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3.恋する特製カレーオムライス
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清美さんが行きそうなところといっても、パッとは思い浮かばない。
生前の清美さんと知り合いだったわけでもなく、霊としての姿で昨日初めて会ったのだから、当然と言えば当然だろう。
むすび屋の裏庭から玄関の外、建物内、ロッカーの陰やトイレまで順に見て回ったけれど、清美さんの姿は見当たらなかった。
他に考えられるのは、史也さんの客室……?
一瞬そう考えて首を横にふった。
それはないだろう。史也さんと静さんが付き合うことになったと清美さんが勘違いしているなら、二人に近寄るはずがない。
仮に史也さんの部屋にいたとして、従業員が正当な理由もなくお客様の宿泊中の部屋を覗くなんてもっての他なので、どうしようもない。
まいったなぁ。じゃあ一体清美さんはどこにいってしまったのだろう。
とりあえず夜も更けてしまったので、自分の部屋に戻って少しは休まないと……。
清美さんを探したけれどこれといった手応えがなく、気落ちしながら部屋に戻った。
「うわっ!」
自分の部屋の中に入り、電灯のスイッチを入れてベッドの上に座ろうとした私は、電灯が室内を白く照した瞬間、思わずあとずさった。
「ケイさぁ~ん……」
私が向かっていた先のベッドには、すでに先客が座っていたからだ。
びしょびしょに顔を濡らした清美さんが、すがるようにこちらを見ている。
まさか私の部屋の方に戻ってきていたとは……。さすがにそれは盲点だった。
「どうどう史也が静ざんど、付き合ってじまいまじだ。うわーん」
実際に触れられたら押し倒されていただろう勢いで、清美さんは私に抱きついてきた。
私は彼女を受け止めるように、清美さんの背に手を回す。
「ぞれを望んでいたはずなのに、目の前でぞうなるどづらぐでづらぐで……」
「……え?」
ちゃんと意識しないと何を言っているかわからないくらいにズビズビ泣いている清美さんだけど、上手く聞き取ることのできた言葉を理解して呆気に取られた。
思った通りだった。
清美さんは、勘違いしている。
「ま、待ってください。勘違いです! 二人は付き合ってないです!」
慌てて否定すると、清美さんの肩が震えた。
ズビズビ言っていたのをピタリとやめると、顔は濡れたまま私をジッとにらむように見つめてきた。
「ケイさん、いいんです。私はこの耳で聞いたんですから。静さんが史也に告白して、史也が静さんに好きだと伝えているところを! 今までは何を言われてもごめんの一言で終わらせていたのに……!」
やっぱり清美さんは最初しか聞いていなかったみたいだ。途中で逃げてしまったから、肝心なところを聞けていない。
「清美さんは、史也さんの返事を最後までちゃんと聞きましたか?」
「聞いたって言ってるでしょう!」
清美さんは間髪入れずに怒鳴るようにそう返した。こちらをにらみつける瞳から再び涙がこぼれ落ちる。
「“ありがとう。僕も静のことが好きだよ”って何の迷いもなく返してましたよ。史也が私以外を好きになるって考えるだけでも嫌だったけど、それでも史也が静さんに惹かれているのなら、黙っていなくなった私なんかに遠慮せずにくっつけばいいって思ってた。でも……あんな風に即答してるところを見たら、もう私のことなんかこれっぽっちも覚えてないって感じで、傷つくじゃないですか……」
言葉の勢いは徐々に落ちていき、最後は消え入りそうなくらい小さくなった。うつむいて静かに涙を流す姿から、清美さんの苦しみが伝わってくるようだった。
「違います」
「何が違うって言うんですか!」
再びヒステリックに叫ぶ清美さんに、思わずたじろぎそうになるのをグッと堪えて、声を張り上げる。
勘違いしたまま目を背けてしまったら、誰も救われない。
「史也さんは確かに静さんのことを好きだと伝えたのでしょう。でも、そのあと静さんの告白を断りました」
「……は?」
清美さんが片方のまゆをつり上げる。
「そんなわけない! だって二人は両思いで……」
二人は清美さんの言う通り、確かに両思いだった。
だけどそれで解決するくらいなら、もっと早く二人は付き合い始めていただろう。
「……史也さんは、清美さんのことが忘れられないんです」
「そんな……」
「清美さんが最後まで聞かずに去ったあとだと思いますが、私も偶然その場に居合わせてしまって、史也さんから聞きました。高校時代から付き合っていた彼女が、ある日突然連絡が取れなくなったと思ったら病死していた。その彼女のことを裏切るような気がして、付き合えないんだって」
数時間前の史也さんの独白を思い出して、私まで胸が締めつけられるようだった。
清美さんは、その場にへなへなと崩れるように座り込む。
「……もう」
そして大粒の涙をこぼして、清美さんは口を開く。
「バカじゃないの? 何で自分から幸せを逃がすような真似……。すんなり付き合ってもムカつくけど、自分から幸せ逃してるのもムカつく」
完全に矛盾しているけれど、それだけ気持ちが複雑なのだろう。
好きな人には幸せになってほしいけれど、誰だって、好きな人が自分以外の人と結ばれるなんて望まないのだから。
「史也は今を生きているんだから……、史也は前に進まなくちゃいけないのに……」
「清美さん……」
そこで清美さんは、大きくがばりとうつむかせていた顔を上げる。
「ケイさん!」
「は、はい……」
勢いに思わず身体がのけぞった。
清美さんが行きそうなところといっても、パッとは思い浮かばない。
生前の清美さんと知り合いだったわけでもなく、霊としての姿で昨日初めて会ったのだから、当然と言えば当然だろう。
むすび屋の裏庭から玄関の外、建物内、ロッカーの陰やトイレまで順に見て回ったけれど、清美さんの姿は見当たらなかった。
他に考えられるのは、史也さんの客室……?
一瞬そう考えて首を横にふった。
それはないだろう。史也さんと静さんが付き合うことになったと清美さんが勘違いしているなら、二人に近寄るはずがない。
仮に史也さんの部屋にいたとして、従業員が正当な理由もなくお客様の宿泊中の部屋を覗くなんてもっての他なので、どうしようもない。
まいったなぁ。じゃあ一体清美さんはどこにいってしまったのだろう。
とりあえず夜も更けてしまったので、自分の部屋に戻って少しは休まないと……。
清美さんを探したけれどこれといった手応えがなく、気落ちしながら部屋に戻った。
「うわっ!」
自分の部屋の中に入り、電灯のスイッチを入れてベッドの上に座ろうとした私は、電灯が室内を白く照した瞬間、思わずあとずさった。
「ケイさぁ~ん……」
私が向かっていた先のベッドには、すでに先客が座っていたからだ。
びしょびしょに顔を濡らした清美さんが、すがるようにこちらを見ている。
まさか私の部屋の方に戻ってきていたとは……。さすがにそれは盲点だった。
「どうどう史也が静ざんど、付き合ってじまいまじだ。うわーん」
実際に触れられたら押し倒されていただろう勢いで、清美さんは私に抱きついてきた。
私は彼女を受け止めるように、清美さんの背に手を回す。
「ぞれを望んでいたはずなのに、目の前でぞうなるどづらぐでづらぐで……」
「……え?」
ちゃんと意識しないと何を言っているかわからないくらいにズビズビ泣いている清美さんだけど、上手く聞き取ることのできた言葉を理解して呆気に取られた。
思った通りだった。
清美さんは、勘違いしている。
「ま、待ってください。勘違いです! 二人は付き合ってないです!」
慌てて否定すると、清美さんの肩が震えた。
ズビズビ言っていたのをピタリとやめると、顔は濡れたまま私をジッとにらむように見つめてきた。
「ケイさん、いいんです。私はこの耳で聞いたんですから。静さんが史也に告白して、史也が静さんに好きだと伝えているところを! 今までは何を言われてもごめんの一言で終わらせていたのに……!」
やっぱり清美さんは最初しか聞いていなかったみたいだ。途中で逃げてしまったから、肝心なところを聞けていない。
「清美さんは、史也さんの返事を最後までちゃんと聞きましたか?」
「聞いたって言ってるでしょう!」
清美さんは間髪入れずに怒鳴るようにそう返した。こちらをにらみつける瞳から再び涙がこぼれ落ちる。
「“ありがとう。僕も静のことが好きだよ”って何の迷いもなく返してましたよ。史也が私以外を好きになるって考えるだけでも嫌だったけど、それでも史也が静さんに惹かれているのなら、黙っていなくなった私なんかに遠慮せずにくっつけばいいって思ってた。でも……あんな風に即答してるところを見たら、もう私のことなんかこれっぽっちも覚えてないって感じで、傷つくじゃないですか……」
言葉の勢いは徐々に落ちていき、最後は消え入りそうなくらい小さくなった。うつむいて静かに涙を流す姿から、清美さんの苦しみが伝わってくるようだった。
「違います」
「何が違うって言うんですか!」
再びヒステリックに叫ぶ清美さんに、思わずたじろぎそうになるのをグッと堪えて、声を張り上げる。
勘違いしたまま目を背けてしまったら、誰も救われない。
「史也さんは確かに静さんのことを好きだと伝えたのでしょう。でも、そのあと静さんの告白を断りました」
「……は?」
清美さんが片方のまゆをつり上げる。
「そんなわけない! だって二人は両思いで……」
二人は清美さんの言う通り、確かに両思いだった。
だけどそれで解決するくらいなら、もっと早く二人は付き合い始めていただろう。
「……史也さんは、清美さんのことが忘れられないんです」
「そんな……」
「清美さんが最後まで聞かずに去ったあとだと思いますが、私も偶然その場に居合わせてしまって、史也さんから聞きました。高校時代から付き合っていた彼女が、ある日突然連絡が取れなくなったと思ったら病死していた。その彼女のことを裏切るような気がして、付き合えないんだって」
数時間前の史也さんの独白を思い出して、私まで胸が締めつけられるようだった。
清美さんは、その場にへなへなと崩れるように座り込む。
「……もう」
そして大粒の涙をこぼして、清美さんは口を開く。
「バカじゃないの? 何で自分から幸せを逃がすような真似……。すんなり付き合ってもムカつくけど、自分から幸せ逃してるのもムカつく」
完全に矛盾しているけれど、それだけ気持ちが複雑なのだろう。
好きな人には幸せになってほしいけれど、誰だって、好きな人が自分以外の人と結ばれるなんて望まないのだから。
「史也は今を生きているんだから……、史也は前に進まなくちゃいけないのに……」
「清美さん……」
そこで清美さんは、大きくがばりとうつむかせていた顔を上げる。
「ケイさん!」
「は、はい……」
勢いに思わず身体がのけぞった。
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