3 / 17
1
1-3
しおりを挟む
「そういや他の二人はどうした?」
「……一人は体調不良で私から帰ってもいいと言いました。もう一人は片付けのことを忘れていたようで……」
さすがに社長が相手なだけに、“誰が”という部分は濁してお伝えした。
「経理のあいつはかなり飲んだくれてたし、営業のあいつはきっと確信犯だろうな」
だけど、社長には私が誰のことを言っているのかお見通しだったようだ。
「……そうですね」
「それに引き換え、お前はこんな状況でも逃げ出さずに一人で大変だったな」
「それは……、自分に任された仕事なので当然です」
社長はそんな私にクスリと笑う。
「中瀬さんは秘書の仕事も一生懸命で、人一倍責任感が強いように感じられるけど、時々頑張り過ぎてるんじゃないかと心配になる」
「……そうですか?」
まさか社長が私のことをそんな風に思ってくれていたなんて、正直嬉しい。
任された仕事は最後までやり遂げることは当たり前のことだと思っているし、任されたからには責任を持ってやりたいと思っている。
社長に自分の仕事に対する姿勢を評価してもらえたこと、そして、好きな人に評価してもらえたことというのもあって、思わず頬が緩みそうになる。
「ああ。そういうところ、すごく好きだ」
そんな社長の言葉にドクンと大きく胸が音を立てた。
あからさまに社長の“好きだ”という言葉に反応してしまったけれど、話の流れからも明らかに私の仕事に対する姿勢を評価して言ってくれた言葉だっただろうに。
けれど、社長との恋愛を夢見る私の心臓は、それだけでドキドキと加速度を増してしまう。
「ありがとうございます」
不自然に聞こえないように辛うじてそう言うものの、私の心の内に気づかれていないか心配になった。
それからは、社長とせっせと片付けを進めた。
社長にゴミ拾いをさせるなんて、と最初に思ったものの、ゴミを拾う姿でさえ絵に描いたようにかっこよくて、思わず惚れ惚れしてしまう。
社長こそ二次会に呼ばれて連れて行かれてそうなものなのに、私が一人で片付けをしてるところを見つけてくれたのは、社長が私たちの使った会場がちゃんと片付いてるか自らの目で確認しに来たからだろう。
自らみんなが嫌がる後片付けの仕事を責任を持ってするなんて、ますます好感度が上がった。
社長の手早さのおかげもあり、思いの外片付けは早く済んだ。
「これで終了、だな」
そう言って一息つく社長に頭を下げる。
本当に社長には感謝してもしきれない。
「はい。本当に助かりました。ありがとうございます」
「いえ、こちらこそありがとう。中瀬さんはこのあとは?」
「あ、私はもう帰らせていただこうかと……」
社長が居る手前、今からでも二次会に参加すると言った方がいいのかななんて、言ってしまった直後に不安になる。
「じゃあ送るよ」
ところが、私の耳に届いたのは社長の思いがけない言葉だった。
「え? そんな、悪いですよ……」
社長だって疲れてるだろうし、もしかしたら本当は二次会に顔を出す予定なのに私に気を遣ってくれているのかもしれない。
社長は、優しいから。
「いいよ。好きな女を夜遅くに一人で帰す方が心配だから」
だけど、次に聞こえてきた言葉が信じられなくて、思わず耳を疑った。
「……え!?」
好きな女って? まさか、そんなわけ……。
だけど、そう思う気持ちとは裏腹に、ドキドキと社長の言葉に胸を躍らせる自分もいる。
社長は私の心すら見透かしたように笑うと、私を真っ直ぐ見つめて口を開いた。
「俺は、中瀬琴子が好きだ」
私の瞳を捉えて離さない彼の瞳は、熱を帯びて見える。
あまりにも真剣な表情や声で言うから、戸惑ってしまう。
「嘘……っ」
「俺がこんなことで嘘をつくような男に見えるのか?」
「そんなことないです、けど……」
だって、社長が私を、だなんて誰が信じるだろうか。
本当ならすごく嬉しいけれど、やっぱり信じられなくて慎重になってしまう。
「……お前は、俺のことをどう思ってる?」
「ど、どうって……」
私は社長のことが好きだ。一人の男性として。
ずっとこの気持ちを胸に秘めて、社長との恋愛を夢見てたのだから。
とはいえ、いくら想っても手が届かないと思っていた相手に突然好きだなんて言われて、どうしていいかわからない。
だって、ついこの前耳にした噂でも、社長はアパレル企業の社長令嬢と政略結婚をするのではないかと言われていたくらいなのだから。
その話がただの噂に過ぎなかったとしても、やっぱり社長の隣を歩く女性としては、何の肩書きもない私なんかよりもそういった女性のほうが相応しいと思うから。
「……一人は体調不良で私から帰ってもいいと言いました。もう一人は片付けのことを忘れていたようで……」
さすがに社長が相手なだけに、“誰が”という部分は濁してお伝えした。
「経理のあいつはかなり飲んだくれてたし、営業のあいつはきっと確信犯だろうな」
だけど、社長には私が誰のことを言っているのかお見通しだったようだ。
「……そうですね」
「それに引き換え、お前はこんな状況でも逃げ出さずに一人で大変だったな」
「それは……、自分に任された仕事なので当然です」
社長はそんな私にクスリと笑う。
「中瀬さんは秘書の仕事も一生懸命で、人一倍責任感が強いように感じられるけど、時々頑張り過ぎてるんじゃないかと心配になる」
「……そうですか?」
まさか社長が私のことをそんな風に思ってくれていたなんて、正直嬉しい。
任された仕事は最後までやり遂げることは当たり前のことだと思っているし、任されたからには責任を持ってやりたいと思っている。
社長に自分の仕事に対する姿勢を評価してもらえたこと、そして、好きな人に評価してもらえたことというのもあって、思わず頬が緩みそうになる。
「ああ。そういうところ、すごく好きだ」
そんな社長の言葉にドクンと大きく胸が音を立てた。
あからさまに社長の“好きだ”という言葉に反応してしまったけれど、話の流れからも明らかに私の仕事に対する姿勢を評価して言ってくれた言葉だっただろうに。
けれど、社長との恋愛を夢見る私の心臓は、それだけでドキドキと加速度を増してしまう。
「ありがとうございます」
不自然に聞こえないように辛うじてそう言うものの、私の心の内に気づかれていないか心配になった。
それからは、社長とせっせと片付けを進めた。
社長にゴミ拾いをさせるなんて、と最初に思ったものの、ゴミを拾う姿でさえ絵に描いたようにかっこよくて、思わず惚れ惚れしてしまう。
社長こそ二次会に呼ばれて連れて行かれてそうなものなのに、私が一人で片付けをしてるところを見つけてくれたのは、社長が私たちの使った会場がちゃんと片付いてるか自らの目で確認しに来たからだろう。
自らみんなが嫌がる後片付けの仕事を責任を持ってするなんて、ますます好感度が上がった。
社長の手早さのおかげもあり、思いの外片付けは早く済んだ。
「これで終了、だな」
そう言って一息つく社長に頭を下げる。
本当に社長には感謝してもしきれない。
「はい。本当に助かりました。ありがとうございます」
「いえ、こちらこそありがとう。中瀬さんはこのあとは?」
「あ、私はもう帰らせていただこうかと……」
社長が居る手前、今からでも二次会に参加すると言った方がいいのかななんて、言ってしまった直後に不安になる。
「じゃあ送るよ」
ところが、私の耳に届いたのは社長の思いがけない言葉だった。
「え? そんな、悪いですよ……」
社長だって疲れてるだろうし、もしかしたら本当は二次会に顔を出す予定なのに私に気を遣ってくれているのかもしれない。
社長は、優しいから。
「いいよ。好きな女を夜遅くに一人で帰す方が心配だから」
だけど、次に聞こえてきた言葉が信じられなくて、思わず耳を疑った。
「……え!?」
好きな女って? まさか、そんなわけ……。
だけど、そう思う気持ちとは裏腹に、ドキドキと社長の言葉に胸を躍らせる自分もいる。
社長は私の心すら見透かしたように笑うと、私を真っ直ぐ見つめて口を開いた。
「俺は、中瀬琴子が好きだ」
私の瞳を捉えて離さない彼の瞳は、熱を帯びて見える。
あまりにも真剣な表情や声で言うから、戸惑ってしまう。
「嘘……っ」
「俺がこんなことで嘘をつくような男に見えるのか?」
「そんなことないです、けど……」
だって、社長が私を、だなんて誰が信じるだろうか。
本当ならすごく嬉しいけれど、やっぱり信じられなくて慎重になってしまう。
「……お前は、俺のことをどう思ってる?」
「ど、どうって……」
私は社長のことが好きだ。一人の男性として。
ずっとこの気持ちを胸に秘めて、社長との恋愛を夢見てたのだから。
とはいえ、いくら想っても手が届かないと思っていた相手に突然好きだなんて言われて、どうしていいかわからない。
だって、ついこの前耳にした噂でも、社長はアパレル企業の社長令嬢と政略結婚をするのではないかと言われていたくらいなのだから。
その話がただの噂に過ぎなかったとしても、やっぱり社長の隣を歩く女性としては、何の肩書きもない私なんかよりもそういった女性のほうが相応しいと思うから。
0
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
キケンな放課後☆生徒会室のお姫様!?
美和優希
恋愛
入学早々、葉山優芽は校内で迷子になったところを個性豊かなイケメン揃いの生徒会メンバーに助けてもらう。
一度きりのハプニングと思いきや、ひょんなことから紅一点として生徒会メンバーの一員になることになって──!?
☆゜+.☆゜+.☆゜+.☆゜+.☆
初回公開*2013.12.27~2014.03.08(他サイト)
アルファポリスでの公開日*2019.11.23
*表紙イラストは、イラストAC(小平帆乃佳様)のイラスト素材に背景+文字入れをして使わせていただいてます。
私が素直になったとき……君の甘過ぎる溺愛が止まらない
朝陽七彩
恋愛
十五年ぶりに君に再開して。
止まっていた時が。
再び、動き出す―――。
*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*
衣川遥稀(いがわ はるき)
好きな人に素直になることができない
松尾聖志(まつお さとし)
イケメンで人気者
*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
こじらせ女子の恋愛事情
あさの紅茶
恋愛
過去の恋愛の失敗を未だに引きずるこじらせアラサー女子の私、仁科真知(26)
そんな私のことをずっと好きだったと言う同期の宗田優くん(26)
いやいや、宗田くんには私なんかより、若くて可愛い可憐ちゃん(女子力高め)の方がお似合いだよ。
なんて自らまたこじらせる残念な私。
「俺はずっと好きだけど?」
「仁科の返事を待ってるんだよね」
宗田くんのまっすぐな瞳に耐えきれなくて逃げ出してしまった。
これ以上こじらせたくないから、神様どうか私に勇気をください。
*******************
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる