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4.親子をむすぶいよかんムース
4ー18
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「借金が返し終わって、パニックの症状も出なくなったときには、晃をまた引き取りたいという思いがあったわ。一緒に暮らさなくなってからも、毎日晃に会いたいと思っていたし、声だけでも聞きたかった。だけど……晃をおじいさんに預ける頃には、散々あなたの心を傷つけてしまったせいで私と口も効いてくれなくなっていたから、もう話す資格すらないんだと思ったら電話すらできなかった。それからは拒絶されるのが怖くて、ずっと逃げ続けていたわ」
お母さんは懺悔するように言葉を続けた。
晃さんも、少し前までお母さんのことをあれだけ拒絶していたのが嘘のように、言葉のひとつひとつを受け取っているように見える。
「だけど、晃から嫌われてたって電話して会いに行けばよかった……。借金を返し終わって、ようやく謝りに行こうと決心した矢先、それまでの過労がたたって、死んじゃった」
悲しそうに、でも、重苦しくなった空気を壊すようにお母さんは小さく笑った。
「あなたのことが嫌いだったわけでも要らなくなったわけでもないの。あの頃も、今も、あなたは変わらずに私の大切な一人息子よ」
一通りお母さんの話を聞き終えて、ようやく晃さんが口を開いた。
「……何だよ、それ」
困惑、怒り、悲しみ。やっぱりそのような感情が滲み出ているように見えるが、今までと違って、晃さんの声からは攻撃的な印象はなくなっていた。
「俺はずっと、母さんが再婚するのに俺が邪魔になったから、キモチワルイ能力を持った子どもを連れて再婚したって父さんのときみたいに幸せになれないから、俺のことを家から追い出したんだと思ってた」
晃さんが幼い頃に抱いた気持ちをぶつけると、お母さんは即座に声を上げた。
「それは違うわ……! 春彦おじさんは、あなたのことを話しても受け入れてくれてたわ。だから再婚を考えたんだもの!」
誤解を与えないよう必死に言葉を紡いでいるのが、そばで見ててわかった。
「それに実は、あなたも一度、春彦おじさんを見たことがあるのよ。覚えているかしら……。お母さんに寄り添うように、眼鏡をかけた優しそうな男の人がいるって、教えてくれたことがあったでしょう?」
晃さんはまるで信じられないとばかりに目を見張って、戸惑うように口を開いた。
「あの人が……? じゃあ、あのときにはもう亡くなって……」
自分が見えたものを話した。晃さんにとっては悪気ない発言がお母さんの傷を抉ってしまったと思ったのだろう。
晃さんは先ほどまでの勢いをなくして唇を噛み締める。
「あのときはつらくて、酷い言葉を言ってごめんなさい。だけど、私は晃に感謝しているの」
「感謝って?」
「春彦おじさんがお母さんのそばにいるって、晃が教えてくれたから。晃を預けて一人になってから毎日つらかったけれど、どんなことがあってもそばで見守ってくれている存在がいるからと心強く思えたの。だから、ありがとう」
お母さんが深く頭を下げると、床に涙が落ちるのが見えた。
しばらくの沈黙のあと、晃さんが小さく息を吐き出した。
「……再婚相手のことも、父さんの借金のことも、母さんのパニックのことも、何も知らなかったんだから、今更なんて言っていいかわかんねえよ」
晃さんは何も知らされていなかったのだから無理ないだろう。
お母さんにも理解できたのか、グッと押し黙る。
「本当のことを知っていたら、俺だって高校からバイトしたのに……。そうすれば少しは母さんの負担も減って、過労死だって防げたんじゃないのかよ」
「晃ならそう言うと思った。晃は優しい子だったから。無理させたくなかったの」
「…………」
「ごめんね、晃の気持ちを無視してばっかりの母親で。本当にごめんなさい。謝ったって許されないようなことをしたっていうのはわかってるつもりよ。だから許してくれなくていいの。むしろ、今日、話を聞いてくれて嬉しかったわ」
何を言い返すでもなく、晃さんは唇を噛み締めながらお母さんの話を聞いているようだった。
お母さんは本当に想いを伝えることが第一だったようで、そんな晃さんの様子を見て、少しお母さんを取り巻く空気が変わった。
お母さんが、うっすらと光っているのだ。
むすび屋に初めて来たときから、こういった光景は何度も見てきた。
もうお別れの時間は近い。
お母さんは懺悔するように言葉を続けた。
晃さんも、少し前までお母さんのことをあれだけ拒絶していたのが嘘のように、言葉のひとつひとつを受け取っているように見える。
「だけど、晃から嫌われてたって電話して会いに行けばよかった……。借金を返し終わって、ようやく謝りに行こうと決心した矢先、それまでの過労がたたって、死んじゃった」
悲しそうに、でも、重苦しくなった空気を壊すようにお母さんは小さく笑った。
「あなたのことが嫌いだったわけでも要らなくなったわけでもないの。あの頃も、今も、あなたは変わらずに私の大切な一人息子よ」
一通りお母さんの話を聞き終えて、ようやく晃さんが口を開いた。
「……何だよ、それ」
困惑、怒り、悲しみ。やっぱりそのような感情が滲み出ているように見えるが、今までと違って、晃さんの声からは攻撃的な印象はなくなっていた。
「俺はずっと、母さんが再婚するのに俺が邪魔になったから、キモチワルイ能力を持った子どもを連れて再婚したって父さんのときみたいに幸せになれないから、俺のことを家から追い出したんだと思ってた」
晃さんが幼い頃に抱いた気持ちをぶつけると、お母さんは即座に声を上げた。
「それは違うわ……! 春彦おじさんは、あなたのことを話しても受け入れてくれてたわ。だから再婚を考えたんだもの!」
誤解を与えないよう必死に言葉を紡いでいるのが、そばで見ててわかった。
「それに実は、あなたも一度、春彦おじさんを見たことがあるのよ。覚えているかしら……。お母さんに寄り添うように、眼鏡をかけた優しそうな男の人がいるって、教えてくれたことがあったでしょう?」
晃さんはまるで信じられないとばかりに目を見張って、戸惑うように口を開いた。
「あの人が……? じゃあ、あのときにはもう亡くなって……」
自分が見えたものを話した。晃さんにとっては悪気ない発言がお母さんの傷を抉ってしまったと思ったのだろう。
晃さんは先ほどまでの勢いをなくして唇を噛み締める。
「あのときはつらくて、酷い言葉を言ってごめんなさい。だけど、私は晃に感謝しているの」
「感謝って?」
「春彦おじさんがお母さんのそばにいるって、晃が教えてくれたから。晃を預けて一人になってから毎日つらかったけれど、どんなことがあってもそばで見守ってくれている存在がいるからと心強く思えたの。だから、ありがとう」
お母さんが深く頭を下げると、床に涙が落ちるのが見えた。
しばらくの沈黙のあと、晃さんが小さく息を吐き出した。
「……再婚相手のことも、父さんの借金のことも、母さんのパニックのことも、何も知らなかったんだから、今更なんて言っていいかわかんねえよ」
晃さんは何も知らされていなかったのだから無理ないだろう。
お母さんにも理解できたのか、グッと押し黙る。
「本当のことを知っていたら、俺だって高校からバイトしたのに……。そうすれば少しは母さんの負担も減って、過労死だって防げたんじゃないのかよ」
「晃ならそう言うと思った。晃は優しい子だったから。無理させたくなかったの」
「…………」
「ごめんね、晃の気持ちを無視してばっかりの母親で。本当にごめんなさい。謝ったって許されないようなことをしたっていうのはわかってるつもりよ。だから許してくれなくていいの。むしろ、今日、話を聞いてくれて嬉しかったわ」
何を言い返すでもなく、晃さんは唇を噛み締めながらお母さんの話を聞いているようだった。
お母さんは本当に想いを伝えることが第一だったようで、そんな晃さんの様子を見て、少しお母さんを取り巻く空気が変わった。
お母さんが、うっすらと光っているのだ。
むすび屋に初めて来たときから、こういった光景は何度も見てきた。
もうお別れの時間は近い。
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