上 下
12 / 23
「愛することをやめるのは、拷問にも等しくて。」

4-3

しおりを挟む
 -結弦Side-

 
 家に帰ると、電気もつけずになずながリビングのソファーに横になっていた。

 なずなの顔が見えるようにソファーの前にしゃがむと、なずなの閉じた瞳の両端に涙の粒が浮かんでいるのが見える。

 泣いたのか……?


 涙を拭おうと、指でなずなの目元に触れたとき、


「おにぃ、ちゃん……」

 なずなが掠れた小さな声で呟くので、俺は思わず勢いよく身を離した。

 だけど、それはどうやらただの寝言だったようで、ホッと胸を撫で下ろす。


 いつからか、なずなが俺に向ける瞳が違うことには気づいてた。

 なずなは、良くも悪くもわかりやすいからな。

 かくいう俺も、実はなずなのことが好きだ。一人の女の子として。


 今日、母さんが間違えて包んでいた弁当をなずなの教室に持っていったとき、そこでなずなと話していた男子生徒に妬いてしまうくらいに、俺のこの気持ちは生半可なものではない。


 最初はなずなが無意識に出してるのであろう好き好きオーラに戸惑っていたものの、いつの間にか俺も彼女に落ちていた。


 だけどだからって、俺は彼女の気持ちに応えることはできない。

 やっぱりそこには越えてはいけない一線があるから。俺は今日も“いいお兄ちゃん”を演じる。


 でも……。

 俺は思わずなずなが寝ていることをいいことに、ほんの一瞬、目の前の彼女と唇を重ねた。

 そして、自己嫌悪。

 “好き”の気持ちはどんどん大きくなって、ちょっと気を緩めるとダメだ。


 俺らの気持ちは一方通行。

 決して交わることはあってはならない。


 何事もなかったようにその場を立ち、リビングの電気をつける。

 すると、その明かりで目が覚めたのか、ムクッとなずながソファーの上で身を起こした。


「あれ? お兄ちゃん、今帰ったの?」

「ああ、ただいま。寝てたのか?」

「うん、寝ちゃってたみたい……」


 今にもまた眠ってしまいそうななずなの頭をくしゃりと撫でると、少し怒ったようににらまれる。


「きゃっ! もう!」

「そんなところで寝てたら風邪ひくよ?」

「わかってるもん」

「そんなに怒らないでよ。帰りになずなの好きなクッキー買ってきたからさ」

「本当!?」

 プイッとそっぽ向いたと思えば、明るい笑顔の花を咲かせる。

 そんななずなが好きだっていう俺の気持ちは、きっと目の前の本人は知らないのだろう。


「お兄ちゃん、大好き」

「はいはい」


 だから、そんなきみとの平和な日々を守るため、俺は今日も何でもないように返事する。

 きみの、たった一人の兄として。

 きみにはちゃんとした幸せをつかんでほしいから──。





*愛することをやめるのは、拷問にも等しくて。*
 *END*
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

お見合いすることになりました

詩織
恋愛
34歳で独身!親戚、周りが心配しはじめて、お見合いの話がくる。 既に結婚を諦めてた理沙。 どうせ、いい人でないんでしょ?

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

初恋の呪縛

泉南佳那
恋愛
久保朱利(くぼ あかり)27歳 アパレルメーカーのプランナー × 都築 匡(つづき きょう)27歳 デザイナー ふたりは同じ専門学校の出身。 現在も同じアパレルメーカーで働いている。 朱利と都築は男女を超えた親友同士。 回りだけでなく、本人たちもそう思っていた。 いや、思いこもうとしていた。 互いに本心を隠して。

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

処理中です...