と恋をするそうです〉
濘-NEI-
恋愛
友人の授かり婚により、ルームシェアを続けられなくなった香澄は、独りぼっちの寂しさを誤魔化すように一人で食事に行った店で、イケオジと出会って甘い一夜を過ごす。
一晩限りのオトナの夜が忘れならない中、従姉妹のツテで決まった引越し先に、再会するはずもない彼が居て、奇妙な同居が始まる予感!
◆Rシーンには※印
ヒーロー視点には⭐︎印をつけておきます
◎この作品はエブリスタさん、pixivさんでも公開しています
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
恋とキスは背伸びして
葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員
成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長
年齢差 9歳
身長差 22㎝
役職 雲泥の差
この違い、恋愛には大きな壁?
そして同期の卓の存在
異性の親友は成立する?
数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの
二人の恋の物語
光のもとで2
葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、
新たな気持ちで新学期を迎える。
好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。
少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。
それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。
この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。
何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい――
(10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる