伊予むすび屋の思い出ごはん

美和優希

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4.親子をむすぶいよかんムース

4ー10

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「何をコソコソしよんの? このこと、晃は何も知らんのんやろ? なずなもケイちゃんのこと心配しよんやで?」


 晃さんには、お母さんとは一切関わるなと釘を刺されていた。

 それなのに、どうしても晃さんのこともお母さんのことも放っておけなくて、少しでも二人が救われる道はないのかって思って、勝手なことをした。

 もしそれを知ったら、晃さんは怒るだろう。
 だけど、仕方ないと見過ごすことはできなかった。

 むすび屋のみんなに言えなかったのは、付き合いの長いみんなは晃さんの心を守るために、晃さんの気持ちを優先すると思ったからだ。決してそこに悪意なんてなかった。

 だけど理由はどうであれ、拓也さんにもなずなさんにも私が嘘をついたことは事実だ。

 だから、私が責められるのは無理ない。


「すみません……」

 私が頭を下げて謝ると、頭上から優しい声が降ってくる。


「何でも言って。俺も力になるけん、一人で悩まんとって」


 拓也さんの表情を見て、酷く心配させてしまっていたのだと気づかされる。

 救いの手を差し伸べてくれた拓也さんに、すがるように私はこれまで知り得たことを話すことにした。


「……放っておけなかったんです」


 晃さんに突き放されてもこの場を離れられないお母さんを無視するなんて、とてもじゃないけどできなかった。また、お母さんにとっての真実を聞かされたことから、何か解決策があるのではないかと諦められなかったのだ。


「確かに晃さんのお母さんは、酷いことをしました。でも、理由なく晃さんを遠ざけた訳じゃなかったんです。そのときは、そうせざるを得ない環境と精神状態にあって……」


 晃さんは、彼の発言からも当時の状況から母親に捨てられたのだと感じているようだった。

 また拓也さんは、晃さんの親族だからある程度のことは知っているに違いないけれど、本当のことは多分お母さんしか知らないのだと思う。

 けれど、それじゃあいつまでも晃さんはつらいだけだし、皆もお母さんを責めることしかできない。

 お母さんだって、本当のことが誰にも伝わらない限り、永遠にむすび屋の外から中を覗くことを繰り返して、この世に留まり続けるのだろう。

 そんなの完全なる負の連鎖だ。誰も救われない。


「もちろん理由があったら許されるとは思っていません。だけど、決して晃さんのことを嫌っていたわけでも、要らなかったわけでもなかったんです。本当は大切に思っていたから、これ以上傷つけないために遠ざけたんだって聞きました」


 今更本当はこうなんだと話されたって、晃さんは納得しないかもしれない。信じらなれないと突っぱねられるかもしれない。

 けれど、伝えてみないと何も始まらないのだ。

 なのに、お母さんは行動を起こす気をなくしていて、晃さんはお母さんに歩み寄る気はさらさらないのだ。

 二人の問題なら、下手に首を突っ込まない方がいいのかもしれない。
 けれど、二人のすれ違う気持ちを知ってしまったからこそ放っておけなくて、どうにか救う道はないのかと模索している。

 それなのに上手くいかないから、悩んでいるのだけれど。


「せめてお互いの気持ちを伝え合えれば何か変わるかもしれないのに、どうしていいかわからなくて……」


 晃さんのこと、お母さんのこと。お節介かもしれない私の気持ちと。行動を起こしてみたけれど、上手くいく見通しが全く立たないことと。全て拓也さんに話し終える頃には、また涙があふれてきて止まらなくなっていた。

 そんな私の頭に、拓也さんの大きな手が乗せられる。


「話してくれてありがとうな。晃と晃のお母さんのために一人で悩んでくれよったんやな」


 すると、ほどよい重みが心地よくて安心させられて、余計に涙がこぼれ落ちる。


「そういうことなら、俺も力になるけん」

「……え?」


 本当に……!?

 信じられないけれど、さっき嘘をつかれるのは悲しいと言って怒った拓也さんが嘘をつくわけないよね。

 拓也さんには、わかってもらえたんだ。晃さんのお母さんのことも、私のやろうとしていたことも。


「あいつのことなら、ケイちゃんより知っとるけん。まぁお母さんのこととなると難しいやろうけど、何とかならんか考えてみるな」

「……ありがとうございます」

 思いがけない協力者の出現に、ほんの少しだけ希望の光が見えた気がした。
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