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*第5章*
メイド服の誘惑(1)
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夏休みを終えると、桜ヶ丘高校は一気に文化祭モード全開になった。
出店や展示は、基本的には有志で募るらしい。
あたしたち生徒会執行部も、文化祭の運営をしながら生徒会毎年恒例の出店をしなければならないのだけど……。
「メ、メイドカフェ!?」
信じられないと言わんばかりのあたしの声が、生徒会室に響く。
「いちいち叫ぶな。この学校の習慣みたいなもんなんだから、仕方ねえだろ?」
蓮先輩が、いかにもうるさいと言わんばかりに顔をしかめる。
そう言われても、何で生徒会毎年恒例の出店が、メイドカフェ……?
「で、でも、あたしにメイドなんて、無理ですよ!」
「優芽ちゃんには悪いけど、そんなこと言われたら困るんだよね」
蓮先輩に抗議するあたしをなだめるように、笹倉先輩の声がかかる。
あたしが笹倉先輩の方へ振り返ると、笹倉先輩は申し訳なさげに眉を下げていた。
「だって、僕らの中で優芽ちゃんは唯一の花なわけで、優芽ちゃんがメイドしないで、誰がメイド役するのって話だし」
「そ、そう言われましても……」
「大丈夫や。メイド言うても格好だけやから。いくらなんでも、俺らがメイド服着るわけにはいかへんしな」
「確かに。生徒会に男しかいない年は、男がメイドの格好した年もあったらしいけどさ。さすがに蓮や陸人のメイド姿だなんて、想像するだけで吐き気しかしねーしな」
妹尾先輩と広瀬先輩にも申し訳なさげに言われて、あたしは言葉に詰まってしまった。
「まあ、そういうことだ。俺としても不本意だが、おまえにはメイドの格好をしてもらう」
ふ、不本意って……。
やっぱり蓮先輩もあたしにメイドなんて似合わないって、思ってるんじゃん。
あたしが小さく肩を落とすと同時に、広瀬先輩が陽気な声とともにあたしの前に飛び出してくる。
「ちなみに、これが衣装なあ~」
じゃーん!
とノリのいい声とともに、目の前に差し出された衣装に、意識が遠退きそうになる。
黒を基調とした服に、白や黒のフリルがたくさんついた、メイド服。
これ、スカート丈短すぎないかな……?
「ぜーっ対、優芽ちゃん、似合うぜ~? 何ならさ、俺とあっちで着替えよ?」
そう言って、あたしの手をぎゅっと握る広瀬先輩。
しかし、それは一瞬。
「いでででででっ!! れ、蓮、おまえ何すんだよ!」
あたしの手を握った広瀬先輩の手は、次の瞬間には蓮先輩によって捻り上げられていた。
「おまえの顔つきがいやらしいからだろ? あからさまに鼻の下伸ばして、優芽に触るな」
「この言い方、酷くね?」
広瀬先輩がきゅるんと目を潤ませてあたしを見る。
しかし、あたしが何か答えるより先に、先程まで広瀬先輩が持ってたメイド服が、蓮先輩によってあたしの目の前に突き出された。
「まあ、万が一のこともある。こいつらは俺が見張ってるから、念のため試着だけして来い」
「は、はい……」
あたしはメイド服を受け取ると、渋々ながらに生徒会室をあとにした。
女子トイレの個室でメイド服に着替えるも、あたしはトイレから出るに出れなくなっていた。
やっぱり、このスカート、短すぎるよーっ!!
服自体はフリルやリボンがたくさん施されていてすごく可愛いメイド服なんだけど、とにかく丈が短い。
これじゃあ、おじぎしたら下着見えちゃうよ……。
気休めのように、スカートの裾を引っ張る。
でも、蓮先輩に試着して来いって言われて着替えたわけだし……。
やっぱり一度はこの姿で、生徒会室に戻らなきゃダメだよね……?
試着して来なかったって思われたら、嫌だし……。
あたしはそそくさとトイレを飛び出して、生徒会室へと駆け込んだ。
この階のトイレが生徒会室から近くて助かったよ……。
生徒会室の内扉を開く。
「す、すみません! き、着替えて来ました!」
皆さんの視線が、一気にあたしに注がれて、顔が熱くなる。
は、恥ずかしいよぅ……。
だけど、なかなか誰も何も言ってくれなくて、不安になる。
もしかして、似合ってなかったのかな……?
あたしが思わずきゅっと目をつむったとき。
「……やっべ。すげえ可愛い……」
「へ?」
そんな声が聞こえたと思って目を開けると、その瞬間にはぎゅうっと広瀬先輩に抱き着かれていた。
「……え、あ、ちょ、ひ、広瀬、先輩っ!?」
「この服、完全に誘ってるとしか言えないよね?」
「さ、笹倉先輩まで……!?」
気づいたときには、あたしの背後に笹倉先輩が回り込んでいて、クイッと顎を持ち上げられていた。
腰に回された手が、すごく恥ずかしいんだけど……。
出店や展示は、基本的には有志で募るらしい。
あたしたち生徒会執行部も、文化祭の運営をしながら生徒会毎年恒例の出店をしなければならないのだけど……。
「メ、メイドカフェ!?」
信じられないと言わんばかりのあたしの声が、生徒会室に響く。
「いちいち叫ぶな。この学校の習慣みたいなもんなんだから、仕方ねえだろ?」
蓮先輩が、いかにもうるさいと言わんばかりに顔をしかめる。
そう言われても、何で生徒会毎年恒例の出店が、メイドカフェ……?
「で、でも、あたしにメイドなんて、無理ですよ!」
「優芽ちゃんには悪いけど、そんなこと言われたら困るんだよね」
蓮先輩に抗議するあたしをなだめるように、笹倉先輩の声がかかる。
あたしが笹倉先輩の方へ振り返ると、笹倉先輩は申し訳なさげに眉を下げていた。
「だって、僕らの中で優芽ちゃんは唯一の花なわけで、優芽ちゃんがメイドしないで、誰がメイド役するのって話だし」
「そ、そう言われましても……」
「大丈夫や。メイド言うても格好だけやから。いくらなんでも、俺らがメイド服着るわけにはいかへんしな」
「確かに。生徒会に男しかいない年は、男がメイドの格好した年もあったらしいけどさ。さすがに蓮や陸人のメイド姿だなんて、想像するだけで吐き気しかしねーしな」
妹尾先輩と広瀬先輩にも申し訳なさげに言われて、あたしは言葉に詰まってしまった。
「まあ、そういうことだ。俺としても不本意だが、おまえにはメイドの格好をしてもらう」
ふ、不本意って……。
やっぱり蓮先輩もあたしにメイドなんて似合わないって、思ってるんじゃん。
あたしが小さく肩を落とすと同時に、広瀬先輩が陽気な声とともにあたしの前に飛び出してくる。
「ちなみに、これが衣装なあ~」
じゃーん!
とノリのいい声とともに、目の前に差し出された衣装に、意識が遠退きそうになる。
黒を基調とした服に、白や黒のフリルがたくさんついた、メイド服。
これ、スカート丈短すぎないかな……?
「ぜーっ対、優芽ちゃん、似合うぜ~? 何ならさ、俺とあっちで着替えよ?」
そう言って、あたしの手をぎゅっと握る広瀬先輩。
しかし、それは一瞬。
「いでででででっ!! れ、蓮、おまえ何すんだよ!」
あたしの手を握った広瀬先輩の手は、次の瞬間には蓮先輩によって捻り上げられていた。
「おまえの顔つきがいやらしいからだろ? あからさまに鼻の下伸ばして、優芽に触るな」
「この言い方、酷くね?」
広瀬先輩がきゅるんと目を潤ませてあたしを見る。
しかし、あたしが何か答えるより先に、先程まで広瀬先輩が持ってたメイド服が、蓮先輩によってあたしの目の前に突き出された。
「まあ、万が一のこともある。こいつらは俺が見張ってるから、念のため試着だけして来い」
「は、はい……」
あたしはメイド服を受け取ると、渋々ながらに生徒会室をあとにした。
女子トイレの個室でメイド服に着替えるも、あたしはトイレから出るに出れなくなっていた。
やっぱり、このスカート、短すぎるよーっ!!
服自体はフリルやリボンがたくさん施されていてすごく可愛いメイド服なんだけど、とにかく丈が短い。
これじゃあ、おじぎしたら下着見えちゃうよ……。
気休めのように、スカートの裾を引っ張る。
でも、蓮先輩に試着して来いって言われて着替えたわけだし……。
やっぱり一度はこの姿で、生徒会室に戻らなきゃダメだよね……?
試着して来なかったって思われたら、嫌だし……。
あたしはそそくさとトイレを飛び出して、生徒会室へと駆け込んだ。
この階のトイレが生徒会室から近くて助かったよ……。
生徒会室の内扉を開く。
「す、すみません! き、着替えて来ました!」
皆さんの視線が、一気にあたしに注がれて、顔が熱くなる。
は、恥ずかしいよぅ……。
だけど、なかなか誰も何も言ってくれなくて、不安になる。
もしかして、似合ってなかったのかな……?
あたしが思わずきゅっと目をつむったとき。
「……やっべ。すげえ可愛い……」
「へ?」
そんな声が聞こえたと思って目を開けると、その瞬間にはぎゅうっと広瀬先輩に抱き着かれていた。
「……え、あ、ちょ、ひ、広瀬、先輩っ!?」
「この服、完全に誘ってるとしか言えないよね?」
「さ、笹倉先輩まで……!?」
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