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社長に告白されたからといって、特別この土日に社長と何かあったわけではなく、新入社員歓迎会という名のお花見のあと社長に告白されて浮かれていた私の心は、時間とともに沈んでいった。
社長から私に何もアクションがないということは、やっぱりあの金曜の夜のことは、酔った私が見た都合のいい夢だったんじゃないかって思えてしまったからだ。
かといって、私からも何も行動を起こせていないのだけど……。
週明けの月曜日。
いつもなら社長に会えない土日が終わる嬉しさに駆られるはずなのに、今日はそれよりも社長と顔を合わせる不安の方が上回っていた。
社長の反応が、まるであの夜のことが何もなかったかのようだったらと想像しただけで怖かった。
今日一日のスケジュールの確認をしに社長室の前まで来るものの、ドア一枚先の空間に足を踏み入れる勇気が出なくて、なかなかドアを開けられない。
自分にとって都合のいい、気持ちの良い夢を見てしまったあとだから、なおさらに。
でも、だからといって仕事をおろそかにすることはできない。
これは私の気持ちの問題であって、これと仕事とは切り離して考えなければならないのだから。
よし、と気合いを入れて社長室のドアをノックしようとしたとき。
「中瀬さん、おはよう」
と背後から社長の艶のある低音ボイスが響いて、思わず肩がびくりと跳ねた。
「お、おは、おはようございますっ!」
慌てて社長の方へと回れ右して頭を下げる。同時に、私の顔に身体中の熱が一気に集まるのを感じた。
ああ、もう! おはようございます、で噛んでどもるとか、完全に動揺してますっていうのが見え見えじゃない……!
そんな私を見てなのか、頭上からクスリと笑う声が聞こえる。
わ、笑われた……っ!
その声に恐る恐る顔を上げると、社長はまるで笑いを堪え切れなかったと言わんばかりに肩を震わせて笑っている。
「ごめんごめん。中瀬さん、キョドり過ぎだから」
「すみません……っ」
恥ずかしい。穴があったら入りたい気分だ。
何より、いつもと何ら変わりないように見える社長の姿に胸が痛んだ。
社長室に社長とともに入ると、いつものように今日の予定を確認という形で社長に伝える。
さらにはそのあと社長がパソコンと向かい合う姿までも何もかもがいつも通りだ。
決して特別なことを期待していたわけじゃないけれどここまで何もかも今まで通りだと、あの夜の記憶は、やっぱり私の脳内で勝手に作り出した夢だったんじゃないかと思えてしまう。
不安を感じていただけに、胸が苦しくなる。
だけど、だからといって仕事は待ってくれない。
仕事はちゃんとやらないと……!
気持ちを入れ替えて、社長に言い渡された資料の整理に取りかかろうとしたとき、
「……琴子」
不意に私の背後から社長の声が聞こえた。
「はい……?」
今、琴子って呼んだ……?
社長が私のことを名前で読んだのは、お花見のあとだけだ。
一瞬気のせいかな、と思って振り向くけれど、そんな私の思いを覆すような熱い眼差しで私を見つめて、社長はこちらに歩いてくる。
「あの、社長……!?」
ずんずんとこちらに距離を詰めてくる社長に、思わず戸惑う。
すると、社長はふわりと私の耳元に彼の口元を寄せた。
「……お前、まさかあの夜のことは夢だったんじゃないかって思ってるだろ」
ふわりと私の耳に触れる吐息が心地いい。
だけど、それ以上に社長に見事に私の心の内を言い当てられたことに驚いた。
「あ。それは、その……っ」
「図星?」
社長は、まるでからかうようにクスクスと笑う。
日頃は紳士的で優しいけど、こうやって私のことを笑う社長はなんだか意地悪だ。
「……不安にもなりますよ。だって、社長が私をだなんて……」
「そう? やっぱりあのあと、琴子のことを帰さずにどこかに連れ去った方が良かった?」
社長に甘く囁かれて、思わずドキンと胸が跳ねる。
そんな私の様子さえおかしそうに笑う社長は、やっぱり私の反応を見て面白がっているように見える。
社長から私に何もアクションがないということは、やっぱりあの金曜の夜のことは、酔った私が見た都合のいい夢だったんじゃないかって思えてしまったからだ。
かといって、私からも何も行動を起こせていないのだけど……。
週明けの月曜日。
いつもなら社長に会えない土日が終わる嬉しさに駆られるはずなのに、今日はそれよりも社長と顔を合わせる不安の方が上回っていた。
社長の反応が、まるであの夜のことが何もなかったかのようだったらと想像しただけで怖かった。
今日一日のスケジュールの確認をしに社長室の前まで来るものの、ドア一枚先の空間に足を踏み入れる勇気が出なくて、なかなかドアを開けられない。
自分にとって都合のいい、気持ちの良い夢を見てしまったあとだから、なおさらに。
でも、だからといって仕事をおろそかにすることはできない。
これは私の気持ちの問題であって、これと仕事とは切り離して考えなければならないのだから。
よし、と気合いを入れて社長室のドアをノックしようとしたとき。
「中瀬さん、おはよう」
と背後から社長の艶のある低音ボイスが響いて、思わず肩がびくりと跳ねた。
「お、おは、おはようございますっ!」
慌てて社長の方へと回れ右して頭を下げる。同時に、私の顔に身体中の熱が一気に集まるのを感じた。
ああ、もう! おはようございます、で噛んでどもるとか、完全に動揺してますっていうのが見え見えじゃない……!
そんな私を見てなのか、頭上からクスリと笑う声が聞こえる。
わ、笑われた……っ!
その声に恐る恐る顔を上げると、社長はまるで笑いを堪え切れなかったと言わんばかりに肩を震わせて笑っている。
「ごめんごめん。中瀬さん、キョドり過ぎだから」
「すみません……っ」
恥ずかしい。穴があったら入りたい気分だ。
何より、いつもと何ら変わりないように見える社長の姿に胸が痛んだ。
社長室に社長とともに入ると、いつものように今日の予定を確認という形で社長に伝える。
さらにはそのあと社長がパソコンと向かい合う姿までも何もかもがいつも通りだ。
決して特別なことを期待していたわけじゃないけれどここまで何もかも今まで通りだと、あの夜の記憶は、やっぱり私の脳内で勝手に作り出した夢だったんじゃないかと思えてしまう。
不安を感じていただけに、胸が苦しくなる。
だけど、だからといって仕事は待ってくれない。
仕事はちゃんとやらないと……!
気持ちを入れ替えて、社長に言い渡された資料の整理に取りかかろうとしたとき、
「……琴子」
不意に私の背後から社長の声が聞こえた。
「はい……?」
今、琴子って呼んだ……?
社長が私のことを名前で読んだのは、お花見のあとだけだ。
一瞬気のせいかな、と思って振り向くけれど、そんな私の思いを覆すような熱い眼差しで私を見つめて、社長はこちらに歩いてくる。
「あの、社長……!?」
ずんずんとこちらに距離を詰めてくる社長に、思わず戸惑う。
すると、社長はふわりと私の耳元に彼の口元を寄せた。
「……お前、まさかあの夜のことは夢だったんじゃないかって思ってるだろ」
ふわりと私の耳に触れる吐息が心地いい。
だけど、それ以上に社長に見事に私の心の内を言い当てられたことに驚いた。
「あ。それは、その……っ」
「図星?」
社長は、まるでからかうようにクスクスと笑う。
日頃は紳士的で優しいけど、こうやって私のことを笑う社長はなんだか意地悪だ。
「……不安にもなりますよ。だって、社長が私をだなんて……」
「そう? やっぱりあのあと、琴子のことを帰さずにどこかに連れ去った方が良かった?」
社長に甘く囁かれて、思わずドキンと胸が跳ねる。
そんな私の様子さえおかしそうに笑う社長は、やっぱり私の反応を見て面白がっているように見える。
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