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*第4章*
甘い寝息(1)
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【琉生Side】
生徒会の夏の合宿の全日程を終えた僕たちは、中型車に揺られながら帰路についていた。
運転手は、幼い頃から僕の面倒をよく見てくれた、使用人の中井さんだ。
車内は、運転席の後ろに、座席が三列ずつ並んでいる。
最前列の席は、蓮と達也。
真ん中には、僕と優芽ちゃん。
そして、後部席には陸人と片桐さんが座る。
僕の前に座る達也が、こちらを振り返る。
「いいなあ、琉生は優芽ちゃんの隣。おまえ、バーベキューのときといい、無駄にあみだくじ運強くね?」
そう。帰りの車のこの座席も、片桐さんの案であみだくじで決まったんだ。
「仕方ねえだろ。くじで決まったんだから文句も言えねえし」
こちらを見つめて肩を落とす達也に、蓮が口を開く。
「はああ。何が楽しくて、俺は蓮の隣の席なんだよ……」
「嫌ならここで運転手さんに頼んで、おまえだけ降ろしてもらってもいいけど」
「ま、待て待て。それは勘弁……」
目の前でぎゃいぎゃい騒ぐ達也を横目に、僕はそっと優芽ちゃんに視線を落とす。
三泊四日。
よっぽど疲れてたんだろうな。
優芽ちゃんは、車に乗ってからというもの、すぐに眠ってしまった。
色白い肌に、ほのかにピンクがかった柔らかそうな頬を見ていると、思わずそこに触れたい衝動に駆られる。
「ってかさあ、朝から気になってたんだけど、いつの間に優芽ちゃんって、蓮のことだけ名前呼びするようになったんだよ」
前方から聞こえた達也の声に、耳の穴をこじ開ける。
その声は、後部席の陸人にも聞こえたようで、陸人も僕らの席の背もたれに身を乗り出して口を開く。
「ほんまに。いつの間にか神崎先輩から蓮先輩に変わっとるんやもんなあ」
今朝僕らが目を覚まして別荘のリビングに降りたときには、すでに朝ごはんを済ませていた蓮と優芽ちゃん。
昨日までとは違う、二人の間の変化には誰もが気づいていた。
『優芽』
『蓮先輩』
確かに昨日の時点では、カレー女、神崎先輩と呼び合っていたはずだったのに……。
二人は、いつ、どうなって、ああいう関係になったのか。
「別に、ただの交換条件だ」
「はあ? 交換条件?」
蓮のこたえに、素っ頓狂な声を上げる達也。
交換条件……?
「何やそれ。優芽ちゃんが蓮に名前で呼べとでも言ったみたいな言い方やんか」
陸人も不服そうに口を尖らせる。
「まあ、そんなところだ」
だけど、あっさりとそれを肯定した蓮。
後ろから見ていても分かるくらいに、達也はがっくりと肩を落とした。
だけど、そこだけ聞いて落ち込むのは、早くない?
だって……。
「なるほどねー。さすがの優芽ちゃんも、蓮にカレー女って呼ばれるのに耐えられなくなったんだね?」
「あ? 何だ琉生、嫌みか?」
「別に。蓮が優芽ちゃんに、自分だけ名前で呼んでもらえるように仕向けてたのかなって」
「俺はおまえみたいに黒くねえよ」
蓮は面倒臭そうにため息を落とすと、視線を前方へと移した。
まあ、僕が若干腹黒いのは知ってるけどさ。
「でも蓮だけそんな理由でずるくね? 俺のことも名前で呼んでって頼もうかなあ~?」
達也がこちらに身を乗り出して、眠る優芽ちゃんを見つめる。
生徒会の夏の合宿の全日程を終えた僕たちは、中型車に揺られながら帰路についていた。
運転手は、幼い頃から僕の面倒をよく見てくれた、使用人の中井さんだ。
車内は、運転席の後ろに、座席が三列ずつ並んでいる。
最前列の席は、蓮と達也。
真ん中には、僕と優芽ちゃん。
そして、後部席には陸人と片桐さんが座る。
僕の前に座る達也が、こちらを振り返る。
「いいなあ、琉生は優芽ちゃんの隣。おまえ、バーベキューのときといい、無駄にあみだくじ運強くね?」
そう。帰りの車のこの座席も、片桐さんの案であみだくじで決まったんだ。
「仕方ねえだろ。くじで決まったんだから文句も言えねえし」
こちらを見つめて肩を落とす達也に、蓮が口を開く。
「はああ。何が楽しくて、俺は蓮の隣の席なんだよ……」
「嫌ならここで運転手さんに頼んで、おまえだけ降ろしてもらってもいいけど」
「ま、待て待て。それは勘弁……」
目の前でぎゃいぎゃい騒ぐ達也を横目に、僕はそっと優芽ちゃんに視線を落とす。
三泊四日。
よっぽど疲れてたんだろうな。
優芽ちゃんは、車に乗ってからというもの、すぐに眠ってしまった。
色白い肌に、ほのかにピンクがかった柔らかそうな頬を見ていると、思わずそこに触れたい衝動に駆られる。
「ってかさあ、朝から気になってたんだけど、いつの間に優芽ちゃんって、蓮のことだけ名前呼びするようになったんだよ」
前方から聞こえた達也の声に、耳の穴をこじ開ける。
その声は、後部席の陸人にも聞こえたようで、陸人も僕らの席の背もたれに身を乗り出して口を開く。
「ほんまに。いつの間にか神崎先輩から蓮先輩に変わっとるんやもんなあ」
今朝僕らが目を覚まして別荘のリビングに降りたときには、すでに朝ごはんを済ませていた蓮と優芽ちゃん。
昨日までとは違う、二人の間の変化には誰もが気づいていた。
『優芽』
『蓮先輩』
確かに昨日の時点では、カレー女、神崎先輩と呼び合っていたはずだったのに……。
二人は、いつ、どうなって、ああいう関係になったのか。
「別に、ただの交換条件だ」
「はあ? 交換条件?」
蓮のこたえに、素っ頓狂な声を上げる達也。
交換条件……?
「何やそれ。優芽ちゃんが蓮に名前で呼べとでも言ったみたいな言い方やんか」
陸人も不服そうに口を尖らせる。
「まあ、そんなところだ」
だけど、あっさりとそれを肯定した蓮。
後ろから見ていても分かるくらいに、達也はがっくりと肩を落とした。
だけど、そこだけ聞いて落ち込むのは、早くない?
だって……。
「なるほどねー。さすがの優芽ちゃんも、蓮にカレー女って呼ばれるのに耐えられなくなったんだね?」
「あ? 何だ琉生、嫌みか?」
「別に。蓮が優芽ちゃんに、自分だけ名前で呼んでもらえるように仕向けてたのかなって」
「俺はおまえみたいに黒くねえよ」
蓮は面倒臭そうにため息を落とすと、視線を前方へと移した。
まあ、僕が若干腹黒いのは知ってるけどさ。
「でも蓮だけそんな理由でずるくね? 俺のことも名前で呼んでって頼もうかなあ~?」
達也がこちらに身を乗り出して、眠る優芽ちゃんを見つめる。
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