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*第3章*
特訓してやるよ(2)
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「まあ、琉生らしくていいんじゃねえか? アーチェリーに関してだけは、すげえプライド高いし、実際に何回も優勝経験あるらしいし」
そうだったんだ……。
確かに、素人のあたしが見ても分かるくらい、すごく綺麗なフォームだもんね。
ぼんやりと笹倉先輩のアーチェリー姿を眺めていると、ガシッと頭をわしづかみにされて、現実を突き付けられる。
「休憩時間はここまでだ。おまえはこっちに集中しろ!」
えええ~……。
そんなあ……。
「優芽ちゃんも蓮に捕まって大変だね~。あとで優芽ちゃんが頑張った分、しっかり俺がヨシヨシ慰めてあげるからね!」
楽しそうにそう笑う広瀬先輩に、神崎先輩が口を開く。
「何がヨシヨシ慰めるだ。こいつの勉強邪魔したら、容赦なく副会長クビだからな!」
「うっわ! 副会長クビの条件増やすなよ!」
権力乱用! と口を尖らせる広瀬先輩に、「知るか」と冷たく神崎先輩は言い放った。
その間も、あたしはウンウンと考えたって答えの出ない数学の問題に、頭を悩ませる。
すると、ふわりと背中に覆いかぶさるように触れる、神崎先輩の身体。
え……っ!?
あたしが思わず振り返ると、すぐそばに、神崎先輩の綺麗な顔。
そして、そっとあたしの手から、シャーペンが取り上げられる。
「いいか? 一度しか説明しねえからよく聞いとけよ?」
「は、はい……」
「まず、ここをxと置いたところで、何も答えが出ない。ここじゃなくて、この値をxと置いて計算するんだ」
神崎先輩は、一から丁寧にその問題の解き方を教えてくれた。
さっきまであんなに考えろって言われるだけの、スパルタ授業だったのに……。
一通り説明を終えた神崎先輩に、おまえもやってみろ、とシャーペンを渡される。
「あ、ありがとうございます」
そして、神崎先輩が説明しながら書いてくれたメモを見ながら、今度はあたしが問題を解こうとシャーペンを持ち直す。
しかし、そのメモはあたしからスッと取り上げられてしまった。
「あ、ダメです……」
あたし、それがないと解ける自信ないのに……。
「教えてもらった直後は何も見ずに解け。その方が、まだ理解できてねえところがわかるだろ?」
「……はい」
あたしは言われるがままに、白紙の数学の問題と向き合う。
あたしが解答を書きはじめて、30秒も経たないうちに、神崎先輩の喝が飛んだ。
「違う! おまえ、人の話ちゃんと聞いてたか!?」
「す、すみません……」
ああ、もとの怖い神崎先輩に戻っちゃった……。
だけどあんなに密着して教えられたら、ドキドキし過ぎて集中しろって方が無理があるもん……。
申し訳ないような気持ちになりながら神崎先輩を見上げると、呆れたように神崎先輩はため息を吐いた。
「でもまあ、今日はおまえがこれだけできないって分かって、ある意味良しとしないといけねえんだろうな」
確かにそうかもしれないけど、そんな風に言われるとさすがに悲しい。
「ったく、そんな泣きそうな顔すんなよ」
「え……」
あたし、そんなに泣きそうな顔してた……?
見ると、神崎先輩は怒っているというより、困ったような表情を浮かべていた。
あたしと目が合うと、神崎先輩は押さえつけるようにあたしの頭の上に大きな手を置いた。
「ぎゃっ」
おかげで、変な声出ちゃったし……。
「何その声」
プッと吹き出すように笑う神崎先輩だけど、先輩のせいでこんな声が出たっていうのに……。
だけど、そう言い返せるわけもなくムッとしていると、神崎先輩の声が降って来る。
「大丈夫だ。俺の言う通りにやれば、おまえの期末テストの単位は俺が保証してやるから」
神崎先輩の、今までにないくらいの優しい声色に、心が震える。
「ほんと、ですか……!?」
さすがに、一年生から単位に怯えるのは勘弁だもん。
「当たり前だ。その替わり、俺にちゃんとついて来いよ?」
「はい、ありがとうございます!」
すると、神崎先輩はニヤリと口角を上げて笑った。
「いい返事だ。これからみっちり特訓してやるよ」
あれ……?
神崎先輩、さっきの雰囲気から元に戻ってないですか?
「あーあ。優芽ちゃんったら、自分から蓮のやる気に火をつけて、どうすんの」
「これは、優芽ちゃんはテスト終わるまで、勉強漬けの日々確定ってことだね」
同情とも取れる表情で、あたしを見る広瀬先輩と笹倉先輩。
「さてと、数学ばかりも飽きたし、やっぱり明日やる予定だった古典もやるか」
「え、そんなあ……」
「おまえ、さっき俺について来るって返事したよな?」
「……うぅっ」
あたしの反応に、神崎先輩は満足げに笑う。
あたしは目の前に広げられた古典の問題に、再び地獄を見る羽目になったのだった……。
そうだったんだ……。
確かに、素人のあたしが見ても分かるくらい、すごく綺麗なフォームだもんね。
ぼんやりと笹倉先輩のアーチェリー姿を眺めていると、ガシッと頭をわしづかみにされて、現実を突き付けられる。
「休憩時間はここまでだ。おまえはこっちに集中しろ!」
えええ~……。
そんなあ……。
「優芽ちゃんも蓮に捕まって大変だね~。あとで優芽ちゃんが頑張った分、しっかり俺がヨシヨシ慰めてあげるからね!」
楽しそうにそう笑う広瀬先輩に、神崎先輩が口を開く。
「何がヨシヨシ慰めるだ。こいつの勉強邪魔したら、容赦なく副会長クビだからな!」
「うっわ! 副会長クビの条件増やすなよ!」
権力乱用! と口を尖らせる広瀬先輩に、「知るか」と冷たく神崎先輩は言い放った。
その間も、あたしはウンウンと考えたって答えの出ない数学の問題に、頭を悩ませる。
すると、ふわりと背中に覆いかぶさるように触れる、神崎先輩の身体。
え……っ!?
あたしが思わず振り返ると、すぐそばに、神崎先輩の綺麗な顔。
そして、そっとあたしの手から、シャーペンが取り上げられる。
「いいか? 一度しか説明しねえからよく聞いとけよ?」
「は、はい……」
「まず、ここをxと置いたところで、何も答えが出ない。ここじゃなくて、この値をxと置いて計算するんだ」
神崎先輩は、一から丁寧にその問題の解き方を教えてくれた。
さっきまであんなに考えろって言われるだけの、スパルタ授業だったのに……。
一通り説明を終えた神崎先輩に、おまえもやってみろ、とシャーペンを渡される。
「あ、ありがとうございます」
そして、神崎先輩が説明しながら書いてくれたメモを見ながら、今度はあたしが問題を解こうとシャーペンを持ち直す。
しかし、そのメモはあたしからスッと取り上げられてしまった。
「あ、ダメです……」
あたし、それがないと解ける自信ないのに……。
「教えてもらった直後は何も見ずに解け。その方が、まだ理解できてねえところがわかるだろ?」
「……はい」
あたしは言われるがままに、白紙の数学の問題と向き合う。
あたしが解答を書きはじめて、30秒も経たないうちに、神崎先輩の喝が飛んだ。
「違う! おまえ、人の話ちゃんと聞いてたか!?」
「す、すみません……」
ああ、もとの怖い神崎先輩に戻っちゃった……。
だけどあんなに密着して教えられたら、ドキドキし過ぎて集中しろって方が無理があるもん……。
申し訳ないような気持ちになりながら神崎先輩を見上げると、呆れたように神崎先輩はため息を吐いた。
「でもまあ、今日はおまえがこれだけできないって分かって、ある意味良しとしないといけねえんだろうな」
確かにそうかもしれないけど、そんな風に言われるとさすがに悲しい。
「ったく、そんな泣きそうな顔すんなよ」
「え……」
あたし、そんなに泣きそうな顔してた……?
見ると、神崎先輩は怒っているというより、困ったような表情を浮かべていた。
あたしと目が合うと、神崎先輩は押さえつけるようにあたしの頭の上に大きな手を置いた。
「ぎゃっ」
おかげで、変な声出ちゃったし……。
「何その声」
プッと吹き出すように笑う神崎先輩だけど、先輩のせいでこんな声が出たっていうのに……。
だけど、そう言い返せるわけもなくムッとしていると、神崎先輩の声が降って来る。
「大丈夫だ。俺の言う通りにやれば、おまえの期末テストの単位は俺が保証してやるから」
神崎先輩の、今までにないくらいの優しい声色に、心が震える。
「ほんと、ですか……!?」
さすがに、一年生から単位に怯えるのは勘弁だもん。
「当たり前だ。その替わり、俺にちゃんとついて来いよ?」
「はい、ありがとうございます!」
すると、神崎先輩はニヤリと口角を上げて笑った。
「いい返事だ。これからみっちり特訓してやるよ」
あれ……?
神崎先輩、さっきの雰囲気から元に戻ってないですか?
「あーあ。優芽ちゃんったら、自分から蓮のやる気に火をつけて、どうすんの」
「これは、優芽ちゃんはテスト終わるまで、勉強漬けの日々確定ってことだね」
同情とも取れる表情で、あたしを見る広瀬先輩と笹倉先輩。
「さてと、数学ばかりも飽きたし、やっぱり明日やる予定だった古典もやるか」
「え、そんなあ……」
「おまえ、さっき俺について来るって返事したよな?」
「……うぅっ」
あたしの反応に、神崎先輩は満足げに笑う。
あたしは目の前に広げられた古典の問題に、再び地獄を見る羽目になったのだった……。
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