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*第5章*
気になる関係(4)
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「おお、ほんまにおった! 女の子一人もおらへんくなってむさ苦しいカフェになっとるから、早く戻って来いって蓮が言うてたで」
「はーい!」
次の瞬間には元気に返事をして、妹尾先輩のところへ駆けて行く結衣。
「不在だった分、これからしっかり穴埋めするので、妹尾先輩もフォローよろしくお願いしますね!」
「はいはい。今厨房内、琉生一人やねん。やから、はよ行ったり?」
「先輩も、早く来てくださいよ!」
結衣は力強くそう言うと、小走りでカフェの行われてる特別活動室の中へと入って行った。
あたしも結衣のあとに続いて特別活動室に入ろうとしたとき、そっと妹尾先輩に手首を引かれる。
「今夜……、」
それと同時に頭上で響く、低い声。
「……え?」
あたしが驚いて背後を見上げると、妹尾先輩が真剣な瞳であたしを見据えている。
「今夜、もう一回チャンスくれへん?」
チャンス……?
あたしが思わずきょとんと首をかしげると、妹尾先輩は眉を下げて申し訳なさげに笑った。
「なんかごめんな。夜になったらわかると思うから。俺らも戻ろうか」
あたしの頭をポンポンと軽く撫でて、特別活動室へと戻る妹尾先輩。
でも、チャンスって……。
今夜、一体何が起こるんだろう……?
もんもんと考えながら、あたしも妹尾先輩に続いてカフェ内に戻った。
「あーっ、やっと戻ってきた! 優芽ちゃん、こいつに変なことされてねーか?」
厨房に入るなり、注文を伝えに来ていた広瀬先輩が早速あたしに駆け寄って来る。
「は、はい……」
結衣と一緒にパンケーキを焼いていた笹倉先輩は、ジトッとした目であたしの隣に立つ妹尾先輩を見て口を開く。
「へえ。片桐さんだけ先に厨房内に寄越して、陸人は抜け駆けですか」
「達也も琉生も、そんな人聞き悪い言い方すんなや。ちょっと優芽ちゃんと話しとっただけやし」
「どうせ口説いてただけでしょ」
妹尾先輩が言い返すも、笹倉先輩はバッサリと切り捨てるように言う。
何となく居心地が悪くて、思わず小さくなる……。
「パンケーキ二つと、カフェラテ二つな」
そのとき、ちょうど注文を受けて来た蓮先輩が厨房内へと入って来る。
厨房内の様子を見て、一旦足を止める蓮先輩。
「おまえらなあ、ただでさえ客足が多いのにこんなところでだべってんじゃねーよ! 戻ってきてたならとっとと動け!」
蓮先輩はそう怒鳴ると、そばのテーブルからデコレーションまで終えたパンケーキが三皿乗ったお盆を手に取って、あたしに突き出す。
「これ、一番ドア側のテーブルの人のな」
「は、はい!」
あたしは反射的に返事をして、そのお盆を受け取る。
厨房からフロアに出ようと暗幕に手をかけたとき、蓮先輩がそれを阻止するように暗幕に手を添える。
「あ、あの……」
これじゃあ出られないんですけど……。
すると、頭上から蓮先輩の落ち着いた声が降って来る。
「ヤバそうな男がいたら俺が代わりに出て行くから。そのときは無理せずに言えよ」
「え……、あ、はい……」
じゃあ、とあたしが通れるように暗幕を開けてくれる蓮先輩。
相変わらずの乱暴なもの言いだけど、そんな蓮先輩の優しさに思わずドキドキと胸が高鳴る。
蓮先輩が、好き。
その気持ちに、嘘はつけない。
だから、あたしに気持ちを伝えてくれた三人にはちゃんとお返事をしないといけないけど……。
今の、この生徒会の雰囲気が、もし壊れたらって思うと不安だった。
突然生徒会に入れられていろいろあったけど、皆さんのことも、生徒会のことも、大切な存在になっていたから。
でも、もう皆さんを信じるしかないんだよね……。
“きっと、大丈夫”
あたしはもんもんとした頭の中、自分に言い聞かせるように、何回もその言葉を繰り返した。
「はーい!」
次の瞬間には元気に返事をして、妹尾先輩のところへ駆けて行く結衣。
「不在だった分、これからしっかり穴埋めするので、妹尾先輩もフォローよろしくお願いしますね!」
「はいはい。今厨房内、琉生一人やねん。やから、はよ行ったり?」
「先輩も、早く来てくださいよ!」
結衣は力強くそう言うと、小走りでカフェの行われてる特別活動室の中へと入って行った。
あたしも結衣のあとに続いて特別活動室に入ろうとしたとき、そっと妹尾先輩に手首を引かれる。
「今夜……、」
それと同時に頭上で響く、低い声。
「……え?」
あたしが驚いて背後を見上げると、妹尾先輩が真剣な瞳であたしを見据えている。
「今夜、もう一回チャンスくれへん?」
チャンス……?
あたしが思わずきょとんと首をかしげると、妹尾先輩は眉を下げて申し訳なさげに笑った。
「なんかごめんな。夜になったらわかると思うから。俺らも戻ろうか」
あたしの頭をポンポンと軽く撫でて、特別活動室へと戻る妹尾先輩。
でも、チャンスって……。
今夜、一体何が起こるんだろう……?
もんもんと考えながら、あたしも妹尾先輩に続いてカフェ内に戻った。
「あーっ、やっと戻ってきた! 優芽ちゃん、こいつに変なことされてねーか?」
厨房に入るなり、注文を伝えに来ていた広瀬先輩が早速あたしに駆け寄って来る。
「は、はい……」
結衣と一緒にパンケーキを焼いていた笹倉先輩は、ジトッとした目であたしの隣に立つ妹尾先輩を見て口を開く。
「へえ。片桐さんだけ先に厨房内に寄越して、陸人は抜け駆けですか」
「達也も琉生も、そんな人聞き悪い言い方すんなや。ちょっと優芽ちゃんと話しとっただけやし」
「どうせ口説いてただけでしょ」
妹尾先輩が言い返すも、笹倉先輩はバッサリと切り捨てるように言う。
何となく居心地が悪くて、思わず小さくなる……。
「パンケーキ二つと、カフェラテ二つな」
そのとき、ちょうど注文を受けて来た蓮先輩が厨房内へと入って来る。
厨房内の様子を見て、一旦足を止める蓮先輩。
「おまえらなあ、ただでさえ客足が多いのにこんなところでだべってんじゃねーよ! 戻ってきてたならとっとと動け!」
蓮先輩はそう怒鳴ると、そばのテーブルからデコレーションまで終えたパンケーキが三皿乗ったお盆を手に取って、あたしに突き出す。
「これ、一番ドア側のテーブルの人のな」
「は、はい!」
あたしは反射的に返事をして、そのお盆を受け取る。
厨房からフロアに出ようと暗幕に手をかけたとき、蓮先輩がそれを阻止するように暗幕に手を添える。
「あ、あの……」
これじゃあ出られないんですけど……。
すると、頭上から蓮先輩の落ち着いた声が降って来る。
「ヤバそうな男がいたら俺が代わりに出て行くから。そのときは無理せずに言えよ」
「え……、あ、はい……」
じゃあ、とあたしが通れるように暗幕を開けてくれる蓮先輩。
相変わらずの乱暴なもの言いだけど、そんな蓮先輩の優しさに思わずドキドキと胸が高鳴る。
蓮先輩が、好き。
その気持ちに、嘘はつけない。
だから、あたしに気持ちを伝えてくれた三人にはちゃんとお返事をしないといけないけど……。
今の、この生徒会の雰囲気が、もし壊れたらって思うと不安だった。
突然生徒会に入れられていろいろあったけど、皆さんのことも、生徒会のことも、大切な存在になっていたから。
でも、もう皆さんを信じるしかないんだよね……。
“きっと、大丈夫”
あたしはもんもんとした頭の中、自分に言い聞かせるように、何回もその言葉を繰り返した。
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