夢見るシンデレラ~溺愛の時間は突然に~

美和優希

文字の大きさ
上 下
5 / 17

2-1

しおりを挟む
 社長に告白されたからといって、特別この土日に社長と何かあったわけではなく、新入社員歓迎会という名のお花見のあと社長に告白されて浮かれていた私の心は、時間とともに沈んでいった。


 社長から私に何もアクションがないということは、やっぱりあの金曜の夜のことは、酔った私が見た都合のいい夢だったんじゃないかって思えてしまったからだ。

 かといって、私からも何も行動を起こせていないのだけど……。



 週明けの月曜日。

 いつもなら社長に会えない土日が終わる嬉しさに駆られるはずなのに、今日はそれよりも社長と顔を合わせる不安の方が上回っていた。


 社長の反応が、まるであの夜のことが何もなかったかのようだったらと想像しただけで怖かった。


 今日一日のスケジュールの確認をしに社長室の前まで来るものの、ドア一枚先の空間に足を踏み入れる勇気が出なくて、なかなかドアを開けられない。


 自分にとって都合のいい、気持ちの良い夢を見てしまったあとだから、なおさらに。


 でも、だからといって仕事をおろそかにすることはできない。


 これは私の気持ちの問題であって、これと仕事とは切り離して考えなければならないのだから。


 よし、と気合いを入れて社長室のドアをノックしようとしたとき。


「中瀬さん、おはよう」


 と背後から社長の艶のある低音ボイスが響いて、思わず肩がびくりと跳ねた。



「お、おは、おはようございますっ!」


 慌てて社長の方へと回れ右して頭を下げる。同時に、私の顔に身体中の熱が一気に集まるのを感じた。


 ああ、もう! おはようございます、で噛んでどもるとか、完全に動揺してますっていうのが見え見えじゃない……!


 そんな私を見てなのか、頭上からクスリと笑う声が聞こえる。


 わ、笑われた……っ!

 その声に恐る恐る顔を上げると、社長はまるで笑いを堪え切れなかったと言わんばかりに肩を震わせて笑っている。


「ごめんごめん。中瀬さん、キョドり過ぎだから」

「すみません……っ」


 恥ずかしい。穴があったら入りたい気分だ。


 何より、いつもと何ら変わりないように見える社長の姿に胸が痛んだ。


 社長室に社長とともに入ると、いつものように今日の予定を確認という形で社長に伝える。


 さらにはそのあと社長がパソコンと向かい合う姿までも何もかもがいつも通りだ。

 
 決して特別なことを期待していたわけじゃないけれどここまで何もかも今まで通りだと、あの夜の記憶は、やっぱり私の脳内で勝手に作り出した夢だったんじゃないかと思えてしまう。


 不安を感じていただけに、胸が苦しくなる。


 だけど、だからといって仕事は待ってくれない。

 仕事はちゃんとやらないと……!


 気持ちを入れ替えて、社長に言い渡された資料の整理に取りかかろうとしたとき、



「……琴子」


 不意に私の背後から社長の声が聞こえた。


「はい……?」


 今、琴子って呼んだ……?

 社長が私のことを名前で読んだのは、お花見のあとだけだ。


 一瞬気のせいかな、と思って振り向くけれど、そんな私の思いを覆すような熱い眼差しで私を見つめて、社長はこちらに歩いてくる。



「あの、社長……!?」


 ずんずんとこちらに距離を詰めてくる社長に、思わず戸惑う。

 すると、社長はふわりと私の耳元に彼の口元を寄せた。


「……お前、まさかあの夜のことは夢だったんじゃないかって思ってるだろ」


 ふわりと私の耳に触れる吐息が心地いい。

 だけど、それ以上に社長に見事に私の心の内を言い当てられたことに驚いた。


「あ。それは、その……っ」

「図星?」


 社長は、まるでからかうようにクスクスと笑う。

 日頃は紳士的で優しいけど、こうやって私のことを笑う社長はなんだか意地悪だ。


「……不安にもなりますよ。だって、社長が私をだなんて……」

「そう? やっぱりあのあと、琴子のことを帰さずにどこかに連れ去った方が良かった?」


 社長に甘く囁かれて、思わずドキンと胸が跳ねる。

 そんな私の様子さえおかしそうに笑う社長は、やっぱり私の反応を見て面白がっているように見える。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遠くに行ってしまった幼なじみが副社長となって私を溺愛してくる

有木珠乃
恋愛
休日、入社したての会社の周りを散策していた高野辺早智。 そこで、中学校に入学するのを機に、転校してしまった幼なじみ、名雪辰則と再会する。 懐かしさをにじませる早智とは違い、辰則にはある思惑があった。 辰則はもう、以前の立場ではない。 リバーブラッシュの副社長という地位を手に入れていたのだ。 それを知った早智は戸惑い、突き放そうとするが、辰則は逆に自分の立場を利用して強引に押し進めてしまう。 ※ベリーズカフェ、エブリスタにも投稿しています。

秘密の恋

美希みなみ
恋愛
番外編更新はじめました(*ノωノ) 笠井瑞穂 25歳 東洋不動産 社長秘書 高倉由幸 31歳 東洋不動産 代表取締役社長 一途に由幸に思いをよせる、どこにでもいそうなOL瑞穂。 瑞穂は諦めるための最後の賭けに出た。 思いが届かなくても一度だけ…。 これで、あなたを諦めるから……。 短編ショートストーリーです。 番外編で由幸のお話を追加予定です。

イケメン副社長のターゲットは私!?~彼と秘密のルームシェア~

美和優希
恋愛
木下紗和は、務めていた会社を解雇されてから、再就職先が見つからずにいる。 貯蓄も底をつく中、兄の社宅に転がり込んでいたものの、頼りにしていた兄が突然転勤になり住む場所も失ってしまう。 そんな時、大手お菓子メーカーの副社長に救いの手を差しのべられた。 紗和は、副社長の秘書として働けることになったのだ。 そして不安一杯の中、提供された新しい住まいはなんと、副社長の自宅で……!? 突然始まった秘密のルームシェア。 日頃は優しくて紳士的なのに、時々意地悪にからかってくる副社長に気づいたときには惹かれていて──。 初回公開・完結*2017.12.21(他サイト) アルファポリスでの公開日*2020.02.16 *表紙画像は写真AC(かずなり777様)のフリー素材を使わせていただいてます。

その出会い、運命につき。

あさの紅茶
恋愛
背が高いことがコンプレックスの平野つばさが働く薬局に、つばさよりも背の高い胡桃洋平がやってきた。かっこよかったなと思っていたところ、雨の日にまさかの再会。そしてご飯を食べに行くことに。知れば知るほど彼を好きになってしまうつばさ。そんなある日、洋平と背の低い可愛らしい女性が歩いているところを偶然目撃。しかもその女性の名字も“胡桃”だった。つばさの恋はまさか不倫?!悩むつばさに洋平から次のお誘いが……。

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

優しい愛に包まれて~イケメンとの同居生活はドキドキの連続です~

けいこ
恋愛
人生に疲れ、自暴自棄になり、私はいろんなことから逃げていた。 してはいけないことをしてしまった自分を恥ながらも、この関係を断ち切れないままでいた。 そんな私に、ひょんなことから同居生活を始めた個性的なイケメン男子達が、それぞれに甘く優しく、大人の女の恋心をくすぐるような言葉をかけてくる… ピアノが得意で大企業の御曹司、山崎祥太君、24歳。 有名大学に通い医師を目指してる、神田文都君、23歳。 美大生で画家志望の、望月颯君、21歳。 真っ直ぐで素直なみんなとの関わりの中で、ひどく冷め切った心が、ゆっくり溶けていくのがわかった。 家族、同居の女子達ともいろいろあって、大きく揺れ動く気持ちに戸惑いを隠せない。 こんな私でもやり直せるの? 幸せを願っても…いいの? 動き出す私の未来には、いったい何が待ち受けているの?

こじらせ女子の恋愛事情

あさの紅茶
恋愛
過去の恋愛の失敗を未だに引きずるこじらせアラサー女子の私、仁科真知(26) そんな私のことをずっと好きだったと言う同期の宗田優くん(26) いやいや、宗田くんには私なんかより、若くて可愛い可憐ちゃん(女子力高め)の方がお似合いだよ。 なんて自らまたこじらせる残念な私。 「俺はずっと好きだけど?」 「仁科の返事を待ってるんだよね」 宗田くんのまっすぐな瞳に耐えきれなくて逃げ出してしまった。 これ以上こじらせたくないから、神様どうか私に勇気をください。 ******************* この作品は、他のサイトにも掲載しています。

処理中です...