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「きみのために。」
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茜色の空の下、私は一人その場に足を止めた。
「別れよう」
そのことにより私より数歩前に進んだ彼の背中に、覚悟を決めて言葉を投げかける。
黄色に染まり始めている銀杏並木は、何度も彼と歩いた。
見なれた風景の中、彼の背中が今まで見たこともないような動きで止まった。
「どうして?」
彼がゆっくりとこちらを振り向く。
責めるような感じはなく、冷静さは保たれているけれど、彼の瞳には、明らかな動揺と悲しみが滲み出ていた。
高校に入ってすぐ、彼と出会った。
一年生のときに同じクラスで、六月にあった席替えで隣の席になったことから仲良くなって、彼から告白されて付き合い始めた。
──あれから、一年と数ヶ月。
二年生では同じクラスになれなかったものの、私たちは仲のいいカップルとして学校内で知られていた。
実際に、自分でも仲のいいカップルだったと思うし、彼もそう思ってくれていたんじゃないかと思う。
だからこそ、私が突然切り出した終わりの言葉に、彼が動揺するのも無理ない。
「……引っ越すことになったの」
「だからって、別れなければならないくらい遠いところなのか?」
「そうだね、学校も変わらなきゃいけないし、遠距離には自信なくて。ごめんね」
私は努めて明るい声で話す。
明らかに傷ついている彼の姿に罪悪感がうまれて胸が痛むけれど、何度も考えた結果、これが一番彼を傷つけずに済む方法なんだ。
「そんなの納得いくわけないだろ。どんなに離れたって会いに行くし、電話だってできる……」
「それじゃイヤなの!」
すぐに納得してくれるわけないのはわかってた。
わかってたし、だからこそ私自身は冷静に話さなきゃと思っていたけれど、あまりに悲痛な声で捲し立てる彼の姿を見てられなくて、私は思わず大きな声を出してしまった。
「それでもイヤなの。会えなくなる時間が長くなる分、絶対不安になる。そんなの、私には耐えられない!」
ごめん、ごめんね……!
言葉とは裏腹の本心が私の中に渦巻いて、罪悪感から苦しくなる。
涙が出そうになったのをこらえるために下を向いたから、彼が今どんな表情をしているのかわからない。
一体今、彼はどんな表情をしているのだろう?
そうは思っても、顔を上げることもできず、それ以上の言葉を発することもできずにいると、少しの沈黙の後、彼が口を開いた。
「……引っ越し先は?」
「別れるのに、そんなの言っても仕方ないでしょ?」
努めて冷たく言い放つと、彼のため息が耳に届く。
「……わかったよ」
そして、さすがの彼も私に愛想を尽かして諦めてくれたのか、彼はそう言って私の頭に彼の大きな手を乗せた。
「じゃあな。今までありがとな」
彼の手が離れる直前、私の頭をくしゃりと撫でる。
それは、彼がいつも別れ際に私によくしていた癖だ。
途端に頭の中に今までの彼との幸せだった思い出が溢れてきて、涙がこぼれ落ちてくる。
彼が私の横を通り過ぎていく。
せめて彼が私から離れるまでは、こぼれ落ちる涙に気づかれないようにしなきゃ。
突然別れを告げられることになった彼の気持ちを考えたら、彼に涙を見せるわけにはいかないから。
すぐには納得してくれなかったとはいえ、最後はあっけなく終わってしまった。
彼の足音が遠ざかっていくのがわかると、いろんな気持ちが全て決壊したかのように涙とともに溢れだした。
「……ふぇっ」
これで、良かったんだ。
そうは思うけれど、なかなか心はついてきてはくれなくて、自分自身が張り裂けてしまうんじゃないかと思うくらいに、胸が痛い……。
「ごめんね……。ごめんね……」
だって、本当は……。
「……本当は、別れたくなんて、なかったのに……っ」
そのとき突然、私の身体は急に秋の肌寒さを感じなくなった。
「何泣いてんだよ、バカ」
いつの間にかこちらに戻ってきていた彼が、背後から私のことを抱きしめていたんだ。
「別れよう」
そのことにより私より数歩前に進んだ彼の背中に、覚悟を決めて言葉を投げかける。
黄色に染まり始めている銀杏並木は、何度も彼と歩いた。
見なれた風景の中、彼の背中が今まで見たこともないような動きで止まった。
「どうして?」
彼がゆっくりとこちらを振り向く。
責めるような感じはなく、冷静さは保たれているけれど、彼の瞳には、明らかな動揺と悲しみが滲み出ていた。
高校に入ってすぐ、彼と出会った。
一年生のときに同じクラスで、六月にあった席替えで隣の席になったことから仲良くなって、彼から告白されて付き合い始めた。
──あれから、一年と数ヶ月。
二年生では同じクラスになれなかったものの、私たちは仲のいいカップルとして学校内で知られていた。
実際に、自分でも仲のいいカップルだったと思うし、彼もそう思ってくれていたんじゃないかと思う。
だからこそ、私が突然切り出した終わりの言葉に、彼が動揺するのも無理ない。
「……引っ越すことになったの」
「だからって、別れなければならないくらい遠いところなのか?」
「そうだね、学校も変わらなきゃいけないし、遠距離には自信なくて。ごめんね」
私は努めて明るい声で話す。
明らかに傷ついている彼の姿に罪悪感がうまれて胸が痛むけれど、何度も考えた結果、これが一番彼を傷つけずに済む方法なんだ。
「そんなの納得いくわけないだろ。どんなに離れたって会いに行くし、電話だってできる……」
「それじゃイヤなの!」
すぐに納得してくれるわけないのはわかってた。
わかってたし、だからこそ私自身は冷静に話さなきゃと思っていたけれど、あまりに悲痛な声で捲し立てる彼の姿を見てられなくて、私は思わず大きな声を出してしまった。
「それでもイヤなの。会えなくなる時間が長くなる分、絶対不安になる。そんなの、私には耐えられない!」
ごめん、ごめんね……!
言葉とは裏腹の本心が私の中に渦巻いて、罪悪感から苦しくなる。
涙が出そうになったのをこらえるために下を向いたから、彼が今どんな表情をしているのかわからない。
一体今、彼はどんな表情をしているのだろう?
そうは思っても、顔を上げることもできず、それ以上の言葉を発することもできずにいると、少しの沈黙の後、彼が口を開いた。
「……引っ越し先は?」
「別れるのに、そんなの言っても仕方ないでしょ?」
努めて冷たく言い放つと、彼のため息が耳に届く。
「……わかったよ」
そして、さすがの彼も私に愛想を尽かして諦めてくれたのか、彼はそう言って私の頭に彼の大きな手を乗せた。
「じゃあな。今までありがとな」
彼の手が離れる直前、私の頭をくしゃりと撫でる。
それは、彼がいつも別れ際に私によくしていた癖だ。
途端に頭の中に今までの彼との幸せだった思い出が溢れてきて、涙がこぼれ落ちてくる。
彼が私の横を通り過ぎていく。
せめて彼が私から離れるまでは、こぼれ落ちる涙に気づかれないようにしなきゃ。
突然別れを告げられることになった彼の気持ちを考えたら、彼に涙を見せるわけにはいかないから。
すぐには納得してくれなかったとはいえ、最後はあっけなく終わってしまった。
彼の足音が遠ざかっていくのがわかると、いろんな気持ちが全て決壊したかのように涙とともに溢れだした。
「……ふぇっ」
これで、良かったんだ。
そうは思うけれど、なかなか心はついてきてはくれなくて、自分自身が張り裂けてしまうんじゃないかと思うくらいに、胸が痛い……。
「ごめんね……。ごめんね……」
だって、本当は……。
「……本当は、別れたくなんて、なかったのに……っ」
そのとき突然、私の身体は急に秋の肌寒さを感じなくなった。
「何泣いてんだよ、バカ」
いつの間にかこちらに戻ってきていた彼が、背後から私のことを抱きしめていたんだ。
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