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「……しゃ、社長っ」


 だけど、あ、と思ったときは、もう一度触れ合う唇。


「と、俊彦さん。こんなところで……」


 今度こそ名前で呼んでそう言うと、悪戯っ子のように笑う社長……俊彦さんの顔が遠ざかっていく。


「お仕置き、な? 嫌だったら、仕事以外では名前で呼んで?」

 さすがに人前でキスされたのはビックリしたけれど、そんな風に笑う俊彦さんのことを思わず可愛いと思ってしまった。


 俊彦さんと付き合って、どんどん俊彦さんの新しい顔を知っていく。

 その度に、どんどんどんどん俊彦さんのことを好きになっていく。

 もう、付き合う前には戻れないって思ってしまうくらいに──。


 *


 ディナーのあとは、私は俊彦さんが予約してくれていたホテルの一室の大きなガラス張りの窓から、都内の夜景を見ていた。

 先程までいたフレンチレストランより少し下の階にはなるけれど、それでも二十五階から見る展望は素晴らしかった。


「琴子」


 不意に名前を呼ばれると同時に、私は背後から温もりに包まれた。

 鼻腔を掠めるのは、優しい石鹸の香り。

 さっきまでとは違う俊彦さんの香りに、思わず心臓が暴れ出す。


 俊彦さんを見上げるように振り向くと、唇が重なった。


「お待たせ。琴子もシャワー浴びておいで」

「……はい」


 このあとの展開を考えるだけで、ドキドキしてしまう。

 付き合ってる大人の男女が一晩一緒に過ごすっていうことはやっぱり……。


 思わず脳内に広がった甘い妄想に、シャワーを頭から被って自分自身を落ち着かせる。


 今回のディナーに誘われたあと、夜泊まるかどうかの選択は私に委ねられた。

 きっとそれは、俊彦さんの優しさだ。

 私がまだ早いと思っていたら、ちゃんと断ることができるように。


 だけど、私には断るなんて選択肢はなかった。

 この前は自分の身に起こる幸せな出来事が信じられなくて断ってしまったけれど、今回はそうじゃない。

 心の準備だってできている。

 俊彦さんのことが好きだから。やっぱり大好きな人とは結ばれたい。


 シャワーを終えて俊彦さんのところに戻ると、俊彦さんはさっきまで私が夜景を見ていた窓のそばにある丸テーブルでノートパソコンと向き合っているようだった。


 私に気づくなりパタンとノートパソコンを閉じて、俊彦さんは私の方へ来ると、私を大きな腕のなかに閉じ込めた。


「……仕事ですか?」

「まぁ。ちょっと立て込んでる案件があって見てたけど、大丈夫だ」


 俊彦さんが忙しくしていることは、秘書としてそばにいる私も知ってる。

 忙しいのに、こうして私のために時間を作ってくれていることも。


「不快な思いをさせたなら悪かった」

「そ、そんなことないです! 私はただ、俊彦さんと一緒に居られたらそれで充分なので……」


 これは、本心だった。

 好きだから、そばにいたい。

 私みたいな人でも俊彦さんのそばに置いてもらえるなら、それだけで幸せだ。


「そんな可愛いことを言われたら、止まらなくなりそうだ」


 俊彦さんは私の額に彼の額をくっつけて、少し苦しげに言うと、私と唇を触れ合わせた。


「……んっ」


 上唇を吸われたかと思えば舐められて、そうしているうちに俊彦さんの舌が私の口内に滑り込んで、キスは深いものに変わる。


 激しさを増すキスを繰り返しているうちに、私と俊彦さんはそのままそばにあったキングサイズのベッドに倒れ込んだ。

 俊彦さんの唇が首筋に移ると同時に、彼の手が私の服の上から胸の膨らみに触れて、思わずピクリと反応してしまう。



「……怖い?」


 その瞬間、私の首筋から唇を離して、俊彦さんは正面から私のことを見つめ直す。


「大丈夫です」


 きっと私のことを気遣ってくれてるのだろう。

 時々意地悪言われることがあっても、やっぱり俊彦さんは優しい。


「もし、まだ心の準備ができてないなら言って? 今ならまだ抑えられるから」


 彼の言葉に、私は首を横に振って俊彦さんの熱い瞳を見つめ返した。


「大丈夫です。私を、俊彦さんのものにしてください」


 自分がこんなに大胆な発言をする日が来るなんて思わなかった。

 だけど、俊彦さんが大好きでたまらないから、私は俊彦さんとひとつになりたい。


「最高の誘い文句だな」


 俊彦さんはフッと笑うと、彼の着ていた服を取り払い私の上に再び覆い被さる。


「そんなこと言われたら、もう止められないから覚悟して」

「……はい」

「愛してる、琴子」

「私もです、俊彦さん……」


 そして、そのまま私たちは夜が更けるまで愛し合った。

 本当に幸せで、夢のような時間だった。
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