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*第5章*

続きは生徒会室で(1)

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 グラウンドからあたしを抱いたまま歩く、蓮先輩。

「あ、あの……、蓮先輩」

「ん」

「一体、どこに向かってるんですか?」

「…………」

 何も答えてくれない、蓮先輩。


 あのう、蓮先輩。

 あたしの声、聞こえてますか……?


 背後から聞こえるのは、再び流れはじめた『オクラホマミキサー』と、告白大会の盛大な司会の声。


「この桜の木の下だったな。初対面のおまえが、俺の上に降ってきたのって」

 蓮先輩が中庭の中央に立つ桜の木の下で足をとめる。

 瞬間、蓮先輩と出会ったときの記憶が蘇る。


「あ、あのときは、本当にすみません」

 思わずあたしが謝ると、口角を上げて意地悪く笑う蓮先輩。


「いや、別にいいけど。確かその何日かあとには、カレーぶっかけられたぐらいだし」

「あ、す、すみません……!」

 やだな。思い返せば、あたしって蓮先輩に迷惑しかかけてない。

 あたしが思わず顔だけうつむくと、蓮先輩の優しい声が降ってくる。


「そんな顔すんじゃねーよ。俺はそんなどうしようもないおまえに惚れたんだ」

 その言葉に思わず蓮先輩を見上げると、校舎の明かりに照らされた蓮先輩の頬は、心なしかほんのり赤くなっているように見えた。

 そのまま、再び歩みを進める蓮先輩。


「あの、蓮先輩?」

「ん」

「あたし、重くないですか?」

 相変わらずお姫様抱っこされたままのあたし。

 蓮先輩も、さすがにずっとこの状態じゃしんどいと思って聞いてみたけど……。


「別に」

「で、でも……」

「この状態が身体的に辛いとかじゃないなら、大人しく抱っこされてろよ」

 うぅ……。

 そう言われると、何も言えない。

 ただ恥ずかしいだけで、この体勢が嫌なわけじゃないし……。


 校舎内に入り、生徒会室の前で一旦あたしを下ろす蓮先輩。

 蓮先輩は、制服のズボンのポケットから生徒会室の鍵を取り出して、ドアを開ける。


「入れよ」

「……はい」

 今まででも生徒会室で蓮先輩と二人きりになったことはあったけど、今日はやけに緊張する……。

 内扉を開けて、生徒会室内に足を踏み入れる。

 すると、カチャリと鍵を閉める音が背後から聞こえた。


「……え?」

「いや、多分あいつらはすぐには戻って来ねえとは思うけど、誰にも邪魔されたくないし……」

 蓮先輩はそう言うと、生徒会室の赤いソファーに腰を下ろす。


「おまえも座れよ」

 そう言って、蓮先輩は自分の左隣の空いたスペースをぽんぽんと手で叩いた。

 あたしは、遠慮がちに蓮先輩の隣にちょこんと腰を下ろす。


「何だよ、この距離……」

 蓮先輩とあたしの間にできていた半人分くらいのスペースに、蓮先輩は不服そうに口を開いた。


「い、いや、深い意味は……」

 悪気があったわけじゃないんだけど、何となく恥ずかしくて……。

 すると、蓮先輩は小さくため息を落とすと、ぐいっとあたしの肩を抱き寄せた。


「あ……っ」

 その勢いで、あたしの身体は一瞬にして蓮先輩と密着する。

 ドキドキと、心臓の音がうるさいくらいに聞こえる。

 そのままぎゅうっとあたしを抱きしめる蓮先輩。


「あ、あの……」

「ん?」

 蓮先輩は、何? とでも言いたげに短く返事をすると、あたしの髪をそっと撫でる。


 うぅぅ……。

 恥ずかしくて思わず声かけちゃったけど、何も言葉が出てこないよう……。


「なあ、優芽……」

 蓮先輩があたしの耳元で甘く囁く。

 思わずピクリと揺れる、あたしの肩。


「俺のこと、好きか?」

「……は、はい」

 どこか甘えるような蓮先輩の声に、一層胸が高鳴る。


「はい、じゃなくてさ、言葉で言えよ」

「……へ?」

「へ? じゃなくて。もう一回優芽の口から好きって聞きたいんだけど。フォークダンスのときも聞いたけど、周りがギャーギャーうるさかったし……」

「え、えと……」

 あのときは、その場の雰囲気みたいなので言えたけど、改めて言うだなんて、恥ずかしい……。


「言うまで、離さねえから」

「えええっ!?」

 甘い声で鬼のようなことを言う蓮先輩に、さらにぎゅうっと抱きしめられる。


「す、す、す……」

 頑張って口を開くも、なかなか“好き”の二文字にならない。
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