伊予むすび屋の思い出ごはん

美和優希

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4.親子をむすぶいよかんムース

4ー15

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「ケイさん、気にしないで」

 かけられた声に顔を上げると、さっきまで突っ伏してしまっていたお母さんが、いつの間にかこちらを見ていた。


「こんなの、想定していた範囲内のことだから。平気よ」

 思いの外、穏やかな表情をしていたけれど、感情は全く読み取ることができない。

 わかるのは、それが決して“平気”なんかじゃないっていうことだけだ。


「もうこのままこの世にいても仕方ないし、成仏してあっちの世界に行きたいなぁ。ケイさんたちが協力してくれたおかげで、やっぱり無理だってわかったし、私の未練もきっと弱まってるに違いないわ」

 お母さんはその場に立ち上がると、天井に両手をかざして目を閉じる。

 もしかして、自ら成仏しようとしている……?

 しかし、数秒が経過しても全くもって何かが起こる様子はなかった。


「……こんなので成仏できるなら、とっくに消えてるっての」

 お母さんの身体が特別変化するなんてことはなく、意気消沈したようにその場に崩れ落ちるように座った。


 お母さんの未練が解消されていないのも当然で、実際に私たちはここでいよかんムースを作っただけで、気持ちを伝えるどころか何一つまともに話すらしていないのだから。


「私、晃さんのこと探してきます」

 何だかもう居ても立ってもいられなくなって、私は席を立つと二人の返事を待つことなく食堂を飛び出した。


 むすび屋の玄関を飛び出してすぐ、門構えのところで誰かとぶつかりそうになる。


「……ご、ごめんなさい」

「ケイちゃん。どしたん、そんなに急いで」

 驚いた顔でこちらを見るのは、水色のストライプ柄のワンピースを着たなのかさんだ。

 買い物に行ってきたらしく、片手にはコンビニの袋を提げている。


「なのかさん! 晃さん、見なかった?」

「ああ、晃くんならさっきそこですれ違ったよ」

「ありがとう」

「ケイちゃん!?」


 言うが早いか走り出した私の背後から、また驚くような声が聞こえた。申し訳ないけれど、今は晃さんが先だ。私は速度を緩めずに走った。

 そこですれ違ったばかりなら、まだそんなに遠くに行っていないはずだ。

 なのかさんがコンビニの袋を提げているということは、コンビニ帰り。となると、恐らく晃さんはコンビニのある方角に向かう途中ですれ違ったのだろう。

 自分の予想を信じて、私は走った。


 少しして、なのかさんか利用したのであろうこの近所のコンビニに着く。

 ここまで、晃さんの姿はなかった。

 この近辺は、バスに乗るか自転車に乗らない限り特別行くような場所はない。

 玄関を飛び出したとき、晃さんの自転車は脇に停められていたし、どこかへ行くとすればこのコンビニくらいしかないと思うのだけど……。

 コンビニの外から見ても、晃さんが店内にいるのかよくわからない。


 闇雲に探し回るのはとりあえず中を覗いてからにしようと思って、私はコンビニの中に足を踏み入れた。

 中にはレジのお兄さんが一人、その前でホットショーケースの中に入った揚げ物類を見ている男性が一人、雑誌売り場では数人が立ち読みしている。

 どこかに晃さんがいるんじゃないかと、ドリンクのコーナーの前でキョロキョロと商品を探すふりをしながら歩いていると、突然背後から声をかけられた。


「おい」

 気をつけていたつもりだけど、もしかして店員さんには私が不審に見えていたのかもしれない。

 慌てて振り返って、謝りながら言い訳を探す。


「すみません。ちょっと人を探してて、その……」

 あれ……?


「晃さん……!?」

「何なんだよ、一体……」

 何となく店員さんだと思い込んでいたけれど、振り返った先に見えたのは、私が探していた人物だった。
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