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2.嘘つきな僕と初恋の思い出
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この時期は、幼稚園も夏休み。
小学校でもクラブ活動やらで夏休みでも学校に誰かいるし、何となく幼稚園も誰かいるような気がしていた。しかし、それは間違いだったようだ。
ちょっと中に入らせてもらえたらいいんだけど……。
迷惑承知で門外のインターフォンを押してみるけれど、誰も出る気配もない。
「ごめん。誰もいないみたい」
さすがに勝手に入るのは、いくらここの卒園生であっても、不法侵入罪になってしまうだろう。
「ううん、仕方ないよ。また日を改めよう?」
さっき公園に入ったところで何も思い出せなかったのだから、幼稚園に入れてもらえたところで、何も変わらなかったのかもしれない。
だけど、ここには何か得るものがあったかもしれないと思うと、未練が残る。
まぁそれこそ花穂の言う通り、日を改めればいいだけの話なのだが。
「そうだな。せっかくだし、園庭の周りをぐるっと見て行こうか」
園庭の周りの道路を花穂と歩く。
フェンス越しに見える二階建ての可愛らしい校舎とカラフルな遊具が見える。
そういや、同じクラスだった花穂と兄ちゃんがうらやましくて、よく兄ちゃんたちのクラスに行っては、自分のクラスに連れ戻されてたっけな……。
そんなことを思い出しても、これは花穂には話せない僕自身の思い出だ。
今の花穂の中には僕──柏木将太はいないのだから、こんな話をしたところで混乱させるだけだ。
あの頃は、まさか兄ちゃんがこんなに早くに死ぬなんて、思ってもみなかったな……。
花穂に話す思い出を探しているうちに、僕自身が感傷に浸りこんでしまっていた。
「リョウちゃん」
そんなことを考えているうちに、僕の左手がぎゅっと握られる。
瞬間、ドキッと胸が跳ねた。
「……え?」
「あ、ダメだった……? 何となくこうしてリョウちゃんと歩いていると、デートみたいだなって思って、つい……」
驚いた僕の顔を見るなり、決まりが悪そうに僕からパッと手を離して、花穂は頬を赤くする。
もう、こっちの気も知らないで……。
「いいよ」
柏木涼太は花穂と付き合っていたんだから、手を繋ぐことくらい当たり前だったはずだ。
だから僕は遠慮がちに花穂の手を取った。
「でも、嫌じゃないの? まだ僕と付き合っていたことは、思い出せてないんでしょ?」
不意打ちでドキリとさせられたことにはかわりないから、ちょっとだけ意地悪を言ってみた。
だけど、それも数秒も経たないうちに後悔させられることになる。
「確かにまだ何も思い出せてないんだけどね、何となく自然と手を繋ぎたいなって思ったの」
無自覚でこれはキツいって……!
「そっか」
火照る顔を気づかれないように花穂から目をそらす。
何となくぎこちない返事になってしまって、花穂に笑われた。
そうしているうちに、すっかり幼稚園の園庭が見えないところまで来てしまっていた。
*
近所のスーパーのフードコートで少し休憩を取ったあと、僕たちは昔通っていた小学校に来ていた。
「わー、机も椅子もちっちゃーい!」
鈴の音のように明るい声を上げて辺りを見まわすのは、花穂だ。
思い出深い場所に足を踏み入れた花穂がどんな反応を示すのか気がかりだった。だけど、目の前の花穂は楽しそうなので安堵する。その反面、ここに来たことで、花穂が何かを思い出したということは期待できなさそうだが。
小学校には、幸いにもクラブ活動で学校に出ている先生がいた。卒業生であることを告げたら、わりとすんなり中に入れてもらえたのだ。
今、校内を一緒に巡回している四十代半ばの男性教師が、兄ちゃんが六年生の時の担任だったというのも大きいかもしれない。
「そりゃあここは一年生の教室だからな。お前らももう、高校生か。時が経つのは早いなぁ」
小学校でもクラブ活動やらで夏休みでも学校に誰かいるし、何となく幼稚園も誰かいるような気がしていた。しかし、それは間違いだったようだ。
ちょっと中に入らせてもらえたらいいんだけど……。
迷惑承知で門外のインターフォンを押してみるけれど、誰も出る気配もない。
「ごめん。誰もいないみたい」
さすがに勝手に入るのは、いくらここの卒園生であっても、不法侵入罪になってしまうだろう。
「ううん、仕方ないよ。また日を改めよう?」
さっき公園に入ったところで何も思い出せなかったのだから、幼稚園に入れてもらえたところで、何も変わらなかったのかもしれない。
だけど、ここには何か得るものがあったかもしれないと思うと、未練が残る。
まぁそれこそ花穂の言う通り、日を改めればいいだけの話なのだが。
「そうだな。せっかくだし、園庭の周りをぐるっと見て行こうか」
園庭の周りの道路を花穂と歩く。
フェンス越しに見える二階建ての可愛らしい校舎とカラフルな遊具が見える。
そういや、同じクラスだった花穂と兄ちゃんがうらやましくて、よく兄ちゃんたちのクラスに行っては、自分のクラスに連れ戻されてたっけな……。
そんなことを思い出しても、これは花穂には話せない僕自身の思い出だ。
今の花穂の中には僕──柏木将太はいないのだから、こんな話をしたところで混乱させるだけだ。
あの頃は、まさか兄ちゃんがこんなに早くに死ぬなんて、思ってもみなかったな……。
花穂に話す思い出を探しているうちに、僕自身が感傷に浸りこんでしまっていた。
「リョウちゃん」
そんなことを考えているうちに、僕の左手がぎゅっと握られる。
瞬間、ドキッと胸が跳ねた。
「……え?」
「あ、ダメだった……? 何となくこうしてリョウちゃんと歩いていると、デートみたいだなって思って、つい……」
驚いた僕の顔を見るなり、決まりが悪そうに僕からパッと手を離して、花穂は頬を赤くする。
もう、こっちの気も知らないで……。
「いいよ」
柏木涼太は花穂と付き合っていたんだから、手を繋ぐことくらい当たり前だったはずだ。
だから僕は遠慮がちに花穂の手を取った。
「でも、嫌じゃないの? まだ僕と付き合っていたことは、思い出せてないんでしょ?」
不意打ちでドキリとさせられたことにはかわりないから、ちょっとだけ意地悪を言ってみた。
だけど、それも数秒も経たないうちに後悔させられることになる。
「確かにまだ何も思い出せてないんだけどね、何となく自然と手を繋ぎたいなって思ったの」
無自覚でこれはキツいって……!
「そっか」
火照る顔を気づかれないように花穂から目をそらす。
何となくぎこちない返事になってしまって、花穂に笑われた。
そうしているうちに、すっかり幼稚園の園庭が見えないところまで来てしまっていた。
*
近所のスーパーのフードコートで少し休憩を取ったあと、僕たちは昔通っていた小学校に来ていた。
「わー、机も椅子もちっちゃーい!」
鈴の音のように明るい声を上げて辺りを見まわすのは、花穂だ。
思い出深い場所に足を踏み入れた花穂がどんな反応を示すのか気がかりだった。だけど、目の前の花穂は楽しそうなので安堵する。その反面、ここに来たことで、花穂が何かを思い出したということは期待できなさそうだが。
小学校には、幸いにもクラブ活動で学校に出ている先生がいた。卒業生であることを告げたら、わりとすんなり中に入れてもらえたのだ。
今、校内を一緒に巡回している四十代半ばの男性教師が、兄ちゃんが六年生の時の担任だったというのも大きいかもしれない。
「そりゃあここは一年生の教室だからな。お前らももう、高校生か。時が経つのは早いなぁ」
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