【短編集】いろいろな恋、集めました

美和優希

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「幼なじみとあたしの境界線」

2-3

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「あたしは、千尋じゃなきゃダメなの……。千尋だけが、好きなの……」


 そこまで言い切ったとき、新庄くんの腕の力はふわりと緩む。

 身動きが許されたあたしは、恐る恐る新庄くんの表情を覗き見る。

 しかし、新庄くんの目は、部室の入口の方にくぎ付けになっていた。


「……高岡。お前、いつからそこにいたんだよ」

 部室の入口を見ると、いつの間にか開いたドアの傍に、千尋が立っていた。


「さぁな。それより、フラれたなら潔く綾那から離れろよ」

 苛立ちを帯びた千尋の声は、いつもより低く、思わずあたしまでビクつきそうになった。

 でも、待って……。

 あたしが新庄くんの告白を断ったところを千尋が知ってるって……。

『あたしは、千尋じゃなきゃダメなの……』
『千尋だけが、好きなの……』

 この言葉も聞かれたってことだよね……?


 千尋の手によって、新庄くんはあたしから引きはがされる。


「あーそうだよ。俺の負けだ」

 新庄くんは千尋に掴まれた腕を思いっきり振りほどくと、千尋を睨みつけて声を荒げた。


「……だけど負けたとはいえ、お前がいつまでもどっち付かずな態度だったら、俺は引かねーからな」

 新庄くんは、そう言って、悔しげに部室を走って出て行った。


 新庄くんが出ていって、部室に残されたのはあたしと千尋の二人。

 あたしの千尋への気持ちは、間違いなく千尋に聞かれてるはず……。

 まさか、こんな形で千尋に知られるなんて、思わなかった。

 あたしは緊張で鳴りやまない胸を押さえつけながら、この張り詰めた空気を壊したくて、小さく口を開いた。


「千尋、まだ学校に残ってたんだ……」

「まぁ、顧問と今度の練習試合と公式戦に向けての攻略を考えてたからな」

「へぇ、そうなんだ……。何で、ここに?」

「部室の鍵が職員室の鍵置場に返って来てなかったから、まだ誰かいるのかなって思ったから」

「そっか……」

 あたしが一旦口を閉ざすと、すぐに千尋の声がその沈黙を破る。


「なぁ……」

「何?」

 相変わらず怒ったままの、千尋の声。

 あたしが顔を上げると、千尋が一歩こちらへと近づいて来ていた。


「俺、言ったよな? あいつには気をつけろって。何襲われてんだよ」

「べ、つに、襲われてなんて……」

 剣幕な表情で一歩一歩こちらに近づいてくる千尋に、思わずあとずさりする。


「お前はそうは思ってなくても、俺にはそう見えたんだよ!!」

 そんなに広くはない部室内。

 どんどん近づいてくる千尋にあとずさりしていると、すぐにあたしの背中は部室の冷たい壁にぶつかってしまった。

 千尋は、あたしを閉じ込めるように、あたしの顔の真横にバンッと両手をつく。


「ちょっ、何よ、千尋には関係ないじゃん……」

 近い距離にある千尋の顔に、ドギマギしながらも声を絞り出す。


「関係ねぇことねーだろ?」

 だけど、そう言って迫り来る千尋に、あたしは思わず怒鳴っていた。


「全然関係ないよ! だって、千尋にとっては、あたしはただの幼なじみじゃない……っ!!」

 言ってすぐに口を閉ざして顔を逸らした。

 あたし、最低だ……。

 いくら自分の気持ちを聞かれたからって、千尋は千尋で、幼なじみとしてあたしのこと心配してくれてただけなのに……。

 でも、言ってしまってからでは、もう遅い。

 あたしには、前もってそんな風に考える程の余裕なんて、残っていなかったんだから。


 だけど、幼なじみだからってそんなに心配されると、要らぬ期待を抱くあたしがいた。

 幼なじみの枠を越えられないなら、千尋にはこれ以上あたしに期待させないでほしい。


「……綾那」

 切なげに頭上で響く声に、千尋の顔を見上げる。

 でも、あたしの視界に、苦しげに顔を歪めた千尋の顔が映ったのは一瞬。先程まで千尋の顔全体を映したあたしの目はググッと見開かれ、視界に映るのは、千尋の伏せられた綺麗な目元だった。

 ごめん、と言おうとした唇は、千尋のそれと重なっていた。


「……んんっ」

 ちょっと、何であたし、千尋とキスしてるの……!?

 あたしがやっとの思いで千尋を押し返すと、千尋はそっと唇を離した。
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