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*第5章*
見ちゃった(2)
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「なら、僕も行かせてもらうよ」
次の瞬間響くのは、怖いくらいに落ち着いた、笹倉先輩の声。
「人数は多い方がええやろうから、俺も行くわ!」
しかし、妹尾先輩が口を開いた瞬間、結衣の鋭い声が飛ぶ。
「妹尾先輩は、あたしとサッカー部の方のお手伝いに来てください」
「はあ? サッカー部は人数豊富とちゃうかったんか?」
「一応、前日はあたしと妹尾先輩は手が空いてるようなら来てくださいって、キャプテンが言ってましたよ?」
「何で俺が頭数に入ってんねん。部員ちゃうやろ……」
軽く言い合いを始めてしまった結衣と妹尾先輩に、蓮先輩がひとつ咳ばらいをする。
「まあ、俺は最後の文化祭実行委員会の打ち合わせがあって一緒には行けねえから、買い出しは達也と琉生と優芽に任せるわ。買い物は三人行けば人数的に多いくらいだし、陸人はサッカー部の助っ人に行ってやれ」
「ちょお、蓮まで片桐マネの肩持つなや!」
蓮先輩の言葉に、大袈裟に泣き真似をした妹尾先輩に、思わず笑いが起こった。
そうして、あたしは広瀬先輩と笹倉先輩と一緒に買い出しのために、街へと繰り出した。
学校から一番近い、大手チェーンのスーパーに足を踏み入れたあたしたち。
「とりあえず、何買えばいいんだっけ?」
広瀬先輩は、買い物カゴを片手に、キョロキョロと売り場を見回した。
「コーヒー豆と、パンケーキの材料じゃない? 僕らのカフェで出す物なんだし」
「いや、そんなこと分かってるけどさ、間違えたら蓮の奴うるさいじゃん」
そう言って、制服のズボンのポケットをあさる広瀬先輩。
「あ、あった!」
広瀬先輩のポケットからは、学校を出るときに蓮先輩から手渡されたメモが取り出された。
「えっと、コーヒー豆と卵と牛乳と……」
「ここで買う商品読み上げても仕方ないし、順に売り場を回ろうか」
メモを上から読みはじめた広瀬先輩に、笹倉先輩は眉を下げてそう言うと、コーヒー豆から順にあたしたちは売り場を回った。
「うっわー、結構な量だなあ。琉生も一緒に来て正解だったな!」
売り場を回ること一時間。
あたしたちは無事に目的の商品を見つけ出し、会計まで終わらせることが出来た。
「達也のその言い方、荷物持ち連れて来て良かった、とも聞こえるんだけど?」
両手にスーパーの袋を抱えた笹倉先輩が、同じく両手にスーパーの袋を持つ広瀬先輩を横目で見る。
「あ、あの……、先輩たち、絶対重いですよね? やっぱりあたしももっと持ちますよ」
あたしに手渡されたのは、二つの袋に分けて入れられた、卵のパックのみ。
「いいよいいよ。重いのは俺らに任せてさ、優芽ちゃんはその卵を割らないようにしてくれるだけで大丈夫だよ!」
ぱあっと明るい笑みを覗かせる広瀬先輩。
「でも……」
そうは言われても、やっぱり申し訳ないよ……。
「優芽ちゃんは女の子なんだから、力仕事は男の僕らに任せてよ」
「は、はい……」
笹倉先輩にまでそう言われて、思わずうなずいちゃったけど、本当にいいのかな……?
でも、あまりしつこく言い過ぎても、先輩たちの厚意を跳ね退けるみたいだし、あたしは素直に卵の入ったスーパーの袋をしっかりと持ち直した。
学校までは、徒歩で五分の距離だから、すぐに文化祭準備で賑わうグラウンドが目に映る。
「あれ、陸人じゃね? サッカー部って、出店何やるんだっけ?」
広瀬先輩の視線の先をたどる。
するとグラウンドの隅で、胴体だけ着ぐるみを着た状態の妹尾先輩が目に映った。
「さあ? でも、グラウンドを使ってるってことは、出店じゃなくて、何かショーをするんじゃない?」
「言われてみれば。桜ヶ丘はグラウンドでショーをするグループが多いもんな。ってことは、サッカー部は着ぐるみショーか? この暑い中大変だな」
笹倉先輩の説明に、広瀬先輩は納得したようにうなずいた。
「本当に。そりゃ陸人がサッカー部の出店の助っ人を嫌がる理由もわかるね」
笹倉先輩は、あははとおかしそうに笑った。
次の瞬間響くのは、怖いくらいに落ち着いた、笹倉先輩の声。
「人数は多い方がええやろうから、俺も行くわ!」
しかし、妹尾先輩が口を開いた瞬間、結衣の鋭い声が飛ぶ。
「妹尾先輩は、あたしとサッカー部の方のお手伝いに来てください」
「はあ? サッカー部は人数豊富とちゃうかったんか?」
「一応、前日はあたしと妹尾先輩は手が空いてるようなら来てくださいって、キャプテンが言ってましたよ?」
「何で俺が頭数に入ってんねん。部員ちゃうやろ……」
軽く言い合いを始めてしまった結衣と妹尾先輩に、蓮先輩がひとつ咳ばらいをする。
「まあ、俺は最後の文化祭実行委員会の打ち合わせがあって一緒には行けねえから、買い出しは達也と琉生と優芽に任せるわ。買い物は三人行けば人数的に多いくらいだし、陸人はサッカー部の助っ人に行ってやれ」
「ちょお、蓮まで片桐マネの肩持つなや!」
蓮先輩の言葉に、大袈裟に泣き真似をした妹尾先輩に、思わず笑いが起こった。
そうして、あたしは広瀬先輩と笹倉先輩と一緒に買い出しのために、街へと繰り出した。
学校から一番近い、大手チェーンのスーパーに足を踏み入れたあたしたち。
「とりあえず、何買えばいいんだっけ?」
広瀬先輩は、買い物カゴを片手に、キョロキョロと売り場を見回した。
「コーヒー豆と、パンケーキの材料じゃない? 僕らのカフェで出す物なんだし」
「いや、そんなこと分かってるけどさ、間違えたら蓮の奴うるさいじゃん」
そう言って、制服のズボンのポケットをあさる広瀬先輩。
「あ、あった!」
広瀬先輩のポケットからは、学校を出るときに蓮先輩から手渡されたメモが取り出された。
「えっと、コーヒー豆と卵と牛乳と……」
「ここで買う商品読み上げても仕方ないし、順に売り場を回ろうか」
メモを上から読みはじめた広瀬先輩に、笹倉先輩は眉を下げてそう言うと、コーヒー豆から順にあたしたちは売り場を回った。
「うっわー、結構な量だなあ。琉生も一緒に来て正解だったな!」
売り場を回ること一時間。
あたしたちは無事に目的の商品を見つけ出し、会計まで終わらせることが出来た。
「達也のその言い方、荷物持ち連れて来て良かった、とも聞こえるんだけど?」
両手にスーパーの袋を抱えた笹倉先輩が、同じく両手にスーパーの袋を持つ広瀬先輩を横目で見る。
「あ、あの……、先輩たち、絶対重いですよね? やっぱりあたしももっと持ちますよ」
あたしに手渡されたのは、二つの袋に分けて入れられた、卵のパックのみ。
「いいよいいよ。重いのは俺らに任せてさ、優芽ちゃんはその卵を割らないようにしてくれるだけで大丈夫だよ!」
ぱあっと明るい笑みを覗かせる広瀬先輩。
「でも……」
そうは言われても、やっぱり申し訳ないよ……。
「優芽ちゃんは女の子なんだから、力仕事は男の僕らに任せてよ」
「は、はい……」
笹倉先輩にまでそう言われて、思わずうなずいちゃったけど、本当にいいのかな……?
でも、あまりしつこく言い過ぎても、先輩たちの厚意を跳ね退けるみたいだし、あたしは素直に卵の入ったスーパーの袋をしっかりと持ち直した。
学校までは、徒歩で五分の距離だから、すぐに文化祭準備で賑わうグラウンドが目に映る。
「あれ、陸人じゃね? サッカー部って、出店何やるんだっけ?」
広瀬先輩の視線の先をたどる。
するとグラウンドの隅で、胴体だけ着ぐるみを着た状態の妹尾先輩が目に映った。
「さあ? でも、グラウンドを使ってるってことは、出店じゃなくて、何かショーをするんじゃない?」
「言われてみれば。桜ヶ丘はグラウンドでショーをするグループが多いもんな。ってことは、サッカー部は着ぐるみショーか? この暑い中大変だな」
笹倉先輩の説明に、広瀬先輩は納得したようにうなずいた。
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笹倉先輩は、あははとおかしそうに笑った。
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