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*第5章*
波乱溢れる文化祭(1)
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結衣と蓮先輩の光景を見たあとのことは、ほとんど覚えていない。
覚えてるのは、笹倉先輩と広瀬先輩が、あたしのことを心配して家の前まで送ってくれたことくらい。
もうちょっと頭の整理をしたいのに、時間は待ってはくれなくて……。
複雑な心境のまま、とうとう文化祭当日を迎えてしまった。
「うひゃあ!! やっぱり優芽ちゃんのメイド姿、超可愛いーっ!!」
「きゃっ!! ひ、広瀬先輩っ!?」
メイドカフェの衣装に着替えて、生徒会室でぼんやりとタイムテーブルを見ていると、同じようにウェイターの格好に着替え終えたらしい広瀬先輩に後ろから抱き着かれていた。
「本当に。このまま奪い去ってしまいたくなるくらい」
気づけばあたしの左側にひざまずき、あたしの左手を取る笹倉先輩。
「いくら達也と琉生でも、今日という今日は、俺も黙ってへんで?」
そう言って、あたしの右手を取る、妹尾先輩。
「あ、あの……」
今日は三人とも黒いズボンに白いカッターシャツに緩めのネクタイという、ウェイター姿。
皆さんすごくお似合いで、不覚にもドキリと胸が高鳴った。
だけど、今日はあまりにお互いを見つめる先輩たちの雰囲気が険しくて、思わず足がすくみそうになる。
誰もあたしを離そうとしてくれなくて、身動き取れずにいると、斜め後ろからぐいっと誰かに力強く引っ張られる。
一瞬にして、三人の手の中から抜けたあたし。
「ったく、ちょっと目を離した隙に! おまえら、こいつに触んな!」
誰かを確認する前に、声でその誰かは蓮先輩だと気づいた。
その声に、ズキンと胸が痛む。
振り返ると、他の先輩たちと同じようにウェイター姿の蓮先輩。
ウェイター姿の蓮先輩は、いつも以上に色っぽくて、思わず目を奪われる。
だけど、昨日の結衣と蓮先輩のあの光景が脳裏に過ぎって、思わず胸が苦しくなった。
「おまえも! 毎回毎回ボヤッとしてんじゃねーよ」
「……す、すみません」
「じゃあ、着替えた奴から、メイドカフェの教室に移動な」
蓮先輩はそう言うと、あたしをつかんでいた手を離して、生徒会室を出ていってしまった。
結衣のことが好きなら。
結衣と付き合ってるなら、あたしのことなんて放っててくれたらいいのに。
なんで、そんな風にあたしに怒るの……?
そんなことをされたら、蓮先輩に大事にされているみたいに錯覚して、余計に辛いよ……。
あたしは、蓮先輩が出て行った内扉を、ただただぼんやりと見つめることしかできなかった。
「ったく、何だよ蓮の奴。優芽ちゃん、あんなの、気にしなくて大丈夫だから」
広瀬先輩は、顔をしかめて蓮先輩の出て行った扉を見つめていた。
「本当に。蓮には、わざわざ僕たちの邪魔はしてほしくないところだね」
笹倉先輩も、どこか冷ややかな視線を扉に投げつける。
昨日の結衣と蓮先輩を一緒に見た広瀬先輩と笹倉先輩。
そのときから、二人の蓮先輩を見る目は、どことなく冷たいような気がする。
きっと、先輩たちすら二人の関係を知らなかったんだろうな……。
再び暗い気持ちになりつつあると、突然優しくあたしの右手が包み込まれた。
「……え?」
手の持ち主を見上げると、優しい面持ちでこちらに笑みを向ける、妹尾先輩。
「なんや、表情暗いけど、調子悪いんか?」
「……い、いえ」
「ほんならええけど。もし何かあったら、すぐ言いや? ほな、俺らも準備できたし、行こか」
そのまま妹尾先輩に手を引かれて、思わず立ち止まる。
「あ、あの……っ」
手、と言おうとしたところで、あたしの言葉は広瀬先輩の言葉によって掻き消された。
「あーーーっ!! 陸人の奴、何どさくさに紛れて優芽ちゃんと手繋いでんだよ!」
「本当に。油断も隙もない」
だけど、妹尾先輩はそんな言葉に得意げに笑って口を開く。
「まあまあ今日くらいええやんか! お祭りみたいなもんなんやし。な、優芽ちゃん」
「あ、あの……」
何だか今日の妹尾先輩は、いつもよりどこか強引で、あたしは完全にその勢いに負けていた。
「ちっともよくねーから!!」
あたしと妹尾先輩の間に広瀬先輩が割って入り、あたしの手は妹尾先輩から解放される。
とりあえず、良かったのかな……?
あたしたちはぞろぞろとメイドカフェの行われる教室へと向かった。
覚えてるのは、笹倉先輩と広瀬先輩が、あたしのことを心配して家の前まで送ってくれたことくらい。
もうちょっと頭の整理をしたいのに、時間は待ってはくれなくて……。
複雑な心境のまま、とうとう文化祭当日を迎えてしまった。
「うひゃあ!! やっぱり優芽ちゃんのメイド姿、超可愛いーっ!!」
「きゃっ!! ひ、広瀬先輩っ!?」
メイドカフェの衣装に着替えて、生徒会室でぼんやりとタイムテーブルを見ていると、同じようにウェイターの格好に着替え終えたらしい広瀬先輩に後ろから抱き着かれていた。
「本当に。このまま奪い去ってしまいたくなるくらい」
気づけばあたしの左側にひざまずき、あたしの左手を取る笹倉先輩。
「いくら達也と琉生でも、今日という今日は、俺も黙ってへんで?」
そう言って、あたしの右手を取る、妹尾先輩。
「あ、あの……」
今日は三人とも黒いズボンに白いカッターシャツに緩めのネクタイという、ウェイター姿。
皆さんすごくお似合いで、不覚にもドキリと胸が高鳴った。
だけど、今日はあまりにお互いを見つめる先輩たちの雰囲気が険しくて、思わず足がすくみそうになる。
誰もあたしを離そうとしてくれなくて、身動き取れずにいると、斜め後ろからぐいっと誰かに力強く引っ張られる。
一瞬にして、三人の手の中から抜けたあたし。
「ったく、ちょっと目を離した隙に! おまえら、こいつに触んな!」
誰かを確認する前に、声でその誰かは蓮先輩だと気づいた。
その声に、ズキンと胸が痛む。
振り返ると、他の先輩たちと同じようにウェイター姿の蓮先輩。
ウェイター姿の蓮先輩は、いつも以上に色っぽくて、思わず目を奪われる。
だけど、昨日の結衣と蓮先輩のあの光景が脳裏に過ぎって、思わず胸が苦しくなった。
「おまえも! 毎回毎回ボヤッとしてんじゃねーよ」
「……す、すみません」
「じゃあ、着替えた奴から、メイドカフェの教室に移動な」
蓮先輩はそう言うと、あたしをつかんでいた手を離して、生徒会室を出ていってしまった。
結衣のことが好きなら。
結衣と付き合ってるなら、あたしのことなんて放っててくれたらいいのに。
なんで、そんな風にあたしに怒るの……?
そんなことをされたら、蓮先輩に大事にされているみたいに錯覚して、余計に辛いよ……。
あたしは、蓮先輩が出て行った内扉を、ただただぼんやりと見つめることしかできなかった。
「ったく、何だよ蓮の奴。優芽ちゃん、あんなの、気にしなくて大丈夫だから」
広瀬先輩は、顔をしかめて蓮先輩の出て行った扉を見つめていた。
「本当に。蓮には、わざわざ僕たちの邪魔はしてほしくないところだね」
笹倉先輩も、どこか冷ややかな視線を扉に投げつける。
昨日の結衣と蓮先輩を一緒に見た広瀬先輩と笹倉先輩。
そのときから、二人の蓮先輩を見る目は、どことなく冷たいような気がする。
きっと、先輩たちすら二人の関係を知らなかったんだろうな……。
再び暗い気持ちになりつつあると、突然優しくあたしの右手が包み込まれた。
「……え?」
手の持ち主を見上げると、優しい面持ちでこちらに笑みを向ける、妹尾先輩。
「なんや、表情暗いけど、調子悪いんか?」
「……い、いえ」
「ほんならええけど。もし何かあったら、すぐ言いや? ほな、俺らも準備できたし、行こか」
そのまま妹尾先輩に手を引かれて、思わず立ち止まる。
「あ、あの……っ」
手、と言おうとしたところで、あたしの言葉は広瀬先輩の言葉によって掻き消された。
「あーーーっ!! 陸人の奴、何どさくさに紛れて優芽ちゃんと手繋いでんだよ!」
「本当に。油断も隙もない」
だけど、妹尾先輩はそんな言葉に得意げに笑って口を開く。
「まあまあ今日くらいええやんか! お祭りみたいなもんなんやし。な、優芽ちゃん」
「あ、あの……」
何だか今日の妹尾先輩は、いつもよりどこか強引で、あたしは完全にその勢いに負けていた。
「ちっともよくねーから!!」
あたしと妹尾先輩の間に広瀬先輩が割って入り、あたしの手は妹尾先輩から解放される。
とりあえず、良かったのかな……?
あたしたちはぞろぞろとメイドカフェの行われる教室へと向かった。
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