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*第2章*
アブナイ夜の学校(3)
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「わ……っ」
「いつまでそうしているつもりだ! 忘れ物見つかったんならとっとと帰るぞ」
「え、あ……、はい……」
神崎先輩はあたしの腕を離すと、くるりとあたしに背を向けて、自分の荷物をまとめはじめた。
あたしがその光景を茫然と見ていると、笹倉先輩のクスリと笑う声が聞こえる。
「蓮は相変わらずだね。優芽ちゃんのことは僕らがちゃんと家まで送り届けるからね」
「……何だかあたしが忘れ物をしたばかりに、申し訳ないです」
「そう? もう夜も結構遅いし、当然だよ」
紳士の笑みを浮かべる笹倉先輩だけど、
「……でも」
やっぱり悪い感じするよ……。
「あー、もう、ウダウダ言うな! 散々世話かけたんだから、おまえは黙って送られときゃいいんだよ!」
その声に振り向けば、帰る支度を整えた、神崎先輩の姿。
そんな風に言われたら、素直に送られといた方がいいのかな……。
「は、はい……」
「じゃあ、帰ろっか」
笹倉先輩の言葉を合図に、あたしたちは生徒会室をあとにした。
学校を出ると、忘れ物を取りに学校に向かったとき以上の暗闇と静けさに包まれる。
「うわあ~……、この辺って夜になるとこんなに雰囲気変わるんですね」
学校周辺は、商店街が近くにあることもあって、お昼間は人であふれていることが多い。
だけど、完全に夜なってしまった今、そんなにぎやかなお昼間の面影はなく、寂しい感じだけが漂っていた。
「この辺は個人経営の店が多いし、閉店時間が早いところがほとんどだからね」
あたしの言葉に、笹倉先輩が優しく説明してくれる。
「ったく、だから日が落ちるまでに帰れっつったんだよ」
「す、すみません……」
だけど、間髪入れずに口を開いた神崎先輩に、あたしは再び小さくなった。
「でも、こんな夜道を一人で歩くなんて心細いし、送っていただけて良かったです」
「まさか、本気で言ってんじゃねえだろうな?」
横目であたしを見る神崎先輩。
何かあたし、気に障ること言った……?
神崎先輩の声が、一段と低くすごみを増してる気がする……。
「え……?」
「どこまでおまえは俺の予想を裏切らねえんだよ、無防備な奴」
呆れたようにため息を吐く神崎先輩。
無防備……?
あたしが……?
「案外……」
いつもよりちょっとトーンの低い声に顔を上げると、魅惑的な笑みを浮かべる笹倉先輩と目が合う。
「夜道を一人で歩くより、僕と一緒の方が危ないかもしれないよ?」
そう言って、一気に距離を縮めてくる笹倉先輩。
笹倉先輩に何かをされるとか思ったわけじゃないけれど、明らかにいつもと雰囲気の違う笹倉先輩に、身が強張った。
「あ、あの……っ」
あたしが数歩ななめ後ろにあとずさりすると、ポスンと何かにぶつかる。
「琉生、あまりこいつをからかい過ぎるな」
その声と同時に、背後からあたしの頭の上に乗せられたのは、神崎先輩の大きな手……。
あたしがそっと後ろを見上げると、神崎先輩の綺麗な瞳と目が合う。
次の瞬間、神崎先輩の綺麗な顔は恐ろしい程に歪み、あたしの頭に置かれた手の力が強まった。
「痛っ、痛いですっ!!」
な、何なの!?
すると、怒ってるような心配してるような神崎先輩の声が頭上から降って来る。
「俺らだから良かったものの……」
「え……?」
「他の奴には、ちょっと夜道を送るって言われたくらいで、嬉しそうにひょこひょこついて行くなよ?」
そう言って、神崎先輩はあたしの頭から手を離した。
神崎、先輩……?
そのままスタスタとあたしを追い抜いて歩みを進める神崎先輩。
そして、くるりと顔だけ後ろに向けて、あたしに言った。
「ほら、おまえの家、案内しろよ。送るにも送れねえだろうが」
「す、すみません!!」
あたしは小走りで神崎先輩を追いかける。
そのとき、後ろから笹倉先輩のクスリと笑う声が響く。
「僕らの中で一番の手強いのは、蓮かもしれないね」
「琉生、何か言ったか?」
「いいや、何も」
いつも口が悪くて、意地悪ばっかり言う神崎先輩だけど。
今のことといい、課題を探してくれたことといい……。
こう見えて、意外と根は優しい人なのかもしれない。
何となく、そう感じた。
「いつまでそうしているつもりだ! 忘れ物見つかったんならとっとと帰るぞ」
「え、あ……、はい……」
神崎先輩はあたしの腕を離すと、くるりとあたしに背を向けて、自分の荷物をまとめはじめた。
あたしがその光景を茫然と見ていると、笹倉先輩のクスリと笑う声が聞こえる。
「蓮は相変わらずだね。優芽ちゃんのことは僕らがちゃんと家まで送り届けるからね」
「……何だかあたしが忘れ物をしたばかりに、申し訳ないです」
「そう? もう夜も結構遅いし、当然だよ」
紳士の笑みを浮かべる笹倉先輩だけど、
「……でも」
やっぱり悪い感じするよ……。
「あー、もう、ウダウダ言うな! 散々世話かけたんだから、おまえは黙って送られときゃいいんだよ!」
その声に振り向けば、帰る支度を整えた、神崎先輩の姿。
そんな風に言われたら、素直に送られといた方がいいのかな……。
「は、はい……」
「じゃあ、帰ろっか」
笹倉先輩の言葉を合図に、あたしたちは生徒会室をあとにした。
学校を出ると、忘れ物を取りに学校に向かったとき以上の暗闇と静けさに包まれる。
「うわあ~……、この辺って夜になるとこんなに雰囲気変わるんですね」
学校周辺は、商店街が近くにあることもあって、お昼間は人であふれていることが多い。
だけど、完全に夜なってしまった今、そんなにぎやかなお昼間の面影はなく、寂しい感じだけが漂っていた。
「この辺は個人経営の店が多いし、閉店時間が早いところがほとんどだからね」
あたしの言葉に、笹倉先輩が優しく説明してくれる。
「ったく、だから日が落ちるまでに帰れっつったんだよ」
「す、すみません……」
だけど、間髪入れずに口を開いた神崎先輩に、あたしは再び小さくなった。
「でも、こんな夜道を一人で歩くなんて心細いし、送っていただけて良かったです」
「まさか、本気で言ってんじゃねえだろうな?」
横目であたしを見る神崎先輩。
何かあたし、気に障ること言った……?
神崎先輩の声が、一段と低くすごみを増してる気がする……。
「え……?」
「どこまでおまえは俺の予想を裏切らねえんだよ、無防備な奴」
呆れたようにため息を吐く神崎先輩。
無防備……?
あたしが……?
「案外……」
いつもよりちょっとトーンの低い声に顔を上げると、魅惑的な笑みを浮かべる笹倉先輩と目が合う。
「夜道を一人で歩くより、僕と一緒の方が危ないかもしれないよ?」
そう言って、一気に距離を縮めてくる笹倉先輩。
笹倉先輩に何かをされるとか思ったわけじゃないけれど、明らかにいつもと雰囲気の違う笹倉先輩に、身が強張った。
「あ、あの……っ」
あたしが数歩ななめ後ろにあとずさりすると、ポスンと何かにぶつかる。
「琉生、あまりこいつをからかい過ぎるな」
その声と同時に、背後からあたしの頭の上に乗せられたのは、神崎先輩の大きな手……。
あたしがそっと後ろを見上げると、神崎先輩の綺麗な瞳と目が合う。
次の瞬間、神崎先輩の綺麗な顔は恐ろしい程に歪み、あたしの頭に置かれた手の力が強まった。
「痛っ、痛いですっ!!」
な、何なの!?
すると、怒ってるような心配してるような神崎先輩の声が頭上から降って来る。
「俺らだから良かったものの……」
「え……?」
「他の奴には、ちょっと夜道を送るって言われたくらいで、嬉しそうにひょこひょこついて行くなよ?」
そう言って、神崎先輩はあたしの頭から手を離した。
神崎、先輩……?
そのままスタスタとあたしを追い抜いて歩みを進める神崎先輩。
そして、くるりと顔だけ後ろに向けて、あたしに言った。
「ほら、おまえの家、案内しろよ。送るにも送れねえだろうが」
「す、すみません!!」
あたしは小走りで神崎先輩を追いかける。
そのとき、後ろから笹倉先輩のクスリと笑う声が響く。
「僕らの中で一番の手強いのは、蓮かもしれないね」
「琉生、何か言ったか?」
「いいや、何も」
いつも口が悪くて、意地悪ばっかり言う神崎先輩だけど。
今のことといい、課題を探してくれたことといい……。
こう見えて、意外と根は優しい人なのかもしれない。
何となく、そう感じた。
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