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*第3章*
夏のはじまり(1)
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期末テストも球技大会も終わって、いよいよ夏休みが目前に迫った桜ヶ丘高校。
生徒会室も、夏休みに向けての大掃除に取り掛かっていた。
「今回は優芽ちゃんがいつも掃除してくれてるおかげで、大掃除も楽勝だな~」
楽しそうに廃棄資料を段ボールに入れる広瀬先輩。
「いつももっとホコリまみれで大変だもんね」
棚の上を雑巾で拭いていた笹倉先輩も、納得したようにうなずく。
「え、そうなんですか?」
生徒会に入ってから、日々の生徒会室の掃除はあたしの役目だった。
だから、そう言ってもらえると、いつも頑張ってた甲斐があって嬉しい。
「ほんまに、めっちゃ今回の大掃除助かってるわ! いつもありがとな。頑張り屋さんの優芽ちゃんのために、今度お礼せなあかんな!」
「そ、そんな、お礼だなんて……」
「そんな遠慮せんでもええで? 優芽ちゃんさえ良かったら、いつでも優芽ちゃんの好きなもん、ご馳走したるで?」
陽気にそう言う妹尾先輩に、間髪入れずに広瀬先輩の声が飛んだ。
「あーっ、陸人、おまえ抜け駆けか!?」
「堂々とデートのお誘いとか、いただけないね」
笹倉先輩もそう言って、妹尾先輩を見る。
「二人とも何やその目は! 別にそんなつもりちゃうから!」
「人のこととやかく言っといて、怪しいもんだぜ!」
「全くそれには僕も同感だね」
「はあ? 何やそれ」
目の前で言い合いを始めてしまった三人。
そのとき、三人とは別の怒鳴り声が生徒会室に響く。
「おまえら! 無駄話してないで手を動かせ、手を!」
その声に振り向けば、片手に掃除機を抱えた神崎先輩。
胸の奥がドクンと疼く。
あたしが熱中症で倒れた球技大会の日。
保健室まであたしを運んで、看病してくれたと言う神崎先輩。
結衣の話によると、お姫様抱っこで運んでくれたんだとか……。
残念ながら、あたしの記憶には、ほとんど残っていないけど……。
でも、ふわふわと運ばれた感覚は、おぼろげな記憶として脳内に残っていて……。
“優芽”って呼ばれた声も。
あたしの身体を支えてくれた、大きな腕の感触も。
唇に触れた、柔らかい熱も……。
あれは、一体何だったんだろう……?
唇に柔らかい熱を感じて目を開ければ、神崎先輩の顔が間近にあって……。
まるで、神崎先輩とキス、したかのような錯覚に襲われた。
だけどあのあと、スポーツドリンクをペットボトル三本も買って来てくれた神崎先輩は、いつもと変わらない神崎先輩で……。
神崎先輩には全然そんな素振りはなかった。
そもそも。
神崎先輩とキスしちゃったかもとか思う、あたしがおかしいんだよね。
普通に考えて、現実味を帯びた夢を見たと捉える方が自然なはずなのに……。
何であたし、“優芽”って甘い声で呼ばれて、キスされたような錯覚に陥ってるんだろう……。
いくら熱があったからとはいえ、変なの……。
ひとり考え込んでいると、神崎先輩の鋭い声に現実に引き戻される。
「カレー女も、そんなところにボヤッと突っ立つな! 間違って掃除機に吸い込まれても知らねえぞ?」
「は、はいぃ。すみませ……」
思わず声が裏返る。
これじゃ、意識してるの、バレちゃうよ……。
どうしていいか分からずにいると、広瀬先輩の明るい笑い声が生徒会室に響いた。
生徒会室も、夏休みに向けての大掃除に取り掛かっていた。
「今回は優芽ちゃんがいつも掃除してくれてるおかげで、大掃除も楽勝だな~」
楽しそうに廃棄資料を段ボールに入れる広瀬先輩。
「いつももっとホコリまみれで大変だもんね」
棚の上を雑巾で拭いていた笹倉先輩も、納得したようにうなずく。
「え、そうなんですか?」
生徒会に入ってから、日々の生徒会室の掃除はあたしの役目だった。
だから、そう言ってもらえると、いつも頑張ってた甲斐があって嬉しい。
「ほんまに、めっちゃ今回の大掃除助かってるわ! いつもありがとな。頑張り屋さんの優芽ちゃんのために、今度お礼せなあかんな!」
「そ、そんな、お礼だなんて……」
「そんな遠慮せんでもええで? 優芽ちゃんさえ良かったら、いつでも優芽ちゃんの好きなもん、ご馳走したるで?」
陽気にそう言う妹尾先輩に、間髪入れずに広瀬先輩の声が飛んだ。
「あーっ、陸人、おまえ抜け駆けか!?」
「堂々とデートのお誘いとか、いただけないね」
笹倉先輩もそう言って、妹尾先輩を見る。
「二人とも何やその目は! 別にそんなつもりちゃうから!」
「人のこととやかく言っといて、怪しいもんだぜ!」
「全くそれには僕も同感だね」
「はあ? 何やそれ」
目の前で言い合いを始めてしまった三人。
そのとき、三人とは別の怒鳴り声が生徒会室に響く。
「おまえら! 無駄話してないで手を動かせ、手を!」
その声に振り向けば、片手に掃除機を抱えた神崎先輩。
胸の奥がドクンと疼く。
あたしが熱中症で倒れた球技大会の日。
保健室まであたしを運んで、看病してくれたと言う神崎先輩。
結衣の話によると、お姫様抱っこで運んでくれたんだとか……。
残念ながら、あたしの記憶には、ほとんど残っていないけど……。
でも、ふわふわと運ばれた感覚は、おぼろげな記憶として脳内に残っていて……。
“優芽”って呼ばれた声も。
あたしの身体を支えてくれた、大きな腕の感触も。
唇に触れた、柔らかい熱も……。
あれは、一体何だったんだろう……?
唇に柔らかい熱を感じて目を開ければ、神崎先輩の顔が間近にあって……。
まるで、神崎先輩とキス、したかのような錯覚に襲われた。
だけどあのあと、スポーツドリンクをペットボトル三本も買って来てくれた神崎先輩は、いつもと変わらない神崎先輩で……。
神崎先輩には全然そんな素振りはなかった。
そもそも。
神崎先輩とキスしちゃったかもとか思う、あたしがおかしいんだよね。
普通に考えて、現実味を帯びた夢を見たと捉える方が自然なはずなのに……。
何であたし、“優芽”って甘い声で呼ばれて、キスされたような錯覚に陥ってるんだろう……。
いくら熱があったからとはいえ、変なの……。
ひとり考え込んでいると、神崎先輩の鋭い声に現実に引き戻される。
「カレー女も、そんなところにボヤッと突っ立つな! 間違って掃除機に吸い込まれても知らねえぞ?」
「は、はいぃ。すみませ……」
思わず声が裏返る。
これじゃ、意識してるの、バレちゃうよ……。
どうしていいか分からずにいると、広瀬先輩の明るい笑い声が生徒会室に響いた。
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