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2.恋するレモンチーズケーキ
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「あ、あの……っ、おしぼりお持ちしますね……」
さすがにミーコさんが戻ってくるまで、テーブルに突っ伏して泣き続ける京子さんのそばに突っ立ってるわけにはいかないだろう。
どうしていいかまだ入って一週間の私にはわからなくて、苦し紛れにそう告げる。が、一旦その場を去ろうとした私の手は、なんとそこに突っ伏して泣いていた京子さんによってガシッとつかまれてしまった。
「新入りちゃん、一人にしないでよ」
「……え、えっと」
「そこ、座って。接客も重要な仕事でしょ?」
顔を伏せたまま、京子さんは私の手首をつかんだ手を一旦離して、彼女の座る席の向かい側にある椅子を指さす。
「はい。すみません……」
これが接客の範疇に入るのかは謎だけど、さすがに断ることができなくて、私は京子さんの向かいに腰を下ろす。
京子さんには歳下の彼氏がいるというのは、初めて会った日に聞かされていた。
とても恋愛経験が豊富なようで、十五人目の彼氏だと言っていた。
詳しい年齢までは知らないけど恐らく二十代前半だろう京子さんは、結構なスピードで恋人が代わっていたということがうかがえる。
前回ご来店されたとき──と言っても先週の金曜日のことだが、土日はデートなんだと京子さんは散々のろけて帰ったというのに、この少し見ない数日の間に一体何があったというのだろう。
「……何がいけなかったのよ」
そのとき、小さな声でぽつりと京子さんがつぶやいた。
「……え?」
「他に好きな子ができたんだって言われたわ。年下の大学生の女の子だって」
「そう、だったんですか」
「見に行ったけど、全然どこがいいのかわからなかったわ。何であんな子どもみたいな子が……」
テーブルの上で京子さんが握った拳が、ワナワナと震える。
同時に、京子さんの目元から二つの透明の雫が落ちた。
きっと京子さんは、その男性のことが本当に好きだったのだろう。
京子さんの苦しい気持ちが私にも伝染してくるようだが、こんなときどんな言葉をかけたらいいのかすぐにはわからなかった。
「騒々しいですね」
そのとき、オーダーの商品を持って奥から坂部くんが出てきた。
「何よ、ギン。相変わらず冷たいのね」
「別に。俺は通常運転ですよ」
顔色ひとつ変えずにこたえる坂部くんに、京子さんは思わずといった感じにクスリと笑う。
「冷たいのは否定しないのね」
「本日のケーキとアイスミルクティーでございます」
今日のケーキは、三種のベリーのムースだ。
透明のカップに数層のムースが重なり、一番上のベリーのシロップの層の上には、ラズベリーとミントの葉が飾られている。
「ああ、この甘酸っぱさ。まさに恋の味と言うのね……。つい、涙が」
「京子さん、最初から泣いてたでしょう?」
淡々と言い返す坂部くんを、涙を浮かべたまま京子さんがにらみつける。
「うるさいわね。ギンにはココロってもんがないの? ねぇ、新入りちゃん」
「は、はぁ……」
このタイミングで、私に振らないでほしい。
確かに坂部くんの言い方は冷たいような気はするけど、坂部くんの目の前で「はい、そうですね」と言える度胸はない。
ちらりと坂部くんの方を見やると、呆れたようにため息を吐き出した。
「まぁ、でも本性を隠すのが苦手な京子さんにはよかったんじゃないですか? いつまでも本性を隠すのも大変ですし、バレる前に綺麗に別れられたじゃないですか」
「よくないわよ! もう、ミーコちゃん、この小生意気な狼、ボコってもいい?」
「えええっ!? それでしたら、代わりにこのミーコをお殴りください。この度はご無礼をお許しくださいませ」
今にも坂部くんにつかみかかりそうだった京子さんの前に、そばで私たちの会話を見ていたミーコさんがたちはだかる。
坂部くんを必死に擁護するミーコさんの図が衝撃的で、思わず二人の関係性について瞬時に考えてしまった。
少なくとも寄り道カフェは、私がバイトで入る前はずっと坂部くんとミーコさんの二人でやっていたみたいだし、二人は恋人とかなのだろうか。
今まで深く考えたことはなかったけど、一度気になればそうなんじゃないかという疑問が生まれてくる。
さすがにミーコさんが戻ってくるまで、テーブルに突っ伏して泣き続ける京子さんのそばに突っ立ってるわけにはいかないだろう。
どうしていいかまだ入って一週間の私にはわからなくて、苦し紛れにそう告げる。が、一旦その場を去ろうとした私の手は、なんとそこに突っ伏して泣いていた京子さんによってガシッとつかまれてしまった。
「新入りちゃん、一人にしないでよ」
「……え、えっと」
「そこ、座って。接客も重要な仕事でしょ?」
顔を伏せたまま、京子さんは私の手首をつかんだ手を一旦離して、彼女の座る席の向かい側にある椅子を指さす。
「はい。すみません……」
これが接客の範疇に入るのかは謎だけど、さすがに断ることができなくて、私は京子さんの向かいに腰を下ろす。
京子さんには歳下の彼氏がいるというのは、初めて会った日に聞かされていた。
とても恋愛経験が豊富なようで、十五人目の彼氏だと言っていた。
詳しい年齢までは知らないけど恐らく二十代前半だろう京子さんは、結構なスピードで恋人が代わっていたということがうかがえる。
前回ご来店されたとき──と言っても先週の金曜日のことだが、土日はデートなんだと京子さんは散々のろけて帰ったというのに、この少し見ない数日の間に一体何があったというのだろう。
「……何がいけなかったのよ」
そのとき、小さな声でぽつりと京子さんがつぶやいた。
「……え?」
「他に好きな子ができたんだって言われたわ。年下の大学生の女の子だって」
「そう、だったんですか」
「見に行ったけど、全然どこがいいのかわからなかったわ。何であんな子どもみたいな子が……」
テーブルの上で京子さんが握った拳が、ワナワナと震える。
同時に、京子さんの目元から二つの透明の雫が落ちた。
きっと京子さんは、その男性のことが本当に好きだったのだろう。
京子さんの苦しい気持ちが私にも伝染してくるようだが、こんなときどんな言葉をかけたらいいのかすぐにはわからなかった。
「騒々しいですね」
そのとき、オーダーの商品を持って奥から坂部くんが出てきた。
「何よ、ギン。相変わらず冷たいのね」
「別に。俺は通常運転ですよ」
顔色ひとつ変えずにこたえる坂部くんに、京子さんは思わずといった感じにクスリと笑う。
「冷たいのは否定しないのね」
「本日のケーキとアイスミルクティーでございます」
今日のケーキは、三種のベリーのムースだ。
透明のカップに数層のムースが重なり、一番上のベリーのシロップの層の上には、ラズベリーとミントの葉が飾られている。
「ああ、この甘酸っぱさ。まさに恋の味と言うのね……。つい、涙が」
「京子さん、最初から泣いてたでしょう?」
淡々と言い返す坂部くんを、涙を浮かべたまま京子さんがにらみつける。
「うるさいわね。ギンにはココロってもんがないの? ねぇ、新入りちゃん」
「は、はぁ……」
このタイミングで、私に振らないでほしい。
確かに坂部くんの言い方は冷たいような気はするけど、坂部くんの目の前で「はい、そうですね」と言える度胸はない。
ちらりと坂部くんの方を見やると、呆れたようにため息を吐き出した。
「まぁ、でも本性を隠すのが苦手な京子さんにはよかったんじゃないですか? いつまでも本性を隠すのも大変ですし、バレる前に綺麗に別れられたじゃないですか」
「よくないわよ! もう、ミーコちゃん、この小生意気な狼、ボコってもいい?」
「えええっ!? それでしたら、代わりにこのミーコをお殴りください。この度はご無礼をお許しくださいませ」
今にも坂部くんにつかみかかりそうだった京子さんの前に、そばで私たちの会話を見ていたミーコさんがたちはだかる。
坂部くんを必死に擁護するミーコさんの図が衝撃的で、思わず二人の関係性について瞬時に考えてしまった。
少なくとも寄り道カフェは、私がバイトで入る前はずっと坂部くんとミーコさんの二人でやっていたみたいだし、二人は恋人とかなのだろうか。
今まで深く考えたことはなかったけど、一度気になればそうなんじゃないかという疑問が生まれてくる。
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