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*第5章*
見ちゃった(1)
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文化祭前日。
あたしたち生徒会も、生徒会恒例メイドカフェの会場準備を進めていた。
あたしたちが使うのは、普段はあまり使われていない特別活動室と呼ばれる教室。
家庭科室は、料理部の出店に使われちゃうからね。
だけど、特別活動室の教室内には食器を洗うのに必要な流しも付いていて、こういった面では便利な教室なんだ。
結衣も生徒会のメイドカフェを手伝ってくれることになって、あたしは結衣と一緒に明日使う食器類を手分けして洗っている。
「れーん! IHとコーヒーミル借りれた~!」
広瀬先輩の声に振り返ると、頭上でコーヒーミルを左右に振る広瀬先輩と、IHを抱える妹尾先輩の姿。
「おう! ありがとな、暗幕内の厨房用の机の上に置いといてくれ!」
お客さんの飲食場になるフロアと、あたしたちが準備で使う厨房とを仕切る暗幕を設置している蓮先輩の声が響く。
そんな会話を聞いていると、いよいよ文化祭なんだって感じがしてくる。
「これ、洗い終わったお皿? 拭いてくよ」
そう言って、白い布巾とともに紳士の笑みを向けるのは、笹倉先輩。
「あ、ありがとうございます」
「だんだんと会場らしくなってきたね。片桐さんはわざわざサッカー部の方からこっちに出てきてくれてありがとう」
「いいえ。あたしも生徒会を手伝えて嬉しいです」
笹倉先輩の言葉に、結衣はにこりと笑ってそう返す。
「それなら良かった。二人とも、初めての文化祭は楽しみ?」
「はい。中学の文化祭はここまで派手じゃなかったので、すごく楽しみです」
「あたしも、出店とか初めてだしドキドキします……!」
結衣の言葉に、あたしも続けて答える。
「なら良かった。桜ヶ丘の文化祭は比較的派手だからね。後夜祭のフォークダンスは盛り上がるよ?」
「フォークダンス?」
「あれ? 知らない? 男子と女子が円になって踊るやつ」
「いや、知ってますけど……」
それが、そんなに盛り上がるの……?
「この学校の後夜祭のフォークダンスは、毎年、告白大会が盛大に行われるのよ」
あたしが首をかしげていると、結衣が教えてくれる。
「片桐さん、正解」
笹倉先輩が片手で小さく丸を作った。
「へえ、そうなんだー」
「優芽は、覚悟しといた方がいいんじゃない?」
結衣がおかしそうに笑う声とともに、あたしを見る。
「へ? 何で!?」
美人な結衣ならともかく、何であたし……?
「琉生ーっ、手空いとるなら、こっち手伝ってくれへんかー!?」
「じゃあ、僕、陸人に呼ばれたし、行くね」
笹倉先輩は、相変わらず混乱するあたしを見てふふっと笑うと、厨房の暗幕の中へと入って行った。
あたしと結衣が食器類を一通り洗い終えたときには、すでに教室内もカフェっぽく仕上がっていた。
お客さんが使うフロア側は、可愛らしい丸テーブルと丸椅子が設置され、暗幕で仕切った教室の奥側には、簡易の厨房が出来上がっていた。
「これが、みんなの明日のシフトだ」
蓮先輩から、一人一人に生徒会みんなのシフトを手渡される。
メイドカフェと言っても、生徒会の女子はあたし一人。
だから、基本的にあたしは常に接客が担当になるんだけどね。
先輩たちは、順に厨房内とウエイター役を交代するらしいから、シフトが結構重要になる。
蓮先輩のウエイター姿とか、絵になるくらい、かっこいいんだろうなあ……。
思わずそんなことを考えて、チラリと蓮先輩を見る。
あたしは散々メイド姿を皆さんに見られてるけど、先輩たちがウエイター姿になってるのは一度も見たことがない。
だから、今からすごく楽しみなんだ。
「会場内の準備はほぼ完了したし、あとは明日必要な食材の買い出しだな」
蓮先輩が、メモ書きのノートを眺めて口を開く。
「はいはいはーい! 買い出し、俺と優芽ちゃんで行ってくるなー!」
「え? あ、あたし!?」
元気よく手を挙げる広瀬先輩の思わぬ発言に、思わず飛び上がる。
あたしたち生徒会も、生徒会恒例メイドカフェの会場準備を進めていた。
あたしたちが使うのは、普段はあまり使われていない特別活動室と呼ばれる教室。
家庭科室は、料理部の出店に使われちゃうからね。
だけど、特別活動室の教室内には食器を洗うのに必要な流しも付いていて、こういった面では便利な教室なんだ。
結衣も生徒会のメイドカフェを手伝ってくれることになって、あたしは結衣と一緒に明日使う食器類を手分けして洗っている。
「れーん! IHとコーヒーミル借りれた~!」
広瀬先輩の声に振り返ると、頭上でコーヒーミルを左右に振る広瀬先輩と、IHを抱える妹尾先輩の姿。
「おう! ありがとな、暗幕内の厨房用の机の上に置いといてくれ!」
お客さんの飲食場になるフロアと、あたしたちが準備で使う厨房とを仕切る暗幕を設置している蓮先輩の声が響く。
そんな会話を聞いていると、いよいよ文化祭なんだって感じがしてくる。
「これ、洗い終わったお皿? 拭いてくよ」
そう言って、白い布巾とともに紳士の笑みを向けるのは、笹倉先輩。
「あ、ありがとうございます」
「だんだんと会場らしくなってきたね。片桐さんはわざわざサッカー部の方からこっちに出てきてくれてありがとう」
「いいえ。あたしも生徒会を手伝えて嬉しいです」
笹倉先輩の言葉に、結衣はにこりと笑ってそう返す。
「それなら良かった。二人とも、初めての文化祭は楽しみ?」
「はい。中学の文化祭はここまで派手じゃなかったので、すごく楽しみです」
「あたしも、出店とか初めてだしドキドキします……!」
結衣の言葉に、あたしも続けて答える。
「なら良かった。桜ヶ丘の文化祭は比較的派手だからね。後夜祭のフォークダンスは盛り上がるよ?」
「フォークダンス?」
「あれ? 知らない? 男子と女子が円になって踊るやつ」
「いや、知ってますけど……」
それが、そんなに盛り上がるの……?
「この学校の後夜祭のフォークダンスは、毎年、告白大会が盛大に行われるのよ」
あたしが首をかしげていると、結衣が教えてくれる。
「片桐さん、正解」
笹倉先輩が片手で小さく丸を作った。
「へえ、そうなんだー」
「優芽は、覚悟しといた方がいいんじゃない?」
結衣がおかしそうに笑う声とともに、あたしを見る。
「へ? 何で!?」
美人な結衣ならともかく、何であたし……?
「琉生ーっ、手空いとるなら、こっち手伝ってくれへんかー!?」
「じゃあ、僕、陸人に呼ばれたし、行くね」
笹倉先輩は、相変わらず混乱するあたしを見てふふっと笑うと、厨房の暗幕の中へと入って行った。
あたしと結衣が食器類を一通り洗い終えたときには、すでに教室内もカフェっぽく仕上がっていた。
お客さんが使うフロア側は、可愛らしい丸テーブルと丸椅子が設置され、暗幕で仕切った教室の奥側には、簡易の厨房が出来上がっていた。
「これが、みんなの明日のシフトだ」
蓮先輩から、一人一人に生徒会みんなのシフトを手渡される。
メイドカフェと言っても、生徒会の女子はあたし一人。
だから、基本的にあたしは常に接客が担当になるんだけどね。
先輩たちは、順に厨房内とウエイター役を交代するらしいから、シフトが結構重要になる。
蓮先輩のウエイター姿とか、絵になるくらい、かっこいいんだろうなあ……。
思わずそんなことを考えて、チラリと蓮先輩を見る。
あたしは散々メイド姿を皆さんに見られてるけど、先輩たちがウエイター姿になってるのは一度も見たことがない。
だから、今からすごく楽しみなんだ。
「会場内の準備はほぼ完了したし、あとは明日必要な食材の買い出しだな」
蓮先輩が、メモ書きのノートを眺めて口を開く。
「はいはいはーい! 買い出し、俺と優芽ちゃんで行ってくるなー!」
「え? あ、あたし!?」
元気よく手を挙げる広瀬先輩の思わぬ発言に、思わず飛び上がる。
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