57 / 69
4.親子をむすぶいよかんムース
4ー10
しおりを挟む
「何をコソコソしよんの? このこと、晃は何も知らんのんやろ? なずなもケイちゃんのこと心配しよんやで?」
晃さんには、お母さんとは一切関わるなと釘を刺されていた。
それなのに、どうしても晃さんのこともお母さんのことも放っておけなくて、少しでも二人が救われる道はないのかって思って、勝手なことをした。
もしそれを知ったら、晃さんは怒るだろう。
だけど、仕方ないと見過ごすことはできなかった。
むすび屋のみんなに言えなかったのは、付き合いの長いみんなは晃さんの心を守るために、晃さんの気持ちを優先すると思ったからだ。決してそこに悪意なんてなかった。
だけど理由はどうであれ、拓也さんにもなずなさんにも私が嘘をついたことは事実だ。
だから、私が責められるのは無理ない。
「すみません……」
私が頭を下げて謝ると、頭上から優しい声が降ってくる。
「何でも言って。俺も力になるけん、一人で悩まんとって」
拓也さんの表情を見て、酷く心配させてしまっていたのだと気づかされる。
救いの手を差し伸べてくれた拓也さんに、すがるように私はこれまで知り得たことを話すことにした。
「……放っておけなかったんです」
晃さんに突き放されてもこの場を離れられないお母さんを無視するなんて、とてもじゃないけどできなかった。また、お母さんにとっての真実を聞かされたことから、何か解決策があるのではないかと諦められなかったのだ。
「確かに晃さんのお母さんは、酷いことをしました。でも、理由なく晃さんを遠ざけた訳じゃなかったんです。そのときは、そうせざるを得ない環境と精神状態にあって……」
晃さんは、彼の発言からも当時の状況から母親に捨てられたのだと感じているようだった。
また拓也さんは、晃さんの親族だからある程度のことは知っているに違いないけれど、本当のことは多分お母さんしか知らないのだと思う。
けれど、それじゃあいつまでも晃さんはつらいだけだし、皆もお母さんを責めることしかできない。
お母さんだって、本当のことが誰にも伝わらない限り、永遠にむすび屋の外から中を覗くことを繰り返して、この世に留まり続けるのだろう。
そんなの完全なる負の連鎖だ。誰も救われない。
「もちろん理由があったら許されるとは思っていません。だけど、決して晃さんのことを嫌っていたわけでも、要らなかったわけでもなかったんです。本当は大切に思っていたから、これ以上傷つけないために遠ざけたんだって聞きました」
今更本当はこうなんだと話されたって、晃さんは納得しないかもしれない。信じらなれないと突っぱねられるかもしれない。
けれど、伝えてみないと何も始まらないのだ。
なのに、お母さんは行動を起こす気をなくしていて、晃さんはお母さんに歩み寄る気はさらさらないのだ。
二人の問題なら、下手に首を突っ込まない方がいいのかもしれない。
けれど、二人のすれ違う気持ちを知ってしまったからこそ放っておけなくて、どうにか救う道はないのかと模索している。
それなのに上手くいかないから、悩んでいるのだけれど。
「せめてお互いの気持ちを伝え合えれば何か変わるかもしれないのに、どうしていいかわからなくて……」
晃さんのこと、お母さんのこと。お節介かもしれない私の気持ちと。行動を起こしてみたけれど、上手くいく見通しが全く立たないことと。全て拓也さんに話し終える頃には、また涙があふれてきて止まらなくなっていた。
そんな私の頭に、拓也さんの大きな手が乗せられる。
「話してくれてありがとうな。晃と晃のお母さんのために一人で悩んでくれよったんやな」
すると、ほどよい重みが心地よくて安心させられて、余計に涙がこぼれ落ちる。
「そういうことなら、俺も力になるけん」
「……え?」
本当に……!?
信じられないけれど、さっき嘘をつかれるのは悲しいと言って怒った拓也さんが嘘をつくわけないよね。
拓也さんには、わかってもらえたんだ。晃さんのお母さんのことも、私のやろうとしていたことも。
「あいつのことなら、ケイちゃんより知っとるけん。まぁお母さんのこととなると難しいやろうけど、何とかならんか考えてみるな」
「……ありがとうございます」
思いがけない協力者の出現に、ほんの少しだけ希望の光が見えた気がした。
晃さんには、お母さんとは一切関わるなと釘を刺されていた。
それなのに、どうしても晃さんのこともお母さんのことも放っておけなくて、少しでも二人が救われる道はないのかって思って、勝手なことをした。
もしそれを知ったら、晃さんは怒るだろう。
だけど、仕方ないと見過ごすことはできなかった。
むすび屋のみんなに言えなかったのは、付き合いの長いみんなは晃さんの心を守るために、晃さんの気持ちを優先すると思ったからだ。決してそこに悪意なんてなかった。
だけど理由はどうであれ、拓也さんにもなずなさんにも私が嘘をついたことは事実だ。
だから、私が責められるのは無理ない。
「すみません……」
私が頭を下げて謝ると、頭上から優しい声が降ってくる。
「何でも言って。俺も力になるけん、一人で悩まんとって」
拓也さんの表情を見て、酷く心配させてしまっていたのだと気づかされる。
救いの手を差し伸べてくれた拓也さんに、すがるように私はこれまで知り得たことを話すことにした。
「……放っておけなかったんです」
晃さんに突き放されてもこの場を離れられないお母さんを無視するなんて、とてもじゃないけどできなかった。また、お母さんにとっての真実を聞かされたことから、何か解決策があるのではないかと諦められなかったのだ。
「確かに晃さんのお母さんは、酷いことをしました。でも、理由なく晃さんを遠ざけた訳じゃなかったんです。そのときは、そうせざるを得ない環境と精神状態にあって……」
晃さんは、彼の発言からも当時の状況から母親に捨てられたのだと感じているようだった。
また拓也さんは、晃さんの親族だからある程度のことは知っているに違いないけれど、本当のことは多分お母さんしか知らないのだと思う。
けれど、それじゃあいつまでも晃さんはつらいだけだし、皆もお母さんを責めることしかできない。
お母さんだって、本当のことが誰にも伝わらない限り、永遠にむすび屋の外から中を覗くことを繰り返して、この世に留まり続けるのだろう。
そんなの完全なる負の連鎖だ。誰も救われない。
「もちろん理由があったら許されるとは思っていません。だけど、決して晃さんのことを嫌っていたわけでも、要らなかったわけでもなかったんです。本当は大切に思っていたから、これ以上傷つけないために遠ざけたんだって聞きました」
今更本当はこうなんだと話されたって、晃さんは納得しないかもしれない。信じらなれないと突っぱねられるかもしれない。
けれど、伝えてみないと何も始まらないのだ。
なのに、お母さんは行動を起こす気をなくしていて、晃さんはお母さんに歩み寄る気はさらさらないのだ。
二人の問題なら、下手に首を突っ込まない方がいいのかもしれない。
けれど、二人のすれ違う気持ちを知ってしまったからこそ放っておけなくて、どうにか救う道はないのかと模索している。
それなのに上手くいかないから、悩んでいるのだけれど。
「せめてお互いの気持ちを伝え合えれば何か変わるかもしれないのに、どうしていいかわからなくて……」
晃さんのこと、お母さんのこと。お節介かもしれない私の気持ちと。行動を起こしてみたけれど、上手くいく見通しが全く立たないことと。全て拓也さんに話し終える頃には、また涙があふれてきて止まらなくなっていた。
そんな私の頭に、拓也さんの大きな手が乗せられる。
「話してくれてありがとうな。晃と晃のお母さんのために一人で悩んでくれよったんやな」
すると、ほどよい重みが心地よくて安心させられて、余計に涙がこぼれ落ちる。
「そういうことなら、俺も力になるけん」
「……え?」
本当に……!?
信じられないけれど、さっき嘘をつかれるのは悲しいと言って怒った拓也さんが嘘をつくわけないよね。
拓也さんには、わかってもらえたんだ。晃さんのお母さんのことも、私のやろうとしていたことも。
「あいつのことなら、ケイちゃんより知っとるけん。まぁお母さんのこととなると難しいやろうけど、何とかならんか考えてみるな」
「……ありがとうございます」
思いがけない協力者の出現に、ほんの少しだけ希望の光が見えた気がした。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
心の落とし物
緋色刹那
ライト文芸
・完結済み(2024/10/12)。また書きたくなったら、番外編として投稿するかも
・第4回、第5回ライト文芸大賞にて奨励賞をいただきました!!✌︎('ω'✌︎ )✌︎('ω'✌︎ )
〈本作の楽しみ方〉
本作は読む喫茶店です。順に読んでもいいし、興味を持ったタイトルや季節から読んでもオッケーです。
知らない人、知らない設定が出てきて不安になるかもしれませんが、喫茶店の常連さんのようなものなので、雰囲気を楽しんでください(一応説明↓)。
〈あらすじ〉
〈心の落とし物〉はありませんか?
どこかに失くした物、ずっと探している人、過去の後悔、忘れていた夢。
あなたは忘れているつもりでも、心があなたの代わりに探し続けているかもしれません……。
喫茶店LAMP(ランプ)の店長、添野由良(そえのゆら)は、人の未練が具現化した幻〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉と、それを探す生き霊〈探し人(さがしびと)〉に気づきやすい体質。
ある夏の日、由良は店の前を何度も通る男性に目を止め、声をかける。男性は数年前に移転した古本屋を探していて……。
懐かしくも切ない、過去の未練に魅せられる。
〈主人公と作中用語〉
・添野由良(そえのゆら)
洋燈町にある喫茶店LAMP(ランプ)の店長。〈心の落とし物〉や〈探し人〉に気づきやすい体質。
・〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉
人の未練が具現化した幻。あるいは、未練そのもの。
・〈探し人(さがしびと)〉
〈心の落とし物〉を探す生き霊で、落とし主。当人に代わって、〈心の落とし物〉を探している。
・〈未練溜まり(みれんだまり)〉
忘れられた〈心の落とし物〉が行き着く場所。
・〈分け御霊(わけみたま)〉
生者の後悔や未練が物に宿り、具現化した者。込められた念が強ければ強いほど、人のように自由意志を持つ。いわゆる付喪神に近い。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる