上 下
47 / 81
*第4章*

狙われるココロ(2)

しおりを挟む
「そんな反応されたら、止まらなくなるじゃん」

 魅惑的に囁かれて、ドキドキに耐えられなくてギュッと目をつむった。


「あ、あの……っ! ささく……」

 あたしの弱々しい声が宙を舞うのと同時に、クククという笑い声とともに、あたしは解放された。


「ごめんごめん。冗談だよ。とりあえず、さっきのようにもう一度構えてみて?」

「え? あ、はい……」

 いつも笹倉先輩は冗談っていうけど、あたしにはこの冗談結構キツいんだけどな……。

 なかなか静まりそうにない、バクバクという心臓の音を聞きながら、あたしはもう一度弓矢を構えた。


「そう。じゃあ、そのまま的の中心に当てることだけを考えて、矢を放ってみて?」

 笹倉先輩に言われた通り、矢を放つ。

 シュパンという気持ち良い音とともに的に刺さる矢。

 それは、真ん中から少し外れた場所を貫いていた。


「初めてにしては上出来だね」

「……本当ですか?」

「うん。いい集中力だったと思う」

 笹倉先輩は的に刺さった矢を抜いて、そっとその矢を撫でる。


「アーチェリーも弓道と同じように、他の競技以上に集中力がモノをいうからね。もちろん技術的なものもあるけど、それだけじゃないところがおもしろいよね」

「はい」

 アーチェリーについて語る笹倉先輩は、どこかキラキラと輝いていて……。

 すごく、眩しく感じた。


「優芽ちゃんに少しでもアーチェリーの良さが伝わったのなら、僕は嬉しいよ」

 笹倉先輩は、そう言ってあたしの頬に、片手を触れる。


「でも、こんな僕でも貫けない的ってあるんだよね」

 わかる? と聞かれて、あたしは首をかしげる。

 すると、笹倉先輩はあたしの頬に添えていた手であたしの顎をつかみ、もう片方の手であたしの腰をグッと抱き寄せる。

 そして、至近距離であたしの瞳を見つめて、笹倉先輩は口を開いた。


「それはね、優芽ちゃんの心だよ」

「……え!?」

「ねえ。その心、僕に射抜かせてよ」

 その言葉の意味を頭で理解するよりも早く、反射的に顔が熱くなる。

 そのまま近づく、笹倉先輩の艶やかな顔に、思わず笹倉先輩の胸元を押し返す。


「あ、あの……っ、笹倉せんぱ……っ」

「ダメ」

 だけど、あたしの抵抗も虚しく、いとも簡単にあたしの手は笹倉先輩によってつかまれてしまった。

 ふわりと縮まる笹倉先輩との距離に、思わず目を固くつむる。

 しかし……。


 あれ……?

 うっすら目を開けると、わずか数センチの距離にいる笹倉先輩と目が合う。


「こんなに赤くなって可愛い」

 笹倉先輩はクスリと笑って、あたしを離す。


「……え?」

「何? まさか本当にすると思った? キス」

 その言葉に、さらに顔の温度が上がるのを感じる。


「優芽ちゃんは本当に素直だよね。でも、その素直さが罪だって、気づいてる?」

 そして、笹倉先輩は再びあたしの顔に手を触れ、唇に親指を乗せると、切れ長の綺麗な瞳にあたしを映した。


「言っとくけど、優芽ちゃんのこと、誰にも渡すつもりないから」

「……え?」

「僕、本気だから。覚悟してた方がいいよ?」

 あたしは、その瞳に捉えられたまま、動けなかった。

 いつもとは別人のように魅惑的に笑った笹倉先輩の瞳は、これは冗談じゃないと言っているようだったから……。


「じゃあ、そろそろ戻ろっか」

 あたしを解放した笹倉先輩は、いつもの笹倉先輩に戻っていて

「僕、お腹空いちゃった」

 その雰囲気の差に、思わずさっきまでの笹倉先輩とのやり取りが、夢の中の出来事だったように感じる。


 “優芽ちゃんのこと、誰にも渡すつもりないから”

 “僕、本気だから。覚悟してた方がいいよ?”

 ぐるぐると頭の中を飛び交う、笹倉先輩の言葉。


 “ねえ。その心、僕に射抜かせてよ”

 でも、そんなこと言われても、あたし、どうしたらいいんだろう……?

 笹倉先輩に手を引かれながら、あたしの加速しっぱなしの鼓動は、おさまることを知らないかのように鳴り響いていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?

さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。 私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。 見た目は、まあ正直、好みなんだけど…… 「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」 そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。 「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」 はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。 こんなんじゃ絶対にフラれる! 仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの! 実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。 

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

見知らぬ男に監禁されています

月鳴
恋愛
悪夢はある日突然訪れた。どこにでもいるような普通の女子大生だった私は、見知らぬ男に攫われ、その日から人生が一転する。 ――どうしてこんなことになったのだろう。その問いに答えるものは誰もいない。 メリバ風味のバッドエンドです。 2023.3.31 ifストーリー追加

処理中です...