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*第4章*
交換条件!?(2)
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「……でも、あのときあたしのことを優芽って呼んでくれたのは、神崎先輩だったんですよね?」
「それがどうかしたか?」
どうかしたか? って……。
っていうか、やっぱり神崎先輩だったんだ。
さも問題なさげに言う神崎先輩だけど……。
「いつも神崎先輩、あたしのことカレー女って呼ぶから……」
「ああ、そうだったな」
ハハッと思い出したように笑う神崎先輩。
「そうですよ! あたしには、ちゃんと葉山優芽って名前があるんですから!」
「そんなにムキにならなくても、知ってるから」
はいはい、と子どもをなだめるように言われる。
「それなら名前で呼んでくださいよ! いつまでもカレー女だなんて嫌です」
「そうか。そんなに俺に名前で呼ばれたいのか?」
名前で呼ばれたいって、改めて声に出して言われると、恥ずかしい……。
でも、ここで負けたら、いつまで経ってもカレー女のままだ。
「そうですよ! 肝試しのときだって名前で呼んでもらえて、あたし、嬉しかったんですから!!」
もうヤケになってそう言うと、ククッと肩を震わせて笑う神崎先輩。
「仕方ねえなあ。じゃあ望み通り呼んでやるよ」
「本当ですか!?」
「そのかわり、おまえも俺のこと名前で呼べよ?」
「へ……?」
神崎先輩を、名前で……?
「ちょ、ちょっと待ってください! それ、どういう意味ですか!?」
「は? もしかしておまえ、この程度の日本語も理解できねえのか?」
「……意味くらい、わかりますよ……」
「じゃあ呼べよ。交換条件だ」
ええええっ!?
何でそうなるの?
「まさか、俺の名前、覚えてねえなんてことないだろうな?」
「……覚えてますよ」
「じゃあ、呼んでみろよ」
何でこうなるのよぉぉ……。
男子の名前自体、苗字でしか呼んだことないのに……。
しかも、その初めて名前で呼ぶ相手が神崎先輩だなんて……。
バクバクと心臓が痛いくらいに音を立てる。
あたしは、その音に負けないように、声を絞り出す。
「……れ」
だけど、やっぱり恥ずかしいよぅ……。
「……れ、れ……」
「れ?」
神崎先輩があたしの顔を覗き込むように見る。
先輩、距離が、近いです……。
恥ずかしさに、思わず目をつむる。
「れ、れ……、れんこん!!」
その瞬間、思わず違う単語が口から飛び出した。
「バカ! 誰がれんこんだ! 俺はそんな穴だらけじゃねえぞ!?」
「す、すみません……っ!!」
ひゃああ!!
ど、どうしよう!!
「しかも、れんこんって……。“根”が余計なんだよ」
神崎先輩は砂浜に“蓮根”と漢字で書いて、“根”の部分を大きくバツした。
れんこんって漢字で書くと蓮根なんだ……。
「あ、じゃあ惜しかったんですね……」
思わずそんなことを言ってしまい、神崎先輩は顔をしかめてあたしを見る。
「惜しいわけねえだろ! おまえは一生、カレー女だ」
「え!? それは……っ」
あたしが慌ててそう言うと、神崎先輩がグッとあたしの顔に顔を近づけてくる。
「それが嫌なら真面目に呼べよ」
こんな交換条件……。
神崎先輩の意地悪……。
「……ほら?」
先を促されて、緊張で身体が震える。
「れ、……蓮、先輩」
自分でもびっくりするくらい、今にも消えそうな弱々しい声だった。
言い終わったときには、恥ずかしくて、思いっきり目をつむってうつむいていた。
だけど、神崎先輩は何も言ってくれなくて……。
あたしは、恐る恐る目を開けて、神崎先輩を見上げる。
もしかして、あたしの声が小さすぎて、聞こえてなかったのかな……?
「それがどうかしたか?」
どうかしたか? って……。
っていうか、やっぱり神崎先輩だったんだ。
さも問題なさげに言う神崎先輩だけど……。
「いつも神崎先輩、あたしのことカレー女って呼ぶから……」
「ああ、そうだったな」
ハハッと思い出したように笑う神崎先輩。
「そうですよ! あたしには、ちゃんと葉山優芽って名前があるんですから!」
「そんなにムキにならなくても、知ってるから」
はいはい、と子どもをなだめるように言われる。
「それなら名前で呼んでくださいよ! いつまでもカレー女だなんて嫌です」
「そうか。そんなに俺に名前で呼ばれたいのか?」
名前で呼ばれたいって、改めて声に出して言われると、恥ずかしい……。
でも、ここで負けたら、いつまで経ってもカレー女のままだ。
「そうですよ! 肝試しのときだって名前で呼んでもらえて、あたし、嬉しかったんですから!!」
もうヤケになってそう言うと、ククッと肩を震わせて笑う神崎先輩。
「仕方ねえなあ。じゃあ望み通り呼んでやるよ」
「本当ですか!?」
「そのかわり、おまえも俺のこと名前で呼べよ?」
「へ……?」
神崎先輩を、名前で……?
「ちょ、ちょっと待ってください! それ、どういう意味ですか!?」
「は? もしかしておまえ、この程度の日本語も理解できねえのか?」
「……意味くらい、わかりますよ……」
「じゃあ呼べよ。交換条件だ」
ええええっ!?
何でそうなるの?
「まさか、俺の名前、覚えてねえなんてことないだろうな?」
「……覚えてますよ」
「じゃあ、呼んでみろよ」
何でこうなるのよぉぉ……。
男子の名前自体、苗字でしか呼んだことないのに……。
しかも、その初めて名前で呼ぶ相手が神崎先輩だなんて……。
バクバクと心臓が痛いくらいに音を立てる。
あたしは、その音に負けないように、声を絞り出す。
「……れ」
だけど、やっぱり恥ずかしいよぅ……。
「……れ、れ……」
「れ?」
神崎先輩があたしの顔を覗き込むように見る。
先輩、距離が、近いです……。
恥ずかしさに、思わず目をつむる。
「れ、れ……、れんこん!!」
その瞬間、思わず違う単語が口から飛び出した。
「バカ! 誰がれんこんだ! 俺はそんな穴だらけじゃねえぞ!?」
「す、すみません……っ!!」
ひゃああ!!
ど、どうしよう!!
「しかも、れんこんって……。“根”が余計なんだよ」
神崎先輩は砂浜に“蓮根”と漢字で書いて、“根”の部分を大きくバツした。
れんこんって漢字で書くと蓮根なんだ……。
「あ、じゃあ惜しかったんですね……」
思わずそんなことを言ってしまい、神崎先輩は顔をしかめてあたしを見る。
「惜しいわけねえだろ! おまえは一生、カレー女だ」
「え!? それは……っ」
あたしが慌ててそう言うと、神崎先輩がグッとあたしの顔に顔を近づけてくる。
「それが嫌なら真面目に呼べよ」
こんな交換条件……。
神崎先輩の意地悪……。
「……ほら?」
先を促されて、緊張で身体が震える。
「れ、……蓮、先輩」
自分でもびっくりするくらい、今にも消えそうな弱々しい声だった。
言い終わったときには、恥ずかしくて、思いっきり目をつむってうつむいていた。
だけど、神崎先輩は何も言ってくれなくて……。
あたしは、恐る恐る目を開けて、神崎先輩を見上げる。
もしかして、あたしの声が小さすぎて、聞こえてなかったのかな……?
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