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「そういや他の二人はどうした?」

「……一人は体調不良で私から帰ってもいいと言いました。もう一人は片付けのことを忘れていたようで……」


 さすがに社長が相手なだけに、“誰が”という部分は濁してお伝えした。


「経理のあいつはかなり飲んだくれてたし、営業のあいつはきっと確信犯だろうな」


 だけど、社長には私が誰のことを言っているのかお見通しだったようだ。


「……そうですね」

「それに引き換え、お前はこんな状況でも逃げ出さずに一人で大変だったな」

「それは……、自分に任された仕事なので当然です」


 社長はそんな私にクスリと笑う。


「中瀬さんは秘書の仕事も一生懸命で、人一倍責任感が強いように感じられるけど、時々頑張り過ぎてるんじゃないかと心配になる」


「……そうですか?」

 まさか社長が私のことをそんな風に思ってくれていたなんて、正直嬉しい。

 任された仕事は最後までやり遂げることは当たり前のことだと思っているし、任されたからには責任を持ってやりたいと思っている。

 社長に自分の仕事に対する姿勢を評価してもらえたこと、そして、好きな人に評価してもらえたことというのもあって、思わず頬が緩みそうになる。


「ああ。そういうところ、すごく好きだ」


 そんな社長の言葉にドクンと大きく胸が音を立てた。

 あからさまに社長の“好きだ”という言葉に反応してしまったけれど、話の流れからも明らかに私の仕事に対する姿勢を評価して言ってくれた言葉だっただろうに。

 けれど、社長との恋愛を夢見る私の心臓は、それだけでドキドキと加速度を増してしまう。



「ありがとうございます」


 不自然に聞こえないように辛うじてそう言うものの、私の心の内に気づかれていないか心配になった。



 それからは、社長とせっせと片付けを進めた。


 社長にゴミ拾いをさせるなんて、と最初に思ったものの、ゴミを拾う姿でさえ絵に描いたようにかっこよくて、思わず惚れ惚れしてしまう。


 社長こそ二次会に呼ばれて連れて行かれてそうなものなのに、私が一人で片付けをしてるところを見つけてくれたのは、社長が私たちの使った会場がちゃんと片付いてるか自らの目で確認しに来たからだろう。


 自らみんなが嫌がる後片付けの仕事を責任を持ってするなんて、ますます好感度が上がった。



 社長の手早さのおかげもあり、思いの外片付けは早く済んだ。



「これで終了、だな」


 そう言って一息つく社長に頭を下げる。

 本当に社長には感謝してもしきれない。


「はい。本当に助かりました。ありがとうございます」

「いえ、こちらこそありがとう。中瀬さんはこのあとは?」

「あ、私はもう帰らせていただこうかと……」


 社長が居る手前、今からでも二次会に参加すると言った方がいいのかななんて、言ってしまった直後に不安になる。


「じゃあ送るよ」


 ところが、私の耳に届いたのは社長の思いがけない言葉だった。


「え? そんな、悪いですよ……」


 社長だって疲れてるだろうし、もしかしたら本当は二次会に顔を出す予定なのに私に気を遣ってくれているのかもしれない。

 社長は、優しいから。


「いいよ。好きな女を夜遅くに一人で帰す方が心配だから」


 だけど、次に聞こえてきた言葉が信じられなくて、思わず耳を疑った。


「……え!?」


 好きな女って? まさか、そんなわけ……。

 だけど、そう思う気持ちとは裏腹に、ドキドキと社長の言葉に胸を躍らせる自分もいる。

 社長は私の心すら見透かしたように笑うと、私を真っ直ぐ見つめて口を開いた。


「俺は、中瀬琴子が好きだ」


 私の瞳を捉えて離さない彼の瞳は、熱を帯びて見える。

 あまりにも真剣な表情や声で言うから、戸惑ってしまう。


「嘘……っ」

「俺がこんなことで嘘をつくような男に見えるのか?」

「そんなことないです、けど……」


 だって、社長が私を、だなんて誰が信じるだろうか。

 本当ならすごく嬉しいけれど、やっぱり信じられなくて慎重になってしまう。


「……お前は、俺のことをどう思ってる?」

「ど、どうって……」


 私は社長のことが好きだ。一人の男性として。

 ずっとこの気持ちを胸に秘めて、社長との恋愛を夢見てたのだから。

 とはいえ、いくら想っても手が届かないと思っていた相手に突然好きだなんて言われて、どうしていいかわからない。


 だって、ついこの前耳にした噂でも、社長はアパレル企業の社長令嬢と政略結婚をするのではないかと言われていたくらいなのだから。


 その話がただの噂に過ぎなかったとしても、やっぱり社長の隣を歩く女性としては、何の肩書きもない私なんかよりもそういった女性のほうが相応しいと思うから。
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