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3*無防備すぎやろ

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「別に俺は構わへんよ。明日からしばらく、俺の家が一個隣になるだけやん」


「や、まぁ、そうだけど……」


 確かにそうかもしれないけど、そんなに簡単に言わないでよ!



「それとも俺がちぃと二人で暮らすと、俺がちぃに何かすると思ってるん?」


「え……」



 確かに、少なからず思ってはいるけどさ……。


 ここで、うん、って言うのも何だか気がひける。


 戸惑うあたしを見て、こうちゃんは意地悪く笑うと、


「まぁええけど。いつまでもそんな顔しとったら、ほんまに襲うで?」


 だなんて爆弾発言をして、背を向けた。


「な……っ」


 お、襲う、って……っ!



「俺はちぃとの二人暮らし、楽しみにしとるで? ほな、おやすみ」



 はぁぁぁぁあっ!?
 楽しみにしてる、って何!?


 こうちゃんは意味深にそう言ってニタリと笑うと、軽く手を振ってあっという間に玄関のドアの外へ出ていってしまった。


 ほんと、明日からどうなることやら……。

 もう、これも、お父さんとお母さんのせいなんだからねっ!


 明日からの生活を考えて、一際深いため息があふれ出た。



 大型連休明けの朝、あたしが学校へと出発すると同時に、大きな荷物を持って家を出て行ったお母さん。



「はぁぁ……」


 あたしは学校の教室に着くなり、すでに来ていた実里の席に鞄を下ろしてうなだれた。


「おはよう、千紗。どうしたのよ朝っぱらから、幸せが逃げるよ?」


「……おはよう」


 実里の前方の席の生徒はまだ登校していないようだったので、あたしはそのまま腰を下ろす。


「何があったのよ。早瀬くんと喧嘩でもしたの?」


「そういうわけじゃないんだけど……」


 っていうか、あたしの気が重たい=こうちゃんと喧嘩したって結びつける実里も実里だ。


 そんなことを思いながらも、あたしは今日から最低でも1ヶ月はこうちゃんと二人であたしの家でお留守番をしないといけなくなった経緯を、ヒソヒソと実里に耳打ちする。



「はあっ!? マジで!?」


「しっ! 声が大きいってばっ!」


 あたしの話を聞くなり、大きな声を出した実里の口を押さえる。


 幸いにも、こうちゃんの家とあたしの家が隣接していることは、まだ学校のみんなには知られていない。


 あれだけ女子から注目を集めたこうちゃんだ。


 ただでさえ、あたしがこうちゃんの昔の幼なじみだということ自体気に入らないって人がいる中、家が隣同士ってだけでも余計に反感を買いそうなのに。


 まして、これからしばらくはあたしの家で二人で暮らすなんて知れたら、一体どんなウワサを立てられるか……。



「でも早瀬くんも表向きではそう言ってるだけで、実際は自分の家で寝起きするんじゃない? どうせ隣なんでしょ?」


「そう思いたいところなんだけど……」


 何トーンも声のボリュームを落としてしゃべる実里。



 実際に、そうなる可能性もあると思ってた。


 だけど、今朝登校前にあたしの家に最低限の荷物を持ってきたこうちゃん。

 荷物が運ばれて来たのを見た瞬間に、そうなる可能性は低いように思った。


 こうちゃんはといえば、相変わらず数人の女子の取り巻きに囲まれていて……。

 なんだかひとり動揺しているあたしがバカみたいに思えた。



「まぁまぁまぁ、千紗の戸惑う気持ちはわかるけど、どうなるかなんてわからないんだし。それに親公認なんでしょ? それこそ本当に初恋の続きがはじまるかもよ?」


「もう、からかうのはやめてよね!」


 実里はこうちゃんがこっちに来てから、そればっかりだ。

 こっちは真剣に悩んでいるというのに……。


 それにあたしが何て言おうと、あたしの初恋相手はこうちゃんだって思ってる実里。

 まぁそれ自体は実際間違ってはないし、もうそこはあえて否定しないことにしてるけどさ……。


 *


 時間が経つのは早いもので、もう今日最後のホームルームの時間になっていた。


 この学校では、毎年6月の半ばに学園祭があるらしい。

 そのことについて担任の先生が長々と説明している。

 ぼんやりとしか聞いてないから、全くもって頭に入ってきてないけど……。



 今日何度目かわからないため息を落としたとき、後ろから背筋にツツツっとシャーペンか何かを伝わされる。

 ……こうちゃんだ。


 最近は授業中に居眠りなんかしたら、これで起こされるんだ。

 変な悲鳴なんて上げて目覚めたときには、クラス中の笑い者になったっけ……。


 今日はそうはいかないんだからね!


「そんなに何回もつつかなくても、ちゃんと起きてるってばっ!」


 振り返って勝ち誇ったように言うと、こうちゃんはあっけらかんと手に持っていたシャーペンで前を指した。



「起きとったん? ちぃ、さっきから先生に名前呼ばれてんで?」


 ……えっ!?


「おい、水嶋っ! 名前呼ばれたら後ろを向くんじゃなくて、返事をしなさい」


「す、すみませんっ!」


 もうぅっ! ぼんやりとしてたあたしも悪いけどさ、それならそうと最初から教えてよ~っ!



「女子の学園祭実行委員は、推薦で水嶋に決まった。水嶋、やってくれるか?」


「え、……?」


 ちょ、どういうこと!?



「水嶋さん、頼りになりそうだしぃ、いいでしょ?」


「あたしたち、みんな、水嶋さんにしてほしいなぁって思ってるのぉ」


 すると、ひとり、またひとりとそんな女子からの声が上がる。



「……はい、わかりました」


 あたしはその声に、しぶしぶうなずいた。

 さすがにそこまで言ってもらって断るのも気がひけるし……。



 だけどあたしがうなずいた途端、ヒソヒソと聞こえた声に耳を疑った。



『やった! これで光樹は放課後フリー!』


『あの子、登下校ずっと光樹と一緒で、ちょっと邪魔だったんだよねぇ~』


 えぇえっ!?

 ちょ、あたし、まさか、こうちゃん絡みの女子たちにはめられたの!?



「それではうちのクラスの学園祭実行委員は、相原と水嶋に決まりだ。相原と水嶋は今日の放課後から実行委員の活動があるから、必ずこのあと特別活動室へ行くように。以上」



 あたしの動揺も知らない担任の声が、淡々と事実を伝えていった。
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