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2*ほんま、目離されへんな
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「まさか案内してくれへんの? ちぃの方が俺より何日も先輩やろ? 俺、今日初めて登校したばかりで、全然校内のことわからへんのに……」
あたかもショックを受けたと言わんばかりの声色のこうちゃん。
これじゃあ、あたしがこうちゃんに意地悪してるみたいだ。
この高校ではこうちゃんより何日も先輩って言われても、まだ入学して1週間。
あたしもわからないことの方が多いし、大して変わらないと思うんだけど。
「わかったわよ、案内すればいいんでしょ?」
「ほんまか! さすがはちぃや! 恩に着るで!」
こうちゃんは調子良くそう言うと、まだ女子がたくさん集まるこうちゃんの席へと戻っていった。
……ほんと、調子いいんだから。
こうちゃんという嵐が終わって、再び小さく息を吐くと、実里がクスクスと笑いながら口を開いた。
「千紗も大変ね」
「大変どころじゃないよ~、こんな入学して1ヶ月もしない内に女子の敵増やしたくないのに」
「確かにそれはあるね。彼、登校初日から相当人気集めちゃってるし」
実里の声に、さらに深いため息が出る。
「ほら、ため息吐くと幸せ逃げちゃうよ? それにこれから一緒に過ごすうちに、止まっていた初恋が動き出すかもしれないじゃない」
「だ、だから、あいつじゃないってばっ!」
思わずムキになって言い返すけど、それに楽しげに笑って返す実里には見破られてるんだろうなと悟った。
こうちゃんが、あたしの初恋の相手だってことを……。
*
「ちぃ、ほな、よろしく頼むわ」
今日、最後の授業のチャイムが鳴り終わるなりかけられるこうちゃんの声。
振り返ると、もうこうちゃんは荷物をまとめてあたしの斜め後ろにスタンバイしていた。
今授業終わったばかりなのに、準備早すぎでしょ!
あたしが慌てて机の上に広げたまんまになっていた教科書やノートを片付けていると、再びのんびりとした声が響く。
「あ、そんな急がんでええよ。それとも、はよ俺に校内案内したいとか?」
「べ、別に、そんなんじゃないしっ!」
キッとこうちゃんを睨み上げると、こうちゃんは何がおかしいのかケラケラと笑っている。
もう! せっかく人が待たせたら悪いと思って頑張ってるのに……っ!
「光樹~! 水嶋さん忙しいなら、あたしらが校内案内しようか?」
そうしている内にも聞こえてくる、クラスの女子の声。
「おお、ありがとな。でも、校内案内はちぃにしてもらおうって決めとったから、ええよ」
「そうなんだぁ、残念。じゃあ、また明日ね~!」
「また明日~」
ヒラヒラとさっきの女子に手を振るこうちゃん。
「登校早々、すごい人気。別にあの子たちに校内案内してもらっても良かったんじゃない?」
「なんや、ちぃ。妬いとんか?」
「妬いてません!」
あー、もう!
なんかこうちゃんと話してると、調子狂う!
「準備終わったみたいやな。ほな、行こか」
あたしがフイっと顔を背けている間に、あたしの鞄も手に取るこうちゃん。
「い、いいよ。あたし持つし」
「ええやん。校内案内頼んだの俺なんやし、身軽な方がええやろ? 素直に持たれとき?」
ふわりと優しい笑みを覗かせるこうちゃん。
さっきまであたしには意地悪だったくせに、意外と優しいところもあるんじゃん。
「……あ、ありがとう」
聞こえるか聞こえないかのような小さな声だったけど、こうちゃんはしっかりと聞き取ってくれたようで、満足そうに笑っていた。
*
「……で、手前側が物理の講義室で、奥っ側が物理の実験室。その間が準備室、だって」
あたしは生徒手帳にある校内地図を元に、こうちゃんに校内案内をして回る。
「なるほどな」
こうちゃんは意外と物分かりがいいのか、あたしのこんな下手くそな説明でも、文句言うことなくついてきてくれる。
「でも、意外とちぃもまだこの学校内のこと覚えてへんのやな」
「当たり前でしょ!? あたしだって、今月の頭に入学したばっかりなんだから!」
人がせっかく地図を見ながら案内してるっていうのに、文句は言わなくても、意地悪は言うんだ。
あたかもショックを受けたと言わんばかりの声色のこうちゃん。
これじゃあ、あたしがこうちゃんに意地悪してるみたいだ。
この高校ではこうちゃんより何日も先輩って言われても、まだ入学して1週間。
あたしもわからないことの方が多いし、大して変わらないと思うんだけど。
「わかったわよ、案内すればいいんでしょ?」
「ほんまか! さすがはちぃや! 恩に着るで!」
こうちゃんは調子良くそう言うと、まだ女子がたくさん集まるこうちゃんの席へと戻っていった。
……ほんと、調子いいんだから。
こうちゃんという嵐が終わって、再び小さく息を吐くと、実里がクスクスと笑いながら口を開いた。
「千紗も大変ね」
「大変どころじゃないよ~、こんな入学して1ヶ月もしない内に女子の敵増やしたくないのに」
「確かにそれはあるね。彼、登校初日から相当人気集めちゃってるし」
実里の声に、さらに深いため息が出る。
「ほら、ため息吐くと幸せ逃げちゃうよ? それにこれから一緒に過ごすうちに、止まっていた初恋が動き出すかもしれないじゃない」
「だ、だから、あいつじゃないってばっ!」
思わずムキになって言い返すけど、それに楽しげに笑って返す実里には見破られてるんだろうなと悟った。
こうちゃんが、あたしの初恋の相手だってことを……。
*
「ちぃ、ほな、よろしく頼むわ」
今日、最後の授業のチャイムが鳴り終わるなりかけられるこうちゃんの声。
振り返ると、もうこうちゃんは荷物をまとめてあたしの斜め後ろにスタンバイしていた。
今授業終わったばかりなのに、準備早すぎでしょ!
あたしが慌てて机の上に広げたまんまになっていた教科書やノートを片付けていると、再びのんびりとした声が響く。
「あ、そんな急がんでええよ。それとも、はよ俺に校内案内したいとか?」
「べ、別に、そんなんじゃないしっ!」
キッとこうちゃんを睨み上げると、こうちゃんは何がおかしいのかケラケラと笑っている。
もう! せっかく人が待たせたら悪いと思って頑張ってるのに……っ!
「光樹~! 水嶋さん忙しいなら、あたしらが校内案内しようか?」
そうしている内にも聞こえてくる、クラスの女子の声。
「おお、ありがとな。でも、校内案内はちぃにしてもらおうって決めとったから、ええよ」
「そうなんだぁ、残念。じゃあ、また明日ね~!」
「また明日~」
ヒラヒラとさっきの女子に手を振るこうちゃん。
「登校早々、すごい人気。別にあの子たちに校内案内してもらっても良かったんじゃない?」
「なんや、ちぃ。妬いとんか?」
「妬いてません!」
あー、もう!
なんかこうちゃんと話してると、調子狂う!
「準備終わったみたいやな。ほな、行こか」
あたしがフイっと顔を背けている間に、あたしの鞄も手に取るこうちゃん。
「い、いいよ。あたし持つし」
「ええやん。校内案内頼んだの俺なんやし、身軽な方がええやろ? 素直に持たれとき?」
ふわりと優しい笑みを覗かせるこうちゃん。
さっきまであたしには意地悪だったくせに、意外と優しいところもあるんじゃん。
「……あ、ありがとう」
聞こえるか聞こえないかのような小さな声だったけど、こうちゃんはしっかりと聞き取ってくれたようで、満足そうに笑っていた。
*
「……で、手前側が物理の講義室で、奥っ側が物理の実験室。その間が準備室、だって」
あたしは生徒手帳にある校内地図を元に、こうちゃんに校内案内をして回る。
「なるほどな」
こうちゃんは意外と物分かりがいいのか、あたしのこんな下手くそな説明でも、文句言うことなくついてきてくれる。
「でも、意外とちぃもまだこの学校内のこと覚えてへんのやな」
「当たり前でしょ!? あたしだって、今月の頭に入学したばっかりなんだから!」
人がせっかく地図を見ながら案内してるっていうのに、文句は言わなくても、意地悪は言うんだ。
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