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*第5章*
こいつは俺の女だ(4)
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やっぱり背後にいたのは、蓮先輩。
綺麗な顔を切なげに歪めて、綺麗な二重の瞳であたしを捉えて離さない、蓮先輩。
もはやフォークダンスの曲は、周囲の騒ぎ立てる声によって、かかってるのかすら分からない状態になっていた。
「おまえが、好きだ」
蓮先輩があたしの目を見て、小さく口を開く。
そして蓮先輩は眉をグッと寄せると、思いっきり声を張り上げた。
「おまえが……、優芽が好きだ! 俺の女になれ!」
蓮先輩らしい口調で紡ぎ出された言葉が、胸に染み渡る。
蓮先輩が、あたしを……。
信じられないけど、蓮先輩の怖いくらいに真剣な眼差しが嘘ではないと言っている。
「生徒会執行部全員の心を引き付けた彼女! さあ、どうする!?」
あたしが、蓮先輩を見つめたまま固まっていたからだろう。
司会の人がこちらの様子をうかがいながら、陽気な声を飛ばして流れを持っていこうとする。
その声に、ハッと我に返る。
そうだ、返事を返さなきゃならないんだ……。
この中の誰か一人を選ぶか、全員に頭を下げるか……。
あたしがどうしたいかなんて、分かりきっている。
だけど、もしあたしが蓮先輩を選んで、皆さんの関係が壊れたら……。
そのとき、あたしの頭上で、かろうじてあたしの耳に届く声で蓮先輩が口を開く。
「大丈夫だ。おまえがどんな答えを出そうと、誰もおまえを責めたりなんてしないから。おまえが生徒会の仲間であることは変わらないし、俺ら四人の仲が壊れることもない。それは、俺が保証する。俺らは、優芽の出した答えを受け入れるまでだ」
蓮、先輩……。
蓮先輩を見上げると、蓮先輩は今まで見たこともないくらいに優しい瞳であたしを見つめてくれていて……。
「あ、あたしは……、」
あたしは、勇気を振り絞って声を出した。
けれど緊張と周りの騒ぎ立てる声に、あたしの弱々しい声は簡単に掻き消されてしまう。
その様子に気づいた司会の人が、どうぞ、とあたしにマイクを手渡してくれる。
たくさんの人の前で、足が震える。
マイクを持つ手も、小刻みに揺れていた。
あたしは自分を落ち着かせるように深呼吸をすると、クルリと振り返って広瀬先輩と妹尾先輩と笹倉先輩の方へと数歩近づいた。
「広瀬先輩、妹尾先輩、笹倉先輩。いつも親切にして下さり、ありがとうございます。先輩たちに好きって言ってもらえて、すごく嬉しかったです。だけど、ごめんなさい……」
申し訳なさに、先輩たちの顔を見るのが辛かった。
でも顔をそらすのはもっと失礼な気がして、先輩たちをしっかりと見据えて告げる。
先輩たちは、ただジッとあたしの言葉に耳を傾けてくれているようだった。
「こんな風に、まとめてお返事する形になってしまって、すみません」
あたしが先輩たちに頭を下げると、頭上から妹尾先輩の優しい声が降ってきた。
「ええって。優芽ちゃんの答えが聞けただけで、俺らは充分や!」
「そうそう! だからって明日から気まずい雰囲気とか、ナシだからな~!」
バシッと叩くように妹尾先輩と肩を組んで、あたしに陽気な笑みを見せる広瀬先輩。
笹倉先輩も優しい笑みを向けてくれた。
「まあ、僕が良くなったときは、いつでも来てよ」
「……ありがとうございます」
そして、ゆっくりと蓮先輩の方へと振り返る。
普段の蓮先輩からは想像できないような不安げな面持ちで、あたしを見つめている。
「蓮先輩……」
他の先輩たちには頭を下げて、蓮先輩だけ返事待ちの時点で、何となくあたしのこたえを予想してる人たちがいるのだろう。
どこからともなく、おっ、と好奇の声も聞こえる。
「あた、あたし……。あたしも、蓮先輩が、好きです……」
あたしが最後まで言い切ると、蓮先輩はふわりと柔らかい表情を浮かべる。
あたしが司会の人にマイクを返した直後。
蓮先輩はあたしのすぐそばまで来ると、きつくあたしを抱きしめた。
「カップル、カップル成立です!」
派手にはやし立てる司会のセリフに、再びざわつくグラウンド。
だけど、それに負けないくらいに大きな音を立てて、あたしの心臓がドクドクと鳴っていた。
蓮先輩……。
蓮先輩の腕の中で、蓮先輩の温もりを感じながらゆっくりと目を閉じたとき。
「ひゃあっ!!」
あたしはふわりと蓮先輩に抱き抱えられる。
突然、お姫様抱っこの状態になったあたしは、とっさに蓮先輩の首に両手を回した。
一層強まる生徒たちの声の中。
蓮先輩は司会の男子に近づき、マイクに口元を近づける。
「俺ら生徒会が派手に暴れて、本当に申し訳ない。でもみんなに見守られる中、こうやって彼女と気持ちを通わせることができて、俺は幸せです。みんな、引き続き後夜祭終了まで楽しんでください。後夜祭をきっかけに、たくさんの人の想いが通い合うことを願ってます」
蓮先輩は生徒たちに軽く一礼すると、あたしを抱いたまま、堂々とフォークダンスの輪の中から出て行った。
綺麗な顔を切なげに歪めて、綺麗な二重の瞳であたしを捉えて離さない、蓮先輩。
もはやフォークダンスの曲は、周囲の騒ぎ立てる声によって、かかってるのかすら分からない状態になっていた。
「おまえが、好きだ」
蓮先輩があたしの目を見て、小さく口を開く。
そして蓮先輩は眉をグッと寄せると、思いっきり声を張り上げた。
「おまえが……、優芽が好きだ! 俺の女になれ!」
蓮先輩らしい口調で紡ぎ出された言葉が、胸に染み渡る。
蓮先輩が、あたしを……。
信じられないけど、蓮先輩の怖いくらいに真剣な眼差しが嘘ではないと言っている。
「生徒会執行部全員の心を引き付けた彼女! さあ、どうする!?」
あたしが、蓮先輩を見つめたまま固まっていたからだろう。
司会の人がこちらの様子をうかがいながら、陽気な声を飛ばして流れを持っていこうとする。
その声に、ハッと我に返る。
そうだ、返事を返さなきゃならないんだ……。
この中の誰か一人を選ぶか、全員に頭を下げるか……。
あたしがどうしたいかなんて、分かりきっている。
だけど、もしあたしが蓮先輩を選んで、皆さんの関係が壊れたら……。
そのとき、あたしの頭上で、かろうじてあたしの耳に届く声で蓮先輩が口を開く。
「大丈夫だ。おまえがどんな答えを出そうと、誰もおまえを責めたりなんてしないから。おまえが生徒会の仲間であることは変わらないし、俺ら四人の仲が壊れることもない。それは、俺が保証する。俺らは、優芽の出した答えを受け入れるまでだ」
蓮、先輩……。
蓮先輩を見上げると、蓮先輩は今まで見たこともないくらいに優しい瞳であたしを見つめてくれていて……。
「あ、あたしは……、」
あたしは、勇気を振り絞って声を出した。
けれど緊張と周りの騒ぎ立てる声に、あたしの弱々しい声は簡単に掻き消されてしまう。
その様子に気づいた司会の人が、どうぞ、とあたしにマイクを手渡してくれる。
たくさんの人の前で、足が震える。
マイクを持つ手も、小刻みに揺れていた。
あたしは自分を落ち着かせるように深呼吸をすると、クルリと振り返って広瀬先輩と妹尾先輩と笹倉先輩の方へと数歩近づいた。
「広瀬先輩、妹尾先輩、笹倉先輩。いつも親切にして下さり、ありがとうございます。先輩たちに好きって言ってもらえて、すごく嬉しかったです。だけど、ごめんなさい……」
申し訳なさに、先輩たちの顔を見るのが辛かった。
でも顔をそらすのはもっと失礼な気がして、先輩たちをしっかりと見据えて告げる。
先輩たちは、ただジッとあたしの言葉に耳を傾けてくれているようだった。
「こんな風に、まとめてお返事する形になってしまって、すみません」
あたしが先輩たちに頭を下げると、頭上から妹尾先輩の優しい声が降ってきた。
「ええって。優芽ちゃんの答えが聞けただけで、俺らは充分や!」
「そうそう! だからって明日から気まずい雰囲気とか、ナシだからな~!」
バシッと叩くように妹尾先輩と肩を組んで、あたしに陽気な笑みを見せる広瀬先輩。
笹倉先輩も優しい笑みを向けてくれた。
「まあ、僕が良くなったときは、いつでも来てよ」
「……ありがとうございます」
そして、ゆっくりと蓮先輩の方へと振り返る。
普段の蓮先輩からは想像できないような不安げな面持ちで、あたしを見つめている。
「蓮先輩……」
他の先輩たちには頭を下げて、蓮先輩だけ返事待ちの時点で、何となくあたしのこたえを予想してる人たちがいるのだろう。
どこからともなく、おっ、と好奇の声も聞こえる。
「あた、あたし……。あたしも、蓮先輩が、好きです……」
あたしが最後まで言い切ると、蓮先輩はふわりと柔らかい表情を浮かべる。
あたしが司会の人にマイクを返した直後。
蓮先輩はあたしのすぐそばまで来ると、きつくあたしを抱きしめた。
「カップル、カップル成立です!」
派手にはやし立てる司会のセリフに、再びざわつくグラウンド。
だけど、それに負けないくらいに大きな音を立てて、あたしの心臓がドクドクと鳴っていた。
蓮先輩……。
蓮先輩の腕の中で、蓮先輩の温もりを感じながらゆっくりと目を閉じたとき。
「ひゃあっ!!」
あたしはふわりと蓮先輩に抱き抱えられる。
突然、お姫様抱っこの状態になったあたしは、とっさに蓮先輩の首に両手を回した。
一層強まる生徒たちの声の中。
蓮先輩は司会の男子に近づき、マイクに口元を近づける。
「俺ら生徒会が派手に暴れて、本当に申し訳ない。でもみんなに見守られる中、こうやって彼女と気持ちを通わせることができて、俺は幸せです。みんな、引き続き後夜祭終了まで楽しんでください。後夜祭をきっかけに、たくさんの人の想いが通い合うことを願ってます」
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