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*第2章*
フキゲンいちごみるく(2)
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「す、すみません……。数学の小テスト、再試験になっちゃって……」
「おまえなあ。それでいて理系志望とか、理系なめてるだろ」
「だ、だって……」
優芽ちゃん、理系志望なんだ。
でも、そっか。
化学の実験の授業も取ってたもんね。
うちの高校はちょっと変わってて、基本的に授業は単位制だ。
理系クラスとか、文系クラスとか一、二年生のうちは別れてなくて、各々が希望する進路に合わせて授業を取るっていうシステムになっている。
一年生のときから面倒臭い化学の実験の授業を取るなんて、理系志望の生徒くらいしか居ねえもんな。
「だって、あたし、国語苦手で……」
「おまえ、その数学以上にまだできねえ科目あんのかよ」
「……すみません」
蓮にこっぴどく言われて、小さくなる優芽ちゃん。
まあ、いつもの光景だ。
優芽ちゃんは、美人というより、可愛い雰囲気を持ってる感じの子だと思う。
何事にも一生懸命なんだけど、結構抜けてるところやドジなところも多くて……。
何だかそばに居ると、ほっとけないっていうか、目を離せない、そんな子だ。
俺自身、そんな優芽ちゃんの愛らしい姿を見る度に、どんどん一人占めしたくなった。
反応ひとつひとつが可愛くて仕方ない。
でも、そう思ってるのは、この四人の中で俺だけではない。
蓮だって、陸人だって、琉生だって、どういう偶然か分かんねえけど、多かれ少なかれ同じように優芽ちゃんに惹かれてるように思うんだ。
あいつらの本心なんて、分かんねえけど……。
「今日のおまえの仕事は、明日配布のプリントの下書きをパソコンに打ち込めば終わりだ」
「え……」
「何だよ、せっかくおまえが早く帰れるように仕事を減らしてやったんだろ? それとも、もっとこき使われたいのか?」
「い、いえ……」
ああ、やっぱり。
蓮は、俺が優芽ちゃんをデートに連れ出したのを根に持ってるだけに、優芽ちゃんと話すのも複雑なんだ……。
蓮と優芽ちゃんのぎこちない会話。
優芽ちゃんが蓮の態度に戸惑うのも無理ねえけど、優芽ちゃんがそんな風に蓮のことで頭を悩ませる姿を見ると、胸が痛む……。
こんな気持ち、いつ振りだろう……?
「蓮のこと、気になるの?」
「え、っと、いや……」
いつの間にか背後に居た琉生に耳打ちされて、思わず飛び上がりそうになる。
「いろんな意味で、蓮は俺らの中で一番手ごわそうな気するもんな」
俺の考えを代弁するかのように、陸人がそう言った。
琉生と陸人が何で俺にそんなことを言って来たのかは分からない。
だけど、何となく二人には俺のこんな気持ちなんて見透かされているような気がした。
*
今日の生徒会の仕事も終え、帰路につく俺ら。
相変わらず会話もままならない俺と蓮のためにと、琉生の提案でカフェに寄って帰ることになった。
「いらっしゃいませー」
店員の甲高い声に誘導されて、奥の四人掛けの席に腰を下ろす。
シーンと静まり返る四人席。
その気まずい沈黙を破るように、陸人が口を開く。
「とりあえず、何か頼む?」
「いちごミルク」
すると、黒いオーラを放ちながら低い声を響かせる蓮。
おまえ、そのオーラでいちごミルクはねえだろ……。
いくら蓮がいちごミルクが好物だといえど、今の雰囲気にはとてもじゃないけど似つかわない。
「蓮、言いにくいんだけどここの店、いちごミルクは置いてなくて……」
琉生が蓮の顔色をうかがいながら、メニューのページをめくる。
「ちょっと違うけど、氷いちごとミルクのセットがあるよ」
氷いちごとミルク……?
疑問に思って俺もメニューの表を覗き見る。
それは、ミルクの中に、氷状に凍らされたいちごシロップがたくさん浮いた飲み物だった。
溶けるとだんだんいちごミルクに……って、結局はいちごミルクじゃねえかよ!
蓮はちらりとそれを見ると
「じゃあ、それでいい」
と一言。
残りの俺ら三人も適当に注文して、再び沈黙が戻る。
いつも何かしら会話の絶えない生徒会メンバーだが、今日は蓮の醸し出すオーラが黒過ぎるからな……。
「お待たせいたしました」
わりとすぐに店員がドリンクを運んで来て、ドンドンドンと置かれる。
俺はキャラメルマキアート、陸人はカフェオレ、琉生はエスプレッソ。
そんな中、ドーンと場違いのように置かれた、氷いちごとミルクのセット。
店員もきっと蓮を見て、間違った商品を持って来たんじゃないかと、内心焦ったことだろう。
現に、氷いちごとミルクのセットを俺らのテーブルに置くとき、一瞬だけだけど顔が戸惑っていた。
「おまえなあ。それでいて理系志望とか、理系なめてるだろ」
「だ、だって……」
優芽ちゃん、理系志望なんだ。
でも、そっか。
化学の実験の授業も取ってたもんね。
うちの高校はちょっと変わってて、基本的に授業は単位制だ。
理系クラスとか、文系クラスとか一、二年生のうちは別れてなくて、各々が希望する進路に合わせて授業を取るっていうシステムになっている。
一年生のときから面倒臭い化学の実験の授業を取るなんて、理系志望の生徒くらいしか居ねえもんな。
「だって、あたし、国語苦手で……」
「おまえ、その数学以上にまだできねえ科目あんのかよ」
「……すみません」
蓮にこっぴどく言われて、小さくなる優芽ちゃん。
まあ、いつもの光景だ。
優芽ちゃんは、美人というより、可愛い雰囲気を持ってる感じの子だと思う。
何事にも一生懸命なんだけど、結構抜けてるところやドジなところも多くて……。
何だかそばに居ると、ほっとけないっていうか、目を離せない、そんな子だ。
俺自身、そんな優芽ちゃんの愛らしい姿を見る度に、どんどん一人占めしたくなった。
反応ひとつひとつが可愛くて仕方ない。
でも、そう思ってるのは、この四人の中で俺だけではない。
蓮だって、陸人だって、琉生だって、どういう偶然か分かんねえけど、多かれ少なかれ同じように優芽ちゃんに惹かれてるように思うんだ。
あいつらの本心なんて、分かんねえけど……。
「今日のおまえの仕事は、明日配布のプリントの下書きをパソコンに打ち込めば終わりだ」
「え……」
「何だよ、せっかくおまえが早く帰れるように仕事を減らしてやったんだろ? それとも、もっとこき使われたいのか?」
「い、いえ……」
ああ、やっぱり。
蓮は、俺が優芽ちゃんをデートに連れ出したのを根に持ってるだけに、優芽ちゃんと話すのも複雑なんだ……。
蓮と優芽ちゃんのぎこちない会話。
優芽ちゃんが蓮の態度に戸惑うのも無理ねえけど、優芽ちゃんがそんな風に蓮のことで頭を悩ませる姿を見ると、胸が痛む……。
こんな気持ち、いつ振りだろう……?
「蓮のこと、気になるの?」
「え、っと、いや……」
いつの間にか背後に居た琉生に耳打ちされて、思わず飛び上がりそうになる。
「いろんな意味で、蓮は俺らの中で一番手ごわそうな気するもんな」
俺の考えを代弁するかのように、陸人がそう言った。
琉生と陸人が何で俺にそんなことを言って来たのかは分からない。
だけど、何となく二人には俺のこんな気持ちなんて見透かされているような気がした。
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今日の生徒会の仕事も終え、帰路につく俺ら。
相変わらず会話もままならない俺と蓮のためにと、琉生の提案でカフェに寄って帰ることになった。
「いらっしゃいませー」
店員の甲高い声に誘導されて、奥の四人掛けの席に腰を下ろす。
シーンと静まり返る四人席。
その気まずい沈黙を破るように、陸人が口を開く。
「とりあえず、何か頼む?」
「いちごミルク」
すると、黒いオーラを放ちながら低い声を響かせる蓮。
おまえ、そのオーラでいちごミルクはねえだろ……。
いくら蓮がいちごミルクが好物だといえど、今の雰囲気にはとてもじゃないけど似つかわない。
「蓮、言いにくいんだけどここの店、いちごミルクは置いてなくて……」
琉生が蓮の顔色をうかがいながら、メニューのページをめくる。
「ちょっと違うけど、氷いちごとミルクのセットがあるよ」
氷いちごとミルク……?
疑問に思って俺もメニューの表を覗き見る。
それは、ミルクの中に、氷状に凍らされたいちごシロップがたくさん浮いた飲み物だった。
溶けるとだんだんいちごミルクに……って、結局はいちごミルクじゃねえかよ!
蓮はちらりとそれを見ると
「じゃあ、それでいい」
と一言。
残りの俺ら三人も適当に注文して、再び沈黙が戻る。
いつも何かしら会話の絶えない生徒会メンバーだが、今日は蓮の醸し出すオーラが黒過ぎるからな……。
「お待たせいたしました」
わりとすぐに店員がドリンクを運んで来て、ドンドンドンと置かれる。
俺はキャラメルマキアート、陸人はカフェオレ、琉生はエスプレッソ。
そんな中、ドーンと場違いのように置かれた、氷いちごとミルクのセット。
店員もきっと蓮を見て、間違った商品を持って来たんじゃないかと、内心焦ったことだろう。
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