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*第4章*

交換条件!?(1)

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 結局、なかなか寝付けなかったあたしは、少しウトウトしたものの、明け方早くに再び目が冴えてしまった。

 枕元の携帯で時刻を確認するも、まだ午前五時半になったところだった。

 みんなが起きるのは七時。

 隣のベッドでは、相変わらず結衣が気持ち良さそうに眠っていた。

 どことなく落ち着かなくて、少し一人になろうと思って、あたしは再び別荘を出た。

 海岸の方へ下りるも、そこには既に先客が居た。

 不意に振り返る人物に、目を見開く。


「あ……」

「……カレー女?」

 そこには、黒いTシャツにジャージという、ラフな格好をした神崎先輩が座っていた。

 まさか、こんなところで出くわしちゃうなんて……。


 思い返してみれば、昨夜別荘に戻ったときに閉めたはずの鍵は、先程は開いていた。

 つまり、誰かが外に居ても全然おかしくない状況だったんだ……。


「す、すみません……。あたしは、これで……」

 あたしが逃げるようにそう言って、別荘に引き返そうとするも、神崎先輩に呼び止められる。


「待てよ」

「え……」

「こっち、来いよ」

 そう言って、自分の隣の空いた空間を片手でポンポンと叩く神崎先輩。


「は、はい……」

 あたしは神崎先輩に促されるように、神崎先輩の隣に腰を下ろす。

 あたしを横目でジッと見る神崎先輩。


「あ、あの……っ」

「……身体は、しんどくなったりしてねえか?」

「へ!?」

 身体? 何で?

 確かに眠れなくて寝不足だけど、そんなに体調悪そうに見えたのかな……?

 あたしの戸惑う様子に、神崎先輩は言葉を付け加える。


「この三日程、結構出づっぱりだったし。この前、おまえ、熱中症でぶっ倒れてたじゃん」

 神崎先輩らしくなく、言葉を詰まらせて。


「だから、その、あんまり身体強くないのかなって思って」

 不器用な物言いだけど、神崎先輩があたしの体調を気にかけてくれてたことが伝わってきて、胸が熱くなる。


「あたしは大丈夫です。心配して下さりありがとうございます」

「べ、別にそんなんじゃねえよ。やっぱり、生徒会長として、メンバーの一員であるおまえの体調を管理する責任もあるからな」

 どこかムキになって言う神崎先輩。

 そんな神崎先輩の姿がおかしくて、あたしは思わずふふっと笑ってしまった。


「おまえ、笑ってんじゃねえよ!」

「す、すみません。なんか、あまりに神崎先輩っぽい理由で、つい……」

 でも、それでもあたしを心配してくれてたことには変わりなくて、そんな神崎先輩の心遣いが嬉しかった。

 神崎先輩があたしが熱中症で倒れたときのことを口にして、考えないようにしていたあの日のことが、脳裏に蘇る。

 せっかくだし、ちょっと聞いてみようかな……?

 あたしは思い切って口を開く。


「あの、ひとつ聞いていいですか?」

「何だ?」

「あたしが熱中症で倒れたとき、神崎先輩があたしを保健室まで運んでくれたんですよね?」

「まあ、そうだけど」

 それがどうした、とでも言いたげな神崎先輩。


「あのとき、あたしが目覚める前。あたし、神崎先輩と何かしましたか?」

 うわあ、思ってた以上にストレートに聞きすぎちゃったかも……。

 微かに眉根を寄せる神崎先輩。

 神崎先輩は、一旦口を結んでから口を開いた。


「まさかおまえ、俺に何かされたと思ってんの?」

「いや、そういうわけじゃなくて……。あたし、あのときの記憶あやふやで。あまり覚えてないというか何というか……」

 ああ、上手く言葉にならないよぅ……。

 だからと言って、したかも分からないキスをしたかなんて、直接聞けるわけないし……。

 わたわたと自分の顔の前で手を左右に振ったり、顔を左右に振ったりと落ち着きのないあたしの頭の上に、神崎先輩の大きな手がふわりと乗せられる。


「バーカ。そんな変な心配しなくても、何もしてねえよ」

 そう言って眉を下げて笑う神崎先輩に、かああと顔が熱くなる。


「す、すみません……」

 やっぱりあのときのキスは、あたしが夢でも見てたんだろうな……。

 神崎先輩の口からはっきりとそう聞いて満足したはずなのに、本当にしてないってわかるとこんなに寂しいなんて……。

 これじゃあ、あたしが神崎先輩とキスしたかったみたいじゃん……。

 残念に思う気持ちと恥ずかしいと思う気持ちがあいまって、自分で自分がよくわからなかった。
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