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*第4章*
甘い寝息(2)
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「やめといた方がいいんじゃないですか? 優芽に迷惑です」
まるでこの場の空気をぶった切るように、ピシャリとそう言い切ったのは、片桐さん。
「仮に迷惑と優芽が感じなくても、会長の二番煎じみたいでカッコ悪いと思いますよ」
優芽ちゃんの親友の片桐さんは、大人しそうに見えて、結構トゲのある性格をしている。
さすがの達也も、彼女のことは苦手らしい。
「まあ、そうだけどさあ……」
達也はどこか腑に落ちない表情を浮かべて、引っ込んでしまった。
「妹尾先輩も、優芽のことばかり考えてないで、サッカー部の次の試合に向けて、知恵を貸してくださいよ!」
「あー、はいはい。分かったから……」
座席の隙間から後部席を覗き見ると、陸人の腕に絡み付く、片桐さん。
陸人に気があるのか知らないけれど、この合宿中もやたらと片桐さんは陸人に近づいては困らせていたからな。
まあ、僕としては陸人と優芽ちゃんがくっつく邪魔をしてもらえて、好都合なんだけど。
だけど、一見陸人に気があるように見えて、実は違うんじゃないかって思う行動も彼女は取っている。
みんなは気づいてないみたいだけど……。
実はこの合宿中、片桐さんがコソコソと蓮と二人きりで会っているのを、何回か見たんだ。
蓮は蓮で、みんなの前では全然片桐さんと話さないくせに、二人で会ってるときは、やけに親しげな表情を浮かべていたし……。
僕の、見間違いか?
まあ、蓮が片桐さんとどうにかなったところで、それはそれで、僕にとっては好都合だし、いいんだけど。
そこまで思考を回したとき。
「ん、んー……」
優芽ちゃんの甘い寝息混じりの声が聞こえたかと思えば、コテンとこちらに身体を預けてくる。
優芽ちゃんの頭が乗った僕の肩から、一気に心拍数が上がるような気がした。
バーベキューのとき、優芽ちゃんと抜け出したときははっきり“好き”とは言えなかったけど、優芽ちゃんはどう思ったのか、とか余計な考えが頭を駆け巡る。
だけど、次の瞬間、小さく聞こえた優芽ちゃんの寝言に、僕の胸の高鳴りは一気に消え去った。
「れ……、ん、先輩……」
そう言って、眠ったまま僕の腕に手を添える優芽ちゃん。
何で、ここで蓮なんだよ……。
蓮も優芽ちゃんに気があるようにも見えるけど、実際のところは分からない。
片桐さんとのこともあるし……。
達也や陸人なんかは、一目瞭然なんだけど。
まあ、いずれにせよ、身内にライバルがいることに変わりない。
みんな大切な仲間だけど、だからこそ、妥協なんて一切なしだ。
寝言で蓮の名前を呼ぶとか、一体、どんな夢を見てるのか……。
所詮寝言といえど、気に食わない。
事ある度にこちらの予想を上回る反応をして、何かと表情をコロコロと変える優芽ちゃん。
そんな優芽ちゃんの反応や表情を楽しんでいるうちに、すっかり僕は彼女の虜になってしまった。
いろんな優芽ちゃんを見たくてつい意地悪もしちゃうけど、優芽ちゃんを想うこの気持ちだけは誰にも負けない自信がある。
だから……。
「……僕にしときなよ」
僕に身体を預けて来た優芽ちゃんを誰にも気づかれないように抱き寄せて、耳元で小さく囁いていた。
優芽ちゃんから返って来たのは、さっきから聞こえていた可愛い寝息だけだった。
まるでこの場の空気をぶった切るように、ピシャリとそう言い切ったのは、片桐さん。
「仮に迷惑と優芽が感じなくても、会長の二番煎じみたいでカッコ悪いと思いますよ」
優芽ちゃんの親友の片桐さんは、大人しそうに見えて、結構トゲのある性格をしている。
さすがの達也も、彼女のことは苦手らしい。
「まあ、そうだけどさあ……」
達也はどこか腑に落ちない表情を浮かべて、引っ込んでしまった。
「妹尾先輩も、優芽のことばかり考えてないで、サッカー部の次の試合に向けて、知恵を貸してくださいよ!」
「あー、はいはい。分かったから……」
座席の隙間から後部席を覗き見ると、陸人の腕に絡み付く、片桐さん。
陸人に気があるのか知らないけれど、この合宿中もやたらと片桐さんは陸人に近づいては困らせていたからな。
まあ、僕としては陸人と優芽ちゃんがくっつく邪魔をしてもらえて、好都合なんだけど。
だけど、一見陸人に気があるように見えて、実は違うんじゃないかって思う行動も彼女は取っている。
みんなは気づいてないみたいだけど……。
実はこの合宿中、片桐さんがコソコソと蓮と二人きりで会っているのを、何回か見たんだ。
蓮は蓮で、みんなの前では全然片桐さんと話さないくせに、二人で会ってるときは、やけに親しげな表情を浮かべていたし……。
僕の、見間違いか?
まあ、蓮が片桐さんとどうにかなったところで、それはそれで、僕にとっては好都合だし、いいんだけど。
そこまで思考を回したとき。
「ん、んー……」
優芽ちゃんの甘い寝息混じりの声が聞こえたかと思えば、コテンとこちらに身体を預けてくる。
優芽ちゃんの頭が乗った僕の肩から、一気に心拍数が上がるような気がした。
バーベキューのとき、優芽ちゃんと抜け出したときははっきり“好き”とは言えなかったけど、優芽ちゃんはどう思ったのか、とか余計な考えが頭を駆け巡る。
だけど、次の瞬間、小さく聞こえた優芽ちゃんの寝言に、僕の胸の高鳴りは一気に消え去った。
「れ……、ん、先輩……」
そう言って、眠ったまま僕の腕に手を添える優芽ちゃん。
何で、ここで蓮なんだよ……。
蓮も優芽ちゃんに気があるようにも見えるけど、実際のところは分からない。
片桐さんとのこともあるし……。
達也や陸人なんかは、一目瞭然なんだけど。
まあ、いずれにせよ、身内にライバルがいることに変わりない。
みんな大切な仲間だけど、だからこそ、妥協なんて一切なしだ。
寝言で蓮の名前を呼ぶとか、一体、どんな夢を見てるのか……。
所詮寝言といえど、気に食わない。
事ある度にこちらの予想を上回る反応をして、何かと表情をコロコロと変える優芽ちゃん。
そんな優芽ちゃんの反応や表情を楽しんでいるうちに、すっかり僕は彼女の虜になってしまった。
いろんな優芽ちゃんを見たくてつい意地悪もしちゃうけど、優芽ちゃんを想うこの気持ちだけは誰にも負けない自信がある。
だから……。
「……僕にしときなよ」
僕に身体を預けて来た優芽ちゃんを誰にも気づかれないように抱き寄せて、耳元で小さく囁いていた。
優芽ちゃんから返って来たのは、さっきから聞こえていた可愛い寝息だけだった。
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