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*第4章*
最初の告白(2)
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*
「うおーっ! 見てみろよ、岸が遠ーいっ!」
広瀬先輩に連れられるがままに、沖へと出て来てしまったあたし。
あたしたちがさっきまで居た砂浜が、笹倉先輩の別荘が、小さく見える。
既に足が届かなくて、恐怖さえ感じた。
「こ、こんなに遠くまできて、大丈夫ですか……!?」
「俺がついてるから大丈ー夫っ! 優芽ちゃん、俺が蓮たちに何て言われてるか、知ってる?」
「え?」
「二足歩行のサカナ! 俺、あいつらの中で、一番泳ぐの得意なんだ!」
「そ、そうなんですか……」
じゃあ、あたしは、二足歩行のカナヅチってところかな……。
「きゃ……っ」
そう思ってたら、一瞬身体が沈む感覚があって、思わず目をつむる。
「ごめんごめん。せっかくならさ、向かい合わせの方がいいかなと思って」
どこかはにかんだ表情を浮かべる、広瀬先輩。
「ちょ……っ、や……」
さっきまで広瀬先輩の背中にしがみつくように、広瀬先輩の両肩に手を添えていたあたし。
だけど、広瀬先輩によって向きを変えられて、まるで広瀬先輩に抱き着いているかのような格好になっていた。
「いーよ、いーよ。しっかり俺にしがみついててよ。それに、そんなに暴れると、優芽ちゃん溺れちゃうよ?」
「…………っ」
だからってこの体勢は、さすがに恥ずかしすぎます……っ!
「まあ、もうちょっと我慢してよ」
顔中を熱くしてうつむくあたしを見て、広瀬先輩はククッと笑うと、再び沖の方へと泳ぎはじめた。
しばらく泳いで、広瀬先輩の泳ぎがゆっくりになる。
「優芽ちゃん。そろそろ足、届くんじゃない?」
「え……?」
恐る恐る足を伸ばせば、指先が海底の砂利に触れる。
「あれ……?」
あたしは、恐る恐る広瀬先輩から離れて、その場に立つ。
でも、なんで……?
あんなに沖に出てたのに……。
すると、広瀬先輩はあたしの心を読んだように、ニッと笑った。
「もしかして、気づいてなかった?」
そう言って、広瀬先輩が後ろを向く。
あたしもその視線を追って見ると……
「あ……」
広瀬先輩の後ろに、小さく陸になっている部分があった。
陸の大部分を人が三~四人程座れそうな平たい岩が占め、その岩に沿うように、緑の植物が生えている。
そして、その岩を囲むように、わずかな砂浜ができていた。
「すごく小さいから、さっきまで俺らが居た砂浜からはほとんど見えないんだけどな。去年、ここに来たとき、偶然見つけたんだ」
広瀬先輩は小さな陸に上がると、その岩に手を触れて、柔らかい笑みを浮かべた。
「潮の満ち引きとかわかんねえからさ、もしこの陸が沈んでたらどうしようかと思ったけど、無事で良かったよ」
広瀬先輩はあたしの方を見ると、広瀬先輩の首にぶら下がっていたゴーグルを外して、あたしに手渡す。
「はい、優芽ちゃん」
「?」
「良かったらさ、これで海の中、見てみてよ」
海の中……?
あたしは言われるがままに、ゴーグルを目に当てて、海中を覗く。
すると、澄んだ水の中、透き通った深緑の海藻がゆらゆらと揺れ、その影を何匹もの小魚が泳いでいるのが見える。
「わああ……」
こんな世界、初めて見た。
今まで見たこともなかった世界に、思わず息を呑んだ。
水面下の世界に目を奪われるあたしの隣に来て、広瀬先輩は柔らかく笑う。
「気に入った? ここに優芽ちゃんを連れて来たのも、優芽ちゃんにこの光景を見せたかったからなんだ」
「ありがとうございます。本当に素敵なものを見れました」
あたしは顔を上げると、広瀬先輩にゴーグルを手渡した。
「それなら良かった。本当は、ここに来るまでの海底にも、綺麗な水草が見れる場所もあるんだ。さすがに優芽ちゃんにある程度泳いでもらわなきゃなんないから、見せられなかったけど……」
「す、すみません」
「ううん。でも、ここも負けないくらい綺麗だから。それに、優芽ちゃんがあまり泳げないでいてくれたから、ここに来るまでの間、優芽ちゃんと密着してこれたからね、俺は大満足!」
み、密着って……。
確かに溺れそうで、広瀬先輩にずっとしがみついてたけど……。
恥ずかしさから、かああと頬に熱を持つ。
「でも、そうやって優芽ちゃんが赤くなってくれるのって、俺を男として意識してくれてるからだよね?」
まるで何かを見透かすように甘い声でそう言われて、思わずドクンと大きく胸が脈打った。
目だけ広瀬先輩を見上げると、すぐそばに広瀬先輩の顔があって、熱っぽい瞳であたしを見つめていた。
「違う……?」
そうやって、軽く首をかしげて小さく笑う広瀬先輩。
「うおーっ! 見てみろよ、岸が遠ーいっ!」
広瀬先輩に連れられるがままに、沖へと出て来てしまったあたし。
あたしたちがさっきまで居た砂浜が、笹倉先輩の別荘が、小さく見える。
既に足が届かなくて、恐怖さえ感じた。
「こ、こんなに遠くまできて、大丈夫ですか……!?」
「俺がついてるから大丈ー夫っ! 優芽ちゃん、俺が蓮たちに何て言われてるか、知ってる?」
「え?」
「二足歩行のサカナ! 俺、あいつらの中で、一番泳ぐの得意なんだ!」
「そ、そうなんですか……」
じゃあ、あたしは、二足歩行のカナヅチってところかな……。
「きゃ……っ」
そう思ってたら、一瞬身体が沈む感覚があって、思わず目をつむる。
「ごめんごめん。せっかくならさ、向かい合わせの方がいいかなと思って」
どこかはにかんだ表情を浮かべる、広瀬先輩。
「ちょ……っ、や……」
さっきまで広瀬先輩の背中にしがみつくように、広瀬先輩の両肩に手を添えていたあたし。
だけど、広瀬先輩によって向きを変えられて、まるで広瀬先輩に抱き着いているかのような格好になっていた。
「いーよ、いーよ。しっかり俺にしがみついててよ。それに、そんなに暴れると、優芽ちゃん溺れちゃうよ?」
「…………っ」
だからってこの体勢は、さすがに恥ずかしすぎます……っ!
「まあ、もうちょっと我慢してよ」
顔中を熱くしてうつむくあたしを見て、広瀬先輩はククッと笑うと、再び沖の方へと泳ぎはじめた。
しばらく泳いで、広瀬先輩の泳ぎがゆっくりになる。
「優芽ちゃん。そろそろ足、届くんじゃない?」
「え……?」
恐る恐る足を伸ばせば、指先が海底の砂利に触れる。
「あれ……?」
あたしは、恐る恐る広瀬先輩から離れて、その場に立つ。
でも、なんで……?
あんなに沖に出てたのに……。
すると、広瀬先輩はあたしの心を読んだように、ニッと笑った。
「もしかして、気づいてなかった?」
そう言って、広瀬先輩が後ろを向く。
あたしもその視線を追って見ると……
「あ……」
広瀬先輩の後ろに、小さく陸になっている部分があった。
陸の大部分を人が三~四人程座れそうな平たい岩が占め、その岩に沿うように、緑の植物が生えている。
そして、その岩を囲むように、わずかな砂浜ができていた。
「すごく小さいから、さっきまで俺らが居た砂浜からはほとんど見えないんだけどな。去年、ここに来たとき、偶然見つけたんだ」
広瀬先輩は小さな陸に上がると、その岩に手を触れて、柔らかい笑みを浮かべた。
「潮の満ち引きとかわかんねえからさ、もしこの陸が沈んでたらどうしようかと思ったけど、無事で良かったよ」
広瀬先輩はあたしの方を見ると、広瀬先輩の首にぶら下がっていたゴーグルを外して、あたしに手渡す。
「はい、優芽ちゃん」
「?」
「良かったらさ、これで海の中、見てみてよ」
海の中……?
あたしは言われるがままに、ゴーグルを目に当てて、海中を覗く。
すると、澄んだ水の中、透き通った深緑の海藻がゆらゆらと揺れ、その影を何匹もの小魚が泳いでいるのが見える。
「わああ……」
こんな世界、初めて見た。
今まで見たこともなかった世界に、思わず息を呑んだ。
水面下の世界に目を奪われるあたしの隣に来て、広瀬先輩は柔らかく笑う。
「気に入った? ここに優芽ちゃんを連れて来たのも、優芽ちゃんにこの光景を見せたかったからなんだ」
「ありがとうございます。本当に素敵なものを見れました」
あたしは顔を上げると、広瀬先輩にゴーグルを手渡した。
「それなら良かった。本当は、ここに来るまでの海底にも、綺麗な水草が見れる場所もあるんだ。さすがに優芽ちゃんにある程度泳いでもらわなきゃなんないから、見せられなかったけど……」
「す、すみません」
「ううん。でも、ここも負けないくらい綺麗だから。それに、優芽ちゃんがあまり泳げないでいてくれたから、ここに来るまでの間、優芽ちゃんと密着してこれたからね、俺は大満足!」
み、密着って……。
確かに溺れそうで、広瀬先輩にずっとしがみついてたけど……。
恥ずかしさから、かああと頬に熱を持つ。
「でも、そうやって優芽ちゃんが赤くなってくれるのって、俺を男として意識してくれてるからだよね?」
まるで何かを見透かすように甘い声でそう言われて、思わずドクンと大きく胸が脈打った。
目だけ広瀬先輩を見上げると、すぐそばに広瀬先輩の顔があって、熱っぽい瞳であたしを見つめていた。
「違う……?」
そうやって、軽く首をかしげて小さく笑う広瀬先輩。
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