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*第3章*
特訓してやるよ(1)
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少しずつ暑くなってきた五月末。
あたしは、半泣き状態で生徒会室の長机に座らされていた。
「だから、そこの考え方が違うって、何回言えば分かるんだ!」
「うぅ……」
だったら、早く答え教えてよ……。
「自分で考えないと、身につかねえだろ?」
こんなの、いくら考えたって分かんないし、時間の無駄だよ……。
「数学を暗記で済ませようとするから、応用問題で手足が出ないんだ。考えろ」
そんなこと言われたって……。
桜ヶ丘高校は、この五月の半ばに早くも主要科目の中間テストがあった。
最終的な評定は期末テストに委ねられるこの学校では、中間テストはどちらかというと、期末テストに向けての予行のような位置づけになっている。
それを理由に、今の実力が分かればいいやと、あまり気合いを入れて勉強してなかったのが裏目に出たみたいで……。
散々な結果に終わったあたしは、期末テストに向けて、神崎先輩のスパルタ授業を受けることになってしまったのです。
「英語と化学と生物以外赤点だなんて、救いようがねえな」
嘲笑うように、あたしのテスト結果の紙を見る神崎先輩。
神崎先輩はというと、二年生で断トツでトップの成績を修めて中間テストをパスしたんだとか……。
「とにかく、今日はこの数学、明日は古典を見てやろう。現代社会は覚えれば点数出るから、死ぬ気で覚えろ!」
あれこれ言われて、気が遠くなる……。
だって、中間テスト終わったそばから勉強だなんて……。
「おまえなあ、そんな目で俺を見んな! ちゃんと単位取れなかったとき、困るのはおまえなんだぞ!?」
「だ、だって……」
「中間終わったばかりなのに、おまえに酷なこと言ってるのは分かってる。だけど、肝心な期末テストは六月末なんだ。今から始めねえと、この成績じゃ間に合わねえ」
そう言って、自分のスケジュール帳に目を落として首をかしげる神崎先輩。
「蓮もスパルタだなあ。俺のような例だってあるんだぜ?」
そう言って、赤いソファーに寝転がって、雑誌片手にこちらを見るのは広瀬先輩。
「確かに達也は、通称桜ヶ丘のフェニックスだもんね」
生徒会室の隅でアーチェリーに集中していた笹倉先輩も、ペットボトルのお茶を片手にこちらにやって来た。
「フェニックス……?」
あたしが首をかしげると、神崎先輩は呆れたようにため息を吐く。
「達也はな、中間テストは全科目赤点で突破するくせに、期末テストでは平均八割越えの点数をたたき出してクリアするツワモノなんだよ」
「イェーイ」
得意げにそう言って顔の前にピースを作る広瀬先輩に、神崎先輩は小さく肩を落とした。
「誰も褒めてねえから……」
「死んだように見せかけて、最後には復活する達也の不死身さがフェニックスに例えられて、そう呼ばれてるんだ。ある意味達也は伝説だよ」
あははと笑いながら笹倉先輩は広瀬先輩を見る。
「まあその替わり、期末テスト前は四徹五徹は当たり前だけどな!」
え……。
四徹、五徹って……。
四日や五日も徹夜で勉強してるってこと!?
「ったく、そんだけできる頭があんだから、日頃から真面目にやってればそんな苦労をする必要もねえのに」
神崎先輩のもっともな言葉に、広瀬先輩が口を開く。
「それができたら俺じゃねえよ! それに、四日や五日死ぬ気で勉強すればあとは好きに過ごせるんだから、お得じゃね?」
「まあ、おまえの好きにしろよ。カレー女はこんなの見習うんじゃねえぞ?」
見習うも何も、あたしには広瀬先輩を真似られるような頭も体力もありません……。
そのとき、キャーっという黄色い歓声が、グラウンドの方から響く。
「相変わらずすごい盛り上がりだなあ。陸人がシュートでも決めたのか~?」
生徒会室の窓からは直接グラウンドの様子を見ることはできないけれど、ソファーから立ち上がり、窓から身を乗り出してグラウンドの方を見る広瀬先輩。
「恐らくそうじゃないかな? 助っ人のはずが、夏のサッカー部の大会の出場まで頼まれて、陸人も大変だよね」
笹倉先輩も窓の方に目をやりながら言う。
「そう言う琉生は、アーチェリーの試合に個人的に出たりはしないのか?」
「たまに出てるよ。まあ出たところで、アーチェリー部がある高校の方が珍しいからみんな顔見知りだし、勝負は見えてるけどね」
神崎先輩の問いに得意げに笑うと、笹倉先輩は再び練習用の的の前へと戻った。
「琉生のアーチェリーの腕はすごいと俺も思うけどさ、相変わらずすげえ自信だな~」
そう言って、笹倉先輩の弓を引く真似をする広瀬先輩。
あたしは、半泣き状態で生徒会室の長机に座らされていた。
「だから、そこの考え方が違うって、何回言えば分かるんだ!」
「うぅ……」
だったら、早く答え教えてよ……。
「自分で考えないと、身につかねえだろ?」
こんなの、いくら考えたって分かんないし、時間の無駄だよ……。
「数学を暗記で済ませようとするから、応用問題で手足が出ないんだ。考えろ」
そんなこと言われたって……。
桜ヶ丘高校は、この五月の半ばに早くも主要科目の中間テストがあった。
最終的な評定は期末テストに委ねられるこの学校では、中間テストはどちらかというと、期末テストに向けての予行のような位置づけになっている。
それを理由に、今の実力が分かればいいやと、あまり気合いを入れて勉強してなかったのが裏目に出たみたいで……。
散々な結果に終わったあたしは、期末テストに向けて、神崎先輩のスパルタ授業を受けることになってしまったのです。
「英語と化学と生物以外赤点だなんて、救いようがねえな」
嘲笑うように、あたしのテスト結果の紙を見る神崎先輩。
神崎先輩はというと、二年生で断トツでトップの成績を修めて中間テストをパスしたんだとか……。
「とにかく、今日はこの数学、明日は古典を見てやろう。現代社会は覚えれば点数出るから、死ぬ気で覚えろ!」
あれこれ言われて、気が遠くなる……。
だって、中間テスト終わったそばから勉強だなんて……。
「おまえなあ、そんな目で俺を見んな! ちゃんと単位取れなかったとき、困るのはおまえなんだぞ!?」
「だ、だって……」
「中間終わったばかりなのに、おまえに酷なこと言ってるのは分かってる。だけど、肝心な期末テストは六月末なんだ。今から始めねえと、この成績じゃ間に合わねえ」
そう言って、自分のスケジュール帳に目を落として首をかしげる神崎先輩。
「蓮もスパルタだなあ。俺のような例だってあるんだぜ?」
そう言って、赤いソファーに寝転がって、雑誌片手にこちらを見るのは広瀬先輩。
「確かに達也は、通称桜ヶ丘のフェニックスだもんね」
生徒会室の隅でアーチェリーに集中していた笹倉先輩も、ペットボトルのお茶を片手にこちらにやって来た。
「フェニックス……?」
あたしが首をかしげると、神崎先輩は呆れたようにため息を吐く。
「達也はな、中間テストは全科目赤点で突破するくせに、期末テストでは平均八割越えの点数をたたき出してクリアするツワモノなんだよ」
「イェーイ」
得意げにそう言って顔の前にピースを作る広瀬先輩に、神崎先輩は小さく肩を落とした。
「誰も褒めてねえから……」
「死んだように見せかけて、最後には復活する達也の不死身さがフェニックスに例えられて、そう呼ばれてるんだ。ある意味達也は伝説だよ」
あははと笑いながら笹倉先輩は広瀬先輩を見る。
「まあその替わり、期末テスト前は四徹五徹は当たり前だけどな!」
え……。
四徹、五徹って……。
四日や五日も徹夜で勉強してるってこと!?
「ったく、そんだけできる頭があんだから、日頃から真面目にやってればそんな苦労をする必要もねえのに」
神崎先輩のもっともな言葉に、広瀬先輩が口を開く。
「それができたら俺じゃねえよ! それに、四日や五日死ぬ気で勉強すればあとは好きに過ごせるんだから、お得じゃね?」
「まあ、おまえの好きにしろよ。カレー女はこんなの見習うんじゃねえぞ?」
見習うも何も、あたしには広瀬先輩を真似られるような頭も体力もありません……。
そのとき、キャーっという黄色い歓声が、グラウンドの方から響く。
「相変わらずすごい盛り上がりだなあ。陸人がシュートでも決めたのか~?」
生徒会室の窓からは直接グラウンドの様子を見ることはできないけれど、ソファーから立ち上がり、窓から身を乗り出してグラウンドの方を見る広瀬先輩。
「恐らくそうじゃないかな? 助っ人のはずが、夏のサッカー部の大会の出場まで頼まれて、陸人も大変だよね」
笹倉先輩も窓の方に目をやりながら言う。
「そう言う琉生は、アーチェリーの試合に個人的に出たりはしないのか?」
「たまに出てるよ。まあ出たところで、アーチェリー部がある高校の方が珍しいからみんな顔見知りだし、勝負は見えてるけどね」
神崎先輩の問いに得意げに笑うと、笹倉先輩は再び練習用の的の前へと戻った。
「琉生のアーチェリーの腕はすごいと俺も思うけどさ、相変わらずすげえ自信だな~」
そう言って、笹倉先輩の弓を引く真似をする広瀬先輩。
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