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4.思い出しては、また消えて
4ー8
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さすがに兄ちゃんにとっても初デートというだけあって、ぎっしり書き記してあった初デートの出来事を覚えることはなかなか大変だった。けど、ちゃんと予習をしておいて正解だったと思う。
「あ、リョウちゃん、あっちの水槽はカメが泳いでるよ! 大きいね」
「そうだな」
花穂が指し示した先を見上げると、大きなカメがふわふわと泳いでいく。
カメに関する説明は、特に生徒手帳の日記に記載がなかったな……。
エイの説明をした直後ということもあり、カメについて突っ込んだことを尋ねられたらどうしようかと内心身構えたが、それについては杞憂に終わった。
《十一時三十分より、ペンギンの餌やり体験の時間になります。先着順ですので、ご希望の皆さまはお早めにペンギンの館にお越しください》
静寂とは程遠い水族館内に女性のアナウンスが流れ、花穂が幼い子どものように目を輝かせた。
「リョウちゃん、ペンギンの餌やり体験だって!」
「じゃあ行くか?」
「うん!」
兄ちゃんの日記から花穂の水族館でのはしゃぎぶりを読んでいたけれど、想像以上だ。
前来たときも花穂はペンギンの餌やりをしていて、そのときもかなり興奮していたらしい。
兄ちゃんの前だからこそ見せていたのであろう花穂の可愛らしい一面を、僕が見てもいいのかと思うと何だか少し申し訳なくもなる。
花穂が嬉しそうに僕の手を取る。
「……あ」
「人多いし、はぐれないように?」
そんな風にはにかむ花穂は、容易に僕の心をつかんではなさない。
こんなときにドキドキしたり、ましてや嬉しいなんて思ってしまうのは、やっぱりおかしいのだろうか。
だけど不可能だってわかってるし、こんなことを望むのは矛盾してるってわかってるけど、言葉にするならば、この時が永遠に続けばいいと思ってしまう自分もいる。
せめて僕が兄ちゃんとして花穂の隣に立たせてもらっている間だけは、花穂とこんな風に一緒にいることを許してほしい。
*
ペンギンの館は今いたところからは少し離れていた。
順路としては真ん中あたりに位置している。
一旦さっきまでいた館を出て外を通っての移動となった。
夏休み中ということから、さっきのアナウンスを聞いてここに駆けつけたお客さんがたくさんいた。だけど、何とか水族館側が決めていた先着順の人数内に入ることができた。
餌やり自体は、順番にバケツの中に入っている生魚をペンギンにあげるという内容だった。花穂はご満悦のようだった。
「可愛かったね、ペンギン」
「そうだな」
何だかんだて、ここまでは順調に兄ちゃんと花穂の初デートを再現できていると思う。
ここの水族館の餌やり体験のプログラムも以前と変わらないスケジュールで進行してくれている、というのもかなり大きい。
とはいえ、今のところ花穂に変わった様子も見られないことから、特別何かを思い出したというわけではないようだが。
「そろそろお昼だな、そこでお昼ごはんにしようか」
時刻は、すっかり十三時前になっている。
「そうだね。リョウちゃん、お弁当、本当に作ってきてくれたの?」
「ああ」
そう、これが僕を一番悩ませた兄ちゃんの手作り弁当だ。
どうやら初デートでお手製のお弁当を振る舞ったらしい兄ちゃんの弁当の中身は、生徒手帳のメモページに記されていた。
だからメニューに関する情報までは容易に得ることができたが、問題はそこからだった。
いつも兄ちゃんが家の手伝いをよくしてたから、今まで僕は家で手伝いを特別必要とされることはなかった。それだけに、今回のことでいかに僕が兄ちゃんが生きている間、家でぐうたら過ごしていたのかを思い知らされるようだった。
まず、料理とメニューが結び付かない。
ハンバーグとか卵焼きとかおにぎりとか、そういったのはわかる。けれど、回鍋肉と言われても、料理に詳しくない僕には中華料理というくらいのことしかわからなくて、イマイチピンとこなかったくらいだ。
「あ、リョウちゃん、あっちの水槽はカメが泳いでるよ! 大きいね」
「そうだな」
花穂が指し示した先を見上げると、大きなカメがふわふわと泳いでいく。
カメに関する説明は、特に生徒手帳の日記に記載がなかったな……。
エイの説明をした直後ということもあり、カメについて突っ込んだことを尋ねられたらどうしようかと内心身構えたが、それについては杞憂に終わった。
《十一時三十分より、ペンギンの餌やり体験の時間になります。先着順ですので、ご希望の皆さまはお早めにペンギンの館にお越しください》
静寂とは程遠い水族館内に女性のアナウンスが流れ、花穂が幼い子どものように目を輝かせた。
「リョウちゃん、ペンギンの餌やり体験だって!」
「じゃあ行くか?」
「うん!」
兄ちゃんの日記から花穂の水族館でのはしゃぎぶりを読んでいたけれど、想像以上だ。
前来たときも花穂はペンギンの餌やりをしていて、そのときもかなり興奮していたらしい。
兄ちゃんの前だからこそ見せていたのであろう花穂の可愛らしい一面を、僕が見てもいいのかと思うと何だか少し申し訳なくもなる。
花穂が嬉しそうに僕の手を取る。
「……あ」
「人多いし、はぐれないように?」
そんな風にはにかむ花穂は、容易に僕の心をつかんではなさない。
こんなときにドキドキしたり、ましてや嬉しいなんて思ってしまうのは、やっぱりおかしいのだろうか。
だけど不可能だってわかってるし、こんなことを望むのは矛盾してるってわかってるけど、言葉にするならば、この時が永遠に続けばいいと思ってしまう自分もいる。
せめて僕が兄ちゃんとして花穂の隣に立たせてもらっている間だけは、花穂とこんな風に一緒にいることを許してほしい。
*
ペンギンの館は今いたところからは少し離れていた。
順路としては真ん中あたりに位置している。
一旦さっきまでいた館を出て外を通っての移動となった。
夏休み中ということから、さっきのアナウンスを聞いてここに駆けつけたお客さんがたくさんいた。だけど、何とか水族館側が決めていた先着順の人数内に入ることができた。
餌やり自体は、順番にバケツの中に入っている生魚をペンギンにあげるという内容だった。花穂はご満悦のようだった。
「可愛かったね、ペンギン」
「そうだな」
何だかんだて、ここまでは順調に兄ちゃんと花穂の初デートを再現できていると思う。
ここの水族館の餌やり体験のプログラムも以前と変わらないスケジュールで進行してくれている、というのもかなり大きい。
とはいえ、今のところ花穂に変わった様子も見られないことから、特別何かを思い出したというわけではないようだが。
「そろそろお昼だな、そこでお昼ごはんにしようか」
時刻は、すっかり十三時前になっている。
「そうだね。リョウちゃん、お弁当、本当に作ってきてくれたの?」
「ああ」
そう、これが僕を一番悩ませた兄ちゃんの手作り弁当だ。
どうやら初デートでお手製のお弁当を振る舞ったらしい兄ちゃんの弁当の中身は、生徒手帳のメモページに記されていた。
だからメニューに関する情報までは容易に得ることができたが、問題はそこからだった。
いつも兄ちゃんが家の手伝いをよくしてたから、今まで僕は家で手伝いを特別必要とされることはなかった。それだけに、今回のことでいかに僕が兄ちゃんが生きている間、家でぐうたら過ごしていたのかを思い知らされるようだった。
まず、料理とメニューが結び付かない。
ハンバーグとか卵焼きとかおにぎりとか、そういったのはわかる。けれど、回鍋肉と言われても、料理に詳しくない僕には中華料理というくらいのことしかわからなくて、イマイチピンとこなかったくらいだ。
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