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*第3章*
夏のはじまり(2)
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「ってかさ、間違って吸い込まれてもって、どんだけその掃除機吸引力すごいんだよ! 優芽ちゃんが本当に吸い込まれるもんなら、見てみたいわ」
「ほんまほんま。またそれを真剣な顔で言うところがおもろいわ!」
広瀬先輩に続き、妹尾先輩もゲラゲラと笑う。
「うっせえよ! んなこと、俺だってわかってる!」
神崎先輩がキッと二人を睨みつける。
うわあ、神崎先輩が睨むと、すごい迫力……。
「まあ、こう見えて蓮も意外と天然ってことでいいんじゃない?」
笹倉先輩も、あははと涼しげに笑った。
「ちっとも良くねえ! 勝手に人を分かったようにまとめんな!」
神崎先輩はイライラしたように言うと、フゥッとため息を吐き出して、掃除機をかけはじめた。
神崎先輩のその様子を見ながら、笹倉先輩が口を開く。
「あーあ。蓮の機嫌損ねちゃった」
「って言う割に、琉生、めっちゃ楽しそうに見えるねんけど?」
「そう?」
妹尾先輩の言う通り、笹倉先輩はにっこりとした笑みを浮かべて首をかしげる。
「ところでさ、蓮と何かあった?」
だけど次の瞬間、笹倉先輩の綺麗な瞳が、意味ありげにあたしを捉えた。
「……え?」
まるであたしの中の何かを見透かすようなその瞳に、思わず身が硬直する。
「え、何? まさか、優芽ちゃん、蓮に変なことされたとか?」
広瀬先輩までもが、心配そうに眉を下げてあたしを見る。
「そ、そんな。何もないですよ……!」
スポーツ大会の日から、神崎先輩のことを変に意識してしまってるのは確かだけど……。
「なら僕の思い違いか。あまり優芽ちゃんの頭の中に他の奴が居るのは気に食わないからね、それなら良かったよ」
笹倉先輩は優しい笑みを浮かべてそう言うと、再び自分の持ち場へと戻った。
「琉生の奴、笑顔が怖えよ。今ので俺、鳥肌立ったわ」
笹倉先輩の後ろ姿を見ながら、広瀬先輩がぶるりと身震いして見せる。
「確かになあ。クールそうに見えて、本気になると琉生は手加減せえへんからなあ」
妹尾先輩も困ったように眉を下げる。
あたしが話の成り行きに着いていけず、ひとりぽかんとしていると、妹尾先輩が思い出したように口を開いた。
「それより、優芽ちゃんはだいぶ体調の方は回復したん?」
「あ、はい……。おかげさまで……」
「ほんなら良かった。スポーツ大会の俺の試合が終わったとき、優芽ちゃんが熱中症で倒れたって聞いて、ビビったからなあ」
「す、すみません……」
そういえばあたしが倒れたのって、妹尾先輩の試合中だったんだっけ……?
妹尾先輩に対する申し訳なさがあたしを襲う。
「優芽ちゃんが謝ることやないで? 暑い中、見てくれてありがとな」
「い、いえ……」
そこまで妹尾先輩と話したとき、隣から広瀬先輩が口を尖らせる。
「おいおい、二人して俺のこと忘れてねえかあ?」
「ああ、めっちゃ忘れとったわ」
意地悪く笑う妹尾先輩。
「酷っ!! おまえ、それはねーだろ!! 優芽ちゃんもそう思うよなあ?」
同意を求める広瀬先輩の大きな瞳と目が合ったとき、少し離れたところから鋭い声が飛んだ。
「おまえらはいつまでそこで油売ってんだ! 吸い込むぞ!?」
「やっべ、そろそろまじめにやらないと、マジで蓮がキレる!!」
こちらに掃除機の吸い込み口を向けて怒鳴った神崎先輩に、広瀬先輩は楽しそうにそう言って、あたしたちも持ち場へと戻った。
そのとき、振り向き様に神崎先輩の綺麗な瞳と目が合って、思わず胸がドキリと跳ねる。
不意に脳裏を過ぎる、ただの夢かもわからないキスの感覚に、頬が熱くなってとっさに顔を逸らした。
もしかして、変に思われたかな?
少なくとも笹倉先輩に何かを感づかれる程度に、あたしは分かりやすいんだろうし……。
こんなことで、ひとり神崎先輩にドキドキして、変なの……。
でも、夏休みになれば神崎先輩ともしばらく会わなくなるだろうし、気にすることもなくなるはず……。
「ほんまほんま。またそれを真剣な顔で言うところがおもろいわ!」
広瀬先輩に続き、妹尾先輩もゲラゲラと笑う。
「うっせえよ! んなこと、俺だってわかってる!」
神崎先輩がキッと二人を睨みつける。
うわあ、神崎先輩が睨むと、すごい迫力……。
「まあ、こう見えて蓮も意外と天然ってことでいいんじゃない?」
笹倉先輩も、あははと涼しげに笑った。
「ちっとも良くねえ! 勝手に人を分かったようにまとめんな!」
神崎先輩はイライラしたように言うと、フゥッとため息を吐き出して、掃除機をかけはじめた。
神崎先輩のその様子を見ながら、笹倉先輩が口を開く。
「あーあ。蓮の機嫌損ねちゃった」
「って言う割に、琉生、めっちゃ楽しそうに見えるねんけど?」
「そう?」
妹尾先輩の言う通り、笹倉先輩はにっこりとした笑みを浮かべて首をかしげる。
「ところでさ、蓮と何かあった?」
だけど次の瞬間、笹倉先輩の綺麗な瞳が、意味ありげにあたしを捉えた。
「……え?」
まるであたしの中の何かを見透かすようなその瞳に、思わず身が硬直する。
「え、何? まさか、優芽ちゃん、蓮に変なことされたとか?」
広瀬先輩までもが、心配そうに眉を下げてあたしを見る。
「そ、そんな。何もないですよ……!」
スポーツ大会の日から、神崎先輩のことを変に意識してしまってるのは確かだけど……。
「なら僕の思い違いか。あまり優芽ちゃんの頭の中に他の奴が居るのは気に食わないからね、それなら良かったよ」
笹倉先輩は優しい笑みを浮かべてそう言うと、再び自分の持ち場へと戻った。
「琉生の奴、笑顔が怖えよ。今ので俺、鳥肌立ったわ」
笹倉先輩の後ろ姿を見ながら、広瀬先輩がぶるりと身震いして見せる。
「確かになあ。クールそうに見えて、本気になると琉生は手加減せえへんからなあ」
妹尾先輩も困ったように眉を下げる。
あたしが話の成り行きに着いていけず、ひとりぽかんとしていると、妹尾先輩が思い出したように口を開いた。
「それより、優芽ちゃんはだいぶ体調の方は回復したん?」
「あ、はい……。おかげさまで……」
「ほんなら良かった。スポーツ大会の俺の試合が終わったとき、優芽ちゃんが熱中症で倒れたって聞いて、ビビったからなあ」
「す、すみません……」
そういえばあたしが倒れたのって、妹尾先輩の試合中だったんだっけ……?
妹尾先輩に対する申し訳なさがあたしを襲う。
「優芽ちゃんが謝ることやないで? 暑い中、見てくれてありがとな」
「い、いえ……」
そこまで妹尾先輩と話したとき、隣から広瀬先輩が口を尖らせる。
「おいおい、二人して俺のこと忘れてねえかあ?」
「ああ、めっちゃ忘れとったわ」
意地悪く笑う妹尾先輩。
「酷っ!! おまえ、それはねーだろ!! 優芽ちゃんもそう思うよなあ?」
同意を求める広瀬先輩の大きな瞳と目が合ったとき、少し離れたところから鋭い声が飛んだ。
「おまえらはいつまでそこで油売ってんだ! 吸い込むぞ!?」
「やっべ、そろそろまじめにやらないと、マジで蓮がキレる!!」
こちらに掃除機の吸い込み口を向けて怒鳴った神崎先輩に、広瀬先輩は楽しそうにそう言って、あたしたちも持ち場へと戻った。
そのとき、振り向き様に神崎先輩の綺麗な瞳と目が合って、思わず胸がドキリと跳ねる。
不意に脳裏を過ぎる、ただの夢かもわからないキスの感覚に、頬が熱くなってとっさに顔を逸らした。
もしかして、変に思われたかな?
少なくとも笹倉先輩に何かを感づかれる程度に、あたしは分かりやすいんだろうし……。
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