65 / 67
9.嘘偽りのない僕はきみと恋をする
9ー3
しおりを挟む
夏の海で、僕が真実を告げようとしたところで、何かを感じとり、強い拒絶を示した末に意識を手放した花穂ちゃんを思い返す。
つまり、あのとき持ち得なかった強さを、今の花穂ちゃんは手にしているということなのだろう。
けれど、まだ話には続きがあるのか「本当はね」と、そのあと花穂ちゃんはさらに言葉を続ける。
「夢の中でリョウちゃんと会ったとは言ったけど、きっと私がリョウちゃんを求めていたから夢として見ただけなんだっていうのはわかってるの」
「……え?」
夢で死んだ兄ちゃんと会えたなんて言ったから、花穂は突然恥ずかしくなったのだろうか。
けれど、ハンカチが離れて見える花穂の瞳はさっきよりも、ずっと強い女性のもので、照れ隠しとかそういうのではないことは、はっきりと伝わってきた。
「向き合わなきゃいけない事実を、なかなか受け入れられなかった。だけど、私はどこかで受け入れなきゃ前に進めないって、わかってたんだと思う。リョウちゃんの夢は、きっとそれに気づかせるためのものだったんだって」
「花穂ちゃん……」
「わかってるけど、でも、リョウちゃんに会って言われた言葉って思う方が、頑張らなきゃって思えるでしょ?」
いつの間に花穂ちゃんはこんなに強くなったのだろう。
花穂ちゃん自身の努力と、やっぱり兄ちゃんのおかげなのかな。
「花穂ちゃんは、もう充分よく頑張ったと思うよ」
しばらく肩を震わせて、何も話せないような状態になってしまった花穂ちゃんの隣で、僕は事故現場になった場所を見つめる。
もう、事故を思わせるものは全て撤去されていて、全く跡形はないものの、やっぱりそこを直視するのは苦しかった。
大切な人を守りたい一心で自分が犠牲になるだなんて、そんなこと本当に自分の命の危機が迫ったときに、僕にできるのだろうか。
兄ちゃんは、本当にすごい。
本当に、自慢の兄ちゃんだったよ……。
涙で差し込む夕陽がお星さまのようにキラキラして見える。
僕は改めてこの事故現場で両手を合わせた。
「……ごめんね。ちょっと落ち着いた」
落ち着いたとは言葉で言ってるけど、花穂ちゃんの目は真っ赤だし、鼻はズビズビいっている。
さっきまで眩しいくらいだった夕焼けは、徐々に群青色の空へと変化している。
「ううん。じゃあ、そろそろ行く?」
「うん」
最後にもう一度手を合わせて、僕たちは再び歩きだす。
特に会話が交わされることなく、花穂ちゃんの家の通りまで来てしまった。
といっても、さっきの祭り会場になった公園までも徒歩十分くらいだ。
彼女の家の前まで送り届けて帰ろうと思っていたのだが、不意に花穂ちゃんは足を止めた。
「……どうしたの?」
もう花穂ちゃんの目に涙はなく、さっきまで聞こえていた鼻をすする音も落ち着いたようだ。
「……ショウちゃん。やっぱり気にしてる?」
ドクンと胸が音を立てた。
気にしてる、っていうのはやっぱり──。
「私の記憶が戻るまでの間、リョウちゃんとして私に接してくれていたこと」
「……えっと」
そりゃ、気にするだろ。
いくら花穂ちゃんの記憶が戻ればと思ってしたこととはいえ、僕は花穂ちゃんの記憶が戻るまで嘘をつき続けていたのだから。
「……一応、この前も言ったんだけどな。気にしなくていいって」
「ごめん……」
確かに言われたけど……。
花穂ちゃんは優しいから、僕のことを思ってそう言ってくれただけかもしれないし。
目の前の花穂ちゃんの目を見ることが出来ず、思わず視線を下に落としたとき、ぽつりとつぶやくように花穂ちゃんが告げた。
「……私は、寂しいよ」
その声に弾かれるようにして再び花穂ちゃんに視線を戻す。
つまり、あのとき持ち得なかった強さを、今の花穂ちゃんは手にしているということなのだろう。
けれど、まだ話には続きがあるのか「本当はね」と、そのあと花穂ちゃんはさらに言葉を続ける。
「夢の中でリョウちゃんと会ったとは言ったけど、きっと私がリョウちゃんを求めていたから夢として見ただけなんだっていうのはわかってるの」
「……え?」
夢で死んだ兄ちゃんと会えたなんて言ったから、花穂は突然恥ずかしくなったのだろうか。
けれど、ハンカチが離れて見える花穂の瞳はさっきよりも、ずっと強い女性のもので、照れ隠しとかそういうのではないことは、はっきりと伝わってきた。
「向き合わなきゃいけない事実を、なかなか受け入れられなかった。だけど、私はどこかで受け入れなきゃ前に進めないって、わかってたんだと思う。リョウちゃんの夢は、きっとそれに気づかせるためのものだったんだって」
「花穂ちゃん……」
「わかってるけど、でも、リョウちゃんに会って言われた言葉って思う方が、頑張らなきゃって思えるでしょ?」
いつの間に花穂ちゃんはこんなに強くなったのだろう。
花穂ちゃん自身の努力と、やっぱり兄ちゃんのおかげなのかな。
「花穂ちゃんは、もう充分よく頑張ったと思うよ」
しばらく肩を震わせて、何も話せないような状態になってしまった花穂ちゃんの隣で、僕は事故現場になった場所を見つめる。
もう、事故を思わせるものは全て撤去されていて、全く跡形はないものの、やっぱりそこを直視するのは苦しかった。
大切な人を守りたい一心で自分が犠牲になるだなんて、そんなこと本当に自分の命の危機が迫ったときに、僕にできるのだろうか。
兄ちゃんは、本当にすごい。
本当に、自慢の兄ちゃんだったよ……。
涙で差し込む夕陽がお星さまのようにキラキラして見える。
僕は改めてこの事故現場で両手を合わせた。
「……ごめんね。ちょっと落ち着いた」
落ち着いたとは言葉で言ってるけど、花穂ちゃんの目は真っ赤だし、鼻はズビズビいっている。
さっきまで眩しいくらいだった夕焼けは、徐々に群青色の空へと変化している。
「ううん。じゃあ、そろそろ行く?」
「うん」
最後にもう一度手を合わせて、僕たちは再び歩きだす。
特に会話が交わされることなく、花穂ちゃんの家の通りまで来てしまった。
といっても、さっきの祭り会場になった公園までも徒歩十分くらいだ。
彼女の家の前まで送り届けて帰ろうと思っていたのだが、不意に花穂ちゃんは足を止めた。
「……どうしたの?」
もう花穂ちゃんの目に涙はなく、さっきまで聞こえていた鼻をすする音も落ち着いたようだ。
「……ショウちゃん。やっぱり気にしてる?」
ドクンと胸が音を立てた。
気にしてる、っていうのはやっぱり──。
「私の記憶が戻るまでの間、リョウちゃんとして私に接してくれていたこと」
「……えっと」
そりゃ、気にするだろ。
いくら花穂ちゃんの記憶が戻ればと思ってしたこととはいえ、僕は花穂ちゃんの記憶が戻るまで嘘をつき続けていたのだから。
「……一応、この前も言ったんだけどな。気にしなくていいって」
「ごめん……」
確かに言われたけど……。
花穂ちゃんは優しいから、僕のことを思ってそう言ってくれただけかもしれないし。
目の前の花穂ちゃんの目を見ることが出来ず、思わず視線を下に落としたとき、ぽつりとつぶやくように花穂ちゃんが告げた。
「……私は、寂しいよ」
その声に弾かれるようにして再び花穂ちゃんに視線を戻す。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
彼女があなたを思い出したから
MOMO-tank
恋愛
夫である国王エリオット様の元婚約者、フランチェスカ様が馬車の事故に遭った。
フランチェスカ様の夫である侯爵は亡くなり、彼女は記憶を取り戻した。
無くしていたあなたの記憶を・・・・・・。
エリオット様と結婚して三年目の出来事だった。
※設定はゆるいです。
※タグ追加しました。[離婚][ある意味ざまぁ]
※胸糞展開有ります。
ご注意下さい。
※ 作者の想像上のお話となります。
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──
【完結】記憶を失くした貴方には、わたし達家族は要らないようです
たろ
恋愛
騎士であった夫が突然川に落ちて死んだと聞かされたラフェ。
お腹には赤ちゃんがいることが分かったばかりなのに。
これからどうやって暮らしていけばいいのか……
子供と二人で何とか頑張って暮らし始めたのに……
そして………
壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~
志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。
政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。
社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。
ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。
ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。
一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。
リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。
ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。
そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。
王家までも巻き込んだその作戦とは……。
他サイトでも掲載中です。
コメントありがとうございます。
タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。
必ず完結させますので、よろしくお願いします。
【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?
ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。
アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。
15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
私のことを愛していなかった貴方へ
矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。
でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。
でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。
だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。
夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。
*設定はゆるいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる