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*第2章*
見回りという名の……?(1)
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神崎先輩効果なのか、不思議とあたしが生徒会の一員になったことを咎めてくる人はいなかった。
最初のうちこそ、本当にリンチされないか心配だったけど
「みんな、おまえが俺らと居る理由が分かったんだ。わざわざ俺の監視下にあるおまえをリンチしようだなんて考える、バカな輩は居ないってことだろ」
と神崎先輩は満足そうに言ってのけた。
そんな中、少しずつ五月へと移り行く。
生徒会室の掃除や整理整頓やホッチキス留めの作業も慣れてきて、思いの外、あたしは補佐の仕事を楽しんでいた。
「よしっ!」
最後に生徒会室の教卓の上に生けられた花瓶の水をかえて、今日の掃除は終了!
ピカピカになった生徒会室を見るのは、気持ちがいい。
あたしがそんな自己満足に浸っていると、不意に背後から声が聞こえて来る。
「あ、優芽ちゃん、掃除終わった感じ?」
「あれ!? 広瀬先輩、起こしちゃいましたか!?」
あたしが生徒会室の掃除をはじめたとき、赤いソファーで気持ち良さそうに眠っていた広瀬先輩。
今は上体を起こして、伸びをしていた。
「よく寝たわ。ふああ……。あ、蓮たちまだ来てねえんだ」
ひとつ大あくびをしながら生徒会室を見渡す広瀬先輩。
「はい、あたしも今日の授業終わってからすぐに来たんですが、皆さんまだみたいで……」
「それもそうか。二年はまだ授業中だわ」
「え!?」
壁時計を見上げて、納得したような表情を浮かべる広瀬先輩に、思わず驚きの声が出る。
「あー、俺、何か身体ダルくてさ、昼からサボってたんだ」
内緒な! っと口元に人さし指を立てて、広瀬先輩は悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
副会長がこんなに堂々と授業サボってていいんですか……。
「あ、思い出した。しかも、確か今日はみんな忙しくて、なかなか生徒会室集まんねえ日だわ」
「そうなんですか?」
「うん。今日の放課後、各クラスのクラス委員長が集まる、代表者委員会ってのがあるでしょ!?」
「はい」
確かに、そんなのがあった気がする……。
「あれに生徒会長の蓮と書記の琉生が出席しなきゃなんなくて、陸人も会計の報告があるとかで、忙しいらしい」
「その代表者委員会には、副会長は行かなくていいんですか?」
「まあ、副会長も代表者委員会に出席してもいいんだけど、ぶっちゃけ会長と書記がいたら充分じゃん?」
つまり、俺はお留守番係ってこと!
広瀬先輩はおどけたようにそう付け加えた。
なんか広瀬先輩らしいけど……。
ということは、今日はこの生徒会室は皆さんが戻って来るまでは、広瀬先輩と二人なんだ。
「でも、せっかく優芽ちゃんが来てくれたことだし、俺も何か活動すっかな!」
そう言って広瀬先輩がソファーから立ち上がると、かばんの中から財布を取り出し、ズボンのポケットに入れる。
「じゃあ、行こうか!」
行くって、どこに……?
あたしが首をかしげていると、広瀬先輩はあたしの手を取った。
「デートだよ! 優芽ちゃん、いつも生徒会の仕事頑張ってくれてるし、そのお礼も兼ねてさ!」
ひ、広瀬先輩と、デート!?
確かにこの前、デートしようみたいなこと言われたけど……。
冗談じゃ、なかったってこと……!?
「よし! これで準備完了~っと」
突然のことに脳内がパニックを起こしている間に、あたしの左腕に何かをつける広瀬先輩。
「……え!?」
見ると、“桜ヶ丘高校生徒会巡回中”という文字の書かれた黄色い腕章が、安全ピンで止められていた。
「これな、見回り用の腕章。うちの生徒の中に、たまにいるんだよね~。放課後、学校の近くの商店街で悪ふざけする奴ら。だから一応、な?」
「そ、そうなんですか……」
デートなんて言うからドキッとしたけど、商店街の見回りってことだったんだ……。
広瀬先輩は自分の左腕にも同じ腕章をつけると、あたしを連れて放課後の商店街へと繰り出した。
*
「優芽ちゃん、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
商店街に入ってすぐのお店で広瀬先輩に差し出されたのは、丸の形のアイスが三つ乗ったワッフルコーンのアイス。
「ここのアイス、超美味いんだよね! 今、ダブルの値段でトリプル食えるから、絶対来たかったんだ」
ウキウキといった感じに広瀬先輩が口に運ぶのも、あたしと同じ味違いのトリプルアイス。
「……見回り中にアイスなんて食べて、大丈夫ですかね?」
「大丈ー夫っ! しっかり糖分取らなきゃ頭回らないでしょ!?」
糖分取らなきゃ頭回らないって……。
そういえば、神崎先輩もよく似たようなことを言ってたな……。
あたしが一人そんなことを考えていると、隣から急かすような声が響く。
「ほらっ! 早く食べないと溶けちゃうよ? 優芽ちゃん、食べるの遅そうだし」
そう言って、楽しそうに笑う広瀬先輩。
うぅぅ……。
でも、食べるのが遅いのも本当だし、アイスも溶かしちゃうことが多いから、何も言い返せないよ~。
最初のうちこそ、本当にリンチされないか心配だったけど
「みんな、おまえが俺らと居る理由が分かったんだ。わざわざ俺の監視下にあるおまえをリンチしようだなんて考える、バカな輩は居ないってことだろ」
と神崎先輩は満足そうに言ってのけた。
そんな中、少しずつ五月へと移り行く。
生徒会室の掃除や整理整頓やホッチキス留めの作業も慣れてきて、思いの外、あたしは補佐の仕事を楽しんでいた。
「よしっ!」
最後に生徒会室の教卓の上に生けられた花瓶の水をかえて、今日の掃除は終了!
ピカピカになった生徒会室を見るのは、気持ちがいい。
あたしがそんな自己満足に浸っていると、不意に背後から声が聞こえて来る。
「あ、優芽ちゃん、掃除終わった感じ?」
「あれ!? 広瀬先輩、起こしちゃいましたか!?」
あたしが生徒会室の掃除をはじめたとき、赤いソファーで気持ち良さそうに眠っていた広瀬先輩。
今は上体を起こして、伸びをしていた。
「よく寝たわ。ふああ……。あ、蓮たちまだ来てねえんだ」
ひとつ大あくびをしながら生徒会室を見渡す広瀬先輩。
「はい、あたしも今日の授業終わってからすぐに来たんですが、皆さんまだみたいで……」
「それもそうか。二年はまだ授業中だわ」
「え!?」
壁時計を見上げて、納得したような表情を浮かべる広瀬先輩に、思わず驚きの声が出る。
「あー、俺、何か身体ダルくてさ、昼からサボってたんだ」
内緒な! っと口元に人さし指を立てて、広瀬先輩は悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
副会長がこんなに堂々と授業サボってていいんですか……。
「あ、思い出した。しかも、確か今日はみんな忙しくて、なかなか生徒会室集まんねえ日だわ」
「そうなんですか?」
「うん。今日の放課後、各クラスのクラス委員長が集まる、代表者委員会ってのがあるでしょ!?」
「はい」
確かに、そんなのがあった気がする……。
「あれに生徒会長の蓮と書記の琉生が出席しなきゃなんなくて、陸人も会計の報告があるとかで、忙しいらしい」
「その代表者委員会には、副会長は行かなくていいんですか?」
「まあ、副会長も代表者委員会に出席してもいいんだけど、ぶっちゃけ会長と書記がいたら充分じゃん?」
つまり、俺はお留守番係ってこと!
広瀬先輩はおどけたようにそう付け加えた。
なんか広瀬先輩らしいけど……。
ということは、今日はこの生徒会室は皆さんが戻って来るまでは、広瀬先輩と二人なんだ。
「でも、せっかく優芽ちゃんが来てくれたことだし、俺も何か活動すっかな!」
そう言って広瀬先輩がソファーから立ち上がると、かばんの中から財布を取り出し、ズボンのポケットに入れる。
「じゃあ、行こうか!」
行くって、どこに……?
あたしが首をかしげていると、広瀬先輩はあたしの手を取った。
「デートだよ! 優芽ちゃん、いつも生徒会の仕事頑張ってくれてるし、そのお礼も兼ねてさ!」
ひ、広瀬先輩と、デート!?
確かにこの前、デートしようみたいなこと言われたけど……。
冗談じゃ、なかったってこと……!?
「よし! これで準備完了~っと」
突然のことに脳内がパニックを起こしている間に、あたしの左腕に何かをつける広瀬先輩。
「……え!?」
見ると、“桜ヶ丘高校生徒会巡回中”という文字の書かれた黄色い腕章が、安全ピンで止められていた。
「これな、見回り用の腕章。うちの生徒の中に、たまにいるんだよね~。放課後、学校の近くの商店街で悪ふざけする奴ら。だから一応、な?」
「そ、そうなんですか……」
デートなんて言うからドキッとしたけど、商店街の見回りってことだったんだ……。
広瀬先輩は自分の左腕にも同じ腕章をつけると、あたしを連れて放課後の商店街へと繰り出した。
*
「優芽ちゃん、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
商店街に入ってすぐのお店で広瀬先輩に差し出されたのは、丸の形のアイスが三つ乗ったワッフルコーンのアイス。
「ここのアイス、超美味いんだよね! 今、ダブルの値段でトリプル食えるから、絶対来たかったんだ」
ウキウキといった感じに広瀬先輩が口に運ぶのも、あたしと同じ味違いのトリプルアイス。
「……見回り中にアイスなんて食べて、大丈夫ですかね?」
「大丈ー夫っ! しっかり糖分取らなきゃ頭回らないでしょ!?」
糖分取らなきゃ頭回らないって……。
そういえば、神崎先輩もよく似たようなことを言ってたな……。
あたしが一人そんなことを考えていると、隣から急かすような声が響く。
「ほらっ! 早く食べないと溶けちゃうよ? 優芽ちゃん、食べるの遅そうだし」
そう言って、楽しそうに笑う広瀬先輩。
うぅぅ……。
でも、食べるのが遅いのも本当だし、アイスも溶かしちゃうことが多いから、何も言い返せないよ~。
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