5 / 81
*第1章*
またおまえかよ!(2)
しおりを挟む
「本当にすみません……。あたしができることなら、何でもしますから……」
どうして良いかわからず、あわあわと両手を合わせて頭を下げる。
「何でも、ねえ……」
神崎先輩は、ジトッと綺麗な瞳で見下げるようにあたしに視線を向ける。
やっぱり、こんなので許してなんて、無理だよね……。
神崎先輩は再びため息を落とすと、
「ちょっとついて来い」
と言って、あたしに背を向けて歩き出した。
「は、はい……」
あたしも慌ててそのあとを追った。
神崎先輩の後ろを歩いているからか、周囲の視線が痛い……。
かろうじてさっきは食堂内のザワつきである程度掻き消されてたみたいで、あたしたちの騒ぎに気づいてる人の方が少なかったみたいだけど……。
でも、このチラチラ注がれる視線の中、カレー染みをつけて歩かなきゃならない神崎先輩の方が、よっぽど苦痛だよね……。
ウワサのイケメン生徒会長が、事故とはいえ、カッターシャツにカレー染み……。
あああ……、もう絶対神崎先輩に許してもらえないよ……。
「入れよ」
目的の場所に着いたのか、神崎先輩の声に顔を上げる。
そこは、生徒会室へと続く部屋の入り口だった。
「お邪魔、します……」
生徒会室とか、入るの初めてだよ……。
中学のときも、あたしは生徒会とは無縁だったからなあ。
でも、ここに連れて来られたってことは、間違いなく生徒会長による生徒指導だよね……。
生徒会室は二重扉になっているようで、神崎先輩に促されて室内に入ると、再び目の前に扉が現れた。
神崎先輩が目の前の内扉に手をかけて、視界が開ける。
目の前に広がる信じられない光景。
真ん中にずんと置かれた、赤い三人がけのソファーに寝そべって雑誌を眺める広瀬先輩。
そのソファーの後ろでサッカーボールを操る、小麦色の肌の妹尾先輩。
そして、妹尾先輩とは反対側のスペースでは、至近距離の的にスポーティーな形の弓で矢を射る、笹倉先輩。
異様に広い部屋で、明らかに好き勝手してる生徒会メンバー。
もちろん、その隅にはちゃんと黒板や教卓や長テーブルといった生徒会室らしいものはあるんだけど……。
「蓮、戻ったなら何か言えよ。静かに部屋に入られると気持ち悪……、って、えええ!?」
ふわふわの髪の広瀬先輩が、読んでいた雑誌をそばらに置いて起き上がる。
神崎先輩の後ろに立つあたしを見るなり、広瀬先輩は大きな丸い瞳をさらに大きく見開いた。
「何だよ」
驚き固まる広瀬先輩に、神崎先輩は一言言い放つ。
「誰かと思えば、この前の子やん!? 確か優芽ちゃんやんなあ?」
「へえ、蓮がこの生徒会室に僕ら以外の人間を入れること自体珍しいのに、女の子を連れて来るとはね」
妹尾先輩も笹倉先輩も手を止めて、次々に口を開く。
「まあ、ちょっと事情があってな」
そう言って、あたしを見下げる神崎先輩。
あたしは反射的に身を縮ませた。
「す、すみません……」
「うわっ!! 目だけで女の子脅すなよ、可哀相~」
あたしのその様子を見てなのか、広瀬先輩が一喝入れる。
「それより、カッターシャツに素敵な食べ染みをつけて食堂から女の子と帰って来た蓮の神経に、僕は拍手を送るよ」
優しげな表情を崩さないまま、綺麗に微笑む笹倉先輩。
意外と毒舌……?
表情と言動が伴ってなくて、逆に怖いです……。
「そ、それは……っ」
でも、神崎先輩のカッターシャツについてるカッター染みは、神崎先輩の食べ染みなんかじゃないのに……。
あたしがそのことを伝えようとするも、ようやく喉まで出かけた声は、他の声に掻き消されてしまった。
「ほんまほんま! この色は、蓮の昼飯はカレーライスかカレーうどんやな!」
確信めいたようにニヤリと笑う妹尾先輩。
「陸人、大正解かも! 蓮のカッターシャツ、見事なカレー臭!!」
くんくん、と神崎先輩のカッターシャツに鼻を近づけて臭いを嗅ぐ広瀬先輩。
神崎先輩は広瀬先輩のふわふわの髪の頭を、ガッと手で押さえ付けた。
「うるせえ! 誰が加齢臭だ!!」
「いてえ!! 冗談通じねえな~、加齢臭じゃなくてカレー臭だって!!」
神崎先輩の手の下から苦し紛れの広瀬先輩の声が聞こえる。
どうして良いかわからず、あわあわと両手を合わせて頭を下げる。
「何でも、ねえ……」
神崎先輩は、ジトッと綺麗な瞳で見下げるようにあたしに視線を向ける。
やっぱり、こんなので許してなんて、無理だよね……。
神崎先輩は再びため息を落とすと、
「ちょっとついて来い」
と言って、あたしに背を向けて歩き出した。
「は、はい……」
あたしも慌ててそのあとを追った。
神崎先輩の後ろを歩いているからか、周囲の視線が痛い……。
かろうじてさっきは食堂内のザワつきである程度掻き消されてたみたいで、あたしたちの騒ぎに気づいてる人の方が少なかったみたいだけど……。
でも、このチラチラ注がれる視線の中、カレー染みをつけて歩かなきゃならない神崎先輩の方が、よっぽど苦痛だよね……。
ウワサのイケメン生徒会長が、事故とはいえ、カッターシャツにカレー染み……。
あああ……、もう絶対神崎先輩に許してもらえないよ……。
「入れよ」
目的の場所に着いたのか、神崎先輩の声に顔を上げる。
そこは、生徒会室へと続く部屋の入り口だった。
「お邪魔、します……」
生徒会室とか、入るの初めてだよ……。
中学のときも、あたしは生徒会とは無縁だったからなあ。
でも、ここに連れて来られたってことは、間違いなく生徒会長による生徒指導だよね……。
生徒会室は二重扉になっているようで、神崎先輩に促されて室内に入ると、再び目の前に扉が現れた。
神崎先輩が目の前の内扉に手をかけて、視界が開ける。
目の前に広がる信じられない光景。
真ん中にずんと置かれた、赤い三人がけのソファーに寝そべって雑誌を眺める広瀬先輩。
そのソファーの後ろでサッカーボールを操る、小麦色の肌の妹尾先輩。
そして、妹尾先輩とは反対側のスペースでは、至近距離の的にスポーティーな形の弓で矢を射る、笹倉先輩。
異様に広い部屋で、明らかに好き勝手してる生徒会メンバー。
もちろん、その隅にはちゃんと黒板や教卓や長テーブルといった生徒会室らしいものはあるんだけど……。
「蓮、戻ったなら何か言えよ。静かに部屋に入られると気持ち悪……、って、えええ!?」
ふわふわの髪の広瀬先輩が、読んでいた雑誌をそばらに置いて起き上がる。
神崎先輩の後ろに立つあたしを見るなり、広瀬先輩は大きな丸い瞳をさらに大きく見開いた。
「何だよ」
驚き固まる広瀬先輩に、神崎先輩は一言言い放つ。
「誰かと思えば、この前の子やん!? 確か優芽ちゃんやんなあ?」
「へえ、蓮がこの生徒会室に僕ら以外の人間を入れること自体珍しいのに、女の子を連れて来るとはね」
妹尾先輩も笹倉先輩も手を止めて、次々に口を開く。
「まあ、ちょっと事情があってな」
そう言って、あたしを見下げる神崎先輩。
あたしは反射的に身を縮ませた。
「す、すみません……」
「うわっ!! 目だけで女の子脅すなよ、可哀相~」
あたしのその様子を見てなのか、広瀬先輩が一喝入れる。
「それより、カッターシャツに素敵な食べ染みをつけて食堂から女の子と帰って来た蓮の神経に、僕は拍手を送るよ」
優しげな表情を崩さないまま、綺麗に微笑む笹倉先輩。
意外と毒舌……?
表情と言動が伴ってなくて、逆に怖いです……。
「そ、それは……っ」
でも、神崎先輩のカッターシャツについてるカッター染みは、神崎先輩の食べ染みなんかじゃないのに……。
あたしがそのことを伝えようとするも、ようやく喉まで出かけた声は、他の声に掻き消されてしまった。
「ほんまほんま! この色は、蓮の昼飯はカレーライスかカレーうどんやな!」
確信めいたようにニヤリと笑う妹尾先輩。
「陸人、大正解かも! 蓮のカッターシャツ、見事なカレー臭!!」
くんくん、と神崎先輩のカッターシャツに鼻を近づけて臭いを嗅ぐ広瀬先輩。
神崎先輩は広瀬先輩のふわふわの髪の頭を、ガッと手で押さえ付けた。
「うるせえ! 誰が加齢臭だ!!」
「いてえ!! 冗談通じねえな~、加齢臭じゃなくてカレー臭だって!!」
神崎先輩の手の下から苦し紛れの広瀬先輩の声が聞こえる。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【短編集2】恋のかけらたち
美和優希
恋愛
魔法のiらんどの企画で書いた恋愛小説の短編集です。
甘々から切ない恋まで
いろんなテーマで書いています。
【収録作品】
1.百年後の未来に、きみと(2020.04.24)
→誕生日に、彼女からどこにでも行ける魔法のチケットをもらって──!?
魔法のiらんど企画「#つながる魔法で続きをつくろう」 で書いたSSです。
2.優しい鈴の音と鼓動(2020.11.08)
→幼なじみの凪くんは最近機嫌が悪そうで意地悪で冷たい。嫌われてしまったのかと思っていたけれど──。
3.歌声の魔法(2020.11.15)
→地味で冴えない女子の静江は、いつも麗奈をはじめとしたクラスメイトにいいように使われていた。そんなある日、イケメンで不真面目な男子として知られる城野に静江の歌と麗奈への愚痴を聞かれてしまい、麗奈をギャフンと言わせる作戦に参加させられることになって──!?
4.もしも突然、地球最後の日が訪れたとしたら……。(2020.11.23)
→“もしも”なんて来てほしくないけれど、地球消滅の危機に直面した二人が最後に見せたものは──。
5.不器用なサプライズ(2021.01.08)
→今日は彼女と付き合い始めて一周年の記念日。それなのに肝心のサプライズの切り出し方に失敗してしまって……。
*()内は初回公開・完結日です。
*いずれも「魔法のiらんど」で公開していた作品になります。サービス終了に伴い、ページ分けは当時のままの状態で公開しています。
*現在は全てアルファポリスのみの公開です。
アルファポリスでの公開日*2025.02.11
表紙画像は、イラストAC(がらくった様)の画像に文字入れをして使わせていただいてます。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる