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*第5章*
見ちゃった(3)
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校舎も、出店になってる教室や展示室になってる教室が増えて、文化祭らしい雰囲気を増している。
そんな中をくぐり抜けて、特別活動室へと戻る。
途中、生徒会室の前を通りかかったとき、笹倉先輩が足を止める。
「あ、ちょっと生徒会室寄ってっていい? 明日のレシピ、確かここに置きっぱなしだったよね?」
「そうだな。誰かもう持って行ってる可能性もあるけど、往復するのも面倒だし、寄ってくか」
広瀬先輩がズボンのポケットから生徒会室の合鍵を取り出した。
しかし、広瀬先輩が鍵穴に鍵をさそうとしたとき、ピタリとその動きを止める。
「あれ? 蓮の奴、居んのかな? 鍵開いてるわ」
「え? あ、本当だ」
笹倉先輩も扉をジッと見て、軽く目を見開く。
広瀬先輩によって、生徒会室へと続く扉がそっと開けられる。
その内扉のドアノブに手をかけようとしたとき、再び広瀬先輩の動きが止まった。
「え……、女の子……?」
若干半開きになった内扉。
そこから微かに聞こえた声は、弱々しい女の子の声だったから……。
生徒会の女子はあたし一人。
じゃあ、この中に居るのは……?
あたしと広瀬先輩と笹倉先輩と、各々顔を見合わせると、広瀬先輩が半開きになった扉を、静かに半分くらいまで引いた。
こちらの様子に全く気づいていない男女が、視界に映る。
「……っ」
思わず、息を呑んだ。
「蓮先輩と、結衣……」
だってそこにいたのは、うちの生徒会長とあたしの親友だったのだから。
思わず口からこぼれ落ちたのは、蚊の鳴くような、今にも消えそうな声だった。
だけど、そんなあたしの声は、中の二人の会話によって掻き消される。
「……ったく、俺らの関係黙ってろって言ってたの結衣じゃねーか。こんなに頻繁に会ってて、誰かにバレても知らねえぞ?」
「だ、だって……」
何で二人が一緒にここに居るのかはわからない。
だけど、結衣は泣いているようだった。
蓮先輩のシャツを、キュッと握る結衣。
「あーもう、仕方ねえなあ」
優しい声でそう言って、慰めるように結衣の頭に手を添える蓮先輩。
蓮先輩と結衣はいつの間にか仲良くなったのかなと最近感じていたけれど、こんなに親密な関係だっただなんて……。
背筋が凍りつくようだった。
心臓が痛みを伴いながら嫌な音を放つ。
「嘘だろ……。蓮と、片桐さんが……?」
信じられない、と言わんばかりに小さく声を漏らす広瀬先輩。
「……やっぱり、そういうことか」
そして、どこか納得したように鼻で笑う笹倉先輩。
“俺らの関係黙ってろって言ってたの結衣じゃねーか”
結衣……。
いつから蓮先輩とこうして会っていたの?
あたしが知らなかっただけで、結衣と蓮先輩は恋人同士だったんだよね……。
やだ、涙あふれそう。
結衣に隠されてたことももちろん悲しいけど……。
締め付けられる胸に、息をするのも苦しいくらい。
この光景に、こんなにもショックを受けるのは──。
あたし、蓮先輩が好きだったんだ……。
──いつの間にか蓮先輩に抱いていた、恋心のせい。
だけど、まさかこんな形で気づかされるなんて、思ってもみなかったよ……。
「……行こう」
必死に涙をこらえていると、小さな声とともに優しく握られるあたしの手。
見上げると、笹倉先輩が切なげな瞳であたしを捉えていた。
「レシピはさ、明日の朝一に僕が取りに来るから。達也も、帰るよ」
「え……、お、おう」
広瀬先輩はどこかぎこちなく返事を返すと、もう一度結衣と蓮先輩の様子を覗き見て静かに内扉を閉めた。
そんな中をくぐり抜けて、特別活動室へと戻る。
途中、生徒会室の前を通りかかったとき、笹倉先輩が足を止める。
「あ、ちょっと生徒会室寄ってっていい? 明日のレシピ、確かここに置きっぱなしだったよね?」
「そうだな。誰かもう持って行ってる可能性もあるけど、往復するのも面倒だし、寄ってくか」
広瀬先輩がズボンのポケットから生徒会室の合鍵を取り出した。
しかし、広瀬先輩が鍵穴に鍵をさそうとしたとき、ピタリとその動きを止める。
「あれ? 蓮の奴、居んのかな? 鍵開いてるわ」
「え? あ、本当だ」
笹倉先輩も扉をジッと見て、軽く目を見開く。
広瀬先輩によって、生徒会室へと続く扉がそっと開けられる。
その内扉のドアノブに手をかけようとしたとき、再び広瀬先輩の動きが止まった。
「え……、女の子……?」
若干半開きになった内扉。
そこから微かに聞こえた声は、弱々しい女の子の声だったから……。
生徒会の女子はあたし一人。
じゃあ、この中に居るのは……?
あたしと広瀬先輩と笹倉先輩と、各々顔を見合わせると、広瀬先輩が半開きになった扉を、静かに半分くらいまで引いた。
こちらの様子に全く気づいていない男女が、視界に映る。
「……っ」
思わず、息を呑んだ。
「蓮先輩と、結衣……」
だってそこにいたのは、うちの生徒会長とあたしの親友だったのだから。
思わず口からこぼれ落ちたのは、蚊の鳴くような、今にも消えそうな声だった。
だけど、そんなあたしの声は、中の二人の会話によって掻き消される。
「……ったく、俺らの関係黙ってろって言ってたの結衣じゃねーか。こんなに頻繁に会ってて、誰かにバレても知らねえぞ?」
「だ、だって……」
何で二人が一緒にここに居るのかはわからない。
だけど、結衣は泣いているようだった。
蓮先輩のシャツを、キュッと握る結衣。
「あーもう、仕方ねえなあ」
優しい声でそう言って、慰めるように結衣の頭に手を添える蓮先輩。
蓮先輩と結衣はいつの間にか仲良くなったのかなと最近感じていたけれど、こんなに親密な関係だっただなんて……。
背筋が凍りつくようだった。
心臓が痛みを伴いながら嫌な音を放つ。
「嘘だろ……。蓮と、片桐さんが……?」
信じられない、と言わんばかりに小さく声を漏らす広瀬先輩。
「……やっぱり、そういうことか」
そして、どこか納得したように鼻で笑う笹倉先輩。
“俺らの関係黙ってろって言ってたの結衣じゃねーか”
結衣……。
いつから蓮先輩とこうして会っていたの?
あたしが知らなかっただけで、結衣と蓮先輩は恋人同士だったんだよね……。
やだ、涙あふれそう。
結衣に隠されてたことももちろん悲しいけど……。
締め付けられる胸に、息をするのも苦しいくらい。
この光景に、こんなにもショックを受けるのは──。
あたし、蓮先輩が好きだったんだ……。
──いつの間にか蓮先輩に抱いていた、恋心のせい。
だけど、まさかこんな形で気づかされるなんて、思ってもみなかったよ……。
「……行こう」
必死に涙をこらえていると、小さな声とともに優しく握られるあたしの手。
見上げると、笹倉先輩が切なげな瞳であたしを捉えていた。
「レシピはさ、明日の朝一に僕が取りに来るから。達也も、帰るよ」
「え……、お、おう」
広瀬先輩はどこかぎこちなく返事を返すと、もう一度結衣と蓮先輩の様子を覗き見て静かに内扉を閉めた。
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