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*第3章*

狼たちに囲まれたお姫様(1)

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【陸人Side】


 あかん。

 あかんわ、コレ……。

 期末テストを目前として、生徒会室は勉強一色になっていた。

 赤いソファーに座ってノートや問題集を見直す、俺と琉生。

 会長机を陣取って、蓮のノートのコピーやらを見て、ブツブツと呟く達也。


 そして、

「違うっつってんだろ!? 化学はまともにできるんじゃなかったのか!?」

「うぅぅ……、イマイチmolの考え方が理解できなくて……」

 目の前の長机では、ここ一ヶ月程お決まりとなっている、蓮と優芽ちゃんの光景。

 蓮は口は悪いけど、何やかんやで丁寧に優芽ちゃんを指導している。


「ほら、もう一回説明してやるから、耳こじ開けて聞けよ?」

「は、はい……」

 こんな感じに。

 少なくとも蓮は、俺らが思ってる以上に、優芽ちゃんを気に入ってるんやろうなと思う。

 最初に強引に優芽ちゃんを生徒会に入れたのも、蓮やったしな。

 でも、どうやら達也や琉生も、優芽ちゃんに気があるようで……。


「小屋の中の姫に、狼四人、か……」

 俺が思わずポツリと呟くと、すかさず隣に座っていた琉生が反応した。


「陸人、何か言った?」

「いいや、何も言うてへんで」

「そう」

 琉生はあっさりとそう言って、再び問題集に視線を落とした。

 こっそり優芽ちゃんをデートに連れ出したとき以来、達也は大人しくしているものの、それに安心していたら今度は琉生が豹変したからな。

 ほんま、油断も隙もあらへんわ!


『優芽ちゃんの気持ちもわからないのに、本気で襲うわけないでしょ? だけど、好きになった子の気を引くためなら、僕は何だってするよ』

 先日のことを問いただしたら、琉生はいつものように『あはは』と笑いながらそう言った。

 だけど、琉生の穏やかな切れ長の瞳は真剣で。

 本気なんやって悟った。


 ほんま、あかんわ……。

 生徒会仲間の三人が、同じ生徒会の後輩の
女の子に想いを寄せてるかもしれへんのに、平常心を保てるわけがない。


 俺やってあの子を……。

 優芽ちゃんを、他の奴らのもんにされたくないねん……!!

 ほんまに偶然とはいえ、みんな揃って同じ女の子にやなんて、酷い話やわ……。

 俺がひとつため息を落としたとき、ヨレヨレとした声が俺に近づいて来た。


「なあ、陸人~? ビタミンKって血を固める作用があったよなあ?」

 見ると、目の下にクマを作った達也が、たくさんの資料のプリントを片手に、俺の前に立っていた。


「あー、確かそうやったんとちゃうかな?」

「そうか。じゃあ、怒りっぽい蓮がキレ過ぎて、とうとう脳の血管破裂させたら、蓮の頭に納豆を詰めてやりゃいいんか」

「は? 何で納豆やねん。蓮の頭、ネバネバになってまうで?」

 蓮の頭より、こいつの頭の方が心配やわ……。


「納豆にはビタミンKが多いらしいから、あとはブロッコリーも……」

 達也はそうブツブツ言いながら、フラフラと会長机の方へと戻った。


「何や? 家庭科の勉強でもしとるんか?」

「家庭科と化学と生物の融合ってとこじゃないかな? あれで達也が覚えられるならいいけど、さすが桜ヶ丘高校のフェニックスは、僕らと覚え方がちょっと違うみたいだね」

「ほんまに……」

 琉生にもっともな意見をもらって思わず納得してしまう。

 まあ、なんやかんや今はみんなテストに気が向いてる。

 俺も、勉強に集中せなあかんな……。
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