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*第5章*
波乱溢れる文化祭(3)
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ドクン……!!
しっかりと目が合って、思わず心臓が飛び跳ねる。
あたしと目が合うなり、蓮先輩があたしに向かって、目を細めて柔らかい笑みを浮かべるのが分かった。
その姿に胸が苦しくなって、思わず蓮先輩から視線をそらす。
視界から蓮先輩を追い出しても、ドキドキと加速度を増す鼓動。
ダメだな……。
蓮先輩には結衣がいるのに、余計に蓮先輩のこと意識しちゃって……。
はあ、と小さくため息を落とす。
そのとき。
「葉山さあん!」
背後から男子生徒に、ねっとりとした呼び方で呼ばれた。
振り返ると、小太りの色白の男子生徒があたしを手招きしていた。
「ご注文、お決まりですか?」
あたしは、男子生徒の席まで行くと、メモとペンを取り出す。
「えっとねえ、パンケーキひとつねー。葉山さんに、ここでデコレーションしてほしいなあ」
「はい、かしこまりました」
あたしが厨房の方へ注文を伝えに行くと、結衣にグイっと腕を引かれて厨房の奥へと連れて行かれる。
「……え、ゆ、結衣!?」
結衣を呼ぶと、結衣はくるりと振り返って口を開く。
「さっき優芽に注文した男子、なんか危険な臭いするから気をつけて」
「へ?」
危険な臭い……?
そんなの、臭うもんなの?
「いい? 身の危険を感じたら、すぐに厨房に逃げ込むのよ」
「もう、結衣ったら、オーバーなんだから。まるで今のお客さんが危険人物みたいじゃん」
「そんなヘラヘラ笑わないでよ! こっちは真剣に心配してるのに!」
「ごめんごめん」
だって、結衣が心配し過ぎなんだもん。
そうこうしているうちに響く、妹尾先輩の声。
「パンケーキ、一皿分焼けたで~」
結衣は妹尾先輩からパンケーキの乗ったお皿を受け取ると、あたしに手渡す。
「とにかく、気をつけて行ってきてね」
そして、結衣はあたしの背中を軽く押しながら小さく囁いた。
「お待たせしました」
先程の男子生徒の前に、デコレーションされていないシンプルなパンケーキを置く。
「わあーっ! 葉山さんからパンケーキ出してもらえるなんて、嬉しいなあ! ねえ、それでパンケーキにハート描いてよ」
そう言って、男子生徒はあたしの手元にある、デコレーション用のチューブタイプのチョコを指さす。
男子生徒の要望通り、パンケーキの上にハートのデコレーションを描く。
すると、男子生徒は、更に興奮気味にあたしに言う。
「すごいすごい! じゃあさあ、このハートを真ん中にして、左側にタロウ、右側にユメって書いて相合い傘にしてよ」
「……え」
ニヤニヤと笑う、目の前の男子生徒。
いくらサービスとはいえ、自分の名前を相合い傘に書くなんて、複雑だなあ……。
あまり気はすすまないけど、これもサービスだと言い聞かせて、文字を書きはじめる。
プルプルと手が震えて、不安定に絞り出されるチョコレート。
「葉山さん、もしかして、緊張してるの? 手伝ってあげるよ」
そう言って、男子生徒の手が、あたしの両腕にねっとりと絡み付く。
「あ、あの……」
「うわあ、葉山さん柔らかいね~。もっとこっち来てよ」
そう言われて、グイッと引かれるあたしの身体。
「や……っ」
ぐらりと身体が男子生徒の方へと倒れ込みそうになったとき。
あたしの身体は誰かによって、力強く引っ張り上げられた。
背中から誰かの身体に支えられて、優しい温もりに包まれる。
「お客様。当店はカフェであって、女の子を口説くところではありません。このような行為はご遠慮ください」
そして、頭上から降って来る、低い声。
蓮先輩……っ!?
その声の方を見上げると、男子生徒に爽やかなスマイルを浮かべる蓮先輩の姿があった。
だけど、綺麗なスマイルを作っておきながらも、蓮先輩の目はちっとも笑ってなくて……。
蓮先輩、そのスマイル、とっても怖いです……。
「彼女も嫌がってますので、ご理解いただけると……」
男子生徒は顔を真っ赤にして小さくチッと舌打すると、パンケーキを抱えて逃げるようにカフェから出て行った。
それを見届けて、フゥと小さく息を吐く蓮先輩。
相変わらず蓮先輩につかまれたままのあたしの腕。
あたしはパッと蓮先輩から離れて、頭を下げる。
「わざわざありがとうございました」
「…………」
いつもの蓮先輩なら、ボヤッとするな、とか一言言ってきそうなのに、それがない。
一応、接客中、だからかな……?
結衣とのことがあるだけに、何だか気まずい……。
あたしは蓮先輩のことを見ることができず、くるりと蓮先輩に背を向けて、厨房へと向かった。
蓮先輩には結衣がいるって分かってるのに、あたしを助けてくれた蓮先輩に、さらにときめくあたしがいて。
これ以上好きになったって、苦しいだけなのにな……。
あたしがトボトボと暗幕の中に入ろうとしたとき。
「……ちょっと、来い」
あたしは、グイッと手首を引かれて、カフェの行われている教室から引っ張り出された。
しっかりと目が合って、思わず心臓が飛び跳ねる。
あたしと目が合うなり、蓮先輩があたしに向かって、目を細めて柔らかい笑みを浮かべるのが分かった。
その姿に胸が苦しくなって、思わず蓮先輩から視線をそらす。
視界から蓮先輩を追い出しても、ドキドキと加速度を増す鼓動。
ダメだな……。
蓮先輩には結衣がいるのに、余計に蓮先輩のこと意識しちゃって……。
はあ、と小さくため息を落とす。
そのとき。
「葉山さあん!」
背後から男子生徒に、ねっとりとした呼び方で呼ばれた。
振り返ると、小太りの色白の男子生徒があたしを手招きしていた。
「ご注文、お決まりですか?」
あたしは、男子生徒の席まで行くと、メモとペンを取り出す。
「えっとねえ、パンケーキひとつねー。葉山さんに、ここでデコレーションしてほしいなあ」
「はい、かしこまりました」
あたしが厨房の方へ注文を伝えに行くと、結衣にグイっと腕を引かれて厨房の奥へと連れて行かれる。
「……え、ゆ、結衣!?」
結衣を呼ぶと、結衣はくるりと振り返って口を開く。
「さっき優芽に注文した男子、なんか危険な臭いするから気をつけて」
「へ?」
危険な臭い……?
そんなの、臭うもんなの?
「いい? 身の危険を感じたら、すぐに厨房に逃げ込むのよ」
「もう、結衣ったら、オーバーなんだから。まるで今のお客さんが危険人物みたいじゃん」
「そんなヘラヘラ笑わないでよ! こっちは真剣に心配してるのに!」
「ごめんごめん」
だって、結衣が心配し過ぎなんだもん。
そうこうしているうちに響く、妹尾先輩の声。
「パンケーキ、一皿分焼けたで~」
結衣は妹尾先輩からパンケーキの乗ったお皿を受け取ると、あたしに手渡す。
「とにかく、気をつけて行ってきてね」
そして、結衣はあたしの背中を軽く押しながら小さく囁いた。
「お待たせしました」
先程の男子生徒の前に、デコレーションされていないシンプルなパンケーキを置く。
「わあーっ! 葉山さんからパンケーキ出してもらえるなんて、嬉しいなあ! ねえ、それでパンケーキにハート描いてよ」
そう言って、男子生徒はあたしの手元にある、デコレーション用のチューブタイプのチョコを指さす。
男子生徒の要望通り、パンケーキの上にハートのデコレーションを描く。
すると、男子生徒は、更に興奮気味にあたしに言う。
「すごいすごい! じゃあさあ、このハートを真ん中にして、左側にタロウ、右側にユメって書いて相合い傘にしてよ」
「……え」
ニヤニヤと笑う、目の前の男子生徒。
いくらサービスとはいえ、自分の名前を相合い傘に書くなんて、複雑だなあ……。
あまり気はすすまないけど、これもサービスだと言い聞かせて、文字を書きはじめる。
プルプルと手が震えて、不安定に絞り出されるチョコレート。
「葉山さん、もしかして、緊張してるの? 手伝ってあげるよ」
そう言って、男子生徒の手が、あたしの両腕にねっとりと絡み付く。
「あ、あの……」
「うわあ、葉山さん柔らかいね~。もっとこっち来てよ」
そう言われて、グイッと引かれるあたしの身体。
「や……っ」
ぐらりと身体が男子生徒の方へと倒れ込みそうになったとき。
あたしの身体は誰かによって、力強く引っ張り上げられた。
背中から誰かの身体に支えられて、優しい温もりに包まれる。
「お客様。当店はカフェであって、女の子を口説くところではありません。このような行為はご遠慮ください」
そして、頭上から降って来る、低い声。
蓮先輩……っ!?
その声の方を見上げると、男子生徒に爽やかなスマイルを浮かべる蓮先輩の姿があった。
だけど、綺麗なスマイルを作っておきながらも、蓮先輩の目はちっとも笑ってなくて……。
蓮先輩、そのスマイル、とっても怖いです……。
「彼女も嫌がってますので、ご理解いただけると……」
男子生徒は顔を真っ赤にして小さくチッと舌打すると、パンケーキを抱えて逃げるようにカフェから出て行った。
それを見届けて、フゥと小さく息を吐く蓮先輩。
相変わらず蓮先輩につかまれたままのあたしの腕。
あたしはパッと蓮先輩から離れて、頭を下げる。
「わざわざありがとうございました」
「…………」
いつもの蓮先輩なら、ボヤッとするな、とか一言言ってきそうなのに、それがない。
一応、接客中、だからかな……?
結衣とのことがあるだけに、何だか気まずい……。
あたしは蓮先輩のことを見ることができず、くるりと蓮先輩に背を向けて、厨房へと向かった。
蓮先輩には結衣がいるって分かってるのに、あたしを助けてくれた蓮先輩に、さらにときめくあたしがいて。
これ以上好きになったって、苦しいだけなのにな……。
あたしがトボトボと暗幕の中に入ろうとしたとき。
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