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*第5章*
気になる関係(3)
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「でも、お兄ちゃんの相手が優芽なら、あたしも嬉しい……」
「え……?」
「あたし、お兄ちゃんと一緒に住んでた頃は、喧嘩ばかりしてた両親から逃げるように、ずっとお兄ちゃんと部屋の隅で過ごしてたんだ。そういうのもあって、あたしは結構お兄ちゃんに頼ってばかりだったから。いつかお兄ちゃんに彼女ができたら嫌だなとか、ずっと思ってたんだ。だけど、そんなの実際不可能じゃない?」
そう少し寂しげに話す結衣は、いつもよりどこか幼くて……。
「だけど、優芽ならいいかなって。あたしも優芽のこと大好きだし……」
蓮先輩の妹を感じさせる表情を浮かべていた。
「だからあたし、お兄ちゃんと優芽のこと応援してるから!」
「……結衣」
あたしに気を使ってそう言ってくれてるけど、本当は複雑なのかな……。
あたしが、蓮先輩を好きだっていうの……。
あたしのそんな心の声が聞こえたのか、結衣はおかしそうに笑って口を開く。
「そんな心配しなくても、あたしは大丈夫だから。あたしにも、好きな人できたし」
「ええええっ!?」
結衣に好きな人……?
「あはは、優芽、驚きすぎーっ!!」
「だ、だだだ、だって……」
そんなの、初耳なんだもん……!
「あたしの、知ってる人?」
「うん。よく知ってる人。だけど、その人も優芽のことが好きなんだ……」
「……え」
寂しげに笑う結衣に、胸が痛む。
「だから優芽を悩ませるだけだと思って、余計に優芽には話せなかったの。でもやっぱり辛くて……。時々昨日みたいに、お兄ちゃんに話だけでも聞いてもらってたんだ」
ごめんね、と眉を下げる結衣。
だけど、あたしもよく知ってる人だなんて一体……。
「この高校のサッカー部のマネージャーになって、一ヶ月くらい経った頃かな……」
あたしがぐるぐると思考を回していると、結衣が語り始める。
「あたし、体育倉庫に得点板を取りに行ったんだけど、あたしの背じゃ届かないような高い位置にあったんだ」
「うん」
「でも、踏み台とか近くになくて、そばにあったマットによじ登って取ろうとしたら、足を滑らせちゃって……」
そこで一旦言葉を切って、結衣はふわりと目を細めて笑った。
「……そのまま真っ逆さまに落ちると思ったら、偶然そのとき体育倉庫に現れた妹尾先輩が受け止めてくれたの。間一髪やったな、って」
「え……」
妹尾先輩が……?
でもこの話の流れでいくと、結衣の好きな人って……。
結衣はあたしを見て、にっこりと笑う。
「あたしが好きなのは、妹尾先輩なんだ……」
「そう、なんだ……」
反射的に妹尾先輩に告白された夜のことを思い出して、罪悪感に駆られる。
あたし、自分の中の気持ちを整理するのに精一杯で、まだ返事できてないや……。
妹尾先輩だけじゃない。
広瀬先輩や、笹倉先輩にも……。
先輩たちの優しさに甘えて、そのまま先延ばしになってる。
だけど、自分の気持ちに気づいた今となっては、すごく失礼なことだよね……。
「そんな顔しないで。あたし、知ってるから。妹尾先輩が優芽に告白したの」
「……う、うん」
「だからっていうわけじゃないけど、優芽の中でお兄ちゃんのことが好きだってこたえが出てるなら、優芽には早く妹尾先輩に返事してほしい」
そうだよね。
いつまでも辛いことから目を背けてたって、何も変わらないもんね。
「うん。ごめんね、結衣」
「もう! 優芽ったらしんみりしないでよ! 優芽が妹尾先輩をフッてくれたら、あとはあたしが奪うまでだもん!」
綺麗な笑顔を作ってガッツポーズをする結衣。
見た目はおしとやかな雰囲気の結衣だけど、時々びっくりするくらい勝ち気な発言をするんだよね。
あたしが結衣の迫力に圧倒されていると、再びガララと資料室の扉が開かれる。
「優芽ちゃんと片桐マネ、居てるー?」
タイムリーに現れた妹尾先輩に、結衣の肩がビクリと揺れた。
ほんのりと頬を赤く染める結衣はすごく綺麗で、女子のあたしまで思わず見とれてしまいそうなくらい……。
「え……?」
「あたし、お兄ちゃんと一緒に住んでた頃は、喧嘩ばかりしてた両親から逃げるように、ずっとお兄ちゃんと部屋の隅で過ごしてたんだ。そういうのもあって、あたしは結構お兄ちゃんに頼ってばかりだったから。いつかお兄ちゃんに彼女ができたら嫌だなとか、ずっと思ってたんだ。だけど、そんなの実際不可能じゃない?」
そう少し寂しげに話す結衣は、いつもよりどこか幼くて……。
「だけど、優芽ならいいかなって。あたしも優芽のこと大好きだし……」
蓮先輩の妹を感じさせる表情を浮かべていた。
「だからあたし、お兄ちゃんと優芽のこと応援してるから!」
「……結衣」
あたしに気を使ってそう言ってくれてるけど、本当は複雑なのかな……。
あたしが、蓮先輩を好きだっていうの……。
あたしのそんな心の声が聞こえたのか、結衣はおかしそうに笑って口を開く。
「そんな心配しなくても、あたしは大丈夫だから。あたしにも、好きな人できたし」
「ええええっ!?」
結衣に好きな人……?
「あはは、優芽、驚きすぎーっ!!」
「だ、だだだ、だって……」
そんなの、初耳なんだもん……!
「あたしの、知ってる人?」
「うん。よく知ってる人。だけど、その人も優芽のことが好きなんだ……」
「……え」
寂しげに笑う結衣に、胸が痛む。
「だから優芽を悩ませるだけだと思って、余計に優芽には話せなかったの。でもやっぱり辛くて……。時々昨日みたいに、お兄ちゃんに話だけでも聞いてもらってたんだ」
ごめんね、と眉を下げる結衣。
だけど、あたしもよく知ってる人だなんて一体……。
「この高校のサッカー部のマネージャーになって、一ヶ月くらい経った頃かな……」
あたしがぐるぐると思考を回していると、結衣が語り始める。
「あたし、体育倉庫に得点板を取りに行ったんだけど、あたしの背じゃ届かないような高い位置にあったんだ」
「うん」
「でも、踏み台とか近くになくて、そばにあったマットによじ登って取ろうとしたら、足を滑らせちゃって……」
そこで一旦言葉を切って、結衣はふわりと目を細めて笑った。
「……そのまま真っ逆さまに落ちると思ったら、偶然そのとき体育倉庫に現れた妹尾先輩が受け止めてくれたの。間一髪やったな、って」
「え……」
妹尾先輩が……?
でもこの話の流れでいくと、結衣の好きな人って……。
結衣はあたしを見て、にっこりと笑う。
「あたしが好きなのは、妹尾先輩なんだ……」
「そう、なんだ……」
反射的に妹尾先輩に告白された夜のことを思い出して、罪悪感に駆られる。
あたし、自分の中の気持ちを整理するのに精一杯で、まだ返事できてないや……。
妹尾先輩だけじゃない。
広瀬先輩や、笹倉先輩にも……。
先輩たちの優しさに甘えて、そのまま先延ばしになってる。
だけど、自分の気持ちに気づいた今となっては、すごく失礼なことだよね……。
「そんな顔しないで。あたし、知ってるから。妹尾先輩が優芽に告白したの」
「……う、うん」
「だからっていうわけじゃないけど、優芽の中でお兄ちゃんのことが好きだってこたえが出てるなら、優芽には早く妹尾先輩に返事してほしい」
そうだよね。
いつまでも辛いことから目を背けてたって、何も変わらないもんね。
「うん。ごめんね、結衣」
「もう! 優芽ったらしんみりしないでよ! 優芽が妹尾先輩をフッてくれたら、あとはあたしが奪うまでだもん!」
綺麗な笑顔を作ってガッツポーズをする結衣。
見た目はおしとやかな雰囲気の結衣だけど、時々びっくりするくらい勝ち気な発言をするんだよね。
あたしが結衣の迫力に圧倒されていると、再びガララと資料室の扉が開かれる。
「優芽ちゃんと片桐マネ、居てるー?」
タイムリーに現れた妹尾先輩に、結衣の肩がビクリと揺れた。
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