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4.思い出しては、また消えて
4ー1
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天文学部の合宿は、二日目に入っていた。
僕たちは、朝からこの高原から少し下ったところにあるオリエンテーリングエリアの山道で、天文学部のメンバーとスタンプラリーを行っている。
グループのメンバーは、昨日のバーベキューのときと同じだ。
このオリエンテーリングエリアは、公共の施設のもので、僕たちの他にもオリエンテーリングに来ている家族連れや学生の姿が見える。
「リョウちゃん。あったよ、二個目のスタンプ」
そんな中、頭上から太陽の光に照らされながらも元気に僕の方へ嬉々と笑顔を浮かべる花穂の姿があった。
「本当だ。じゃあ、さっそく押そうか」
そう、昨日から僕の頭を悩ませている張本人だ。
当の本人はそんなことを知る由もなく、純粋にオリエンテーリングを楽しんでいるようだった。
花穂に返事をした僕は、思いっきり左腕を小突かれた。
「二人でオリエンテーリングやってるわけじゃないんだから、いちゃつくなって」
園田先輩だ。
「すみません、そういうつもりじゃなかったんで……ぶふっ」
思わず頭を下げる僕に、今度はチョップが降ってくる。
「何、改まってるの。最近の涼太、何か気持ち悪いんだけど」
わざとらしくそう言って、園田先輩は僕に耳打ちしてくる。
「お前、いい加減慣れろ。梶原さんにバレるぞ」
「すみま……、ごめん」
花穂に対しては元々タメ口で話していたし、いつも兄ちゃんが花穂に接しているところを間近で見ていたから、ちょっと恥ずかしかったくらいで、それほど抵抗はなかった。
たけど、園田先輩となると話は別だ。
話をしていると、園田先輩はチャラそうな見た目に反して、真面目で心から星が好きな人なんだということがわかる。
それは別として、園田先輩の外見には、いわゆる後輩が先輩に対して目をつけられたらヤバそうと直感的に感じてしまうような威圧感があった。だから顔を合わせているときは、かなり気をつけて話さないと、つい敬語が口から飛び出してきてしまう。
さっきみたいに、とっさに話しかけられたときは特に、だ。
「いいって。お前、まじでおもしれー」
まぁ、園田先輩は僕のそんなところに気づいて、狙ってそういう話しかけ方をしてくるからタチが悪い。
僕はおもちゃじゃないぞ!
そんなことは、口が割けても言えないが。
「そんなことよりさ、梶原さん、どうよ」
「どうって……」
思い起こすのは、昨日のバーベキューのときのことだ。
僕たちの事情を知った園田先輩には合宿の内容や施設の様子の他に、去年の二人を見て印象的に残ったエピソードについて聞いていた。
そのうちのひとつが、バーベキューのとき花穂の頬にバーベキューソースが付いていると言ってタオルで頬を拭うというエピソードだ。
こんなことを言ったら、僕がまるでバーベキューソースが頬についていると嘘をついたように聞こえるかもしれないが、違う。
作戦上そうする予定だったのだから、ただの弁解に過ぎないのだろうけど、実際に昨日、花穂は本当に頬にバーベキューソースをつけていたのだ。
その光景に、去年は兄ちゃんの隣で同じようにバーベキューを頬張っていたのだろうなと思うと、とても微笑ましく思えた。
兄ちゃんとの思い出を何か思い出すことで、芋づる式に何かを思い出すかもしれないと、今回去年の兄ちゃんと花穂のエピソードを再現してみた僕は、さっそく何らかの手応えが見られたのかと思った。
だけど、そこで予期せぬ事態が起きた。
花穂が、倒れたのだ。
焦ったが、この施設の管理人の息子が医者で、お盆でちょうどこの施設のある実家に戻ってきているとのことで、特別に診察をしてもらえたのは不幸中の幸いだった。
先生によると、花穂はただ眠っているだけとのことだったらしい。
僕たちは、朝からこの高原から少し下ったところにあるオリエンテーリングエリアの山道で、天文学部のメンバーとスタンプラリーを行っている。
グループのメンバーは、昨日のバーベキューのときと同じだ。
このオリエンテーリングエリアは、公共の施設のもので、僕たちの他にもオリエンテーリングに来ている家族連れや学生の姿が見える。
「リョウちゃん。あったよ、二個目のスタンプ」
そんな中、頭上から太陽の光に照らされながらも元気に僕の方へ嬉々と笑顔を浮かべる花穂の姿があった。
「本当だ。じゃあ、さっそく押そうか」
そう、昨日から僕の頭を悩ませている張本人だ。
当の本人はそんなことを知る由もなく、純粋にオリエンテーリングを楽しんでいるようだった。
花穂に返事をした僕は、思いっきり左腕を小突かれた。
「二人でオリエンテーリングやってるわけじゃないんだから、いちゃつくなって」
園田先輩だ。
「すみません、そういうつもりじゃなかったんで……ぶふっ」
思わず頭を下げる僕に、今度はチョップが降ってくる。
「何、改まってるの。最近の涼太、何か気持ち悪いんだけど」
わざとらしくそう言って、園田先輩は僕に耳打ちしてくる。
「お前、いい加減慣れろ。梶原さんにバレるぞ」
「すみま……、ごめん」
花穂に対しては元々タメ口で話していたし、いつも兄ちゃんが花穂に接しているところを間近で見ていたから、ちょっと恥ずかしかったくらいで、それほど抵抗はなかった。
たけど、園田先輩となると話は別だ。
話をしていると、園田先輩はチャラそうな見た目に反して、真面目で心から星が好きな人なんだということがわかる。
それは別として、園田先輩の外見には、いわゆる後輩が先輩に対して目をつけられたらヤバそうと直感的に感じてしまうような威圧感があった。だから顔を合わせているときは、かなり気をつけて話さないと、つい敬語が口から飛び出してきてしまう。
さっきみたいに、とっさに話しかけられたときは特に、だ。
「いいって。お前、まじでおもしれー」
まぁ、園田先輩は僕のそんなところに気づいて、狙ってそういう話しかけ方をしてくるからタチが悪い。
僕はおもちゃじゃないぞ!
そんなことは、口が割けても言えないが。
「そんなことよりさ、梶原さん、どうよ」
「どうって……」
思い起こすのは、昨日のバーベキューのときのことだ。
僕たちの事情を知った園田先輩には合宿の内容や施設の様子の他に、去年の二人を見て印象的に残ったエピソードについて聞いていた。
そのうちのひとつが、バーベキューのとき花穂の頬にバーベキューソースが付いていると言ってタオルで頬を拭うというエピソードだ。
こんなことを言ったら、僕がまるでバーベキューソースが頬についていると嘘をついたように聞こえるかもしれないが、違う。
作戦上そうする予定だったのだから、ただの弁解に過ぎないのだろうけど、実際に昨日、花穂は本当に頬にバーベキューソースをつけていたのだ。
その光景に、去年は兄ちゃんの隣で同じようにバーベキューを頬張っていたのだろうなと思うと、とても微笑ましく思えた。
兄ちゃんとの思い出を何か思い出すことで、芋づる式に何かを思い出すかもしれないと、今回去年の兄ちゃんと花穂のエピソードを再現してみた僕は、さっそく何らかの手応えが見られたのかと思った。
だけど、そこで予期せぬ事態が起きた。
花穂が、倒れたのだ。
焦ったが、この施設の管理人の息子が医者で、お盆でちょうどこの施設のある実家に戻ってきているとのことで、特別に診察をしてもらえたのは不幸中の幸いだった。
先生によると、花穂はただ眠っているだけとのことだったらしい。
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