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*第4章*
真夜中の浜辺で(2)
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「でも、やっぱりそうそう見れるもんちゃうんやな。でも、これ、見てみ?」
妹尾先輩があたしの目の前に拾い上げたのは、ところどころに黒い模様の入った白い小さなかけら。
それは、くぼみの部分を中心に周りの砂浜に散らばっているようだった。
「何やと思う?」
「え……?」
何だろう……?
プラスチックの破片とか……?
「ウミガメの卵の殻や」
「えええっ!?」
先程以上に驚くあたしを見て、妹尾先輩は柔らかく目を細める。
「つまり、今年もここで産卵が行われて、無事に孵化したっちゅうことやな!」
ここは本当に自然が多くて、綺麗なところだもんね。
まさか、こんなに珍しいものまで見られるなんて、思わなかったな……。
「……また来年も、皆さんと来たいです」
「ほんまに!? 優芽ちゃん、この合宿来る前、あまり乗り気じゃなかったから、そう思ってもらえて嬉しいわ!」
妹尾先輩に続いてあたしも立ち上がる。
見渡せば、夜の海が穏やかな波のせせらぎを奏でていた。
あたしは自然と波打ち際まで歩みを進めて、海の中に足を踏み入れる。
「……冷たっ」
お昼間と違って冷たい水温に、思わず身震いする。
妹尾先輩もズボンの裾を上げて、あたしに続いて海の中に足を踏み入れる。
「夜の海もええなあ。でも、暗いし、気をつけや。こけたらずぶ濡れやで?」
「はい。……って、きゃあっ!?」
──バシャッ。
その瞬間、水しぶきを上げながらよろめく身体。
このまま後ろにひっくり返ると思ったけれど、あたしの身体はがっちりとした腕に支えられていた。
「言ってるそばからこれやもん。ほんま目離されへん」
見上げると、異様に間近にある妹尾先輩の顔。
「あ、あの……」
その距離に思わずドキリとしたあたしは自分でちゃんと立とうと身体に力を入れるも、それを阻止するかのように力強く妹尾先輩に抱きしめられてしまった。
え……?
突然の出来事に、頭が追いつかない。
あたしの腰のあたりと後頭部に手を添えて、離してくれない妹尾先輩。
「あの、先ぱ……」
「ごめんな。もうちょっとだけ、こうしててもええか?」
「え……、はい……」
妹尾先輩、急にどうしたんだろう……?
何だか妹尾先輩の声はいつもより弱々しくて、消えてしまいそうに感じた。
そして、ボソリと小さく呟くような声が耳に届く。
「ほんま、優芽ちゃんは反則やわ……」
妹尾先輩は少しあたしを抱きしめる腕を弱めると、あたしと目線を合わせるようにかがんだ。
「え……?」
反則……?
何を言われてるのかわからなくて首をかしげると、妹尾先輩は目を細めてはにかんだ。
「なんで優芽ちゃんはそんなに可愛いんや?」
「え、あ、あたし、可愛いくなんて……」
「そんなことない。むっちゃ可愛いで?」
真っ直ぐに妹尾先輩に見つめられて、思わず耳まで熱くなる。
「ほんまに、何でこんなに好きになってしもたんやろ……」
「……え」
あたしが小さく漏らす声に、恥ずかしそうに笑う妹尾先輩。
「優芽ちゃんが好きや。めっちゃ好きやねん」
「……ええっ!?」
さっきよりも、更に大きな声が出てしまった。
そのまま固まるあたしを見て、妹尾先輩は困ったように眉を下げる。
「……とうとう言ってしもたわ。困らせるだけやって分かっててんけどな、止まらへんかった。ごめんな」
「い、いえ……」
広瀬先輩と笹倉先輩に続き、妹尾先輩にまでこんなことを言われるだなんて……。
妹尾先輩が悪いわけじゃないけれど、あたしの頭の中は混乱しすぎて、何がなんだか分からなくなっていた。
そのままうつむくあたしの頭に妹尾先輩の手が添えられ、再びふわりと抱き寄せられる。
あたしの額と鼻が、妹尾先輩の胸元に触れる。
「返事はええ。迷ってんねんやろ?」
「え……」
迷ってるなんて……。
真剣に想いをぶつけてきてくれた先輩にそんな風に感じさせてしまうなんて、あまりに失礼すぎる。
だけど、即答できないあたしは、迷ってるも同然なのかもしれない……。
「他の奴らにも、何か言われとんやろ? そりゃ混乱もするわ」
「す、すみません……」
なんだか、あたしの心の中を見透かされてるようで、申し訳なさが余計に膨れ上がる。
「やから、優芽ちゃんの気持ちがちゃんと整理ついてからでええから。俺のことも、ちいとは考えてみてや?」
「は、はい……」
さりげなく妹尾先輩の表情をうかがうと、妹尾先輩も困ったように眉を下げていた。
「そんな顔させてごめんな」
そう言って、妹尾先輩はあたしの前髪をふわりと持ち上げると、優しく触れるだけのキスをあたしの額に落とした。
再びあたしを見るなり、悪戯っ子のようにニッと笑う妹尾先輩。
「このくらい、許してや」
「……え、あ、う……」
思わず額を片手で押さえて、あたふたとするあたし。
妹尾先輩はそんなあたしを見て小さく笑うと、突然沖の方に身体を向けて、夜の海に向かって大声で叫んだ。
「優芽ちゃんが、めっちゃ好きやあああああーっ!!」
妹尾先輩の声は、誰もいない夜の海に吸い込まれていく。
「え、ちょっ……、せ、妹尾先輩!?」
突然そんな風に叫ばれて、ますます顔が熱くなる。
だけど、妹尾先輩はあははと大声で笑った。
「優芽ちゃんが可愛いすぎるのがあかんのやで」
「えー」
何、その理由。
いつもより意地悪で、いつもより饒舌な妹尾先輩。
ちゃんとすぐに返事を返せないのに、全く気まずい雰囲気にさせない妹尾先輩。
きっと妹尾先輩の優しさなんだと思った。
「そろそろ身体冷えたらあかんし、戻ろか」
「はい」
もしかしたら、あたしはこの夏、この場所で、一生分の恋愛運を使い果たしているのかもしれない。
こんなに素敵な三人に一気に告白されるだなんて、前代未聞。
だけど……。
この三日間、悩む間もなく過ぎていったけど、ちゃんと向き合わなきゃいけないんだ。
あたし自身の気持ちと、三人の気持ちと……。
本当に、ぜいたくすぎて怖い……。
静かな波音を聞きながら再び笹倉先輩の別荘に戻るも、なかなか寝付くことができなかった。
妹尾先輩があたしの目の前に拾い上げたのは、ところどころに黒い模様の入った白い小さなかけら。
それは、くぼみの部分を中心に周りの砂浜に散らばっているようだった。
「何やと思う?」
「え……?」
何だろう……?
プラスチックの破片とか……?
「ウミガメの卵の殻や」
「えええっ!?」
先程以上に驚くあたしを見て、妹尾先輩は柔らかく目を細める。
「つまり、今年もここで産卵が行われて、無事に孵化したっちゅうことやな!」
ここは本当に自然が多くて、綺麗なところだもんね。
まさか、こんなに珍しいものまで見られるなんて、思わなかったな……。
「……また来年も、皆さんと来たいです」
「ほんまに!? 優芽ちゃん、この合宿来る前、あまり乗り気じゃなかったから、そう思ってもらえて嬉しいわ!」
妹尾先輩に続いてあたしも立ち上がる。
見渡せば、夜の海が穏やかな波のせせらぎを奏でていた。
あたしは自然と波打ち際まで歩みを進めて、海の中に足を踏み入れる。
「……冷たっ」
お昼間と違って冷たい水温に、思わず身震いする。
妹尾先輩もズボンの裾を上げて、あたしに続いて海の中に足を踏み入れる。
「夜の海もええなあ。でも、暗いし、気をつけや。こけたらずぶ濡れやで?」
「はい。……って、きゃあっ!?」
──バシャッ。
その瞬間、水しぶきを上げながらよろめく身体。
このまま後ろにひっくり返ると思ったけれど、あたしの身体はがっちりとした腕に支えられていた。
「言ってるそばからこれやもん。ほんま目離されへん」
見上げると、異様に間近にある妹尾先輩の顔。
「あ、あの……」
その距離に思わずドキリとしたあたしは自分でちゃんと立とうと身体に力を入れるも、それを阻止するかのように力強く妹尾先輩に抱きしめられてしまった。
え……?
突然の出来事に、頭が追いつかない。
あたしの腰のあたりと後頭部に手を添えて、離してくれない妹尾先輩。
「あの、先ぱ……」
「ごめんな。もうちょっとだけ、こうしててもええか?」
「え……、はい……」
妹尾先輩、急にどうしたんだろう……?
何だか妹尾先輩の声はいつもより弱々しくて、消えてしまいそうに感じた。
そして、ボソリと小さく呟くような声が耳に届く。
「ほんま、優芽ちゃんは反則やわ……」
妹尾先輩は少しあたしを抱きしめる腕を弱めると、あたしと目線を合わせるようにかがんだ。
「え……?」
反則……?
何を言われてるのかわからなくて首をかしげると、妹尾先輩は目を細めてはにかんだ。
「なんで優芽ちゃんはそんなに可愛いんや?」
「え、あ、あたし、可愛いくなんて……」
「そんなことない。むっちゃ可愛いで?」
真っ直ぐに妹尾先輩に見つめられて、思わず耳まで熱くなる。
「ほんまに、何でこんなに好きになってしもたんやろ……」
「……え」
あたしが小さく漏らす声に、恥ずかしそうに笑う妹尾先輩。
「優芽ちゃんが好きや。めっちゃ好きやねん」
「……ええっ!?」
さっきよりも、更に大きな声が出てしまった。
そのまま固まるあたしを見て、妹尾先輩は困ったように眉を下げる。
「……とうとう言ってしもたわ。困らせるだけやって分かっててんけどな、止まらへんかった。ごめんな」
「い、いえ……」
広瀬先輩と笹倉先輩に続き、妹尾先輩にまでこんなことを言われるだなんて……。
妹尾先輩が悪いわけじゃないけれど、あたしの頭の中は混乱しすぎて、何がなんだか分からなくなっていた。
そのままうつむくあたしの頭に妹尾先輩の手が添えられ、再びふわりと抱き寄せられる。
あたしの額と鼻が、妹尾先輩の胸元に触れる。
「返事はええ。迷ってんねんやろ?」
「え……」
迷ってるなんて……。
真剣に想いをぶつけてきてくれた先輩にそんな風に感じさせてしまうなんて、あまりに失礼すぎる。
だけど、即答できないあたしは、迷ってるも同然なのかもしれない……。
「他の奴らにも、何か言われとんやろ? そりゃ混乱もするわ」
「す、すみません……」
なんだか、あたしの心の中を見透かされてるようで、申し訳なさが余計に膨れ上がる。
「やから、優芽ちゃんの気持ちがちゃんと整理ついてからでええから。俺のことも、ちいとは考えてみてや?」
「は、はい……」
さりげなく妹尾先輩の表情をうかがうと、妹尾先輩も困ったように眉を下げていた。
「そんな顔させてごめんな」
そう言って、妹尾先輩はあたしの前髪をふわりと持ち上げると、優しく触れるだけのキスをあたしの額に落とした。
再びあたしを見るなり、悪戯っ子のようにニッと笑う妹尾先輩。
「このくらい、許してや」
「……え、あ、う……」
思わず額を片手で押さえて、あたふたとするあたし。
妹尾先輩はそんなあたしを見て小さく笑うと、突然沖の方に身体を向けて、夜の海に向かって大声で叫んだ。
「優芽ちゃんが、めっちゃ好きやあああああーっ!!」
妹尾先輩の声は、誰もいない夜の海に吸い込まれていく。
「え、ちょっ……、せ、妹尾先輩!?」
突然そんな風に叫ばれて、ますます顔が熱くなる。
だけど、妹尾先輩はあははと大声で笑った。
「優芽ちゃんが可愛いすぎるのがあかんのやで」
「えー」
何、その理由。
いつもより意地悪で、いつもより饒舌な妹尾先輩。
ちゃんとすぐに返事を返せないのに、全く気まずい雰囲気にさせない妹尾先輩。
きっと妹尾先輩の優しさなんだと思った。
「そろそろ身体冷えたらあかんし、戻ろか」
「はい」
もしかしたら、あたしはこの夏、この場所で、一生分の恋愛運を使い果たしているのかもしれない。
こんなに素敵な三人に一気に告白されるだなんて、前代未聞。
だけど……。
この三日間、悩む間もなく過ぎていったけど、ちゃんと向き合わなきゃいけないんだ。
あたし自身の気持ちと、三人の気持ちと……。
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