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「きみのために。」
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「言えよ。隠されてる方が、辛い……」
ああ、もう。
きっと彼は私が本当のことを告げるまで離してくれるつもりはないのだろう。
病気のことも話したくなかったけど、何よりこのことは話したくなかったのに……。
「……余命も切られたの。あと半年って……」
さすがにここまで言えば、彼も納得してくれるのだろうか?
納得、というより、未来のない私のことなんてどうでもよくなっちゃうのかな。
だから嫌だったんだ。
私のわがままだってわかってるけど、彼も私のことを好きなまま、別れたかった。
未来のない女だと幻滅されて別れるのが、嫌だったんだ。
彼の返事を待たずにそんなことを考えて、再び目に涙が滲み出る。
だけど、彼はどういうわけか優しい笑みを浮かべた。
「……え?」
「やっと本当のことを言ってくれたな」
どういうこと……?
私の想像とは全く違う反応を示す彼に少しの戸惑いを覚えながら、私は彼に優しく抱きしめられる。
すると、彼はそんな私の心の疑問にこたえるように、ぽつりぽつりと口を開く。
「少し前に、保健室で聞いちゃったんだ。お前が先生と話すのを……」
少し前、確かに私は病気のことで学校に相談をしていた。
長期入院が必要になってくることや、それによる今後の学校生活のことを。
担任の先生や学年主任の先生とも話したけれど、保健の先生と話した日があったから、きっとその場所を彼に見られていたんだ。
彼は保健委員だから、あの日、私が気づかなかっただけで保健室を出入りしていたのだろう。
「そんな……っ」
近いうちに入院して、さらには半年後には死が待っている。
それなら、もう学校に通えなくなるのだろうと思って、彼には“遠くに引っ越す”と嘘をついた。
だけど、それさえ最初から嘘だとばれていたなんて……。
「ごめんな、ずっと知らないフリしてて。でも、大事な話だし、俺も直接お前の口から本当のことを聞けると信じてたんだ」
「嘘ついて隠そうとして、ごめんなさい……」
嘘をついて、騙そうとして、結果傷つけて。
「怖かったの……。本当のことを言って、傷つけてしまうのが。それに本当のことを言って、未来のない女だと幻滅されたくなかったの」
「いいよ、もう。お前の口から本当のことが聞けたからそれでいい。それに、俺だって本当のことを知っておきながら、お前の口から言わせるために、何も知らないかのように振る舞ったわけだし。今回のことに関しては、おあいこってことで気にするな」
彼は優しくそう言って、私の頭に彼の大きな手を乗せるとくしゃりと頭を撫でた。
今度はさっきとは違う、温かい涙が溢れ出る。
「それに、幻滅なんかしねぇよ。確かにショックだけど、俺以上にその現実に苦しんでるのはお前だろ? お前にどんな未来が待っていても、俺が傍で支えたいんだ、俺じゃあ力不足か?」
訴えるような瞳で彼に見つめられる。
力不足なわけない。
本当は、ずっとずっと傍に居てほしい。
残された時間が僅かなら、一緒に居られるときはともに過ごしたい。
でも……。
「ありがとう。嬉しいけど、いいの? 私、近い将来、いなくなるんだよ? 絶対傷つけちゃうし、辛い思いをさせちゃうし、迷惑だって……」
最初の決心なんてすでにどこかへいってしまっていたけれど、やっぱりためらう気持ちはゼロではないから。
最後のあがきのように言葉を紡いだけれど、それは最後まで言わせてもらえなかった。
私の口は彼によって塞がれてしまったから。
「俺はお前の傍にいられたらそれだけで幸せだから、俺のことは心配するな。それに、お前の迷惑ならいくらでも大歓迎だから、どんどんかけろ」
突然のキスに驚く私に告げられたその言葉に、私の中のためらう気持ちさえも押さえ込まれてしまった。
「それじゃあダメか? それでも別れたい?」
「ううん、そんなことない!」
私には充分すぎるくらいの幸せだ。
「ありがとう、大好きだよ……っ」
彼をぎゅうっときつく抱きしめて涙を流す私を、彼は優しく受け止めてくれた。
これから先、きっと想像を絶するくらいに、たくさん辛いことがあるのだろう。
未来のこと、病気のこと。
挙げれば不安は尽きないけれど、きみと一緒ならきっと──。
*きみのために。*
*END*
ああ、もう。
きっと彼は私が本当のことを告げるまで離してくれるつもりはないのだろう。
病気のことも話したくなかったけど、何よりこのことは話したくなかったのに……。
「……余命も切られたの。あと半年って……」
さすがにここまで言えば、彼も納得してくれるのだろうか?
納得、というより、未来のない私のことなんてどうでもよくなっちゃうのかな。
だから嫌だったんだ。
私のわがままだってわかってるけど、彼も私のことを好きなまま、別れたかった。
未来のない女だと幻滅されて別れるのが、嫌だったんだ。
彼の返事を待たずにそんなことを考えて、再び目に涙が滲み出る。
だけど、彼はどういうわけか優しい笑みを浮かべた。
「……え?」
「やっと本当のことを言ってくれたな」
どういうこと……?
私の想像とは全く違う反応を示す彼に少しの戸惑いを覚えながら、私は彼に優しく抱きしめられる。
すると、彼はそんな私の心の疑問にこたえるように、ぽつりぽつりと口を開く。
「少し前に、保健室で聞いちゃったんだ。お前が先生と話すのを……」
少し前、確かに私は病気のことで学校に相談をしていた。
長期入院が必要になってくることや、それによる今後の学校生活のことを。
担任の先生や学年主任の先生とも話したけれど、保健の先生と話した日があったから、きっとその場所を彼に見られていたんだ。
彼は保健委員だから、あの日、私が気づかなかっただけで保健室を出入りしていたのだろう。
「そんな……っ」
近いうちに入院して、さらには半年後には死が待っている。
それなら、もう学校に通えなくなるのだろうと思って、彼には“遠くに引っ越す”と嘘をついた。
だけど、それさえ最初から嘘だとばれていたなんて……。
「ごめんな、ずっと知らないフリしてて。でも、大事な話だし、俺も直接お前の口から本当のことを聞けると信じてたんだ」
「嘘ついて隠そうとして、ごめんなさい……」
嘘をついて、騙そうとして、結果傷つけて。
「怖かったの……。本当のことを言って、傷つけてしまうのが。それに本当のことを言って、未来のない女だと幻滅されたくなかったの」
「いいよ、もう。お前の口から本当のことが聞けたからそれでいい。それに、俺だって本当のことを知っておきながら、お前の口から言わせるために、何も知らないかのように振る舞ったわけだし。今回のことに関しては、おあいこってことで気にするな」
彼は優しくそう言って、私の頭に彼の大きな手を乗せるとくしゃりと頭を撫でた。
今度はさっきとは違う、温かい涙が溢れ出る。
「それに、幻滅なんかしねぇよ。確かにショックだけど、俺以上にその現実に苦しんでるのはお前だろ? お前にどんな未来が待っていても、俺が傍で支えたいんだ、俺じゃあ力不足か?」
訴えるような瞳で彼に見つめられる。
力不足なわけない。
本当は、ずっとずっと傍に居てほしい。
残された時間が僅かなら、一緒に居られるときはともに過ごしたい。
でも……。
「ありがとう。嬉しいけど、いいの? 私、近い将来、いなくなるんだよ? 絶対傷つけちゃうし、辛い思いをさせちゃうし、迷惑だって……」
最初の決心なんてすでにどこかへいってしまっていたけれど、やっぱりためらう気持ちはゼロではないから。
最後のあがきのように言葉を紡いだけれど、それは最後まで言わせてもらえなかった。
私の口は彼によって塞がれてしまったから。
「俺はお前の傍にいられたらそれだけで幸せだから、俺のことは心配するな。それに、お前の迷惑ならいくらでも大歓迎だから、どんどんかけろ」
突然のキスに驚く私に告げられたその言葉に、私の中のためらう気持ちさえも押さえ込まれてしまった。
「それじゃあダメか? それでも別れたい?」
「ううん、そんなことない!」
私には充分すぎるくらいの幸せだ。
「ありがとう、大好きだよ……っ」
彼をぎゅうっときつく抱きしめて涙を流す私を、彼は優しく受け止めてくれた。
これから先、きっと想像を絶するくらいに、たくさん辛いことがあるのだろう。
未来のこと、病気のこと。
挙げれば不安は尽きないけれど、きみと一緒ならきっと──。
*きみのために。*
*END*
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