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2.嘘つきな僕と初恋の思い出
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「どこ?」
洒落た場所だ。せっかく写真を見せてもらっても、僕はこんな素敵な場所を知らない。
「これな、高校の中庭。すっごく綺麗だろ?」
「そうなんだ」
「入学式の日にここを通ったとき、すごく綺麗だなって思って撮ったんだ。花穂にも教えたくて連れていって、雰囲気に任せて告白しちゃったんだ」
兄ちゃんに先を越されて、ずっと好きだった女の子を自分のものにされて、全く負の感情が芽生えなかったと言えば嘘になる。
むしろこのとき、生まれて初めて兄ちゃんが憎らしいと感じた。
だけど、本当に幸せそうに笑う兄ちゃんを見ていると、そんな負の感情よりも二人を応援したいと思う気持ちの方が強くなった。
兄ちゃんとは見た目がよく似ていると花穂ちゃんにも言われていた。
それでも花穂ちゃんが兄ちゃんを選んだのは、きっとそれ以外の点で兄ちゃんの方が圧倒的に優れていたからだ。
勉強だって、スポーツだってできる。
僕だけじゃなくて、誰にでも面倒見がよくて優しくて頼りになって、僕には到底敵わない相手だってわかっていたというのもあるのかもしれない。
先を越されたと言ったが、順番はどうであれ、花穂ちゃんに選んでもらえるのは兄ちゃんだ。
「そっか。ロマンチックだね。幸せになってね」
それだけを聞くと諦めにも似た気持ちから出た言葉なのかと言われそうだが、そうじゃない。
僕は兄ちゃんのことを認めていて、本当に尊敬しているのだ。
さらには大好きな二人がくっついたのだから。ちょっと胸は痛むけど、二人に幸せになってほしいという気持ちに嘘はない。
「ありがとう。でも、だからって将太は僕らに遠慮しなくていいからな」
そのあと、何かと花穂とどこか行くっていう度に僕を誘ってきてたのは、兄ちゃんなりの配慮だったのかもしれない。
そこに関しては、完全なおせっかいでしかなかったのだが。
***
花穂が青々とした桜の木を仰いでいる。
かれこれもう十分近くこうしている。
花穂は、何かを思い出したのかな?
たとえば、満開の桜の木の下で兄ちゃんと付き合うことになった記憶とか……。
やっぱり桜の木の下で何かを感じたのか。
花穂が目を伏せたとき、彼女の頬に一筋の涙が伝った。
「花穂……?」
思わず花穂に声をかけると、花穂は涙を拭いながら綺麗に笑う。
「ごめんね。何だか大切なことがあったような気がするのに、はっきりと思い出せなくて……」
ドクンと自分の鼓動が大きく脈打つ。
「でもね、すごく懐かしい……」
もしかしたらと思ったけど、花穂はきっとここで以前何かがあったことを感じ取っている。
だけどしばらくここで二人で過ごしていたけど、それ以上は何も思い出せないようだった。
残念に思う反面、思い出せそうかもという素振りを花穂が見せたとき、わずかではあるが恐怖心のようなものを感じた自分に驚く。
僕自身も花穂に兄ちゃんのことや、みんなのことを思い出してほしいと願っているのに、いざとなるとその気持ちが揺らいだと言わんばかりに怖くなるなんて……。
そう思ってしまうのは、自分が柏木涼太だと偽ってこうして隣にいる以上、花穂が全てを思い出したとき、きっと僕はもう花穂のそばにいられないのかもしれないと少なからず感じているからかもしれない。
あのときはとっさに花穂についた嘘だったけど、あとからどう考えてもそういう未来しか見えなかった。
だって、僕は記憶をなくした花穂に嘘をついて、騙し続けているのだから。
恐らく花穂に軽蔑されるであろう未来に胸を痛めているからだとしても、花穂の記憶が戻ることに恐怖するだなんて、自分が酷く歪んだ人間のように思えた。
兄ちゃんの存在しか覚えてない花穂にとって、兄ちゃんという存在がどれだけ必要かは見ててわかる。
だから、本当のことを伝える方が酷だと思ってこの道を選んだんだ。
洒落た場所だ。せっかく写真を見せてもらっても、僕はこんな素敵な場所を知らない。
「これな、高校の中庭。すっごく綺麗だろ?」
「そうなんだ」
「入学式の日にここを通ったとき、すごく綺麗だなって思って撮ったんだ。花穂にも教えたくて連れていって、雰囲気に任せて告白しちゃったんだ」
兄ちゃんに先を越されて、ずっと好きだった女の子を自分のものにされて、全く負の感情が芽生えなかったと言えば嘘になる。
むしろこのとき、生まれて初めて兄ちゃんが憎らしいと感じた。
だけど、本当に幸せそうに笑う兄ちゃんを見ていると、そんな負の感情よりも二人を応援したいと思う気持ちの方が強くなった。
兄ちゃんとは見た目がよく似ていると花穂ちゃんにも言われていた。
それでも花穂ちゃんが兄ちゃんを選んだのは、きっとそれ以外の点で兄ちゃんの方が圧倒的に優れていたからだ。
勉強だって、スポーツだってできる。
僕だけじゃなくて、誰にでも面倒見がよくて優しくて頼りになって、僕には到底敵わない相手だってわかっていたというのもあるのかもしれない。
先を越されたと言ったが、順番はどうであれ、花穂ちゃんに選んでもらえるのは兄ちゃんだ。
「そっか。ロマンチックだね。幸せになってね」
それだけを聞くと諦めにも似た気持ちから出た言葉なのかと言われそうだが、そうじゃない。
僕は兄ちゃんのことを認めていて、本当に尊敬しているのだ。
さらには大好きな二人がくっついたのだから。ちょっと胸は痛むけど、二人に幸せになってほしいという気持ちに嘘はない。
「ありがとう。でも、だからって将太は僕らに遠慮しなくていいからな」
そのあと、何かと花穂とどこか行くっていう度に僕を誘ってきてたのは、兄ちゃんなりの配慮だったのかもしれない。
そこに関しては、完全なおせっかいでしかなかったのだが。
***
花穂が青々とした桜の木を仰いでいる。
かれこれもう十分近くこうしている。
花穂は、何かを思い出したのかな?
たとえば、満開の桜の木の下で兄ちゃんと付き合うことになった記憶とか……。
やっぱり桜の木の下で何かを感じたのか。
花穂が目を伏せたとき、彼女の頬に一筋の涙が伝った。
「花穂……?」
思わず花穂に声をかけると、花穂は涙を拭いながら綺麗に笑う。
「ごめんね。何だか大切なことがあったような気がするのに、はっきりと思い出せなくて……」
ドクンと自分の鼓動が大きく脈打つ。
「でもね、すごく懐かしい……」
もしかしたらと思ったけど、花穂はきっとここで以前何かがあったことを感じ取っている。
だけどしばらくここで二人で過ごしていたけど、それ以上は何も思い出せないようだった。
残念に思う反面、思い出せそうかもという素振りを花穂が見せたとき、わずかではあるが恐怖心のようなものを感じた自分に驚く。
僕自身も花穂に兄ちゃんのことや、みんなのことを思い出してほしいと願っているのに、いざとなるとその気持ちが揺らいだと言わんばかりに怖くなるなんて……。
そう思ってしまうのは、自分が柏木涼太だと偽ってこうして隣にいる以上、花穂が全てを思い出したとき、きっと僕はもう花穂のそばにいられないのかもしれないと少なからず感じているからかもしれない。
あのときはとっさに花穂についた嘘だったけど、あとからどう考えてもそういう未来しか見えなかった。
だって、僕は記憶をなくした花穂に嘘をついて、騙し続けているのだから。
恐らく花穂に軽蔑されるであろう未来に胸を痛めているからだとしても、花穂の記憶が戻ることに恐怖するだなんて、自分が酷く歪んだ人間のように思えた。
兄ちゃんの存在しか覚えてない花穂にとって、兄ちゃんという存在がどれだけ必要かは見ててわかる。
だから、本当のことを伝える方が酷だと思ってこの道を選んだんだ。
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